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9 進む道2

 数週間後ーー


 魔力測定の朝が来た。

 眠そうなレオンに朝早く起こされ、無い食欲を総動員して朝食をとり、入浴、真っ白なドレスを着せられた。

 腰下まで伸びた金色のウェーブヘアを、鏡の前で丹念にブラッシングされ結われていく。レオンの美しさには劣るけれど、我ながら中々かわいい6歳に育ったものだ。元の世界ならモデルになれたんじゃなかろうか……いやいや、調子に乗りました。誰ともなしに心の中でツッコミを入れる。


「テレシア、支度ができたら執務室に来て欲しいって公爵夫妻が……」


 コンコンとノックして入ってきたレオンが、ピタッと動きを止めた……。


「あ、レオン! どう、似合うでしょ??」


 ちょうど髪が結い終わり、悪戯(イタズラ)っぽく笑ってくるりと回って見せた。

 

 魔力測定の決まりの、白い膝下丈のドレスがふわりと広がる。衣装の色は決まっているのにデザインが自由なせいで、このドレスが出来上がるまで人形のように試着をして、オーダーするとなってからは何度もお母様と打ち合わせに駆り出されたのよね……。


「……、似合うよ」


 ボソッとする声に顔をみると、横を向いて口元を腕で隠した彼の顔は赤くなっているような気がした。

 素直でよろしい!


「ありがとう! 執務室だったわよね。行ってくるけど、測定に向かう前にお見送りはしてくれるんだよね?」


「……もちろん。馬車は準備できてるし、側で控えておくよ」


「やったぁ」


 



「失礼します、テレシアです」


 ノックの後そう声をかけて入室すると、執務机で作業をしていたお父様と、ソファにいたお母様がこちらを向く。


「テレシア、よく似合っているね」

「テレシアちゃん、今日はまるで()()()使()()様のようだわ……!」


 一斉にそう声をかけられて、えへへと笑う。

 お母様とはテーブルを挟んで対面に座ると、お父様もお母様の隣へ腰を下ろし、ことんっとテーブルに箱を置いた。


「これは……?」


「私達から、贈り物だよ」

「今日という日が、テレシアちゃんにとって最良の日となりますように……」


 そう言ってお母様が開けた箱には、白い小花の連なったデザインの髪飾りが入っていた。

 この世界にその概念はないはずだが、色も相まってまるで天使の両羽を模ったかのような形だった。

 お母様が控えのメイドに指示をし、私の後頭部へとセットされる。そういえば髪飾りはついていなかった。衣装が決まっているくらいだから、てっきりつけてはいけないのかと思っていた。


「素敵な贈り物を……ありがとうございます」


「今日の魔力測定は沢山の貴族の子供だけが集められる。私たちも、従者も同行は禁止されているから、帰ったら話を聞かせておくれ」

「……テレシアちゃん、()()()()()()()()()、私達の愛情が変わることはないわ……。愛しているわ、テレシアちゃん」


 そう話す二人の表情はとても優しいもので、私の目頭も熱いものが込み上げてきた。だがふと、こう言うのを“フラグ”とか前世の友人は話していなかったーー? そんな考えが脳裏を過った。


「お父様……お母様……テレシアもお二人が大好きです! 今日は粗相がないように勤めて参ります」






 使用人に見送られながら、二人と並び屋敷の前で控えている馬車へと向かうと、横にはレオンが立っていた。


「レオン!」


 思わず走って彼に近づくと、このタイミングを待っていたと言わんばかりに、ずっと胸に秘めていたお願い事をする。


「レオン……行く前に、頭を……耳を撫でさせて欲しいの……!」

「「「なっ!?」」」


 実は、寝ぼけた時以外は、もふもふさせてもらったことがなかった耳と尻尾。この世界ではもふもふを堪能する文化はないのだろうか!

 中身はあれだけどまだ6歳だし、今日という日なら断られないだろう、とずっと考えていた。


 背後から両親の驚きの声と共に、盛大なため息が聞こえた気がするが、気にしない!


