61話 6人で別荘に行った part11
「お祭り楽しいねー、友太君ー?」
お面を頭に付けながら、りんご飴と綿菓子を両手に持ち、クレアはここにいる誰よりもお祭りを堪能していた。
「楽しそうね、クレアさん」
「はい、すごく楽しいですー」
綿菓子をパクリと一口頬張りながら、クレアはそう答えた。
それにしてもさっきから、隣でりんご飴を舐めている優奈はさっきから何も喋らないな……。
「優奈?どうした?体調悪いのか?」
そう言いながら近づくと、優奈は顔を真っ赤にしながら後ろへと逃げるように下がる。
「え……なんで?」
「ごめん……今は来ないで……」
「いやいやなんでだよ……」
じりじりと優奈に近づこうとすると、「ちょっと待った」と言いながら中原が優奈の前に立ちはだかる。
「久野原君、今はそっとしといてあげて?」
「わかったよ」
不服ではあるが、中原の言う通り、俺はそっとすることにした。
「友太君、これ何?」
クレアが指差したのは金魚すくいの屋台だった。
「金魚すくいだな、やってみるか?」
財布を取り出しながら聞くと、クレアは「うん」と頷いたので、小銭を渡した。
「お、可愛いお姉さんやるかい?1回300円ねー」
「可愛いだなんて……。おじ様お世辞がうまいですねー」
おだてられて機嫌が良く鳴ったクレアは、威勢の良い店員にお金を渡すと、ポイと御椀を渡される。
渡された2つの道具を見てクレアは、混乱した様子で俺の方を向く。
「これ……どうすればいいの?」
「えっと、これはだなぁ……」
説明しようとすると、後ろから中原がクレアのポイとお椀を取って俺に手渡してきた。
「やってあげたら?」
「おう、そうだな」
「お願いね」
キラキラと目を輝かせながら、クレアは見つめる。
可愛い妹のためにちょっと一肌脱ぐかぁ……と俺は意気込む。
とは言えあまり俺は金魚すくい得意じゃないんだけど。
「お?お兄さんはこの娘の彼氏かい?」
「違います、妹です」
きっぱりと俺がそう答えようとすると、先に優奈が口調を強くして答える。
なんで優奈が答えるんだよ……?
「がんばれー友太くーん」
小さな声で後ろから応援するクレア。
妹からの応援とあっちゃ、本気で行くしかないな。俺は意を決して、金魚に向かってポイを入れる。
「いいよーお兄さんー?でもそれだと破けちゃうんじゃなーい?」
屋台の店主の煽りに負けじと、俺は赤い金魚を一匹ポイですくい、お椀に入れる。
「やるじゃねーか……」
後ろで見ていた3人の女の子達も「すごい」と言いながら、俺のポイをじっと見つめる。
さて、2匹目だ。俺は全神経を集中して、ポイを金魚に目がけて入れる。
そうして3匹すくったところで、ポイは破けた。
「お兄さん……結構やるねー」
「まぁ、それほどでも……」
まぁ口ではそうは言ってるが、ここまですくえるとは思わなかったので、俺としては上々なのではなかろうか?
「3匹でもすごいよー、今までで最高だよ?」
「へー……」
半ば半信半疑だったが、とりあえず信じる事にする。
この店主おだてるのがうまいなぁ。もっと取ってる奴はいるだろうに。
「久野原君すごーい」
「お前は黙ってろ」
馬鹿にするように、おだててきた中原を俺はそう一喝する。
全く、調子に乗るとすぐこうだ。
「まいどありー」
威勢の良い金魚すくいの屋台を後にして、屋台の間を歩き始める。
「ありがとうね、友太君。大事にするね」
「おう、落とさないようにな」
腕に付けた3匹の金魚が泳ぐ、金魚紐を嬉しそうに見つめるクレアの姿を見て、頑張って良かったな。とほっと一息つく。
「友太君、お腹空かない?」
「お前なぁ?さっき食ったばっかだろ?」
呆れながらクレアに言うと、「だってー」と駄々をこねる。
するとそれを後ろから見ていた、2人は突然何かを悟ったのか頷き合う。
「どうした?」
顔を見合わせる二人に尋ねると、中原が急いでクレアに近づく。
「クレアさん、私もお腹空いてるからさ、買いに行かない?」
「本当ですか?わーい行きますー」
飛び上がるように喜んで、クレアは中原に連れていかれる。
あれ?必然的に優奈と2人っきりにされた?
