59話 6人で別荘に行った part9
俺は真ん中に置かれてる数字が書かれているルーレットを回すと、針が4を差した。
「2か」
「ぷッ……いきなり推し二千円払ってるじゃねーか久野原」
止まったマスを見て小原が含み笑いをする。
幸先が悪い……。いきなりお金を失ってしまった。
「幸先悪いなぁ」
「ゲームの推しに金使うタイプだもんね、友太君は」
ニヤついてクレアが話すと、小原も「そうだそうだ」と賛同する。
「この前もだいぶガチャで散財してたもんな」
「それもう少し詳しく聞かせてもらえませんか?」
興味深そうにクレアは、小原に問いかける。
「私も気になるかも」
同じように中原も興味津々だった。
そんな気になるかなぁ?普通はゲームに課金してたらドン引きしそうなもんだけど……。
「後でたくさん聞かせてあげるよ」
「勘弁して……」
その後は、優奈、小原、クレア、中原、三瀬川という順番でそれぞれゲームが進んでいく。
「あ、すごいです。私の作ったお菓子が大ヒット!皆さんから2000円ずつもらえますー」
「くぅ……。お前さっきからもらってばっかじゃねーか……」
仲良くカップル同士イチャイチャとしながら小原と三瀬川はゲームをプレイする。
その隣では……。
「友太君、大物動画クリエイターってすごいねー」
「な、なぁ……クレア?ちょっと近すぎない?」
クレアの距離が相当近く、周りから見れば、ほぼカップルのような雰囲気だ。柔らかい物も腕に当たってるわ、いい匂いはするわで理性が崩壊しそうである。
我慢しろ?久野原友太……。妹やぞ……。
「それより……。次3を引いたら結婚マスだよ?」
「け……!!結婚!?」
急に優奈は取り乱して、大声を上げるが、それを中原が止める。
「優奈?急にどうしたの?大丈夫?」
「大丈夫。な、なんでもない……」
大丈夫かなぁ?昨日から様子がおかしいし、やっぱり部屋で休んでいた方が良いんじゃないのかなぁ。
さて俺の番が迫ってきた。3を引いたら結婚だが……、まぁそんなうまくは行かないだろう。
「俺の番だな」
ルーレットを勢いよく回そうとすると、隣から優奈の圧のようなものを感じた。
いやいやゲームですからね?優奈さん。そんな圧に負けじと俺はルーレットを回すと……。
「3だー!」
「マジかよ。すげえなー」
強運と言って良いのだろうか?クレアは嬉しそうに俺へ抱き着き、小原は驚きを隠せないでいた。
ゲームでこんな喜べるのすごいよクレアさん。多分今このリビングにいる奴の中で一番楽しんでいると思う。
「あぁぁぁぁ……」
「大丈夫ですか?優奈さん?」
放心状態の優奈に三瀬川が声をかけると、目を回しながらうんうんと頷く。
「という事で、ピンク色の駒をえーい」
と言って俺の車の形をした駒に刺された青色のピンの隣にピンク色のピンを突き刺した。
「まるで私と友太君が結婚したみたーい。なんちゃってー」
「よッお似合いー」
隣から冷やかしを入れる小原に、「どうもどうも」と言いながら怒る事もなくクレアは照れていた。
「ふぅ……ふぅ……」
隣を見ると息を荒くしながら、ピンク色のピンが突き刺さった俺の駒を優奈が見ていた。
もはや過呼吸寸前じゃないか、マジで大丈夫か?
「落ち着いて深呼吸しよ?ほら吸って吐いてー」
「ふーふー。大丈夫……」
いやいや全然大丈夫そうに見えないけど??
