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15 学園生活1

「ひえぇぇ……本当に、こんなのを着るの??」


「はい。着て頂かなければ困ります。お嬢様」


 ラーダは至極真面目な顔でそれを……そう、ガーターベルトによく似た白いレースの靴下止めを私に履かせる。

 前世ではこんなの付けたことなかったから、ちょっと恥ずかしいイメージがあるが、この世界では一般的なよう。

 長いストッキングのような靴下をするすると履いて、靴下留めでずり落ちないように固定し、ドロワーズを履き……膝丈程あるワンピースを着れば完成だ。

 パンツを恋しく思う日が来ようとは……。

 


 襟付きの、深い紺色を基調としたワンピースは、白い部分もあるもののレオンの毛なら目立たなそう、と一人ほくそ笑む。

 そう思って向かった玄関で、屋敷にいる沢山の獣人達に囲まれて、なでなでしていないのに毛だらけになってしまった。

 いろんな色の子がいるし……尻尾が触ったりなんだりしたのかな。


「レオン、テレシア様を頼むぞ!」

「レオーン! 休みには帰ってきてね! 手合わせもまたしようね!」


 レオンはマスカットや他の獣人の子供達に抱きつかれたり、使用人に頭をウリウリされたり、料理長からは何やら紙袋を渡されている。

 黄緑の猫さんに……オレンジ、黄色、ベージュにピンク……もふもふパラダイス!

 ついつい、レオンが沢山の猫や人に群がられている想像をしてしまい頭をふりふりする。獣人も人!

 それにしても、みんなに愛されてる〜。

 子供執事、の様な格好をしたレオンと共に、お父様やお母様、屋敷のみんなに見守られて学園へ向かう。




 身に纏ったのは制服で、今日から学園生活が始まる。

 結局、お父様やお母様同意のもと、従者はレオンを連れて行くことになった。

 王城での話し合い以降、“神のご意向による獣人の守護者”が現れたことを国王陛下が国の主要人物にのみ通達し、関係法整備を開始したこと、神殿も各国を回っていること、公爵家と言う立場の者の従者を害する者はそうそういないだろう……と両親が判断した。

 加えて公爵夫妻の中では、テレシアが暴走した際抑えられる者がレオンしか確認できていないということも大きかった。


 従者は講堂への同行が許され、立ちっぱなしにはなってしまうが講義を聞くこともできる。

 学園に入学できないレオンにとって、貴重な機会では……とも話し合った。

 ……本音は、レオンがいないと寂しいだけだけどね……!




「こちらが、テレシア・ポムエット公女様のお部屋でございます。」


 公爵家ほど豪華ではないが、ベッドとソファー、テーブルと机のある部屋、その奥には複数扉があった。

 一つは浴室、残りは従者用の簡素なベッドと机のある部屋で、扉は内側からも外側からも鍵がかけられる様になっていた。


「従者の方はこちらとなります。荷解きをされて、午後より講堂の方へお集まりください」

「お食事は食堂でとられても、お部屋でも、共用のキッチンをご利用頂いても結構です」


 それでは。と寮の管理人は部屋を出ていった。


「部屋……テレシアの部屋の横なんだな……」


 呆然としたレオンがボソリとつぶやいた。

 私も予想だにしていなかった。従者は、身の回りのお世話や、警護をしてくれるものなど連れてくるも、来ないも自由でーー。


「お世話とかするのに、部屋が近い方が便利だからかな? わたし、なかなか起きないし、夜中にお風呂入るときは遠慮なく部屋を通っていってね!」


「……」


「あ、レオンのベッド硬そうだし、なんならここで一緒に寝る?」


 6歳児だし、9歳のレオンと一緒に寝たところでなんら問題はない、と提案するが、顔を赤くしたり青くしたりした後とっても嫌そうな表情をされた。


「……はぁ、お前と一緒に寝たら、絶対尻尾や耳寝ぼけて触ってくるだろ……疲れるからイヤです」


 ベッと舌を出した彼は、てきぱきと荷物を片付けてくれる。

 部屋が他にもあるってことは、もっと連れてきてもいいのかな?




 部屋で昼食に、レオンが料理長から渡されていた具沢山サンドを食べて、共に講堂へ向かう。

 腰まで伸びた金色のうねる、しかしどういうわけか、毛先はほとんど外ハネしてしまう髪をビョンビョン弾ませながら歩いた。

 獣人の従者が珍しいのか、それともレオンが美少年すぎるのか、もふもふしたいのか、ささるほど視線を感じる。


「レオン、見られてるね! みんなもふもふの尻尾触りたいのかなー?」

「……多分、そう思っているのはテレシア様だけですよ」


 半歩下がって斜め後ろを歩く彼は、言葉遣いを丁寧にしてすっかり従者モードだ。

 首元と耳に、昔贈った公爵家の紋章入りアクセサリーがゆらめく。私より少しだけ高くなった背、サラサラの黒髪、かっこいい!


