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25 前世

 何あれーー

 恐怖で身が竦む。全身に鳥肌が立ち歯がガチガチと嫌な音をたてると自分が震えているんだとわかった。

 巨大な熊のような、しかし至る所からトゲのようなものを生やしたその異形は、鋭い爪のついた前脚を振り下ろし……咄嗟にドリアンが剣で受ける。



「魔力のある方は! 今のうちに攻撃を!」


 カタカタと剣が揺れ足は大地にのめり込み、力の強い獣人でも攻撃を受け止めることが精一杯で弾き返せない。

 グレープは斬りかかり、ドリアンと私の間にいた騎士たちが風や水魔法で攻撃するが硬い表皮は浅く切れる程度だ。


 しっかりしなさいテレシア!

 私が獣人達(みんな)をこんなところに来させたんだーー今までこんなのと戦ってきたんだーー

 勇敢に戦ってる。みんなを戦いへ(いざな)った張本人(わたし)が手本を見せなくてどうする!


「私が土壁を出します! ドリアン、一旦下がって!」


「ーーッ」


 地響きとともにドリアンが後方へ跳躍した刹那、魔物との間に大きな土壁な出現する。

 


「光よーー我に仇なす者へ刃となりて降り注げーーホーリーランスーー」


 土壁の出現と同時に神殿長が詠唱し上空へ手をかざし、凄まじい光が集約したかと思うと数多の槍になって魔物へ降り注ぎ、魔物は悲鳴をあげながら跡形もなく消えてしまった。ものすごい魔力ーー


「皆様、お怪我はございませんか?」


 強張った声をあげくるりと振り返った神殿長の表情は、相変わらずわからない。



「ーー!レオンさん後ろ!」


 茂みから魔物がレオンに向かって勢いよく飛び出す。その様がスローモーションのように見えるのに、体が全く動かない。背中を冷たい汗が流れーー彼は魔法が使えないーー


「レオンーーーーーーーーッ!」


 間に合わない、そう思って目を瞑った瞬間、身体の中から何かがごそっと抜け落ちーー


ーーパァンッーー


 鼓膜が破れるかと思うほど空気がビリビリとする破裂音と共に、魔物がレオンの頭上で《《爆ぜた》》。

 彼の周りに見えない球状の壁でもあるかのように、魔物の体液が垂れ霧散する。

 わけもわからぬまま赤黒い血肉が消えていく。

 何が、起きたのーー?


「テ……テレシア様、今のは……」


 神殿長が思わず、といった声色でそう言った後、ハッとして


「皆様、今の出来事は極秘事項です。神殿長カミーユの何おいて緘口令をしきます。さぁ、これ以上の襲撃を受ける前に直ちに移動しましょう!」






 元々向かう予定っだった、ゼリムの街の小神殿にたどり着いた。

 負傷した騎士たちは先に街へついていた見習いや神官から治療を受けている。

 私とレオンは獣人騎士団を治療しつつ様子も確認した後、神殿長、第二騎士団長と共に、別室にて着席していた。


「第二騎士団長、これから話すことは陛下や、限られたものしか知らない極秘事項です。これに関与する情報の一切の口外を禁止する」


「承知しました」


 ふうっと神殿長がヴェールを取るので、私もヴェールを外し……レオンは帽子を取ると、第二騎士団長が一瞬ギョッとした。獣人騎士団と行動を共にすることはあっても、神殿服を着た獣人は初めて見たのだろう。


「さて、こちらはポムエット公爵家のテレシア様と、その従者レオンさんです。テレシア様、こちらはルトルヴェール王国第二騎士団、騎士団長のジェス・タイラー卿です」


 簡単に紹介されたタイラー卿は、がっしりとした体躯に茶髪、目元に少しシワの入った中年男性だ。ベールを被って正体を隠し神殿長と行動を共にする私たち……重大な機密の気配を察知したのか、取り繕うことの出来ない性格なのか目はウロウロと泳いでいる。


 説明を求められると、タイラー卿は咳払いをし先程森でグレープから聞いたものと同様の経緯を説明した。


「そうでしたか……。ところでテレシア様、先程の魔法は一体?」

「あれは、魔法なんですか? 魔力暴走かなにかと思っていましたが……」

「間違いなく魔法の気配を感じました。あれが、初めてではないのですか?」


 答えやすいよう和やかな雰囲気を作ろうとしているのか、カミーユ神殿長は終始にこやかに話しかけてくる。


 どうしようか、迷いながらレオンを見やると、こくりと頷き……神殿長なら、私が“守護者”ということも知っているし、光魔法の専属の先生でもある。話しても大丈夫かもしれない。



 もう一度、レオンにこくりと頷くと、レオンと出会った日のこと、屋敷で両親を弾き飛ばしてしまったことなどを二人で説明した。



「なるほど……。実は、テレシア様が獣人に無体を働く者を暴行……殴り飛ばした、という報告は何度か受けております。獣人を守りたい気持ちはわかりますが、褒められた行動ではありません。何かの間違いかと思っていましたが……」


 暴行! 暴行されていたのは獣人さんの方だけどね!

