72話 新学期になった
「友太君、起きて?」
「うーん……。なんだよ朝早くから……」
朝の早くからクレアに起こされていた。
「こっちへ来て?」
眠い目を擦りながら、クレアにリビングへと腕を引っ張られる。
「じゃーん!」
「おー」
そこにいたのは近くの中学の制服を着たエレナの姿だった。
懐かしいなぁ。俺の高校と同じように制服がおしゃれなんだよなぁ。
「ふふん、それと見てください、これ」
ニヤついた顔をして、スカートをゆっくりと捲りあげ始めたので俺は目を逸らす。
「ちょ、ちょ……待った、待った!」
「別にパンツ見せようとしてないですよ?」
逸らした目をエレナに向けると、見えるか見えないかのギリギリのところで止めていた。
こいつ本当に、人をからかうことがうまいなぁ……。それだけは尊敬するよ。
「で、何を見せたかったのか、分かりますか?」
あまり女の子の足を見るのは趣味ではないんだけど。クレアも機嫌悪そうに俺を見てるし……。まぁ見て良いなら見るんだけど。
暫くまじまじと見て、ようやくエレナが何を見せたかったのか分かった。
「それ、ガーターか?」
「せいかーい」
白いソックスかと思っていたが、ソックスの上から黒い紐のようなものが伸びていた。
「中学生でガーターって……。校則とかにひっかからないのか?」
「大丈夫ですよー。だってスカート長いですしー」
パっと捲りあげていたスカート放すとガーター特有のひもが見えなくなり、どこからどう見ても白いニーハイにしか見えなくなった。
ていうかあの中学校、高速厳しくなかったっけ?
「まぁ、多分大丈夫だと思うよ」
クレアも半ばあきらめ気味でそう言った。
まぁ見つかって怒られても自己責任だしな、しーらーね。
「あ、エレナそろそろ出ないと!じゃあ友太君、先に行ってくるねー」
「お兄さんー。いってきまーす」
「おう、いってらっしゃい」
2人はスクールカバンを持って家を出て行った。
さて俺も準備しないと……。
クレアが出て行ってから30分後俺も制服に着替えて家を出る。
もう始業式か。エレナが来てからあっという間であった。いろいろと悩まされることもあったけど良い夏休みだったなぁ……。
久しぶりに、楽しいと思える夏休みを過ごした気がする。今まではほとんど家に籠りっぱなしだったから凄く新鮮な気分である。
「楽しかったな……」
それにしても歩いていると、何人かの生徒から睨まれているような気がしていた。やはりあの噂が広がっているんだろうか?
まぁこういうのは慣れっこだから気にはならないけど。
学校へ着くと、やはり俺の方を睨みつけてくる生徒が何人もいた。流石に慣れてるとは言え、ここまで何人もの生徒に睨まれると来るものがある。帰ろうかな?と気分が落ち込んでいた時だった。
「おはよう、友太」
「お、おはよう優奈」
後ろから、笑顔で優奈に挨拶をされる。
向かい側のロッカーから上履きを出しながら俺の顔を見てそわそわしていた。
「な、何……」
「まだかなと思ってー」
「な、何の事?」
「この間の事よ」
あー、告白の返事の事ねと、俺は納得する。
頬を膨らませる優奈に申し訳なく思いながら、頭を搔く。
「ごめん、もうちょっと待ってくれるかな?」
「わかった……」
流石に今日返事をくれるものだと思っていたのか、とてもがっかりした様子だった。
すごく申し訳ない気持ちになっていた。
「ごめん……」
「気にしないで、何時まででも待ってるから」
「わかった」
上履きに履き替えて、優奈と共に教室に向かうと、何やら教室の中が騒がしい様子だ。
誰かの机の周りに集まっているようだが……。
「あれ、クレアさんの机じゃない?」
「確かにそうだな……。何があったんだ?」
とてもいやな予感がしつつ、教室に入ると一人の生徒が気が付き、それにつられてたくさんの生徒が俺に寄ってくる。
「おい、久野原……」
「なんだよ」
「お前クレアさんと住んでるって本当か?」
「え?何の事?」
「何の事だと?とぼけるなよ?」
困惑している俺に掴みかかろうとした男子を遮るように、優奈が俺の前立ちはだかる。
「なんで、そんな話になってるの?」
「クレアさんが久野原の家から出て来たって見たって噂を流した奴がいるんだよ」
やっぱり誰かが、流したという話は本当だったか。
これはかなり面倒な事になったな。
「とにかく、どうなんだ?久野原。きっちりと説明してもらうぞ」
ここはきっちりと腹を割って妹と話すしかないのか……。
「ただの噂でしょ?そんなのあり得ない」
戸惑っていた俺の代わりに、優奈が先に口を開く。
どうやら優奈は戦うつもりのようだ。
「いーや、絶対にクレアさんだ。容姿が目立つんだから見間違えるはずないだろ?」
「だったら証拠を出しなさいよ?写真とかあるの?」
鋭い眼光で反論すると、男子生徒は少しビビっている様子だった。
「しょ、証拠って……」
「そうだ。証拠もないのに決めつけは良くないぞ」
後ろからさらに登校してきた小原が教室へ入ってきて俺達の隣に並ぶ。
「で、でも」
「クレアさんはただの友達だ。住んでいるはずがない。どうせ優奈さんと遊びに行ってたんだろ?な?」
そう話を振ると、優奈は「えぇ」と言い首を縦に振った。
「……小原がそう言うなら……」
クレアの周りに集まっていた生徒たちは散り散りに去って行った。
流石小原。クラスの奴らに信用されているだけはある。
「怖かった……」
机に座っていたクレアも怯えた様子でこちらへと寄ってくる。
「すまんな、小原」
「良いって事よ……」
「誰?クレアさんが友太の家に住んでるって広めたの」
「どうせファンクラブの奴らだろうなぁ……」
呆れた様子で小原がそう言うと、優奈は教室を飛び出そうとする。
「おい、優奈どこ行くんだよ?」
「ファンクラブの奴らを、問いただしてくる」
「やめとけ……」
そう言った小原に優奈は「なんでよ?」と言いながら詰め寄る。
「今のアイツらは相当ピリついてるぞ?あまり刺激しない方がいい」
「でも!!」
「優奈、小原の言う通りにしておけ?」
「うん……」
慰めるようにポンポンと背中を叩くと、落ち着いて小原から離れる。
「それにしても面倒な事になったな。相当広まりまくってるじゃないか」
「誰が何のために広げてるんだ?」
「さぁなぁ……。とりあえず、いろいろと聞いてみて情報集めてみるわ」
「了解、頼んだ」
満面の笑みで小原は「任せろ」と言いサムズアップした。
暫くすると、ホームルーム前の予冷のチャイムが鳴り響き、俺達3人は解散する。