「レオン、私達は目を(つむ)る。好きにしなさい」

「……だって! レオン、レオンのお耳をもふもふして撫で回……じゃなかった、触れたら、私にとってはご利益がありそうな気がするの!」


 お父様グッジョブ! レオンは“撫で回……”のあたりで、一瞬引いたような身構えるようなポーズをしたが、うろうろと視線を彷徨わせていた。

 言い直してセーフ!


「公爵様……テレシア、様も……はぁ、わかりました。」


 どうぞ、と背中で両手を組んで、スイっと頭が差し出された…


 はわわわわわわーーーー


 ゴクリ、と喉がなる。恐る恐る……猫耳の、その先端に触れる……


“ふにっ”


 久々のその感触に、たまらない幸福感が込み上げてきた。


“ふにふに撫で撫で”


 耳の先端の内と外を軽く挟み込むように触れたり、右の耳、左の耳、と手を動かし外側の少し薄い毛を堪能する。


「あぁ……ねこしゃん……ねこしゃんダァ……」


 目を瞑ってうっとりと、その感触を堪能していると


「ん“ん“っ!」


 真っ赤な顔をしたレオンが、わざとらしく咳払いをした。


「あっ! もう終わりにするから……ありがとう、レオン。久々に“ねこしゃん”を思い出せたよ」


 名残惜しいし、出来れば尻尾もと言いたいのをグッと我慢して、最後に頭を撫で撫でした。

 サラサラの黒髪も、撫で心地は抜群だ。


「ん。……ご利益、とやらはありそうですか?」


 お父様とお母様の前では、敬語を使うようにしているレオンにはいつまで経っても慣れない。視線を斜め方向へ逸らしているが顔が真っ赤だ。


「うん、バッチリだよ! 行ってくるね、レオン! 行ってきます、お父様、お母様」


 馬車へ乗り込み、みんなに手を振った。






 魔力測定は毎年神殿で行われていて、王都にある公爵家からは比較的すぐついた。

 神殿の前で馬車から降り御者とお別れをすると、白い服を着た神官見習いが案内をしてくれた。

 白い柱の続く回廊を歩き、大きなホールへと通される。ホールの真ん中には真っ直ぐに金色の敷物が敷かれ、その先には祭壇と、敷物の左右には椅子が並んでいた。

 敷物は踏んではいけないらしく、大きく椅子の外側を回って進んでいく。席は着いた順という話だった。


 この世界の神様に名前はなく、“神様”とだけ呼ばれている。絶対神、唯一神、だったっけかーー。


 そんなことを考えていると、座る椅子の列についたようで、


「奥へ詰めてご着席ください」


 そう声をかけられて、お礼を告げて奥へ進んだ。

 既に前は何列か埋まっていて、私は4、5列めあたり、目の前には前を向いてラベンダー色の髪をした少し背の高い男の子が座っていた。


「初めまして、お隣の席へ失礼させていただきますね」


 くるっとこちらを向いた少年は儚く微笑んで、小さな声で


「ご丁寧にお声をかけてくださりありがとうございます、どうぞお掛けください」


と、返事をした。よく見れば線が細く、背の割に今にも消えてしまいそうだ。

 あまりまじまじ見ちゃうと失礼になるのよねーー

 スイっと視線を逸らし会釈して隣の席へ座る。

 私の右側に来た女の子からも同じように声をかけられて、同じような返事をして正面を向く。


 眼前を見ると、神殿も衣装も真っ白なだけに、一人一人様々な色をした頭の色が目立つ。黒髪の人は全くいないという、転生前の学生時代では考えられない光景が広がっている。最初にこれを見ていたら、絶対異世界だってわかっただろうなぁ……。お父様もお母様も金髪に青い瞳だったし、使用人は茶髪が多かった。

 黒髪って、獣人だけなのかな?


