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26 前世2

 どこから話そう。

 また大きく深呼吸して、頭を整理しながら口を開く。


「どう話していいかわからないんだけど……まず、魔力測定のこと、一つ……みんなに嘘をついてしまったの」


 レオンは黙って頷いた。

 どう思われるかーー


「魔力測定の玉に“名前”と“守護者”が表示された話はしたと思うんだけど、本当はその間にもう一つ書かれていたの」


「うん、それが“獣人の”で“獣人の守護者”ってことなんだろ?」


「そうじゃないの。……“転生者”。“テレシア・ポムエットーー【転生者】ーー守護者ーー”って書かれていたの。私の産まれ変わる前の世界の文字だったから、みんなは読めずに、転生したってことを言うわけにもいかなくて」


「…………」


「古代語でもないけどテレシアには読めたんじゃないかと言われて、動揺を上手く隠せなくて、私が獣人を保護していた話から“獣人の”って言いやすい流れになって……つい、そういうことに……」


 (レオン)の顔を見ることができないまま、こことは全く違う世界の学生(高校生)だったこと、“猫“を助けようとして車に轢かれて恐らく死んだこと、次に目が覚めたらポムエット家の赤ん坊になっていたことを一気に話した。


 最初は、前の世界と同じ世界の……違う国に産まれ変わったのかと思ってたーー

 前の世界は国毎に話す言葉が違っていて、聞いたこともない言語だったし建物も服装も景色も違っていたから。

 でもレオンと出会ったあの日、転生前は見たこともない“獣人”に出会って、物語にしか出てこなかった魔法も見て、ここが前の人生とは全く違う世界だってわかった……


 説明を終え沈黙が続く。

 気づけば手は膝の上で固く握り服に皺を寄せていた。


「レーー」

「ーーっすがに、嘘は不味かったんじゃないか?」


 そう言われてバッと隣を見ると、真剣な表情で考え込む彼の姿が映った。


「でもそっか。話してくれてありがとう、テレシア」

「ーーレオン」


「信じてくれるんだ」


 呟くような声が漏れると、ぽん、ぽんと頭に手が置かれた。いつの間にこんなに大きくなったんだろう。


「味方だって言ったろ。それに……知らない単語の寝言も、“ねこしゃん”も散々聞いてきたからな」


「えっ。私そんなに寝言多いの!?」


 ニヤッと意地悪く口角を上げられ、いろんな意味で顔が赤くなった。変わらず隣に座ったままのレオンは茶化すような表情をしながら、しかし優しく微笑み直してくる。


「転生でもなんでも、さ、テレシアが俺を助けてくれた事に変わりはないから。テレシアと出会って過ごした時間は、全て俺にとって大切な時間だった」


「レオン……」


 話す前の不安と、ずっと嘘をついてきたという後ろめたさと、いろんなものが込み上げてきて目頭が熱くなる。

 レオンの手が顔面に伸びてきて、目尻をそっと拭うとその仕草にドキリと胸が鳴った。

 

「不安だったろうな……話してくれてありがとう。産まれる前の記憶があって、それがここじゃないどこかだってことだろ? 俺にはわからないことも多いけどさ、お前がお前だからこそ俺は救われたんだ」


 涙が次々零れ落ちるとそっと肩を抱き寄せられ、心細さや不安や信じてもらえた安心感ーーぐちゃぐちゃな気持ちを流すようにしがみついて泣いた。

 大きく骨ばった手が優しく背中をさすってくれた。



「ーーそれで、テレシアはどうしたい?」


 一頻り泣いた後そっと離れると綺麗な金色の瞳に、私がうつる。


「神殿長たちに、本当のことを話すかどうか、だよ。明日も沈黙ってわけにもいかないだろ?」


「そうだよね。でも“獣人の”守護者ってところは変えたくないな……。せっかく“獣人さん”達にとっていい方向に動いてるし……」


 明日はどうするか、そう相談しながらゼリムでの夜は更け、宿に置かれた2つのベッドでいつもより少しドキドキする胸を抑えながらそれぞれ眠りについた。





 

 翌朝、真っ先に問いただされるようなことは起きなかった。

 ゼリムの小神殿へと向かうと、神殿の前には既に老若男女、様々な人の長蛇の列ができており、当初の予定通り治療会が開催された。

 私はべールを被り、レオンは昨日と同じ白い帽子を被って手伝いをしながら、神官と共に街の人達の治療を進めていく。第二騎士団と公爵家の獣人騎士団は昨日治療し、今日もまた街の外へと出掛けていった。

 マスカットやグレープ、ドリアン……他のみんなにも今日は絶対無理しないように、よく言ってある。森の入り口の付近を確認してくるだけだというから、昨日のような事にはならないと信じたい。