「俺達も何か買うか?」
俺がそう聞くと、優奈は顔を赤らめながら「うん」と一言だけ言い俺の隣へ並んだ。
「手を繋いでも良い?」
「別にいいけど」
「ほい」と言いながら手を差し出すとすかさず優奈は俺の手を握りしめた。
「こうやって友太と手を繋ぐの久しぶりかも」
「小学生の時以来か?」
「そうだね」
そういえば、昔はこうやって2人で手を繋いで屋台を回ったけ?
関係を切る前は毎年こうやって2人で回ってたよな、すごく懐かしいな……。
もう祭りにもいかなくなって数年、またこうやって手を繋いでくる日が来るとは考え深いものがある。
その後手を繋いだ優奈と一緒にいろんな屋台を回った。たこ焼きや、射的とまるで子供の頃の思い出を辿るように。
「たこ焼きとか買ったはいいけど、どこで食べる?」
「どこか座れるとこない?」
「うーん、そうだなぁ……。あ、せっかくだしクレアも呼ぶか」
ポケットの中に入れているスマホに手を伸ばそうとした時、優奈は俺の手をガッチリと掴む。
「痛い、痛い。優奈放してくれ……スマホを取り出せない」
「もう少し、友太と2人でいたい」
「わかったよ」
上目遣いでそう呟く優奈には勝てず、俺はクレアを呼ぶのをやめた。
「どこで食べるかだなぁ……。ベンチはほとんど埋まってるし」
どこもかしこもカップルっぽい男女が、ベンチに座っていて満席だった。
ベンチ以外に適当に座れる場所を探していると、急に優奈は何を思ったのか俺を思いっきり引っ張って走り始めた。
「おま……いきなり……」
されるがままだった。途中転びそうになりながらも俺は必死にどこへ行くかもわからない優奈について行った。
無言で走る優奈に何を呼び掛けても反応をしない。
「優奈本当にどこへ行くんだよ……」
「黙って私に付いてきて」
息も絶え絶えで、やってきたのは暗い人気もない蔵のような建物がある場所だった。
祭りの明かりもかなり遠くの方で、賑やかな人の声もほとんど聞こえない。
「はぁはぁ……何でこんな所に……」
優奈が手を放した瞬間に俺はその場に座り込んでしまった。
こんな所に連れて来られて、俺は一体何をされてしまうんだ……。
「友太、大丈夫?」
「大丈夫だけど……」
そう答えたと同時に、座り込んだ優奈の顔が目の前に現れたかと思うと、その瞬間に俺の唇に優奈の唇が交わった。
一瞬の出来事に訳も分からず、混乱していると優奈は俺から離れて満面の笑みで立ち上がる。
「い、い、今お、俺達……き、キスしたのか?」
「うん……。友太のファーストキス奪ちゃった」
奪っちゃったじゃないよ……。一体今何が起きてるの……?
突然の出来事に混乱していると、優奈は俺の前にまた座り込んだ。
「私ね、昔からすごく不思議だったことがあるの」
「不思議だった事?」
「小さい頃から友太を目の前にすると胸の奥がキュンとなってしまっていたの」
小さい頃から……?
「それと同時に、友太が他の女の子といるとすごくムカムカしてきて……。本当はダメなんだろうと想いながらも独占したい想いが日に日に強くなってたの」
「な……なぁさっきから……何の話をしてるんだ?」
「でも、この気持ちが何なのか、クレアさんが来てから気づいたの」
気付いた?俺は座ったまま優奈を凝視しながら、次に出る言葉を生唾を飲みながら待つ。
「私は、友太の事が好き。大好きなの!!」
「え……」
優奈がそう叫んだ瞬間、背後の空には一発の大きな花火が撃ちあがった。
まるで、優奈を祝福するかのように……。




