22話 幼馴染と仲直りした
「二人とも喧嘩はやめろ」
やっぱり走ってきて正解だった。植野の怒鳴り声が聞こえてきたから何事かと思ったら危うくクレアが殴られそうになる寸前だった。まぁ植野はさすがにそんな事はしないと思うけど、本気で怒ると何をしでかすかわからないから……。
俺の姿を見た植野がこちらに近づいてきて、不機嫌な表情で俺の顔を見つめる。
「何? 嘘つきの癖に今更正義の味方気どり?」
「ちげーよ……。ただ俺の身内同士が喧嘩しているのが嫌なだけだ」
「何それ……」
植野は呆れた様子だった。
まぁ当然か。彼女にとって今の俺はただの嘘つき人間なのだから、おそらく今俺が言ったことも嘘だと思っているのだろう。
でもこれは俺の本心だ……。それをどうやって伝えれば良いんだ……?と考えていると植野は黙り込んでしまった俺を嘲笑うかのような声で喋りかける。
「ふっ。どうせ自分の妹を守りたいだけでしょ? 私の事なんてどうでもいいと思ってるんでしょ?」
お前の事なんてどうでもいいと思ってたら二人とも喧嘩はやめろなんて言わないだろうに。
カチンと来た俺は植野に対して叫ぶように高唱する。
「妹だろうが、友達だろうがんなもん関係ない……。知り合い同士が喧嘩していたら止めるのが当たり前だろうが!!」
「友太君……」
雷に打たれたような驚いた表情をする植野だったが、その後すぐに何事もなかったかのように微笑む。
「やっぱり久野原、昔と変わってないや……」
「そうか? まぁお前がそう思うならそうなんだろうな……」
友達を作らなくなった時点で昔の俺と変わっていると思うんだけどな……。なぜ今の言葉だけで昔と変わってないとわかったんだろうか?今の俺には理解不能だった。
でも昔からの付き合いがある植野がそう思うならそうなんだろうな。
植野はもう一度クレアの方を向くと頭を小さく下げた。
「ちょっと熱くなりすぎちゃったみたい……。ごめんなさいクレアさん」
「私こそごめんなさい。少し口が滑りすぎました」
クレアも植野に対して頭を下げて謝罪をした。
良かったこれで植野とクレアの仲が険悪になる事はなくなったとほっと胸を撫でおろす。
一安心する俺を見たクレアは俺と植野の顔を交互に見て「では私は帰りますね」と言い屋上を出ようとする。
「家でいい報告待ってるからね」
「お……おう……」
俺の隣を通る間際、小声でボソッと呟くと手を振って走って去っていった。
屋上の上に残った植野と俺……。不思議とあまり気まずい雰囲気ではなく和やかな雰囲気だ。よし!言うなら今しかない!
意を決して植野の前に立って頭を下げる。
「植野、クレアの事隠しててごめん……。」
「ううんいいよ。私もムキになってたみたい」
「ずっと目先の事ばっか考えてたんだ。バレたらどうしようどうしようってさ……。それは多分お前や小原の事を信用出来ていなかったんだと思う。だからこれからはできる限り隠し事をしないようにするって約束する」
「約束だよ?」
もっと仲いい奴の事は信用しなきゃなと改めて誓う。それに気づかせてくれた父さんには本当に感謝だ。まぁそれでもあまりよくない形にはなってしまったが……。
こんな隠し事をしていたのに、植野は許してくれるなんて本当に優しいなと感じる。そんな植野の顔を見ていると伝えなければならないことが頭に浮かんできていた。
これは是が非でも自分の口から言わなければ……。
「こんな俺だけどさ……あの……これからもずっと……えっとその……」
たった1つの単語、言葉がなかなか声に出ず戸惑う。なんでその言葉が出ないんだ……。
この意気地なしめ!!と葛藤していると、目の前にいた植野が笑顔で近づいてきてそっと俺を抱きしめる。
「ちょ……おまえ……」
「ずっと幼馴染で友達でしょ?」
「そうだよ」
言われてしまった……。本当は自分の口から言わなきゃいけなかったのに……。
やっぱり俺はまだまだ変わりきれていないんだなと実感しながら植野を優しく抱きしめていた。
暫くして、満足した植野が俺から離れて万年の笑みをこちらに向ける。
「これからもよろしくね。久野原」
