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46 婚約相手

「ーーと、そのような事がありました。てっきりあなたが何かしたのだと……」

 つり目がちの瞳が鋭く光る。


「わ、私は、引き上げられた瞬間目の前が真っ白になって、不思議な声を聞いていました! その声に……」


 あの声は、嘘をついている者がいると言っていた。

ここでは言えない……


「ウッドリィ神官、ここでは言えないのです。後ほどお話します。私がなぜ中に浮いていたか謎ですが、恐らく白い世界へ私の意識を連れて行った存在と関係があると思います。まずは、ここを出ましょう」


「……クリスタルにいた獣人さん達は……どこへ行ったの……」


 ライラ先輩の呟きが、静まり返った洞穴に響いた。





 獣人の村へ戻ると、心配したソフィアが泣きながら出迎えてくれた。

 村に見張りの騎士を残し、村長とダニエルは連れてフリアンディーズ領へ戻る頃には王都から増援が来ていた。

 いろんなことがありすぎて、頭の整理が追いつかない。しかし時間は待ってくれない……レドアラン公爵、ウッドリィ神官、クロイツ団長、エリアス様に話さなくては。

 しかし“ここでは言えない”そう話した私の言葉の意味を理解したのか、キャロリーヌ様の邸宅へも騎士と、荷物をまとめるためにエルとリンジーを残し王都へ至急戻ることとなった。

 キャロリーヌ、辺境伯、ダニエル、村長も拘束された上で連れて行く。


 王都へ戻る頃には日が暮れかけていたが、屋敷に戻る暇も、休む間もなく直接王城へ行くことになった。


「早馬で騎士団長を集めてある。まずはそこで、話を聞かせてもらえるね?」

「はい」

「盗聴、防止は、任せて……」


 真剣な面持ちのレドアラン公爵に、いつもと変わらぬ調子で話すクロイツ団長、そしてレオン、というメンバーで馬車に乗っていた。

 レオンの身体が心配だけど、何も言わず外を見ている彼の顔色は悪くない。

 ウッドリィ神官は一度神殿に戻り、カミーユ様に連絡がつかないか確認するらしい。





 王城の、大きな会議室に通されると騎士団長、ランベール公爵が待っていた。

 レドアラン公爵、クロイツ第三騎士団長、ライラ先輩、エリアス様、レオンと共に部屋に入る。



 お父様はいないみたいーーホッと、小さく息を吐く。

 まだ直接、転生者であることを話す自信がなかった。


 再び集結した面々に、まずフリアンディーズ領でみた獣人の家、そして獣人の村であった事を話した。

 全員、ただ黙って話を聞いている。

 程なくしてウッドリィ神官も駆けつけた。


「ウッドリィ神官様、カミーユ神殿長様は……?」

「別の者に至急戻られるよう伝言を託しました。転移門があるとはいえ、お戻りになられるまでまだ時間を要します」


 神官は厳しい表情でこちらを見ると、部屋のカーテンを全て閉ざし、クロイツ第三騎士団長に光を遮断する闇魔法、ウィント第四騎士団長に音を妨害する風魔法を使うように指示した。

