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3 初めての贈り物

「ーーいかせていただきます」


 ギュッと目をつぶったレオンは、身体ごと椅子に括り付けられている。身動きは、取れない。


 ーーシャキシャキシャキシャキッ


「ふぅ……いかがでしょう、お嬢様」


 目にも止まらぬスピードでハサミが動いたかと思うと、ハラハラと黒いものが宙を舞い落ちていった。

 大きなハケで顔や首をはらうと、メイドはやり遂げたように緊張の汗を拭う。


 今日はレオンの髪を切ってもらっていた。私を信用できないのかハサミが怖いのか、暴れてしまい騎士さんの魔法で椅子に拘束して……だったが。


「終わりましたよ、目を開けてくだしゃい」


 そ〜っと目を開けたレオンと鏡越しに目があい、ドキッとした。

 瞳が金色なのは見えていたが、長い前髪に覆われていた素顔は子供らしさがありつつ、長いまつ毛に整った顔立ちの美少年だった。

 獣人さんを売り買いするなんて、価値観から根本的に間違ってるいると声を大にして言いたい。言いたいところだけれど、最初からこの顔が見えていたらきっと他の貴族に売れちゃっていただろう、と思わずひとりごちた。

 騎士が魔法を解除すると、自由になった色白の手で短くなった襟足を触ったりサラサラストレートの前髪をつまんだりしている。無論、耳は無傷だ。


「……」


「あ、ありがとう……。前髪、邪魔だった…」


 沈黙のあと鏡越しにポソポソと呟き、その合間にくねんと動く尻尾を見ると機嫌がいいことがわかった。

 猫そっくり。


「ーーわぁ……! レオンはとってもキレイでしゅね……!」

「な……っ! バカじゃねーの!?」


「コホンッ。テレシア様に向かって、その言葉遣いはなりませんよ」


 キラキラするものに吸い寄せられるようにズズイと近寄ると、レオンは顔が真っ赤だ。しかし中身は高校生、幼い身体に感情が引っ張られるけど、決してショタコンではないのだ!それを差し引いても彼は綺麗だ。……美少年の口が悪いのは残念ではある。




 レオンはまだ幼い私の遊び相手として、そのまま屋敷で雇われることとなった。その代わり、私は屋敷外への外出が禁止になった。必要なものはメイドが手配したりお母様が買ってくれるし、庭園もある。先日のお出かけであんなことがあったため、外は危ないとされてしまった。


「お嬢様、レオンのアクセサリーを作るために商人が来ております。応接室へいらしてください」

「アクセしゃリー?」


 メイドに呼ばれ部屋に入ると、商人と、お母様がテーブルを挟んで座っていた。


「テレシア、レオン、こちらへおかけなさい」


 促されるまま、レオンの手を引いて横のソファへと着席する。


「お初にお目にかかります公女様。宝石商のリトと申します」


 ふわりとお辞儀をして微笑む商人は、整えられた身なりをしていて、レオンを追っていた商人達とは全然違った雰囲気だった。


「我が家に初めて獣人をお迎えしたから、テレシアは馴染みがないでしょうね。貴族と契約した獣人は、契約済みであることが分かるように紋章入りの耳飾りかネックレス等のアクセサリーをつけるのですよ」


「こちらが見本となります。ご注文いただきました後、職人が一からお作りします。紋章が入るデザインであればオーダーメイドも可能です」


 テーブルには色々なデザインのネックレスと、イヤーカフに飾りのついたような見慣れないものが並べられている。首輪のような役目なのかと思うと、嫌悪感しかない。チラリと横目でレオンをみても、感情の読めない表情をしているし耳はイカ耳だ。“商人”がいる空間に連れてくるのはまだ不味かったかもしれない。


