21 学園生活4
「我に宿し力よ、その末端を顕現せよ!! オーブ!!」
一斉に“オーブ”を作る。……が、私、どうしよう……。
神殿長は確か、国王陛下やお父様と相談すると話していた気がする。レオンの方をチラリとみると“集中しろ”みたいなジェスチャーをされる。
違う、そうじゃないって!
しかし通じず、先生や同じ講義を受けている子供達にはもうバレているしーーと考えて唸っていると、
「どうした? テレシア・ポムエット。早くオーブを作りなさい」
ラエット・シェイバー先生が声をかけてきた。
「シェイバー先生、オーブは必ず自分の持つ全ての属性で作らなけらばなりませんか? 例えば、2属性だけ、とかはできませんか?」
先生は少し考えた素振りの後、
「属性を絞ることは可能だ。見ていなさい」
そう言って両手を向かい合わせると……
「我に宿し水の力よ、純粋な水の魔力となりて輝けーーウォーターオーブ!!」
シェイバー先生が唱えると、両手の間に水色だけの玉が現れた。
属性を絞ってイメージすればいいのかな?
「この様に、属性を絞って詠唱することで――」
「あ、出来ました!」
光と闇は除いて4色MIXのオーブができた!
「なっ……4色!? 無詠唱!!! はぁ……よく出来ているテレシア。では、全員オーブはできたな!? それをこう上に向けて…」
「上空へ舞い上がり咲き誇れ! オーブフラワー!」
シェイバー先生がそう詠唱すると、オーブが勢い良く舞い上がり大きめの花火のように咲いて散る。
きれいーー! 綺麗だけど、それにしても、詠唱がツライ。聞くのがツライ。なんかこう、むず痒くなるというか……
前世でよく聞く、中学生で患うと言うある名前が彷彿とされ身悶える。
「魔力を制御するように、小花を作る程度で。皆もやってみなさい」
「「「上空へ……」」」
起立礼着席、の号令かの如く、周りでは揃えて詠唱を始めるものだから、恥ずかしくなって思わず耳を塞う。
周りの打ち上げに合わせて私も上空へ飛ばすと、色とりどりの光の花が散る。
「わぁ……」
これ、上から見れたら圧巻だろう。
「ボブンッ!!」
突如小さな爆発音と黒い煙が上がった。
「またあなたですか! セオドリック・オルド! 制御方法は指導したでしょうに!」
見ると、顔をすすだらけにした男の子が……。
「くっくそっ……! 俺様がこんなはずは……」
顔を真っ赤にし、震えている。周りでくすくす笑う少女たちをキッと睨みつけると、
「ま、待ちなさい! セオドリック!」
先生の静止も聞かず、走って講堂から出ていってしまった。
放課後、魔法の自主練習場があるときいてレオンと向かっていると、何かを殴るような音が聞こえてきた。
ーーバシッ ドカッ バシッーー
そっと、練習場の壁の外、音のする方へ歩いていくと、セオドリックと呼ばれた男の子の後ろ姿が見える。
レオンと顔を見合わせ『しーーっ』っとポーズをして、忍び寄ると……
「ーーっ!」
「ハハっ! お前らみたいな下等な生き物が! 学園にいることすら不快なんだよ!」
ーーバシッ バシッーー
「坊っちゃま、いくら家紋をつけていないからと……どなたかの従者のはずです! 殺してしまってはまずいです」
2歩程離れて立つ従者が、おろおろとセオドリックを諌めようと声をかける。その声が、膜がかかったかのように、やけに遠くで聞こえるような気がする。
何、してるのーー?
何で、そんなことしてるのーー?
暴行を受ける存在を見て、怒りで手が震える。
『お、おいテレシアーー』
「ハッ! 獣人の一匹や二匹、どうなろうと知ったことじゃない! 大体この前のオーブだって、公女サマだったか? あんなやつがしゃしゃりでなければ、獣人を痛めつけることができたんだ! 全く目障りな女だ」
レオンがこそっと呼びかけ手を握ってきたが、その温もりはセオドリックの憎々しげな声によって遮られ届かない。
そして目の前の生徒は足を、ボールでも蹴るかのようにゆっくりと後ろに大きく持ち上げる。
足元に身を守るようにして丸くなってうずくまる、縞模様の耳と尻尾の獣人に向かってその足をーー
「ダメーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
バコーーンッ!
