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19 白い来訪者1

ーーざわざわざわーー


 神学の講義へ、講堂へ向かうと入り口には人だかりができていた。

 集まっているのは背が高い、上の学年の子供たちみたいた。

 少女たちはキャッキャッしながら中を覗いている。


 一体何事? ちょっとジャンプしてみても、全く中が見えない。


 レオンに先導してもらい講堂へ入ると……


 黒板を背景に、白い神殿服の人が子供達に囲まれている。


 その、頭からは白い布をかぶっていてーー




「神殿長様!?」


「え、あのおかしな格好のやつが神殿長なのか!?」


 私の呟きを聞いたレオンが、人だかりの中心を見てギョッとした。

 そういえば、レオンは実際に神殿長を見たことがないんだっけ。

 魔力測定を受ける子供にはお馴染みの存在だが、獣人であるレオンは魔力測定を受けない。

 それにしても、すごい人気だ。


『こら、神殿長様に失礼だよ』


 しーっと人差し指を立てながら、慌てて周囲をキョロキョロと見渡すが、聞いていた人はいないようで安心する。


「頭から布をかぶっているんだと、お前言ってたもんな。へぇ……それでは私はあちらで控えております。ご勉学に励まれますよう」


 レオンはそそくさと壁に向かい、先に来ていたダニエルに一瞬ビクッとして挨拶をしつつ、同じく先に来ていたエリアスの従者、スウの隣に立ち従者モードに入った。

 黒板の方へ向かうと、布越しで見えないはずの神殿長と目があった気がした。


「神殿長様、魔力測定の折は大変お世話になりました」


 先に集まっていた子供達と同じように、挨拶をする。

 王城でのお茶会は、みんなに内緒なんだよね?


「これは、テレシア様。こちらこそ、その節はティータイムをご一緒でき光栄でした」


 相変わらずの中性的で綺麗な声で、なんとなく布で隠れた素顔は微笑まれているような気がする。


「「神殿長とティータイム?」」


 放たれたその言葉で講堂内がそれまで以上にざわざわとした。

 慌てて、神殿長に寄ると袖をくいくいと引っ張る。意図を察したのか、彼? 彼女? は私に合わせてかがみ、耳を寄せて来て……


『神殿長様……そのお話は内緒なのでは? それに本日は一体……』


『テレシア様にお会いしたくて……と言うのは冗談ですが、神学の最初の講義だけは神殿長の勤めなのですよ。それに、講義の後、少々テレシア様のお時間をいただけましたら幸いです。きっと本日のことも噂になってしまいますから“()()()()()()殿()()()()()()()()()()()だ“と周囲に思われた方が良いかと思いまして』


 こそこそと伝えると、神殿長は今度こそ膝から屈み、頭に顔を近づけ耳打ちしてきた。

 耳元で喋られ慣れていなくて、中性的な美声に背中がぞわわわーっとする。



 すくっと立ち上がると、何人かの子供と挨拶を交わしながら、程なくして席に着くように声を張った。

 ……ほんと、布をかぶっているせいか、何を考えているのかわからない人だ……。



 神学の授業は、分厚い本を開いたかと思うと、唯一神、絶対神がいかに素晴らしくそのご意志が大切なのかについて延々と、そう、延々と難しく、回りくどくお話があった。

 最初こそ真面目に聞いていたものの、周りを見れば机に突っ伏して寝ている子、前方で頭がフラフラしている子が量産されている。そっとソフィアをみると、彼女は目を輝かせながら聴いていて……その隣に座するテオは前者の例外ではなかった。そんな、有り難くも辛い時間をなんとか耐え抜いたーー。





「はぁぁーー。神殿長様のお話、素敵でしたね」

 ソフィアからそんな感想が漏れて、唖然とした。しかも、エリアスもそれにうんうんと同意している。そう言えばミュレー夫人が、娘は読書が好きだと言っていたっけ? 神学関係なのかな。


「おわかりになりますか、エリアス様。さすがです! テオ様も、絶対神のお話のあたりは特に感動しましたよね?」


 全部絶対神のお話だったのではなかったのか。

 ソフィアが話のどの辺りを指しているのか全く理解できない。

 急に話を振られてハッとした様子のテオは、口元をゴシゴシと腕で拭いながらニカっと笑顔を見せた。


「アハハっ、眠ていました!」


 ーーよだれ拭いた?