 キョロキョロしていると右隣の少女が声をかけてきた。


「違っていたら申し訳ありませんが……、もしかして、ポムエット公爵家のテレシア様ではございませんか?」


「……はい、そうですよ」


 思わずぱちくりしながら返事をすると、桃色の髪をした少女が嬉しそうに両手を顎の下で合わせた。


「しっ、失礼しました。わたしは、ミュレー侯爵家のソフィアと申します。母より、お話を伺っておりもしかしたらと思いまして……」


 ミュレー侯爵家といえば、家庭教師をしてくれた侯爵夫人の娘さんか! と思い至った。

 言われてみれば、髪の色に、垂れ目がちな目元は夫人の面影がある。


「まぁ! お隣の席だなんて、偶然ですね!」


「あの……、お二人のお名前が聞こえまして、僕もご挨拶させてください……。エリアス・ランベールと申します。お隣になりましたの……も、何かのご縁、是非お見知りおきを」


 消え入りそうな少年らしいソプラノ声。ランベール……ランベール……どこかで聞いたような?


「その髪色にランベールといいますと、まさかランベール公爵家の……?」


「はい。四男のエリアスと申します」


 先にソフィアが気付いてくれた。目を細めて笑顔を作る彼は、繊細なガラス細工のよう。

 それにしても公爵家の私の隣も公爵家! ビンゴで言うとすごい確率だろう。


「初めましてランベール様、改めましてテレシア・ポムエットと申します。こちらこそどうぞ宜しくお願いします」


「ランべール様、初めまして。わたしはソフィア・ミュレーと申します。よろしくお願いいたします」


「お二人とも……どうぞ気軽にエリアス、とお呼びください」


 それではエリアス様、私もテレシアとお呼びくださいと返事をしながら、繊細な外見と声の男の子からは、それでも6歳らしからぬ印象を受けた。

 私より背が高いからかなーー?


「あの……実は、テレシア様、お聞きしたいことがーー」


 そう言いかけたところで、ギィィィーーっと祭壇の横の、扉が開いた。




 白い服に金色の刺繍の施された服を来た人が、中央程まで進むと、その後を追うように、丸い大きな玉がゴロゴロと転がされてきた。


「これより、魔力測定を始めます」


「測定は現在のご着席順であることをご理解ください。皆様は既にご存じのことと思いますが、お一方ずつ壇上に上がりこの玉に両手を置いていただきます。すると魔力量にあわせて玉が光り、玉には嘘偽りのない名前と属性の色が浮かぶことでしょう」


「それでは、こちら側の左端の方より、中央を通りこちらへいらしてください」


 頭から白い布を被ったその人は、中性的な声をしていて顔は見えない。しかし魔力測定を取り仕切る程だから、神殿の偉い人なのだろう。


 中央へ伸びる敷物を挟んで、私がいる側とは反対側の一列目の子供から、魔力測定が始まった。

 大きな、白く濁ったその玉に子供が両手で触れると、玉がピカッと2色に光った。

 初めてのその光景に、ホールからもわぁっと声が上がる。


 2色、と言うことは属性が二つってことなのかな?

 名前までは流石に見えない。

 魔力量はどうやってわかるんだろう。

 そう思っていると次の子供になり、今度はピカッと白く光ったが、先程よりも光が弱い気がして……


 何人か見ているうちに、輝きの強さが魔力量とやらなんだろう、と推測できた。3色に輝き拍手が起きる子や光が強い子もいて、正直眩しい。いやもう、ほんと目を瞑っていたい。実際目をつぶっている子もいそうだ、なんて考えながら、流石に今周りをキョロキョロするのは礼儀作法を教えてくれたミュレー夫人に泥を塗る行為だろう。


 白い光が出た子供には、神殿の人が何やら短く話しかけている様子だった。

 流れ作業のようなそれは、あっという間にエリアスの番となって、私も1、2メートル離れた後ろに立って待つ。彼が両手をつくと、黄緑と赤のこれまでより強い輝きが放たれ、その球の中には確かに何か文字の片鱗が見えた。

 室内もざわついた。この色は、風と火だろうか。


 何その強そうな組み合わせ……。光が強いってことは魔力量も多いんでしょ……?



「次の方、こちらへ」


 ハッとして玉の方へ進む。いよいよ私の番だ。

 思えば、ここが異世界だと分かってから魔法らしい魔法は使ったことがない。以前人を跳ね飛ばしてしまったアレから、何かしら魔力はあるのだろうけど……


 ドクドク


 脈が速くなるのを覚えながら、そっと両手を玉へ付くと……

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