「これは、必ずつけないといけないのでしゅか?」


「……いえ、義務はござません。まだ幼いお嬢様にお話しするのは心苦しいのですが……」


 商人はちらっとお母様をみた。


「続けなさい」


「はい。獣人が契約済みかどうか、傍目からは判断できません。そのため、見える位置にアクセサリーを身につけ紋章を刻みます。これらをつけずに獣人を使いへ出したり、出かけることは獣人にとって危険です。目を離した際に商人に捕まり売られる場合や逃亡する場合がございます」


 公女様のお連れの獣人は美麗ですし……と商人は付け加えた。私にわかりやすいように言葉を区切ってくれている気遣いが見られ、話の内容からもアクセサリーに対する嫌悪感も和らいだ。きっと、普通の2歳児には難しいと思うけどね! ここの大人は容赦ないね!


「どの場合にも契約主は自分の獣人の位置を辿ることができます。ですが、見つけた時に他の貴族が購入していたりしますと騒動の原因となるため、ご利用いただいております。アクセサリーは獣人には外せない魔法を施すことも可能です」


「ーーと言うことですテレシア。我が家の紋章が入っていながら手を出す者はまずいないはずです。レオンの身を守るためにも、アクセサリーはあつらえるといいでしょう」


「テレシア、わたくし達からレオンへの贈り物になります。二人の好きなものをお選びなさい」


 普段よりキリッとした空気を纏い、人前で“テレシアちゃん”と呼ばないお母様は、それでも甘く柔らかく微笑んだ。


「……そうなんでしゅね……わかりました。お母しゃま、お心遣い、ありがとうございましゅ!レオン、どれがいいでしゅか?」


「……」


 レオンは無言で机をじっと見つめているので、私もよくみてみる。イヤーカフのような形のものは、やっぱり猫耳に挟んで使うのかな? 落ちちゃわないのかな?

 デザイン画を描いてあげたい気持ちもあるが何しろ身体は2歳。手が思うように動かず、残念ながら画力は相当低い。まさか直線一つ描くことがあんなに難しいとは。


「これはどうでしゅか?」


 脱線したが思考を戻して、イヤーカフのような、クリップのようなものに三角のプレートがついた物を手にとる。繊細な作りの金色の枠に私の瞳と同じ青色! なんちゃって!


 一人でキャッとしながら飾りを持った手を猫耳に近づける。

 ピクッと耳が動いて毛がわずかに触れると、全身が痺れるような、たまらない感覚が走り、想像通りの質感に幸せな気持ちが込み上げてくる。


 あ……いつぶりの猫耳だろう。猫はやっぱりいいなぁ……。


 へにゃっと顔が緩む。このまま撫で回したい衝動に駆られるが、グッと堪えて切り替え切り替え! 今はレオンの安全アイテムを選ばなきゃね!


「流石です公女様。やはり、見目にも高価なアクセサリーであればある程、威厳を知らしめる効果がございます。こちらでしたら、重さも程よくレオン様へのご負担も少ないデザインとなっております」


 リトはそのまま青い宝石についても説明し始めるが、通常の2歳には絶対理解できないって。この世界の同じ年の子供(2歳児)に会ったことがないのでわからないが、みんなこんな話を子供にして選ばせているのだろうか。


「とのことでしゅよ。どうしましゅか?」


 レオンの気持ちを、意思を尊重したくて再度聞く。


「……この、金の丸に青い石が入ったやつ。俺が選んでもいいなら……」

「わ! もちろんいいんでしゅよ! でしゅよね、お母しゃま!」


 お母様がこくりと頷く。結局、レオンが選んだペンダントトップに金色のチェーンをつけたものと、私が気になった耳飾りに少しお母様の意見も加えて作ってもらうことになった。



「ああ、獣人が外せない魔法もつけてくださいね。レオンが外さなくとも、他の獣人が奪うこともあるのでしょう?」


「仰る通りです。どうぞ私共にお任せください」


 私達が退室した後で、そんなやりとりがあったことをこの時は知らなかったーー。



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