24話 幼馴染の友達と取り合いをした
「植野さんとクレアさんとGW出かけるんだって?」
放課後、教科書をリュックに入れていると、小原がからかうように俺の肩に腕を回してきた。
「まぁな。てか何で知ってるんだよ……」
「だって、クラスの男子たちが噂してたから」
「あー……」
またかよと内心呆れながらも納得する。
あんなに騒いでたらそりゃ全部聞こえてるよなと言う話で、午後の授業中もかなり鋭い視線が俺に向けられていた。
「良かったなー。学校でトップクラスのマドンナたちとお出かけって」
「お前だってどうせ三瀬川とデートにいくんだろ?」
「当たりー」
にんまりとした顔で、俺の背中をポンポンと叩く小原。やっぱその日無理ってドタキャンされればいいのに。と内心イラついていた。
そんな事を考えていると、急に真面目な顔になった小原は俺の前の席に座る。
「俺の言った通りして良かっただろ?」
「そうだな……。お前と中原ってやつのおかげだな」
「中原? 吹奏楽のフルートの妖精に何か言われたのか?」
「優奈の事でめっちゃ怒られたし、ついでにお前の事嫌いだって言われた」
「うわ……。ボロッカス言われてんじゃん」
話を聞いた小原はドン引きした表情で「こわー」と何度も呟いていた。
「でも、アイツの言ってる事はもっともだったし、おかげで優奈の本心にも気づけたしな……」
多分中原があそこで俺を止めていなかったら優奈の本心にも気づけなかっただろうし、おそらく小原の話を聞いても優奈に謝罪しにいなかっただろうと思う。
中原には本当に感謝だな。最後の大嫌いって言葉で全部台無しになったけど。
「まぁお前が良かったなら良いんだけどさ。あれ? てか植野さんの事名前呼びになってんじゃん」
驚いた表情で小原は俺の机に突っ伏して前のめりになる。
「アイツが俺の事名前で呼んで来たら、クレアが俺も名前呼びにしようって言って来たから……」
「それもう脈ありじゃん! 告っちゃえ!!」
「いやだ」
「幼馴染なんだからいけるって!!」
「うるさい。はっ倒すぞ」
「わー! 久野原くんこわーい!」
感情をたかぶらせて小原を捕まえようとすると、ニコニコと笑いながら立ち上がって逃げて行ったので、俺はリュックを肩に下げて小原の後を追いかける。
急いで教室を出ると小原の姿は既に消えていた。逃げ足の速い奴め……。追いかけるのを諦めて帰ろうとすると、スマホの通知音が鳴ったので画面を見るとLINEで『めんごめんご』と送られてきていた。
それを見た俺はとりあえず怒ったライオンのスタンプを送り付けて、電源を切ろうとすると今度はクレアからLINEが来る。
『お醤油買い忘れちゃったから帰りに買ってきて♡』
アイツまた買い物に行ったのか……。なんかいつも買い物へ行ってる気がするんだが気のせいだろうか……?
しょうがない家の近くだし、醤油一本くらい買っていくかー。と意気揚々と財布の中身を見ると空だった。とりあえず先にコンビニのATⅯに向かおうと階段を降りようとした時だった。
「久野原のやつ植野さんとクレアさんとGW出かける約束してたのか?」
上の階から他の生徒の噂をする声が来たので耳を澄ます。
この学校ではこうやって噂話が絶えない。いつもなら何も聞かずに素通りするのだが、今回は俺の名前が聞こえてきたので、これは聞き逃せないなと思って足を止める。
「マジかよ……。久野原の奴め……」
「これはまずいですねー。あの二人が学校で一番危ない久野原と2対1にするのは危ないです」
「何をされるかわからないからなぁ。植野さんやクレアさんがナイフで刺されないか心配だ」
「格なる上は、久野原から二人を引き離すために説得するか……?」
「それも要件等ですね」
という話を最後に今度は別の生徒の噂話に切り替わった。結局俺はこの学校では悪役なのか……と改めて自覚する。わかってはいたがこう直接こういう噂を聞くと来るものがある。
でもこういうのはもう慣れた。今の話は聞かなかったことにしよう。
てか引き離すってなんだよ……。お前らはクレアや優奈のなんなんだよと上の階にいる奴らへ怒りを露わにしながら学校を出たのだった。
「げっ……」
コンビニに到着した俺はATⅯに表示されるかなり少なくなった残高を見て絶望する。そういえば父さんから今月の仕送りは中旬か下旬とか言ってたな……。これじゃあだいぶきついなぁ……。優菜とも遊びに行けないぞ?