 ウィント騎士団長は戸惑いの声を上げるが、ウッドリィはそれを無視して先を急ぐ。


「神官様……これは一体?」

「私は、カミーユ様がいらっしゃる前に判断しなければなりません。

 さぁ、テレシア・ポムエット。

 これで大抵の盗聴は防げるでしょう。

 洞窟であったことを……そして、白い空間とやらの話をしていただきましょう」


 逃れることは許さない、(ウッドリィ)の目がそう訴えている。

 まるで罪人だ。

 しかし洞窟で話した時と違い、隣にはレオンがいる。レオンはそっと、私の手を握ってきた。


『大丈夫だ。みんな何があったのか知りたいだけーー、そのまま、話すんだ』


 白い世界の声は、嘘をついている転生者がいると言っていた。しかしここにいるのは過去に《《魔力測定済み》》の人間ばかり。

 また、自身が転生者であることを言わなければならない。



 重い心を、吐き出すように大きく息を吐く。




 洞窟での出来事を……白い空間で起きたことを、淡々と言葉にして説明した。




 話し終えると、全員無言を貫き、ウッドリィ神官すら言葉を紡がない。

 ライラ先輩が手をあげた。


「先輩、どうされましたか?」


「む、難しいすぎて私にはわからないけど」

 先輩は立ち上がると、スッと手を伸ばし真っすぐにレオンを指差す。


「その白い空間で聞こえたという声を信じるなら……“(レオン)”がここにいるのは不味かったんじゃーー?」


 ドキッっとした。


「レ……レオンは違います。確かに獣人だけどーーずっと、横で聞いていてくれる、支えていてくれるだけだもん。嘘をつくも何も、何も、重大なことに携わっていないもん」


 思わず声を荒げ、握る手に力が入った。


「テ、テレシアちゃん、いや……テレシア様落ち着いて~~。うん、レオンくんは洞窟でもひっくり返っていたし、警戒は必要ない。うん」


 レドアラン公爵は慌てた様子で両手をブンブンと振る。


「ーー神のーー神のお告げだーー」


 放心した様にウッドリィ神官はポツリと呟く。

 それにエリアスも同意した。


「神官様、私もそう考えます」


「ーーへ?」


 あの声が神様なの? この世界で唯一絶対だと、崇められているーー?


「ーー数々のご無礼をお許しください。テレシア・ポムエット様。あの洞窟で……確かに私は、暖かいような、どこか懐かしいような気配を感じておりました。私が光魔法を使う神官であるが故だったのかもしれないと、今更ながら愚考します」


 ウッドリィ神官は急に頭を下げると、相変わらずのつり目ガチな顔立ちだが私を見る目を柔らかくする。


「レドアラン公爵……これは……」

 ずっと黙って話を聞いていたランベール公爵が口を開いた。

「あぁ、これは陛下に相談しなければならないが……、テレシア・ポムエット様、私と婚約しますか?」



 レドアラン公爵が急に丁寧な言葉使いになったかと思うと、突拍子もないことを言い出す。


「ーーーーーーーーは?」


 コンヤクシマスカ。

 言葉が、変換できなくて、理解が、追いつかなくて。間抜けな声が口から漏れた。


「レドアラン公爵でなくとも良いな。エリアス……では長男ではないし弱いか。独り身でいらっしゃる陛下という手もある」


 話がわかっているのかいないのか、騎士団長、という言葉に一瞬石化する面々。


「いやいや、ランベール公爵、陛下はご結婚こそまだだが、既に他国の皇女とご婚約されている。中々覆せるものではないだろう」


 何を言っているのだろう、この人たちは。

 婚約?

 私がエリアスやレドアラン公爵と?

 なんで今の流れでそんな話にーー?

 どういうことーー?


「あのっ! 一体何を話してーー」

「カミーユ神殿長様でしょうね」


 エリアスが2人のやり取りに口を挟む。


「お父様の仰る通り、僕は同じ歳ではありますが立場が弱すぎます。レドアラン公爵であれば……しかし、やはり一番良いのは神殿長様でしょう。そうでなければ、他国が黙っていないと思います」


「え、エリアス様まで、何の話ーー? どういうことですか?」


 エリアスは公爵2人と顔を見合わせ頷き合う。


「テレシア様、あなたは高貴な……遥か尊い存在になられました。いえ、きっと最初からそうであったのでしょうが、それが世に知れ渡る事態が起きております。獣人の村、洞窟での出来事は今後、各国へ知らせざるを得ないでしょう。そうすると、どの国であれ、神と言葉を交わした御身を、恐らくこぞって王妃に……場合によってはあなた様を巡り争いが起きかねません。立場ある者と、早急に婚約が必要です」


「それに、俺達はテレシア様をこの国に留め置きたい。そう考えるなら俺が適任なんだがーー」


 エリアスの語尾を引き継いだレドアラン公爵は、ぽりぽりと頭を掻きながら困惑した表情だ。


「皆様に都合が良いでしょうが、幸い、神殿の本殿はこの(ルトルヴェール)にございます。カミーユ様がお相手であれば、文句のあるものは誰一人としていないでしょう」


 淡々と、しかしはっきりと、感情の読めない表情でウッドリィ神官が言ったーー。

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