 まぁ! とソフィアのお説教が始まる前に、


「それは困りましたね、クララック伯爵とは個人的にもお会いしたことがあるのですが……」


 心底困った、と言うような声で神殿長が近づいてきた。


「し、神殿長様!! 父上にはその……! あと5年くらいしたらちゃんと、お話を聞けると思います!」


 焦ったテオは、誤魔化すように手をあわあわ振りながらも、潔い。ソフィアは大きなため息をついているが、ついついガンバレーと応援したくなるような少年だ。


「ふふ、揶揄(からか)うのはこのくらいに致しましょう。5年後に期待していますよ、テオ・クララック」


「ではテレシア様、参りましょうか」


「は、はいっ! それではソフィア様、テオ様、エリアス様、神殿長様とお約束がありますので、また後ほど……」


 再び講堂内でざわめきが起きると、慌ててレオンを連れて神殿長の後をついて行った。こっそり呼ばれるのかと思ったら、こんなに堂々と行くなんてね。






 向かった先は、学園の近くにあるスイーツ店だった。

 学園の見える2階の個室へ通され、レオン共々着席を促されると、神殿長はティータイムセットや、私とレオンにはこれとこれを等と飲み物の注文を済ませた。程なくしてスイーツ盛りや謎のジュース、紅茶が運ばれ扉が閉まる。


「時々使用する、お気に入りの店なのですよ。これで出る時まで、この部屋には誰も近づきません。学園にはわたしからお話ししてありますので、テレシア様もレオン様も、どうぞ楽になさってください」



 そう話すと、神殿長はおもむろに顔にかけていた布を外した。


「ふぅ。しばし失礼しますね」


 白い髪が揺れ、色白の肌に整った輪郭、並行二重と白いまつ毛に縁取られた大きな赤い瞳、声のイメージ通り中性的な印象の顔が現れた。

 首が服で覆われていて性別がはっきりしないが、20歳前後に見える。


「レオン様とは初対面、テレシア様ともある意味では初対面ですね。改めまして、神殿長を務めさせていただいております、カミーユと申します」


「初めまして、ポムエット公爵家に仕えております、獣人のレオンと申します」


 綺麗な外見に見惚れている間に、レオンとカミーユ神殿長は挨拶を交わしていた。


「あ……その布、外して良かったんですか?」


「ふふ、これは表情を隠すために被っているだけで、特に深い意味はないのですよ」


 そう言って手渡された布は、内側からむこうが透けて見える、しかし外側からは白い布に見える不思議なものだった。


「もっとも、ユーグには“面倒事が増えるからなるべくかぶっておけ”と言われていますけれどね。女性と間違われたり、二十歳から変わらなくなった外見のせいで」


 今サラッとすごいことを言った気がする。

 ユーグ、は陛下のことだよね!?

 女性と間違われるってことは男性!?

 二十歳から変わらない外見って、えっ!??


 色々飛び出しそうになるのを、ジュースと一緒にゴクンと飲み込む。

 ……また、バナナとスイカを足して割っ様な味がして、心境も合わせて更に微妙な気持ちになる。

 この世界ではこの味のジュースが流行っているのだろうか。


「……」


「レオン様も、どうぞお召し上がりください。ケーキも沢山ありますので、お好きなものをどうぞ」


「じゃ、じゃぁ失礼します。テレシア様はこちらですね」


 私のお皿にケーキをよそったあと、自分の分もよそり……目の前でポチャンポチャンと紅茶に角砂糖が大量投入される様を見て、猫耳の彼は真顔で固まった。

 わかる、わかるよその気持ちーー!


 以前の王城でのティータイムのように、カミーユ神殿長はザリザリと音のしそうな紅茶を混ぜ、すすっと飲んでほぅっと息を吐いた。

 ほのかに赤く染まる頬に、こちらまでドキリとしてしまう。

 スイーツを食べる時に見えるチラリと真っ赤な舌も含め、中身がアレな私には……色気がすごい!

 なんか色々すごい!


 面倒毎が増える、と仰ったそうな国王陛下の気持ちがわかる気がするーー。


「さて、今日ご足労いただきましたのは、テレシア様の光属性についてと、進捗についてのご報告のためでございます。レオン様はテレシア様が、獣人の中でも特に大切にーー弟のように接されているされている存在だと伺っております。きっと諸々、お話済みなのでしょうーー?」


「……ハイ。ごめんなさい神殿長様。測定の時にあったことも、全部レオンには相談してあります」


 神殿長は柔和な表情を保ったまま、こくんと頷く。


「それを咎めることはございません。全てはテレシア様の御身をお守りするためでございます」


 私もレオンも、真剣な表情で頷く。獣人の守護者だとバレると、それを良しとしない人たちに命を狙われるかもしれない、だったか。


「まず……魔法科の講義を受けられてお気づきかと思いますが、本来、光属性の者は学園には通いません。神殿にて治癒魔法師として、特別な訓練を受けます」


 ーー全然気が付かなかった。そう言われてみれば、オーブを作る授業で白い光の子がいなかった気もする?


