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【間話】ソフィアとテオ2

 丸4年が経っても、エレナの呼び捨ては変わらなかった。そしてテオへの態度は以前より馴れ馴れしいものに感じていたが、テオにそれを訴えても「騎士同士はそんなものだ」と言われてしまう。


 ある日、武道科の講義へと向かうエレナとテオを見かけた。その二人は、テオの腕にエレナが両腕を絡め歩いてる。

ーー私は手も繋いだことないのにーー


「エレナ様! 婚約者のいる異性の手を軽々しく握ってはいけませわ!テオもですよ。それに……礼儀作法科で習ったと思いますが、私やテオを呼び捨てにするのはそろそろやめてください」


 咄嗟にそう声をかけると、驚いたように見開かれた後茶色の瞳にみるみる涙がたまる。

「ひっ、ひどいですソフィア! 私達、友達だと思っていたのに……」

「ソフィア、今のは言いすぎだ。それにこの状態に何かわけがあるとは思わない? 理由も聞かずにそんな事を言うなんてソフィアらしくない」

「わ、わけ……?」

「もういい、行こうエレナ」

「あ、待ってーー」



 それから暫くすると、学園内でソフィアがエレナ男爵令嬢を虐めていると言う噂が流れはじめた。二人の友情に嫉妬したソフィアがエレナを突き飛ばし足を怪我をさせたとか、エレナがテオの誕生日にプレゼントしたタオルをソフィアが泥水に捨てた等……。


 足を怪我……この前腕を組んでいたのはこれだったんだーー。疑って申し訳ないことをしてしまった。

 テレシアに相談したかったが、多忙な彼女は週末留守のことが多かった。


 講堂は居心地が悪いーー中庭でため息をついていると、後ろから声をかけられた。


「どうしました? ソフィア様。最近元気がないようですが……」

「エリアス様……」

 彼は従者に目配せをして隣に腰掛けると、再度口を開いた。

「最近、変な噂も流れているようですが、もしかしてそれに関するお悩みですか? ぼくで良ければ、話してみませんかーー?」


「エリアス様……私、どうしたらいいのか……」


 そうして事の経緯を話した。


「最初に腕を組んで歩いている所を勘違いして注意はしましたが、その後の噂はどれもこれも身に覚えのないものばかりです。噂なんて放っておけばなくなると思っていたのに、一向になくならず……ちょっと、疲れてしまいました」


 何とか笑顔を取り繕うとするが、思った以上に上手く笑えない。

「ソフィア様……」


「でもまず勘違いは謝りたいです。私はエレナ様を突き飛ばしていない。けれど怪我をした彼女を支えるテオを誤解したことは、謝罪しなくてはーー」


「そうですね、それでこそソフィア様です」


 


「お話中すみません。ちょっと良いでしょうか。ソフィア、話があるんだ」


 エリアスを見て一瞬眉をひそめたテオは、しかし口を開いた。


「テオ……私謝りたくてーー」

「ソフィア、噂は本当か? エレナが俺にくれたタオルをとったり、エレナを突き飛ばして足を捻らせたのもお前だったのか? トーマスやエレナの友人には、虐めが酷くなるから直接聞くなんてやめた方がいいと言われたんだが……」


 その瞳は真っ直ぐだった。昔と変わらない、真っ直ぐな瞳で、私ではない誰かを信じていた。


「私が……私がそんなことするわけないじゃありませんか。それはテオ、あなたが一番理解しているはずです」

 決めつけるような言葉に、喉の奥が締め付けられたかのように詰まり上手に声が出ない。


「俺にはわからない。誰が嘘をついているのかーー。でも、俺のタオルが無くなった後泥水に捨てられていたのは事実なんだ」

「それが、どうして私がやったことになるんですか? 最近あなたに近寄りもしていない私がーー」

「……みんなに言われたんだ。婚約者なら、寮の部屋くらい簡単に入らせてもらえるだろうって」

「ーーそんな」


 子供の頃から一緒にいた私より、他の人たちの言うことをこんなにあっさり信じてしまうなんて。

 テオにとって、所詮私はその程度の存在だったんだーー。

 二人の間に恋愛感情は無かった。無かったが、代わりに積み上げてきた信頼が、共に寄り添うと描いていた未来が、もともと亀裂が入りかけていたそれがガラガラと音を立てて崩れ落ちた気がした。


「それはソフィア様に対してあんまりじゃないですかーー? 君は、どれだけの時間を彼女と共に過ごしてきましたか。記憶の中の彼女はそんな事をする人でしたか?」


「そんなことはない! ただーー先に俺とエレナの仲を疑い始めたのはソフィアの方だ。何度も、ただの友達だって言ったじゃないか!それに、ソフィアだってこうしてランベール公子と二人でいたじゃないか。」


「僕は友人として、悩んでいる様子の彼女の相談に乗っていただけでーー」


「ありがとう、エリアス様。もういいんです。もうーー」


 立ち上がると、テオをまっすぐ見据え言葉を選ぶ。


「テオ、まず先に言わせて。

この間はエレナ様とテオが腕を組んでいたことを、勘違いしてごめんなさい。エレナ様にも後で謝りに行くわ。私ーーもちろん嫌がらせなんてしていないけれど、あなたとエレナ様に長い間嫉妬していたんだと思う。昔から……テオには、本ばかり読んでる私ではなくもっと活発な人が似合うと思っていたからーー」


「ソフィア……そんなことは」


「ねぇテオ? 私達は信頼で成り立ってた。だけど私はあなたを信じられなくなって、あなたも私を信じなくなった。こうやって過ごすくらいなら……私達の両親は友達同士かもしれないけれど……私達は自由でもいいんじゃないかな?」


 お父様も、お母様も、仲良くしてくださったクララック伯爵夫妻もきっと悲しむだろう。でも優しく暖かく、耳を傾けてくれる4人なら理解してくれると信じている。

 端的に言葉を紡ぐ。



「ごめん、婚約は破棄しよう」





 逃げるようにその場を後にすると、すぐに両親へ手紙を書いた。

 翌日、エレナを呼び出し先日の勘違いの謝罪と、自分は嫌がらせをしていないことを話した。


「ソフィア……はっきり話してくれてありがとう。この前は泣いちゃってごめんね。友達だと思っていたから本当にショックだったの。そして私の友達が、勝手なことをテオに吹き込んでごめんねーー。テオは真っ直ぐだから、真っ直ぐソフィアにぶつかって行ったんじゃないか心配だわーー」



 何日か……何十日かした頃、テオとエレナが友達を連れて謝罪に来た。

 エレナとテオが両思いだと勘違いした周りが、侯爵令嬢である私から婚約破棄を言い出すように画策したのだと言う……。エレナを突き飛ばしたことや、思ったより噂も大事になり、怖くなって言い出せなかったんだとか。

「そうだったんですねーー。噂にはとても傷付いて嫌な日々を過ごしました。申し訳ありませんが、この事は学園に報告させていただきますね。」



 テオに婚約破棄はやめないかと切り出されたが、テオとの未来で満たされていた心のピースは、すっかり欠けてしまってもう元には戻らない。


「いい人を見つけて、テオ。今までありがとう」




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