32話 幼馴染がくっついてきた
睨みを利かせて囲んできた男子達を見つめるが全く動じる事はなかった。
そして一人の男子が俺の前に出てきてメガネを動かしながら話し始める。
「どうも私たち、植野優奈様ファンクラブと申します」
「はぁ……」
なんでこんな所に、こんな時間にファンクラブの奴らがいるんだ?めんどくさいなぁ。適当にあしらうか。
「優菜様と何してらっしゃるんですか?」
「ただ、一緒に遊んでただけど?」
「ただ遊んでた?貴方のような危険人物が近づいていい女性ではありませんよ?即刻離れてください」
マジで厄介ファンじゃねーか……。
ただ近くで静かに見ていればいい物を……。邪魔しに来るなよなぁ。
正直俺はもうブチギレて殴りたい気分だったが、まだ堪えていた。
「別に俺の勝手だろ?それに……」
「それに……?」
「俺の幼馴染なんだけど……これでも何か文句ある?」
「お、お、お、幼馴染!!??」
俺の言葉に目の前にいたメガネをかけた男子、さらには俺を取り囲んでいる男子は動揺している様子だった。
そんなに驚くことかなぁ?学年では知っている奴が大半だと思うんだけど。まさかこいつらファンクラブの癖に知らなかったのか?
「どうしたの?友太?」
「うわ……。こいつらファンクラブの奴らじゃん……」
心配してこちらに来た3人だったが、途端に俺の周りにいる奴らがファンクラブだと知ると、中原と優奈かなりドン引きした表情を見せる。
「優奈様、こいつが幼馴染って本当ですか?」
「あんた達、本当にキモイ……。寒気がする。近寄ってこないで」
聞かれた優奈は蔑んだ表情でファンクラブの一員を罵倒する。
それに対して、メガネをかけた男子はとても気持ちよさそうな顔で「ぐはッ……」と発言してその場に倒れ込む。
「早く私達の前から消えて……」
「それはひどくないですか?優奈様??」
困った顔をした優奈の腕をニヤついた顔で涙を流しながら、メガネをかけた男子は引っ張る。
本当にこいつら気持ち悪いな……。何かカルト的なものを感じるぞ?これ以上はまずいと思った俺は優奈の腕からメガネをかけた男子の手を引き離す。
「おい、いい加減にしろ?優奈が困ってるだろ?」
「貴方には関係ないでしょう?」
関係ないだと?その言葉に流石の俺もカチンと来てしまった。
「本当に離れないと、どうなっても知らないぞ?」
俺はメガネをかけた男子を脅すように睨みつける。
「な……ふ……ふん怖くありませんよ……?」
強がりを見せるメガネをかけた男子だが、俺はさらに威圧するように見つめる。
「いい加減にしろよ」
「ひ……ひぃ!!!!」
さすがに俺の圧に圧倒されたのか、逃げるようにその場から立ち去って行ってしまった。
やれやれ、もう二度と俺の前に現れないでくれ……。
事の顛末を近くで見ていたクレアは呆気にとられた表情だった。
「なんなんですか?あれ?」
「さぁ……?」
中原は呆れた様子でクレアの疑問に返した。
今は平常心を保っているが、内心ビクビクだった。さすがに不良みたいなやばいやつではないとは言えもうあんなカルト的な集団みたいな奴らはもう相手にしたくない。
優奈もあんな変な集団を相手にして気分が悪いのか、顔を下に向けてうつむいたままだった。
「どうした?優奈」
心配になった俺はそう聞くと、優奈は俺の隣に立って震えた手で袖を掴む。
「友太……ありがとう……」
「怖かったのか?もう大丈夫だ」
そう言って優奈が見せた顔は目を真っ赤にして今にも泣きそうだった。
如何にしっかりしている優奈とはいえ、あんなに大勢の男に囲まれて言い寄られたら流石に怖くて泣きそうになる。俺は小さな女の子をあやすように頭を優しく撫でてあげた。
「ところで久野原くーん?」
「は、はいなんでしょうか?」
眉をひくつかせながら、中原は俺の腕をつつく。
「取ってほしい物見つけたんだけど……」
「はい、いきますね」
「友太君。私も……」
うるうると誘惑するような目でクレアは俺を見つめる。
ダメだやっぱり俺は女の子のこの顔には弱いようだ。
「わかったよ……。とりあえず中原からな」
それぞれ3人の欲しい景品を取ってあげてるべく、俺はそれぞれ欲しい景品があるブースに向かう。不思議な事に昔の感覚は残っているもので、なんと3人とも少ない金額で取れたのだった。
というか、優奈ずっと、俺の腕握ったままなんだけど……。よっぽど怖かったんだろうか?
ゲームセンターから出ると、すっかり夜も更けていて、スマホの時計も9時前になっていた。
「中原、送って行かなくていいか?」
「今お姉ちゃんにLINEして迎えに来てもらうように頼んだから大丈夫。それに久野原君と一緒に帰るのはいやだし」
とことんこいつは俺の癪に障る事言って俺ムカつかせるな……。
今日は優奈がいるから、我慢しているが、優奈が居なければどうなっていた事やら……。
「あ、そう。じゃあ先に帰るからな」
「はーい。優奈またね……」
俯いたまま片腕でウサギの人形を抱えながら、もう片一方の腕で俺の腕をずっと握ったままの優奈の顔を覗き込むように挨拶をする中原。
それを聞いた優奈は小さくうんと頷いた。
俺は中原と別れた後、クレアと優奈と共に家の方向へ歩き出した。
「楽しかったね。友太君」
2匹のリボンの色が違う熊のぬいぐるみを抱えながら幸せそうな笑顔でそう言うクレア。
とても機嫌がいいのか、スキップをするように歩いていた。
「そうだな。優奈もそろそろ腕を離してくれると助かるんだけど……」
俺がそうお願いをするも優奈は何も言わずにただ顔を下に向けたまま、俺の腕にくっついていた。
「友太君のニブチン……」
「な、なんで?!」
初めて蔑んだ表情で見るクレアを見た俺は何故そんな表情で見られているか分からず困惑する。クレアのあんな表情初めて見た……。
気が付くといつの間にか、俺の家と優奈の家の境目辺りにある交差点へ差し掛かる。
「優奈さーん?もう俺の家だけど……?」
俺はそう言うが優奈からは何も返事が返ってこない。
困ったなぁ……。このまま家に連れ帰るわけにはいかないし、それに優奈の家に電話して俺の苦手な人が出たらいやだし……。かと言ってクレアを置いて、優奈の家まで送り届けるのもなぁ……。
「友太君、私の事はいいから、先に優奈さんを送って行ってあげて」
困り果てていた俺を見かねたクレアは、少し先の方へともう移動していた。
「でも……」
「大丈夫。私はこう見えても強いから」
あちょーという声を上げて痛くもなさそうなチョップを繰り出すクレア。
大丈夫かなー?という心配があったが、まぁもう家は目と鼻の先だし大丈夫だろう。
「わかった。何かあったら絶対連絡しろよ?」
「うん、また後でねー」
俺はクレアが俺の家の方向へ歩いて行ったのを見届けると、優奈を家に送って行くべく交差点を曲がっていくのだった。