「しかし、テレシア様は光属性も備えつつ全属性、加えて強大な魔力量、さらには神より特別な名を受けておりますので、特別でございます」


 ふと神殿長の顔から笑顔が消える。


「以前お話しました通り、神より特別な“名”を授かることは、非常に稀な出来事でございます。私の場合は“神殿長”の名を賜りお役目が明確でしたので、そのまま神殿で過ごすこととなりましたが……テレシア様は違います。獣人の守護者、という概念はこれまでありませんでした。そのため、テレシア様には学園で沢山の知識を得ていただきつつ、時折神殿へ通い光属性についても学んでいただきたいと、ユーグ国王陛下、並びに公爵夫妻とも話が決まりました」


 ……私のお勉強の時間を増やすことを、国王陛下と両親と神殿長で決めたってことね。

 国の重鎮が何をしているのだろう、とちょっと遠くを見る。

 そして、"獣人の"守護者と偽ったのはまずかっただろうか。正しくは、転生者と書かれていたのと、守護者と書かれていたけれど……

 そう思案する私を、神殿長もレオンも、じっと見ていたことに気付かない。


「テレシア様にも、従者であるレオン様にも、いづれ、週末は神殿で過ごすようにしていただきたいことを前もってお伝えさせていただきます」


「神殿長様、いづれ、というのは?」


 毎週末、神殿へお泊まりということかな? とってもバタバタしそうだ。


「はい。今はまだ、テレシア様も学園へ入られたばかりなこと、そして私の時間が当面確保できないためいづれ、とお話させていただきました。テレシア様の件を他の者に知られるわけには行かないため、私が光属性についてお教えするしかないのですが……。治癒を習得できずもどかしいかもしれませんが、いづれお迎えに上がりますので、それまでは学園でお過ごしください」


「わかりました。今は学園での勉学に励みます」


 私、いつか治癒魔法も使えるようになるのか! と思わず口元が緩みそうになるが、なんとか方向を変えて少し寂しげに微笑んだ。


「カミーユ様、テレシア様は、全属性であることを講義の際に話してしまったのですが……」


 そういえばそうだった! 動揺して口の中に入れたてのケーキを噛まずに飲み込んでしまった。


「あ……魔法科の講義で“オーブ”を作りまして……」


 そう言うと、両手の間にほわっとオーブを作ってみせる。


「この様に、全属性の色が出てしまい、先生に聞かれるがまま答えてしまいました」


 パッと手を散らすとオーブもパッと弾けて消える。


「そうでしたか……それは少し、不味いかもしれませんね……。今は私といるので安全ですが、早急に、ユーグやポムエット公爵と相談してみます。テレシア様は公爵令嬢でいらっしゃいますので、そうそう手を出す輩はいないかと思いますが……。他国にはお気をつけください」


「それにしても……テレシア様、オーブの発動に詠唱されませんでしたね」

「それも、不味かったでしょうか?」

「いえ、無詠唱は多少いるので大丈夫でしょう」


 その後も、これはだめ、これは大丈夫、と3人で確認をしたり、上層部の話し合いについてを聞きながら甘いものを頬張った。

 普通の6歳なら寝てると思うよ、これ! 時折レオンをチラリと見やる。純粋に9歳の彼なのに、本当によく着いて来ていると感心した。


 窓から夕陽が差し込み、神殿長がカーテンを閉めようと立ち上がるとーー


「おや……」


 そう呟いて、窓の外へ笑顔で手を振る。なんだろう、と、レオンと顔を見合わせてからそっと窓の下を覗いてみると、下には数名の女性たちが……立ちくらみでもしたのか、へにゃへにゃと倒れ出した。


「ーー神殿長様、今のは一体……」


「何年か前に、子供達にいたずらをされてこの布を取られたことがありまして……。それ以来、何故かああして私の外出先に着いてきては、様子を伺うご令嬢がいらっしゃるのですよ。大人の世界は難しいですね」


 なんのことはない、といった口調でニコリと話すが……それてストーー……。

 口に出そうとして、この世界にストーカーの概念(がいねん)があるのか、神殿長の態度を見ていて口に出すのをやめた。

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