 口まで出かかってグッと飲み込んだ。

 悔しいけど……殴ってしまったのは事実。


「通常の体術の威力ではないことを考えるに、森で見たものと同じような魔法を発動しているのだと思います。これまでは“弾き飛ばす”という魔法でしたが、先ほどは触れたものの“破壊”“消滅”……。特にテレシア様は神より未知の特別な使命を受けておられますのでーー」


「カミーユ様、俺、魔法のことはよくわかりませんが、テレシア様は見えない壁のようなものを発動しているのかと思っています」


 考え込んだ様子のレオンがそう意見すると、カミーユも同意した。


「私もそのように感じました」


 二人はうーんと考え込み、タイラー第二騎士団長は顔色を青く汗を流している。


「わ、私はこのような話を聞いてしまって、神殿長様のご尊顔まで拝謁してしまってーー何故呼ばれたのでしょうーー後で消されてしまうのでしょうかーー」


 ボソリ、と聞こえた声に、大丈夫ですよと返事をしておく。


 見えない壁……あまり見たことはないけれど前世のアニメとかを思い出す。

 バリアとか?

 壁……


「結界……とか?」


 私がボソッと呟くと、一斉に視線が集まった。


「結界…とてもしっくりきますね」

「なんだか聞き覚えがあるような……」

「この世界には、結界とかバリアという概念はないんですか?」


「「「この世界には!?」」」


 しまった! と思った時にはもう遅く、3人の声が重なる。


「テレシア様、この世界には、とはどう言う意味ですか?」

「あ……え~っと……」

「まるで“結界”や“バリア”のある世をご存知のような発言ですね」


 やっちゃったぁぁぁあ!

 完全に口を滑らせたーー

 なっ、何か上手い返しは!?

 間が空きすぎて逆に怪しいーー!?

 イヤァァァッ誤魔化す上手い言葉が浮かんでこない……!


 前世の記憶があったって、子供のふりをして生きてきたって急に役者にはなれないことを痛感しながら……。

 その後も神殿長からの質問ぜめに沈黙を貫き、この日は一旦解散となった。







「“チコク、ガッコウ、お母さん“ってなんだ?」


 ゼリムにある宿の一室に入るなり、突然レオンが爆弾を落とした。小神殿は寝泊まりできるような広さはなく、宿をとってあったが、警護を兼ねてレオンと同室だった。


「ーーえ?」

「今日はデンシャで行くとも言ってた」

「それにテレシアは、獣人のことを元々“ねこしゃん”と呼んでいたよな?」


 話しながらジリジリと近寄られ、思わず後ずさる。

 “ねこしゃん“は仕方ないとして、電車とか学校とかいつ口にしていたのか……!


「他にもテレシアと一緒に寝ると、普通の言葉の他に時々不思議な言葉を言っているんだ。最初は、ただの意味のない寝言かと思ってた。でも、よく聞くと何度も出てくる聞き覚えのないものはまるで古代語を習った時のように、聞いたことのない別の言語のようで……。突拍子もない発想だけどーー」


 トンっと背中が壁につき、これ以上逃げ場がないことを悟る。

 すると私より随分背の高くなった背を屈め、壁にドンッと手をつきーー


「さっきの言葉も考えると……お前、もしかして他の世界から来たのか?」


 確信をつく言葉と、金色の瞳に見つめられて心臓がドキリと跳ねる。


「ーーっ! たっ、ただの寝言じゃないかな~?」

「俺には、言い訳なんて考えなくていいんだテレシア。俺を助けてくれて、いっぱい考えてくれて……テレシアのおかげで、こんなに暖かい世界を生きてる。お前が何者だったとしても、俺はお前の味方だーー!」


 顔が近い! 長いまつ毛に縁取られた金色の中に、私の困惑した表情がうつる。



 あれ……?

 レオンってこんなに大きかったっけ?

 自然と見上げることになる顔ーー背が伸びたのは知っていた。

 その美貌に周りがキャアキャア言っていたのも知ってる。

 だけど、急に知らない男の人のように見えて、心臓がドキドキと激しく音を立て始めた。


「っテレシア……」

「ひゃっ!? ひゃい!」

「……俺には、話せないのか? あいつ(カミーユ)なら話せるのか? こんなに一緒()にいるのにーー」


 そんな間近で、囁くように名前を呼ぶのはやめてほしい。

 顔が、熱いーー

 俯きがちに、ぐいぐいとレオンのがっしりとした胸板を押し返すもビクともしない。


「は、話すから……座って、話そう」


 赤い顔を悟られないように、斜め下を見ながらなんとか言葉を吐き出した。

 スッと離れて先に腰を下ろした彼は、自分の隣をポンポンと、ここに座れと叩いている。


 なんだろう、その座って少し見上げた顔にまたドキドキと胸が鳴り出して、大きく深呼吸をした。

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