64話 妹の妹がやってきた part3
誤解を解いた後、クレアはため息を付く。
「まったく……。友太君をからかっちゃダメだよ?」
「ごめんってお姉ちゃん。お兄さんがすごく私を見て来るから……」
お互い向かい合って、クレアはエレナに説教をしている。本当に二人が揃うとどちらがクレアでエレナかわからないな……。
それくらいクレアとエレナの姉妹は顔が瓜二つだ。
「友太君もあんまりエレナの事見ない!!」
「わかってるよ……」
「そうですよ?私の胸ばっかり見ちゃダメですよ?」
「お前はもう黙っててくれ……」
俺は呆れながらそう言う。
このエレナって奴はかなりお調子者な性格のようだ。なんか小原に似てるし苦手だな。
向こうの学校のクラスでは人気者なんだろうな……。
「私の胸だって大きいのに……」
自分の胸をぽんぽんと叩きながら、クレアは不貞腐れながらそう呟いた。
お前の胸は、だいぶ前にパーティで見たよ……。
「また妄想してますね?」
気が付くとニヤニヤとしたエレナの顔があった。まずい優奈とのパーティーで見たクレアの胸を思い出したことがバレたか?
だがもう疲れてツッコむ気力もなかった……。もう何とでも思ってくれ。
「で、エレナはどれだけこっちにいるの?」
「うーん……。とりあえず2~3日は滞在するつもり」
「ちゃんと、パパやママに言ってきた?」
「そりゃあもちろん。それじゃなきゃ今頃鬼電ですよ……」
と意気揚々と話していると、エレナのスマホの着信音が鳴り響き、エレナは焦ったような顔をする。
「嘘……。私言って来たはずなのに……」
スマホの画面を見て、大量の汗をかいているところをみると、相手はクレアとエレナの母なのだろうか?
隣でエレナを見ていたクレアも不審そうな顔をしている。
「エレナ出てね?」
「言われなくても……」
「後、スピーカーでねー?」
とてもにこやかな表情をしているが、目は笑っていない。
クレアがこんな怖い表情するって、エレナどんだけ悪い子なんだよ……。
「もしもし?エレナ日本に着いタ?」
片言の日本語を喋るとても穏やかな雰囲気の女性の声がスマホから聞こえる。この人がエレナやクレアのお母さんか……。
「うんママ……着いたよ」
「そう無事に着いてよかったワ。友太君とクレアに迷惑かけないようにネ」
そうエレナに言い聞かせて電話は切れる。あ、挨拶したことなかったし、この機会に挨拶しておけば良かったな。
「まぁ、ママに許可取れててよかった」
ほっと一安心したクレアはキッチンへ向かい、レジ袋から食料品を取り出して冷蔵庫に入れ始めた。
「お姉ちゃん、私に対して厳しいんですよ……」
「なんかやったのか?」
「うーん、覚えがないんですよねぇー。な・の・でお兄様は私に優しくしてくださいねー?」
「お、おう……」
優しく纏わりつくように腕にくっつくエレナをクレアは後ろから引き剥がす。
「痛い!痛い!」
「友太君。この娘すぐ調子に乗るからあんまり優しくしないで上げてね?」
クレアはエレナの首をウサギを掴むように持ち上げて、笑顔で俺にそう言う。
なんちゅう痛そうな持ち方……。これが妹に対する仕打ちなのか……と恐怖した。
弟じゃなくて良かったぁ。
「わ、わかった」
「わかってくれてよかった。えらいえらい」
いつものようにクレアは恐怖で震える俺の頭を優しく撫でた。
それを持ち上げられたエレナはニヤニヤと馬鹿にするような表情で見つめていた。
「なんだよ」
「いいですねー。私もまた久しぶりにそれされたいです」
「エレナはちゃんとお利巧さんにしてればしてあげる」
「むー、してるもんー」
駄々をこねるように手足をバタバタさせてエレナは暴れまわれる。
「それがダメなの!!大人しくしてなさい」
「はーい……」
怒られてやんの……。俺は必死に笑いそうになるのを堪えていた。
「うまー。お姉ちゃんの料理久しぶりに食べたー」
机に並べられたクレアの作った夕食を食べながら、エレナはご満悦な顔をする。
「友太君、エレナが来たから明日はどっか出かけようか?」
「いいけどさー、どこ行くんだよ」
「うーん……」
夏休みだからあまり人多いところ行きたくないんだよなぁ……。
しかも田舎だし、遊園地とかのアミューズメント施設は軒並み遠い場所にあって金もかかる。
となると結局行く事になるのは……。
「イノンかなぁ?」
「そうなるよねー」
結局イノンという事になる。ちょっと前に優奈と行ったばかりなんだけどなぁ。
「イノンいいですねぇ。久しぶりにアニマートにも行きたいな」
そう言いながらニヤニヤと何やら妄想をしていた。
こんな見た目で結構オタクなところもあるんだな。
「アニマートで何か買うのか?」
「うーん……。妖神とかのグッズですかね?この間出たアラブレアちゃんのグッズほしいなぁ……」
「まだアラブレアは出てないんじゃないか?」
「え?そうですかね……。てかお兄さん妖神知ってるんですか?」
俺の方へ前のめりになって興奮した様子で目を輝かせるエレナ。
「まぁ一応やってはいるけど……」
「まじっすか!?後でフレンド交換しましょうねー?」
「お、おう……」
「やったー」
和気あいあいとエレナと話していると、クレアは「ゴホン」と不機嫌そうに咳払いをする。
「とりあえず、優奈さんにもまた一緒にいかない?って誘ってみようかな?」
「ぶふッ……」
唐突にクレアの口から出た優奈というワードに俺は吹き出してしまう。
それだけはまずい。ただでさえ今優奈は俺からの告白の返事待ちだというのに……。
「とりあえず、今メッセージ送ってみた」
「マジで?」
なんということをしてくれたのでしょう。
もし優奈がOKをすれば、明日は優奈にどんな顔をして会えばいいのか……。
「あー、優奈さんその日家族で出かけるんだって」
「そうだったのか……」
良かった……とほっと一息をついた。優奈も流石に今、俺と会うのはちょっと……とか思ったのかな?
「やっぱり優奈さんと何かあったの?」
「まぁちょっといろいろとね……」
「そっか……。あまり詮索はしないけど……、辛くなったら相談してね?」
「わかった……」
言えたら正直こんなに苦労しないんだよな。
そのやりとりを聞いてたエレナは不思議そうに顔を傾げていた。
「ゆ、優奈さんって誰?お兄さんの彼女ですか?」
「ぶーッ……」
また吹いてしまう。いきなりなんちゅう事を言うんだこの妹は。
「エレナ?優奈さんは友太君の幼馴染だよ?」
「幼馴染ですかー。それは大変失礼しましたーてへぺろー」
分かってるのか分かっていないのか、エレナはとても曖昧な返事をする。
いや、絶対分かっていないよな……。