弧を描き、少年が中を舞う。
叫び声とともに飛び出した私は、気付けば、盛大な右ストレートをセオドリックの頬にきめてしまった。
「あ。」
そう思った時には既に遅く。
……に、してもあんなに飛ぶ?
私にパンチされ数メートル吹き飛んだ。セオドリックが落ちる様が、急にスローモーションのようみえる。セオドリックの従者が走る。
背後に立つレオンはあちゃーと額を抑えていた。
や、やってしまった。
全てがゆっくりと見えた世界は、ドサッという鈍い落下音と共に通常に戻った。どうやら従者の上に落ちたようだ。駆け寄って確認すると、下敷きになった従者とセオドリックは伸びてしまったものの、一先ず無事なようだ。
「放置で、いいよね」
「……ああ」
「獣人さん、大丈夫?」
先程までセオドリックから暴行を受けていたのは、茶色い縞模様の獣人で、ふるふる震え地面に丸まり、頭を抱えた腕の横からこちらを見てきた。
「立てる?」
私が手を伸ばすと、周りをキョロキョロ見回し、私の後ろにいるレオンに気づく。獣人がいるから安心したのかなーー?
立ち上がると……
「た、助けていただいてありがとうございます!」
茶色いクリクリの髪はところどころ焦茶色で、縞模様の尻尾からも茶トラ猫を彷彿とさせる獣人は、立ち上がると私より少し小さいくらいの背丈だった。尻尾はまだ少し逆毛を立てたように膨らんでいた。
ーーこんな小さな子に暴力を振るうなんて……
「痛かったね……。あなたを医務室に連れて行きたいんだけど、いいかな?」
「えっと……ぼく、早くお嬢様のところへ戻らないといけなくって……講義もそろそろ終わってるはずだから、部屋で手当てしてもらいます! お気遣いありがとうございます!」
顔を赤くして視線を下へ逸らしながら、
「あの、お名前を教えていただけませんか? このお礼はさせていただきます」
そう言ってパッと顔を上げた。
あれ? この顔どこかで……
「あ……ぼく先名乗るべきでしたか? すみません、まだ未熟で……あ、ぼくは、フリアンディーズ家に使えているサミュエルと言います」
「じゃぁキャロリーヌ様の……?」
そう言うと明らかにホッとした表情になり、警戒が解かれたのを感じる。
そりゃ、さっきまで殴る蹴るされてたもん、知らない人が怖いよね……。
「お嬢様をご存知ですか? はい、キャロリーヌ・フリアンディーズ様と一緒に学園に来ました! 普段は部屋で仕事をしていますが、講義中散策していたら先程の貴族さまにお叱りを受けてしまい……本当に助かりました!」
「そうだったんだ……私はテレシア・ポムエット、キャロリーヌ様と同じ歳です。部屋も近いので、一緒に行きましょう? いいよね、レオン?」
こくりと頷くと
「……災難だったな、俺につかまれよ」
そう言って手を肩に置かせて、ひょこひょこ片足を庇いながら歩くサミュエルと共に寮へ向かった。
途中で遭遇した先生に、セオドリック・オルドのしでかした事の報告も忘れない。
寮の廊下を歩いていると、部屋から勢いよく飛び出してきたダニエルとぶつかった。
「あ! 失礼しました……公女さ……サミュエル!!!」
私の後方でレオンに捕まっているサミュエルに気づくと、青かった顔色をさらに悪くして、バッとサミュエルに抱き付く。
「……兄様、いたいよ」
兄様! ダニエルの……弟!? どこかで見たことがあると思ったサミュエルの顔は、ダニエルにそっくり。
「あ、ごめん……。こんなに怪我をして……何があったんだ一体、あ、いや、それより手当を……一体誰が……!」
「ダニエルさん、落ち着いてください。キャロリーヌ様はご在室ですか? サミュエルさん、部屋で手当を受けると言うのでそのままお連れしましたが……もしいらっしゃらなければ、わたしの部屋へいらっしゃいませんか?」
