44 封印の洞窟
「レオン、エル! どうしたのレオンーー!」
咄嗟に横にしゃがみこみ、体に手を添えた。息はーーしてる。
何がおきたのかわからない。突然二人とも倒れ、周りを見ても他の人は何ともなさそうだ。
揺さぶっちゃいけないよね。でも、一体どうしたらーー
「はっ、治癒はーー」
そう言ってかけてみるが何もおきない。
「多分じゃが……隷属契約のせいかもしれませんの」
「これまで、その魔法が使われた状態で、ここに入った獣人はおりません。まさか意識を失うとは」
村長とダニエルが口々に話す。
「い……今すぐ解除すれば……」
「アドバイスを信じていただけるのなら、ここでそうすることはお勧めできません。ここは正直、獣人にどの様な作用があるのか我々にも、未知数ですので」
その真剣な表情に、レオンを支える手に力が入る。
「ごめんテレシアちゃん、これは隷属契約の解除をとめたせいだ……。苦しい表情はしていない。まずここに寝かせてあげよう」
レドアラン公爵は着ていた上着をクリスタルのような透き通る床に敷きレオンを寝かせると、別の騎士の上着を借りてエルも同じように横たえた。
「それにしても、この地面は……」
「木の根本に何かーーヒッ!!」
ライラ先輩がフラフラと木の方によっていったかと思うと短く悲鳴を上げる。
「どうした!!」
慌てて騎士が駆け寄ると、驚いたように声をあげ尻餅をつく。
「うわぁあぁぁっ」
「どうした!?」
レオンの横に座り込み顔だけでそちらをみていた私、近くにいたレドアラン公爵も立ち上がり、二人の方へ寄って行った。
「これはーーっ」
「なんでこんなところにーー」
白い木の根が、溶けるように地面に伸びている。その地面は透明なクリスタルのようになっていて、その中にーー
何人、何十人、いや、何百人と言う獣人が、深く深く詰まっている。
「ひっ」
「村長、ダニエル、これは一体どう言うことなんだ」
「はてーー、お連れの騎士方へはどこまで情報伝達されたのですかな?」
「案ずる、ことはない……全部、聞いてる」
声が出ないーー怖い。獣人たちがこんなに。これは亡骸なのーー?
眩暈がするーー
「大丈夫ですか、テレシア様」
いつの間に隣にきたのか、エリアスが支えてくれた。
「これが、ここが封印の洞窟と言われる訳なのですじゃ。わしが幼い頃より、《《ここはこのまま》》なのです」
「レドアラン団長、クロイツ団長、こちらにいらしてください!」
幹の奥側から顔を見せた騎士の一人が、何かを発見したようだ。
「なんだこれはーー一体なんだ!」
クリスタルのような地面が、水のように揺らいでいる。そこから、獣人の頭が生えていた。
「水のように見えますが……このように、触っても硬質の質感しか感じません。引き上げようとしても、ビクともしませんーー!」
そう言いながら騎士は頭を掴んで引っ張る素振りをしてみせるが、確かに全く動いていない。
「あまり引っ張ると、獣人様が怪我なさいます」
「ダニエルさん、これはいったい……」
「我らにもよくわかっていません。時間と共に、この揺らぎから獣人様が浮き出してくるのです」
「わしらはここから、獣人様を連れ出しておりました。ここから出ししばらくすると、獣人様は目を覚まされます。しかし年々……その浮き出る範囲も、スピードも、遅くなってきているのですじゃ。そうでなくとも、人間たちは獣人様を殺しすぎる……このままでは、隷属契約による結界を維持できなくなりますのじゃ」
「それを、何故ーーどうして私に」
「あなた様が“守護者”であり“転生者”であるとダニエルから聞いたからですじゃ……ここに眠る獣人様方と同じように」
みんなの視線が一斉に集まる。
「そこなんだよねぇ。説明を聞いても理解できなかったんだけど、テレシアちゃん“転生者”ってどういう意味なの?」
「テンノセイジャ、ではなく転生者、か。俺もまだまだ……」
テンノセイジャって何のことだろう。ここにはエリアスも、キャロリーヌもいる。知られてしまう。相談していたレオンは意識がない……考えろ。自分で考えて、適切な言葉を紡ぐんだーー。
「転生……死んだ者が同じ姿で、或いは別の姿になり再び生まれることです……。ここに眠る獣人さん達が、どうなのかは分かりません。ただ私はーー」
思えば、最初から嘘をついたことからして間違っていたんだ。魔力測定をしたあの日、王城へ呼ばれたあの時、きちんと話していればーー。ただ、ただお父様に、お母様に、周りの人に、変な目で見られることが怖かった。でも、お父様の耳に入るとしても、もう嘘はつかないーー。
覚悟は決めた。
震える手を宥めるよに、祈るように、胸の前で組み合わせる。一度目を固くとじ、エリアス、キャロリーヌ様、ライラ先輩、レドアラン公爵ーーみんなの方をまっすぐに見る。
「私は、《《別の世界の別の人間》》として生きて死んだ記憶を持ったまま、この世界で誕生しました」
「「!!!!!!」」
みんな驚いている。そりゃ、そうだよね。俄には信じがたい話だと言うことは、充分わかっている。
「何故、そうなのかは分かりません。ただーー魔力測定の時に映し出された、この世界の人が読めない文字は転生前の世界の文字です。偽ったことを謝罪します……本当に、申し訳ありませんでした」
「なっ!! そ、それをカミーユ様は!!」
ウッドリィ神官が胸ぐらを掴んできた。そのあまりに怒った様子に思わず顔を背ける。
「ご存知ありまーー」
「知ってたよ」
レドアラン公爵がやれやれと言うように口を開く。
「プライベートな飲みの席の話だけどね。クロイツも一緒に聴いている。
“彼女が何の守護者であったとしても神より与えられた名は変わらず、彼女が獣人の守護者でありたいと願いその様に力が働くならそれで良い“
だったか? 確か」
「ほぼ、その通りに、言ってた」
ちゃんと覚えてる、とクロイツ。
「そして彼女のことに関してはカミーユは天啓を受けたと言っていた」
“天啓”の言葉に騎士達からざわめきが起きる。
「だからーーその手を離せ、ウッドリィ神官」
「チッ」
苛立った様子の舌打ちとは裏腹に、掴み上げていた手をそっと離された。
ヘナヘナと力が抜けて獣人の頭が出ていたすぐ近くに座り込むーー
ーーぴちゃーー
「ーーえ?」
手が……水に触れた様な感覚が走るーー
ーーパアアアアアアアーー
突如辺りが輝き始めた。
「何だっ何が起きてるーー」
「いけません、皆クリスタルの上から離れてーー」
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