48話 妹にプレゼントを渡した
電車に乗って2駅ほど行った場所にあるデパートへ着いた俺達は、店内を歩いていた。
「何を買うか決めてるのか?」
「私はアクセサリーとかかなぁ……。友太は?」
「うーん。お金とか……?」
ドン引きした表情を見せながら優奈は「は?」とドスの利いた声を出した。
「なんだよ……」
「兄からお金を誕生日に貰って喜ぶ妹、いると思う?」
「クレアなら喜ぶだろ……」
ぶっちゃけクレアの性格なら何をあげても喜びそうな気がする。
それを聞いた優奈は頭を抱えて、俺の顔を冷めた目で見ていた。
「何のためにここへ来たの?」
「だって、俺クレアの欲しい物知らないんだよ……」
流石に呆れてもうため息も出なくなってしまったのか、優奈は何も言わずに俺の腕を掴んだ。
「とりあえず、いろいろとお店回るよ」
「お、おう……」
まず優奈が連れてきたのはコスメショップだった。
煌びやかな女性用の化粧品や、香水などが売っていた。
「女の子って、男の子からこういうの貰うと喜ぶんだよ?」
「アイツ、メイクしないしなぁ」
「化粧品じゃなくても香水とか、ネイルケア用具とかでもいいんじゃない?」
陳列されている商品をいろいろと手に取って、優奈は俺に見せて来る。
確かにクレアはこういうの好きそうだ。たまにクレアに近づくと、いい匂いするし。だが……。
「ごめん、予算が足りないや……」
「え、嘘?!」
俺はコスメショップから離れると、優奈も後ろを付いてくる。
「この前の奈津季のお店のアルバイトで稼いだんじゃないの?」
「もう殆ど残ってないんだよ。いろいろ壊れた物が多くてさ……」
GWが終わった後、家に会った家具が次々と壊れるという珍事に見舞われたのだ。
そのおかげでかなりの金額がかかってしまい、もうほとんど稼いだお金が残っていない。
「じゃあもっと、安価なもの選びにいこっか」
「おう」
それからいろいろな店を回った。だけど安価となると、中々クレアに合うものは見つからなかった。
おもちゃ屋、本屋、小物類、いろいろなところを回ったがいい物はなかった。
「やっぱ、低予算内となるといい物は見つからないなぁ……」
長時間歩き続けた俺達は、ベンチに座って買ったジュースを飲みながら休憩していた。
「クレアさんの好きな物とか知らないの?」
「紅茶とか……?」
「だけなの……?」
「多分」
優奈は口を開けて、フリーズしたように動かなくなってしまった。
それほど俺が妹であるクレアの事をほとんど何も知らないという事が衝撃だったのだろう。
「もしかして友太、クレアさんの事何もわかってないの?」
「そんな事はないよ。後はピンク色が好きとか……えっとあとは……」
あれ?紅茶とピンク色が好きなのと後はなんだっけ?
脳をフル回転させて、考えるが何も出てこない……。思えばアイツの好きな物とか今思い出したこと以外知らないかも……。
「ほとんど、クレアさんの事知らないじゃん……。家であまり話さないの?」
「ご飯食う時以外は……」
一緒にご飯食べてる時以外、クレアとは話したことなかったけ?
お互いほとんど晩御飯の時以外は部屋に籠りっぱなしだし。
「はぁ……。もっと妹なんだから話してあげたり、見てあげたりして方がいいよ……」
「そうする」
でも妹って、そんなに話したり、見てあげたりするものだっけ?なんか俺の中の妹のイメージでは、兄と喧嘩ばっかりしてすごく仲が悪いイメージなのだが。
「この間ビデオ通話で、もっと構って欲しいーって言ってたよ」
「マ、マジかよ……」
あぁ、アイツそんな事言ってたのか。いやでもクレアなら絶対に言いそうだなぁ。
「もっと兄らしく、家族として接してあげてね」
「家族として……」
家族としてか……。クレアは義理の妹とは言え日本人じゃなく、外国人だったので、少し遠い存在のように思えてなかなか妹として接する事が出来ていなかった。アイツも俺の事は兄とは言わず名前で呼ぶしな。
そう言えばクレアには俺からは兄らしいことしてあげた事ほとんどなかったけ、もっとしてあげないとなぁ。
てか、クレアは結構優奈に俺の事話していたりしてそうだな……。
「ていうかそろそろ、決めないとまずいね……」
優奈はスマホの画面を見ながら、焦っていた。やばいもうすぐ7時だ……。悩み過ぎた。もうそろそろ決めないと。急いでベンチから立ち上がって、再び歩き出した。
結局、何が一番クレアにあげて喜ばれるんだろう?そう思いながら、雑貨屋さんの前を通り過ぎた時だった。
「あ……」
吸い寄せられるように俺は、1つの売り物の前へと歩いて行った。
「ティーポッド?」
俺が立っていたのは、紅茶を入れるティーポッドが並んだ棚だった。
何色もの色の模様のない物や、鮮やかな模様が書かれたものまでいろいろたくさんあって、しかもお値段もリーズナブルなものである。
「アイツ、紅茶飲むとき急須で飲んでるんだよ。それで家に1個くらいあってもいいかなって。でも流石に平凡すぎるかな?」
「良いと思う。クレアさんきっと喜ぶよ」
「じゃあこれにするか」
