26話 バイトの面接?にいった
学校が終わって俺は優奈から紹介された、喫茶店へと歩いて向かっていた。
場所は学校から徒歩20分ほどの場所にあるらしく、建物も周りの建物と違って目立つからわかりやすいらしいのだが……。
「これかー」
見えてきたのは、レンガ調で出来た外壁のレトロな雰囲気の大きなお店だった。
なるほど確かにこれは目立つな……。と俺は建物全体に目を凝らしていた。
よし。俺はドアノブに手をかける。だがなぜか手が震えてドアを開けようとすることができなかった。何で今頃震えてるんだ?
なるほど。とすぐ理解する。人間関係を作ることを俺自身が拒んでいるって言うのか。でももうクレアや優奈には行くって言っちゃったし……。もう後には引けない。覚悟を決めろ俺!
意を決してドアノブにもう一度手をかけた時だった。突然ドアが開き、俺は開いたドアにぶつかって吹き飛ばされた。
「いてて……」
「あ……ごめん大丈夫?」
中から出てきたのは金髪のパーマががかったバーテンダーの服を着たロングヘアーの女性だった。何かに水やりをしようと出て来たのだろうか?手には水が入った小さなじょうろを持っていた。
「あれ? お前、妹と同じ学校の奴か……?」
「はい。多分」
妹が誰なのかはわからないが、恐らく俺の制服を見てそう言うのだからそうなんだろうと言う解釈で答える。
「妹に用か? うちの可愛い妹はやらんぞ」
「いや貴方の妹知りませんし、俺は短期のアルバイトの申し込みで来たんです」
蔑んだ目で俺を見つめる女性に丁度窓へ貼り付けていた短期アルバイトの募集の張り紙を指差す。
「なら、そうと早く言えよ!! 勘違いするだろうが!!」
舌打ちをしつつ、突然俺に向かって怒声を浴びせてくる女性。理不尽すぎる……、ただ俺はバイトの面接に来ただけなのに。
「すいません……」
「まぁいいや中に入って」
俺は立ち上がって、ズボンについたゴミを払い、女性に連れられて店内に入る。店内は外観と同じくレトロな雰囲気で置いている家具や机やイスまで全てがレトロチックなものであった。
学校終わりという事もあって、他行の生徒達が何人かが座っていた。
俺は窓際のイスに座ると、机の上にコーヒーが置かれて、女性は俺と向き合うように座る。
「私の名前は花瑠香花瑠香よろしく。とりあえず貴方の名前と年齢教えて」
「えっと、名前は久野原友太で、年齢は17です」
「17って事は……、うちの妹と同学年か……?」
コーヒーを飲みながら俺は答えると、花瑠香はなるほど、なるほどと小言を言いながら、メモを取っていた。
「はい多分。同学年だと何か不備でもあるんですか?」
「いやむしろ大歓迎。うちの妹も手伝ってくれるからさ……同い年だと一緒に働く妹が気兼ねなくできるじゃん?」
まぁ、変なおっさんが来たら年頃のJKの妹は嫌がるよなーという話で……。
同い年の俺が来て正解だったかもしれない。
「てか接客業とかやった事ある?」
「ないですね。アルバイト今までやったことないので」
「マジで?」
さすがにバイト未経験まずかったかな?
花瑠香は小難しい顔をして少し考えると、すぐに俺の方を向く。
「まぁいいや……採用」
「へ?」
あっさりと決まってしまった事に俺は唖然とする。
もっとこう後で電話してきて採用かどうかを教えてくれるものかと思っていたのだが。
「そんな即決して良いんですか……?」
「まぁ、早い目にさっさと決めたかったからさー」
「はぁ……」
「ということで、GWの初日開店9時までには来てくれ久野原君」
「わかりました」
立ち上がり、俺はリュックを背負って店を出る準備を始めると、花瑠香は待ったと言って俺を止める。
「うちのチーズケーキを食べて行ってくれ。今日の所ところは私が奢るからさ」
「それはどうも、ありがとうございます」
「良いって、良いってー。座って待っててくれ」
そう言って花瑠香は厨房の中へと消えていった。
チーズケーキか。そういえばこの店に来てるお客さんは全員チーズケーキを頼んでいるな。この店の人気メニューなのかな??
すごいおいしいんだろうな、楽しみだなと思いながら座った瞬間、お店の扉が開き鈴の音色が鳴り響いた。
「ただいまー。お姉ちゃん」
お店の中に入ってきたのは、肩に背負った見覚えのある特徴的な細長いケース。そして短い髪の毛の女の子、中原奈津希だった。
彼女は真っ先に厨房へ向かって、花瑠香に挨拶をしていた。
ここアイツの家だったのかー……。通りで優奈が含みのある表情をしていたわけだ。気づかれると面倒だ……。見つからないようにしないと……。
「何であんたがここにいるの?」
見つかるの早すぎだろ……。中原は俺のいる机の横に既に立っていた。
「良く気づいたな……」
「そりゃ、私と同じ学校の制服の奴がいたら気になるでしょ?」
「まぁそれもそうか」
「で?なんでここにいるの?」
「何でって、短期のバイトの申し込みに」
俺がそう教えると、中原は「なっ」という声と共に吃驚の表情を浮かべて、俺の顔を睨みつける。
「ちょっと待って?あのチラシは今日のお昼に張り出したばかりなのに何で知ってるの?」
「なんでって……優奈から教えてもらって……」
それを聞いた途端、中原舌打ちをして急に不機嫌な表情になり「優奈めぇ……、よりにもよってこいつに教えるなんて……」と小声でブツブツと呟いていた。
不思議に思った俺はもう一度優奈から送られてきた募集の張り紙を見る。送られてきた写真を拡大してよく見ると、貼られているという感じではなく、机か何かの上に置いてあるような感じだった。
「それ、友奈に送ったやつ。優奈が写真を送ってって言ったのはそう言う事だったのね……」
スマホを覗き込んで、写真を見た中原はため息を付きながら頭を抱えていた。
なるほど、優奈が中原に頼んで昨日この写真を送ってもらったという訳か。優菜めやっぱり俺の事をハメてるじゃねぇか。
「で、採用されたの?」
「されたよ」
「はぁ……? なんでGWに嫌いなアンタと働かなきゃいけないのー?」
「それはこっちのセリフだ!!」
「お前ら仲いいのはわかるんだけどさ、店の中で喧嘩するのはやめろよ……」
睨み合っていると花瑠香がチーズケーキを乗せたお盆を持って呆れた顔で立っていた。
「「よくない!!」」
「いや、めっちゃ仲いいじゃねーか」
俺と中原が同時に振り向いて叫ぶと、花瑠香は呆れた表情で俺たち二人を見つめていた。