 お昼休憩もそここそに、神殿長の弟子としてどんどん治癒魔法をかけていく。隣では神殿長も「今日はどうされました?」と中性的な声をかけながら、一瞬で魔法を発動しては感謝されている。


「ありがとう、カミーユちゃん。あなたに治してもらうと体力がみなぎるの。またこの街に来てくれて嬉しいわぁ」


 神殿長だと知らないのか、そんなふうにお年寄りに呼ばれる声を聞きながら、慌ただしくも何気ないやりとりに心癒される時間を日が暮れるまで過ごした。






「お疲れ様でした」


 宿屋の一室で神殿長に招かれ、レオンと共に3人で食事をとっていた。


「テレシア様も大分、どの様なケースでも治癒の発動に慣れてきましたね。特に、昨日の今日でよく動揺せず過ごされました」


 神殿長に誉められた! ニコリと綺麗に微笑まれると、心臓が跳ねるのを感じた。

 昨日レオンに散々ドキドキしたばかりだけど……浮気者な心が恨めしいけど……

 美、美形すぎるーー!

 老若男女を魅了する笑顔だよ……


「あ、ありがとうございます」


 顔が赤くなるのを感じながら、食事を口へ運ぶ。働き詰めだったためお腹がぺこぺこだ。


「本当は、今日中に学園へ戻らなければならないところを……お引き止めすることになり申し訳ありません。夕刻戻られた騎士団の皆様から、もう一度あの森へ討伐へ向かうための同行を頼まれまして……」


「お気になさらないでください! 公爵家(うち)の獣人騎士団の事もまたあの森へ向かうなんて心配ですし、むしろご一緒できるなんてありがたいです」


 森の入り口から戻った騎士団に、明日の同行を依頼されたのだ。ちなみに騎士団は別の宿をとっていて、おそらく今頃決起会と称してアルコールが入っているだろう。


 ああ見えてドリアンとか、結構飲むんだよね……

 酔って楽しそうにしているであろう獣人の姿を思うと、思わず口元がだらしなくなる。


『テレシア、顔! 顔! 』


 レオンがこそっと教えてくれた。危ない危ない。


“コンコンコンッ”


「神殿長様、ご在室でしょうか。モリスでございます」


 お腹も膨れたところで、一緒に来ていた神官の声が聞こえた。すかさずレオンが立ち上がり、扉の外を確認した後ドアを開けた。私は慌ててべールを被る。


 神官のモリスは、神殿長の素顔に一瞬顔を赤くしながら頭を下げる。

「おくつろぎのところ申し訳ありません」

「かまいませんよ、どうされましたか?」

「……それが、ウッドリィ神官がお見えになり、神殿長様の部屋へ案内するように騒いでおりま……」


「カッッミーユ様ぁぁ“あぁ~~っ!!」


 言い終わるや否や、扉を勢いよく開け若草色の髪をした神官服の男性が突入し、一瞬で神殿長の足元に跪いた。


「ご予定が一日伸びると聞き、このウッドリィ、微力ながらお力添えしたく馳せ参じました」


 扉を開けた時の酷い表情とは別人のように、キリッとした顔をしてカミーユを見つめた。

 カミーユは頭が痛そうに目を閉じてこめかみを抑える。


「……モリス神官、ご苦労様でした。お部屋に戻り、ゆっくり休まれてください。明日もよろしく頼みますね」


 一度、ウッドリィ来訪を伝えてくれた神官に笑顔を見せ、退室を促す。


「ウッドリィ、ここで何をしているのですか。あなたには留守番を頼んでいたはずですよ」


「地方へ治癒へ出ていた神官が戻ってまいりましたので、体力も魔力も消費していない私がこちらのお役に立てるのではないかと参りました」


 大切なものを見るような目でカミーユを仰ぎ見たウッドリィ、対するカミーユはにこやかなのにとても冷ややかな目をしている。神殿長のこんな顔初めて見たーーコワイ。


「はぁ。ウッドリィならきっと、私の頼みを聞いて神殿の留守をしっかり預かってくださると信じていましたのに。私には神官と見習いがついていますし、弟子もいます。私を案じてくださる気持ちは嬉しいのですが、見習いの手前、この様な行動は避けていただきたいのです」


 わざとらしい大きなため息と共に歌うようにスラスラとそう言ったカミーユは、ウッドリィを甘やかし過ぎました、とか、お説教が必要なので、と私とレオンに退室を促した。ストーカーと部屋に二人きりにして大丈夫だろうか……



「……神殿長って、大変なんだな」


 部屋を出た後、思わずと言った様子でレオンがつぶやいた。

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