「ああ。よろしく植野」
そう言ってこちらも万年の笑みで返した。
「でもさ……」
「何さ?」
「あんまりクレアさんといちゃついたらダメだからね? 私だって嫉妬深いんだから……」
「わかってるよ……」
こうして俺と植野の蟠りは無事何事もなく終わったのだった。
明日からは何事もなく過ごせそうである。あ、そういえばまだ学校の生徒達にバレないかって言う心配があった。
まぁこれはそのうち何とかなるであろう。
「ただいまー」
家に着いた俺は清々しい気持ちだった。植野とは途中まで一緒だったがとても機嫌が良かったのか手をつないで帰ろうと言われて、繋いで分かれ道まで歩いていた。
植野と手を繋いだのっていつぶりだろう?小学校の時以来……?まぁでも本当に何事もなく終わってよかったよ。
「おかえり。どうだった?」
エプロンを付けたクレアが歩いてきて心配そうな顔で俺を見つめる。
「ばっちり仲直りできたよ」
そう報告した瞬間、クレアは飛びつくように俺を抱きしめて「よくできましたー」と言いながら頭を撫でる。
「くるしーよ!! クレア!!」
背中を叩いて訴えるもクレアは離してくれず、おおよそ10分ほど俺はクレアに抱きしめられていた。
「良かったね、植野さんと絶交しなくて」
「まあな……」
リビングに移動した俺はリュックから弁当箱を机に出す。その後リュックを持とうとするとクレアに聞きたかったことをふと思い出す。
「てかお前、なんで植野とあんな言い合ってたんだ?」
「うん……。ちょっと私の率直な意見を言ったら白熱しちゃって……」
頭に拳を当ててテヘペロのポーズをするクレアに俺は軽く頭を叩く。
「植野は結構きつい性格だから、変なことを言うとすぐ怒るぞ?」
「だってー、イギリスだと友達とよく率直に意見を言い合っていたから……」
「馬鹿。ここは日本だ。イギリスと同じようにするとマジで友達なくすぞ?」
「はーい……」
クレアは反省した様子で、しょぼくれていた。
まぁでもクレアのおかげで植野と話せる機会ができたし、良かったちゃ良かったのかな……。
「でも、これにて一件落着だねー。良かった良かったー」
「お前も明日植野にちゃんと謝れよ」
「ちゃんと謝ったよ?」
「まぁそうだけどまだ心配なんだよ」
正直植野はクレアの事をちゃんと許してくれんだと思うが、それでもあんなに率直な意見をぶつけられて本当に気分を害していないかとても心配だった。
謝りすぎるのもよくないと思ったが、それでも念のためにもう一度謝ってほしいと思っていたのだ。
「心配性なんだね」
「うるせー!」
ニヤニヤとするクレアを横目にリビングを後にして、自分の部屋へと戻った俺は制服を脱ぎ私服に着替えてベッドに寝転がる。
本当に最悪の結末にならなくて良かった……。小原にも植野にもクレアとの関係を言ったおかげで明日からもう隠さなくてもいいと思うととても心がスッキリした気分だった。
ていうかいろいろとあったせいで疲れたなぁ。晩御飯の時間まで寝よう……。
「ちょっと! 私が作ったお弁当全く手を付けてないじゃん! どういうこと!?」
うとうと夢の中へと旅立とうとしていた時ドアが勢いよく開き、俺の弁当箱を持ったクレアが入ってきた。
相当なご立腹な様子で、頬を大きく膨らませている。
「ごめん……。食べる気が起きなくてさ……」
「残すなんてひどいよ!!! 食べて!!!」
「じゃあ。それを晩飯に食べるよ」
「まさか、私の作った晩御飯も残す気!!!???」
相当、自分の作った弁当を残されたが許せないらしく、いつもよりも声が1デシベル程大きくなっていた。
「晩飯も食えって言うのか……」
「当たり前でしょー!!??」
クレアは作った料理を残されるとキレるのか……なるほど今度から覚えておくことにする。
その日の夜は吐きそうになるほど腹が膨れていた。これも今までのバツだと思って受け入れよう。
これにて一章完結です。最初は幼馴染と妹とのストーリーを書いてみましたがどうでしたでしょうか?これで完結ではないので二章も楽しみにしていただけると幸いです。