これも全部クレアのせいだ。アイツはほぼ毎日のように買い物へ行っている。そうなれば必然的に減っていくばかりなわけで……。クレアがいないときはだいぶ余ってて余裕があったのになぁ。帰ったら説教してやらないと……そう思いながらわずかなお金引き出した。
とりあえず今の残高を見て、スーパーに行く気力もなくなったのでコンビニで醬油買っていこう。
「あ、あった醤油……」
狭い店内を探し回ることなく醤油が置いてある棚を見つける。どうやら最後の一本らしく他に醤油が見当たらなかったので他の客に取られないように早く回収しようと手を伸ばすと反対側から別の手が伸びてくる。
「げっ……」
「げってなんだよ……。中原」
そこに立っていたのは優奈の友達中原奈津希だった。向こうも学校帰りなのか、スクールバッグとは別におそらくフルートをしまっているケースを肩にかけていた。
「とりあえず、これ譲ってくれない?」
「いいけど……ほらよ」
中原に手渡そうとすると、俺から引っ手繰ろうとする素振りを見せたので、俺は醤油のボトルを上にあげて中原の手をかわす。
「なんのつもり?」
「気が変わった。やっぱり俺がもらう」
「は? 何よそれ!!」
「中原の態度が気に入らない……」
「じゃあ。お願い♡」
指を口もとに当て、ウインクをして誘惑するように俺を見つめる中原。その姿を見た俺はついときめいてしまう。くそ……なんて破壊力だ!!
「隙あり!!」
すかさず俺から醤油のボトル分捕って行く中原。
「はい。これで私の勝ち」
「くっ……」
やってしまったぁ……とさっき中原相手にときめいてしまった事を悔いる。しょうがないか……。めんどくさいけど家の近くのスーパー寄って買いに行くか……と考えていると店員がやって来て、「しょうゆならまだありますよ?」と言って醤油のボトルが大量に入った箱を持った店員がやってきた。
おそらく最後の一本で言い争っているのを監視カメラで見ていて、いたまれなくなって持ってきたのだろう。すごく申し訳ない……。
「ど、どうも……ありがとうございます。」
コンビニ店員の持って来た醬油のボトルを受け取ると、そのまま中原とレジへ行き会計を済ませたのだった。
コンビニから出た俺と中原は2人仲良く入口近くで缶ジュースを飲んでいた。
「まさか、店員さんが持ってくるなんてねぇ……。あんたがあんなことするから……」
「うるせぇ……」
小馬鹿にするようにニヤニヤと笑う中原に俺は一喝する。
「あははごめんごめん。てか優奈と仲直りしたんだね」
「おう……」
「優奈すごくうれしがってたよ……。仲直りできて嬉しかったってねー」
「そうか。なら良かった。それとさ中原があそこで叱ってくれなかったら多分俺は優奈の本心に気付けなかった。感謝してるよありがとう」
「べ……別に。私は優奈のためにあんたを叱っただけ。お礼を言われる筋合いはない」
少し顔を赤らめながら、イラついた表情をしてそう話す中原。
中原の今言ったことが本心なのは間違いないだろう。だって優奈の親友なんだから、親友を泣かした奴を怒るのは当たり前である。
もう優奈を悲しませないように気を付けないとなと反省をしている俺の顔を見た中原はニコっと少し笑う。
「まぁ……わかってくれたならあんたを叱ったのは間違いじゃなかったのかもね」
「少なくとも俺はそう思ってるぞ? そのおかげで優奈とこうしてまた仲良くできてるんだからな」
そう自信満々に言う俺を見て、少しうんざりしたのか不機嫌そうな表情をする。
「でも、やっぱり私は幼馴染を泣かせるようなことする奴私は嫌いだよ?」
「それは要するに俺の事が嫌いだってことか?」
「せいかーい♡」
小さく舌を出して、かわいこぶっているがさっきと違って全然かわいく見えないし無性に腹が立ってくる表情だ。
「じゃあ何で俺とこうやって仲良くしてるんだよ?」
「知りたい?」
「そりゃもちろん」
「教えてあげなーい!!じゃーねー!!」
「ちょ……おい!!」
飲みほした空き缶を俺に投げつけると、そのまま走り去って行ってしまった。
本当にあの女は俺をイライラさせるな。多分アイツとは仲良くなれそうにないだろう。




