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30話 幼馴染の友達と夕食を食べた

「とりあえず優奈、私はいつもの。あんたは?」


 俺は改めてメニュー表を見る。今日は重労働で疲れたし何かガツンとしたものが食べたい。そうなると……。


「じゃあこのステーキプレートで……」

「ステーキプレートね。わかった」


 それを聞いた優奈はフードフロンティアを触って注文を確定させると、俺達に一礼をしてその場から去って行った。


「いつもここに来てるのか?」

「まぁ、週に3回はお姉ちゃんとねー」

「ふーん……」


 いつもので伝わるという事はかなりの頻度でこのレストランに来ていると思われる。


 よっぽど中原の家は忙しいのか、はたまた自炊がめんどくさいだけなのかよくわからないが。


「それに、お店に来たお客さんが最近ここにすごく可愛い天使がいるって噂を聞いたからそれも気になってね……」

「天使?」

「最近、ウェイトレスで入った娘らしいんだけど、めっちゃ可愛いんだとか」

「はぁ……」


 天使って誰の事だ?と思いつつ、俺はスマホでニュースアプリを見ながら料理が来るを待っていた。


「あの、そのありがとうね」

「ん? 何が?」


 突然言われた俺に何のことか分からず、曖昧な返事をする俺。


 そんな俺の顔を気にせず、顔を少し赤らめた中原は話を進める。


「私の代わりにレジ打ちしてくれたこと」

「あーその事か、別にいいよ」


 そんな事かと思いながら、俺は笑顔で返した。


「私、目の前たくさんの人がいると緊張して目を回してしまうのよね……」

「発表会とかがある吹奏楽やってるのにか?」

「悪かったわね……」


 中原は俺の言葉に機嫌を悪くしてムッとした表情をする。


 フルートを奏でる中原の姿は文化祭とかで何回も見たことがあったが、レジ打ちの時のように目を回している様子はなかった。どうやって克服したんだろう……?


「まぁそう思うのは仕方ないか。私1つの事に集中すると周りの事が見えなくなるのよね」

「という事は、フルートを吹き始めると周りが見えなくなって、大丈夫って事か?」

「そういうこと」


 なるほどと納得する。確かに発表会とかの大きなイベントでたくさんの人が注目していようが、フルートを吹くことだけに集中してしまえば、周りが見えなくなって、あの時のように緊張して目を回さなくて済むという事か。


 それにしてもよく今まで、そんな体質で吹奏楽やってこれたな……。


「フルート吹きながら接客する訳にもいかないし……。どうしよう……」

「まぁ、人には向き、不向きがあるし仕方がねーよ」

「それもそうね。じゃあレジ打ちはあんたに頼もうかな」

「しょうがないな……」


 俺はため息を付きながら承諾する。後3日俺の体は耐えられるかなぁ?


「お待たせしましたー」


 噂の天使は突然現れる。


 テーブルに料理を運んできたのは、俺の妹クレアだった。水色のフリフリの衣装が銀色の髪の毛と容姿にとてもマッチしていてすごく似合っていた。天使ってお前の事だったのかよ……。完全にここでクレアがアルバイトをしている事が頭から抜けていたぞ。


 周りにいたお客さんも一斉にクレアのいる方を見ている。


「天使って貴方のだったのねクレアさん」

「何のことですか?」


 天使と言われ、はて何のことやらと言った感じの顔をしながら、ステーキプレートとグラタンをテーブルに置くクレア。


 これ自分がどう思われているか全く自覚していないタイプだこれ。


「友太君も来てくれて嬉しい♡ゆっくりしていってね♡」


 そう中原にも聞こえるくらいの声量で耳打ちをして、クレアは一礼をして去って行った。


 もうクレアのこの優しく誘惑するような耳打ちにもいつの間にか慣れてしまっていて、なんか悔しい……。


「クレアさんと仲良いわね」

「まぁほどほどにね」


 俺と中原は運ばれてきた料理を食べ始める。ていうかいつものってグラタンだったのか、相当大好物なんだろうな。


「ところであんたの妹ってどんな娘なの?」

「えっ?!」


 突然中原から出てきた言葉に俺はびっくりして肉を喉に詰まらせかけて、むせる。


「げっほげっほ。なんだよ? 突然」

「ちょっと、気になったから」


 俺は少し考える。ここで中原にクレアが妹だとバラしてもいいのだろうか?まぁ中原にだったらいいか。またあの時みたいに隠して嫌なことになったらいやだし。


 丁度近くをクレアが通り過ぎたので、俺はクレアを「アイツだよ」と言いながら指差す。


「は? いやいや嘘は大概しときなさいよー。夢見すぎ」


 こらえきれず、吹き出すように笑う中原。まぁ予想通りの反応だった。馬鹿にするように笑う中原の顔に少しムカつきながら俺は、「マジだよ」という。


「馬鹿も休み休み言なさいよー。あんたの妹がクレアさんな訳ないでしょ?」

「じゃあ本人にも聞けばいいだろ?」

「わかった。もし嘘だったらどうする?」

「お前の言う事なんでも聞いてやるよ」


 自信満々に言う俺だが、これには俺にリスクがある。クレアが違いますよとか言う可能性もあるからだ。


 流石にアイツが頑なに隠そうとするはずないと思うのだが、優奈の友達だし。


「ふーん、そこまで自信があるのね」

「それと本当だったら、俺の事あんたじゃなくて、ちゃんと名前で読んでもらうからな」

「わかったわ」


 そんな契約を交わしていると、俺達がいるテーブルの前をクレアが通りかかったので「おーいクレア」と言い呼び止める。


「友太君、何か用?」

「水お替わり」

「はーい」


 水を俺のコップに注いでいる間に、中原は意を決してクレアに口を開く。


「ねぇ、クレアさんってこいつの妹なの?」

「そうですよ♡♡私は義理ですけど友太君の妹です♡♡」


 万年の笑みで答えるクレアを見て、大量の汗を書きながら焦った顔をする。


 ふぅ……。やっぱり予想通り、正直に答えてくれたな。


「じょ、冗談……だよね……?」

「本当ですよー♡ね♡友太君?♡」

 

 俺はクレアに向かって「うんうん」と言いながら頷く。


 それを見た中原は信じられないといった顔で俺とクレアを交互に見ていた。


「それじゃあ、友太君また家でねー」

「おう。頑張ってな」


 笑顔で手を振りながらテーブルを離れていくクレアに俺は小さく手を振り返す。


「本当に妹だったなんて……」


 切迫した表情をする中原は心底悔しそうだった。なんで素直に信じなかったんだろう?


「俺の勝ちだな……」

「な、何であんたの事を名前で……」

「とりあえず、最初に会った時みたいに名字で読んでくれればいいよ」

「それなら……。久野原君これでいい?」

「それでいい」


 正直もっと悔しそうな顔が見たかったが、流石にこれ以上嫌われるのは嫌なのでやめておくことにする。


 でも、心底悔しそうな中原の表所が見られたのでその辺は良しとしよう。

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