ピンク色のティーポッドを手に持って、俺はレジへと行き会計を済ませた。
その後、優奈もアクセサリーショップでピンク色のペンダントを買いデパートを出た。
「俺って、本当にアイツの事何も知らなかったんだな……」
ガックシと俺は肩を落とした。その気持ちに答えるかのようにぽつりぽつりと雨が空から降り注いでいた。兄弟としてアイツの事もっと知ってあげないとなあ……。
隣で俺と同じく傘を差して歩いていた優奈は、俺の肩を優しく叩いた。
「そんな事ないよ、だって、クレアさんが紅茶を急須で飲んでるって知ってたじゃん」
「本当にそれだけだよ。毎日急須で紅茶を飲んでいるアイツしか俺は知らない……」
「それだけでも十分クレアさんは嬉しいと思うよ?」
そう笑顔で言う優奈に俺は「そうなのかなぁ?」と半信半疑で呟いた。
「まぁ、正直言えばもっといろんなとこ見てあげて欲しいんだけどね」
「精進します……」
これからはもっと、クレアの事をちゃんと見てあげようとそう誓ったのだった。まぁクレアがもっと構ってって言うならお望み通り構ってあげないと。
そう意気込んでいると、気づけばもう駅の前だった。駅へ入ろうとすると、優奈は不貞腐れた表情で服の袖を掴む。
「何?どうしたの?」
「妹ばっかじゃなくて私の事も、もっと見てよ」
「え?なんか言った?」
ボソッと何かを言ったのは聞こえたが、雨の音で消されてしまって分からなかった。
「なんでもない!!」
腕を乱暴に離した優奈は足早に駅へと入って行く。
なんて言ったんだろう……。もっと見てよって言ったの聞こえたんだけど……。何か頭の中の中原が「最低」って蔑んだ目で喋ってる気がする。
「友太?早く来て、電車来ちゃう」
「お、おうわかった」
電光掲示板を見るともう間もなく電車が来る時間だ。
優奈に急がされて、切符を買い何とかギリギリ電車に乗ることができた。危うく電車に置いて行かれるところだった。
次の日の朝、俺はクレアがまだ家にいる時間を見計らって起き、リビングへと降りる。
リビングでは既に起きて、制服の上にピンク色のエプロンを付けたクレアが朝食の準備をしていた。
「おはよう友太君」
「おはようクレア」
起きてきた俺に気づいくと、キッチンから飛ぶように近づいてきて何時ものように抱き着いてくる。
「えっと誕生日おめでとう」
「誕生日知ってたんだ」
俺の口からおめでとう言われたのが、嬉しかったのかクレアはもう一度、さっきより強く俺に抱き着く。
「えっと、優奈が教えてくれてさ」
「むっ……。優奈さんが教えてくれなかったら、今日は友太君ガン無視だったんだ」
そう言って頬を膨らませて、拗ねてしまった。
「ご、ごめんって!ほらプレゼントあげるから機嫌直してくれ」
包み紙に包まれたプレゼントを俺は手渡しで渡す。
受け取ったクレアはまだ頬を膨らませながら、包み紙を丁寧に外していった。
「これ……ティーポッド?」
「クレアが、紅茶を飲むとき急須に入れてるから、なんかちょっとカッコ悪いなと思って」
そう説明すると、クレアは無言で箱を開けてティーポッドを取り出す。あれ?なんかまた機嫌損ねちゃったかな?
慌てて、俺は言い訳をクレアに言う。
「ごめん……。もっと良いの買ってあげたかったんだけど、予算がなくて……」
「ううん。すごく嬉しいよ友太君」
「そうか、ならよかった……」
万年の笑みでティーポッドを見つめるクレアを見て俺はほっと一息をため息を付く。良かった気に入ってもらえて。
「それに友太君が、ちゃんと私の事を見てくれていたことが堪らなく嬉しいの……。ありがとう友太君」
少し感銘を受けた表情でそう言うクレアに俺は、決意を新たに口を開く。
「俺は正直お前の事をあまり知らない。だからこれからは、お前の事をもっと見てあげよう思う。だからこんな俺だけど、兄として慕ってくれるか?」
「うん。これからもよろしくね友太君」
クレアの事、これからはもっとちゃんと妹として見てあげないとな。
何はともあれ、プレゼントを気に入ってもらえて良かった……。無言で開封し始めた時は、機嫌を損ねてしまったのかと心配になってしまったが、何とかなってよかった。
「友太君紅茶飲む?」
「もう入れたのか」
気が付くと、既にティーポッドの中には紅茶ができており、部屋にはリンゴの香りが漂っていた。
「ちなみに私の好きな紅茶はフルーツティね。覚えておいてねー」
そう言いながらクレアは俺の前にアップルティを入れたマグカップを出してきていた。
「忘れたら、メッだからね?」
「わかった」
少し怒ったような表情をするが、あまり怖くなかった。こいつ多分怒っても怖くないタイプかも。
その後二人で朝から、朝食を食べながらゆっくりと紅茶を楽しんだのだった。
あっさりした終わり方になってしまいましたが、次回から3章となります。幼馴染の友達と仲良くなって、妹と幼馴染と一緒にお出かけして、パーティーをするという平和な章でした。さてベレー帽の女の子の正体は如何に??3章も楽しみにしていただけると幸いです。