さてそんなこんなでさらにゲームが進み、お次にやってきたのは……。
「やったー。友太君女の子が生まれただってー」
出産イベントマスだった。
なんという幸運続き。マスの説明文を見ると他のプレイヤーからお祝い金がもらえるらしい。
「俺達より先にゴールインかー、久野原おめでとうー」
小原の言葉を皮切りにそれぞれおめでとうと言いながら、ゲーム内通貨を渡される。
「優奈?どうしたの?」
4人がゲーム内通貨を渡した後、優奈だけが俺にまだ渡していなかった。中原が「おーい」と声をかけるが顔を下げたまま何も言わなかった。
「大丈夫か?優奈?」
優しく声をかけると、突如として立ち上がり俺に笑顔を向けた。
「ごめん、体調悪いからちょっと部屋戻るね?」
「大丈夫か?植野さん?」
「大丈夫ですか?お薬手配しましょうか?」
心配そうな顔で俺と三瀬川が声をかけると、優奈は手を横に振って断る仕草を見せた。
「大丈夫、大丈夫だから」
そう言って優奈は部屋を出ようとすると、「待って」と言いながらその後ろを中原が付いて行った。
「行っちゃいましたね」
「とりあえず、久野原の勝ちって事でいいか?」
「そうだな」
「おめでとう、友太君」
お祝いをされたが、なんか府に落ちないのはなんだろうか?
人生ゲームが終わった後、リビングでは俺と小原だけが残り、2人で格闘ゲームをプレイしていた。
クレアや三瀬川は晩御飯の調達に向かっている。
「植野さんどうしたんだろうな?」
「わからん……」
コントローラーでコマンド入力をしながらそう言う。
「なんで?」
「だって、昨日お昼のお弁当食べた後、ずっとお前の事見てたって言ってたぞ?」
「マジ?」
知らなかったそんな事全く気付かなかった……。
てかなんで小原は知ってるんだよ……。
「お前クレアさんの事ばっか気にしてからな」
ニヤついた顔で、小原はそう言いながら俺に近づいてくる。
「気持ち悪いな、こっち来るな」
「久野原君ひどい」
そんなやりとりをしていると、中原がドアから顔を出す。
「どうしたの?中原」
「久野原君、ちょっといい?」
「何?」
「話があるの」
かなり機嫌が悪そうに中原はこちらへ手招きしている。
何だろうと思いながら立ち上がってリビングから出て中原について行く。
「何だよ、話って」
「昨日の夜の事、正直に話して」
俺はその言葉に大きく締め付けられるようにドキっとしてしまう。
まずい……。優奈の言ってる事が嘘だとバレてしまったのか??
「優奈が言ってた通りだよ」
「嘘よね?」
「嘘じゃないよ」
「じゃあなんで、優奈はアンタの事を見て落ち込んでるの?」
「いや別に俺が聞きたいよ……」
しらを切るのに必死だった。
だがこうするしかなかったのだ……。だってあんな事口が裂けても言えるはずがないのだから。
「言うまで、私はここから動かないから……」
そう言って中原は座り込んでしまった。
何という強情な奴だ……。さてどうしたものか……。
「奈津季、もうそこまでしといてあげて」
「優奈……」
振り向くと、優奈がこちらに向かって歩いて来ていた。
歩いてきた優奈に近づき、中原は飛びつくように優奈の肩を持つ。
「だって、優奈が落ち込んでる原因はこいつでしょ?」
「別に落ち込んでないから、大丈夫」
「無理してるよね?」
「してないから……」
「嘘だ……。私にはわかるから……」
「だから、大丈夫だって」
「嘘つかないでよ!!」
あー、面倒なことになってきた……。俺が原因でこんな風な喧嘩のようになってしまった。
こんな事なら、中原や優奈は誘わなきゃ良かったなんて言う思いも浮かんできてしまっている。
2人で言い合ってる隙に逃げようと思ったが……。
「お前ら喧嘩はやめろって」
「別に喧嘩なんか……」
「元はと言えば久野原君のせいなんだから……」
「で、マジでなんで俺の事見たりしてたんだよ……。落ち込んでいるのが俺のせいだって言うなら謝るからさ……正直に話してくれないか?」
そう優奈に聞くと、顔を真っ赤にして俯いた。
正直俺は何もした覚えがない。本当に何でこんな黙り込んでしまっているんだろう?気づかないうちに優奈の心に深い傷を負わせてしまったんだろうか?
顔を真っ赤にしている優奈を見た中原は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに何かを察したような顔をする。
「ど、どうした?熱でもあるのか?」
心配になり、優奈に近づくと、顔をさらに真っ赤にさせてその場から走り去って行ってしまった。
「ちょ、ちょっと優奈?」
走り去って行った、その後ろを中原も急いで追いかけていった。
な、なんだっただろう……?