「兄様、この方々に助けてもらったんです!」
キャロリーヌは不在らしく、経緯を聞きたいが主人不在の部屋へ来客は通せない、と私の部屋で手当をすることになった。
レオンが道具を用意して、ダニエルはサミュエルの手当と服を変えに浴室へ入って行った。
「まさかダニエルに弟がいたなんてな」
嫌な雰囲気のやつだけど、あいつもあんな顔するんだな、と小さく呟くのが聞こえる。
「……そうだね。ねぇレオン、獣人の家族って、普通に生活しているものなの? 確か、獣人は数も少なく珍しい、売買されると聞いたんだけど……そもそも獣人の結婚はどうなっていて、商人に捕まっていない獣人ってどこにいるの……?」
「……テレシア、俺は前にも言った通り昔の記憶がないんだ。屋敷にいる獣人もそうだったろう? 獣人商人に与えられていた薬のせいなのか、親とか、家族とか、どこから来たとか……何も思い出せないんだ」
辛い話をさせちゃったなーー。
「ダニエルとサミュエルが兄弟だって言うなら、あいつらに聞いてみるしかない」
「うん……そうだよね。嫌なこと思い出させてごめんね、レオン」
ちょうどそう話したところで、ダニエルとサミュエルが浴室から出てきた。
「テレシア様、レオンくん、浴室も服も消毒も……貸してくれてありがとうございます。サミュエルから話は聞きました。助けてくださって、ありがとうございました……」
「いえ……気が付いて良かったです。学園にあんなことをする人がいるなんて……。サミュエルさんの怪我は?」
「折れているところはなさそうです。相手も子供だったことが幸いしたのでしょう。打撲と擦り傷、足首は捻ったようですが、お陰様で大事には至りませんでした」
話しながら、レオンが飲み物を出して二人に座るよう促す。
改めてサミュエルを見つけた経緯を話した。
「セオドリック・オルド……あいつか……」
普段は礼儀正しいダニエルが、ボソッと呟く。
「兄様、ごめんなさい。講義中なら貴族に会うことはないと思って……うろうろしてたぼくがいけないんだ……」
「サミュエルさんは悪くないよ! ひとに暴行加えるようなセドリックが悪いんだよ! ……私もセオドリックのこと、殴り飛ばしておいてなんだけどさ……」
「なぐり飛ばした!?」
ダニエルが驚いた顔をした後、大きな身体を丸めてふくくくっと笑い出した。
「公女様は、思いもよらぬことをなさるんですね」
「獣人さんが蹴られそうになっているのを見たら、つい体が先に動いてしまって……」
「……公女様は、獣人にとても好意的なのですね。ほとんどの貴族は、獣人がどんな目にあっていようと無視すると思います。貴族にとって獣人は消耗品のようなものですから」
ダニエルの表情が歪む。
「テレシア……様は、獣人を愛しているんです。虐げられている獣人を屋敷に引き取りすぎて、公爵様が頭を抱えるほどに」
レオンが自慢気に話す。
「……最近王都で獣人の売れ行きが良いと、噂で聞いておりましたが、公女様が火付け役のようですね」
笑顔ながら、どこか皮肉のように聞こえるのは何故だろうーー
「その様な噂があるんですね。ダニエルさん、サミュエルさん、お二人は兄弟のようですが、どちらからいらしたんですか? 」
ダニエルの表情が固る。サミュエルは私と兄の顔をキョロキョロと見回した。
「屋敷にいる獣人は、みな獣人商人に捕まる前の記憶がないんです。獣人は、どこから来るのですか? 」
「……」
「どこか家族で暮らせるような、町や環境はあるのですか?」
「……」
ダニエルは、間をおいてニコリと作り笑顔で武装すると
「そろそろお嬢様が戻られる時間ですので失礼します」
と、お礼と共に述べて退室した。
「レオンさん、公女様、バイバイ! 今日はありがとう!」