 いや、かっこいいって何! 私高校生プラス、もう6年もこの世界で生きてるんだから! あくまで一般的に、レオンはかっこいいってだけ!


 そんな一人ツッコミをしている間に寮を抜け、片側は中庭、片側は部屋というオープンな回廊を歩き、指定の講堂へついた。

 扉を開けると、半円を描く様に、段になって机が並んでいて、一番下の壁には大きな黒板の様なものがあった。


「それではテレシア様、私は隅に控えております」


 そう言って、従者と思われる人たちが並んでいる壁際へと離れていった。レオンを見るなり、他の従者はギョッとして少し空間が開く。

 階段を2ー3段おりると、誰もいない適当な席につく。講堂内を見回すと、着席している子供に獣人はいないし、壁際にいる獣人もレオンを除いて1人……大人の獣人に見える。ピシリと起立して前を向いていた。


「あっちの方に仕えている子がいるのかな……?」


 ところどころ談笑する子供達がいて、大人の獣人の視線の先はよくわからないし、ちょっと離れているからアクセサリーの家紋もよく見えない。


「テレシア様!」


 声のする方を向くと、桃色の髪を耳下で左右お団子にまとめたソフィア、が顔の横で手を振りながら階段を降りてきた。エリアスと、もう一人男の子が一緒だ。


「ソフィア様、エリアス様、お久しぶりでございます」


 魔力測定以来の再会。エリアスは相変わらず線が細く、儚げな雰囲気を醸し出しているが、私の顔を見ると気まずそうに視線を逸らした。


「お久しぶりです、テレシア様!」

「……ご無沙汰しております、テレシア様」


 ニコニコと挨拶を返しながら、続きになっている椅子に座ってきた。ソフィアはいいとして、エリアスの元気がない。どうしたかな?


「あ、ご紹介しますね。わたしの婚約者の、テオ・クララックです。ご一緒しても良いですか?」


「こ、婚約者ですか!?」


 思わず声を上げてしまった。ハッとしてキョロキョロすると、はぁ〜と言った感じで額を抑えるレオンが目に入る。うぅ……授業参観のやらかした子供、の様でなんだか気まずい。


「ちょっと早いですが、親同士の関係で……実際、お友達の様なものです。ね、テオ様」


「テオ・クララックです。お噂はソフィアより伺っております」


 テオは真っ赤な短髪のやんちゃそうな外見とは裏腹に、丁寧な挨拶をくれる。


「テレシア・ポムエットです。声を荒げてしまい失礼しました。どうぞ、ソフィア様とお座りください。」


 ニコリと返事をすると、ソフィアたちは私の左隣へ座り、いつの間に回ってきたのか、エリアスは私の右隣に着席した。


「……あの、テレシア様、僕何か、テレシア様に失礼なことを書いてしまったでしょうかーー?」


 落ち着かない様子で手を合わせながら、小さな声でエリアスが言った。


「え? 書いてしまったとは?」


「その……お手紙のことです。お返事を頂けませんでしたので……」


 そう言って両手をギュッと握り合わせる彼は、今にも泣きそうだ。手紙……手紙なんてもらったっけ?


「テレシア様……、わたしも、お返事をいただけなかったのですが……もしかして、わたしも何かやらかしてしまいましたか?」


 横からソフィアも話しかけてきた。手紙! バタバタしていて、手紙のチェックをしていなかったかも!


「ごっ、ごっめんないっっ! エリアス様、ソフィア様! 色々あって……手紙を見ていませんでしたーー!」


 そういうと、エリアスはポカンとし、ソフィアはそうだろうと母が言っておりました、と苦笑する。


「よ……よかったです。実は、僕、獣人に関してご相談させていただこうとお手紙をお出ししたんですが……。テレシア様は、従者に獣人をお連れになられたのですね」


「そうなんです! 紋章でお気づきの様ですね? 彼は、獣人のレオンと言います。従者ですが、わたしの大切なお友達でもあります。エリアス様、お手紙を見落としていて本当にごめんなさい! それで先程からお元気がないように見えたんですね。」


「あ……いえ……えっと」


 元気がない理由は別にあるのかな? エリアスはおどおどと視線を彷徨わせた。


「テレシア様、既に寮でとっっても噂になっていましたよ。ポムエット公爵家の公女様が、異性の子供の獣人お一人だけお連れになって入寮した――って」


「え"っ」


 寮に入って半日、講堂に来たのなんて今が初めてなのに、噂のスピードとは恐ろしい。


「それで、お着替えや入浴は、どうなさるおつもりですか? 男の子にお願いするんですか? 」


 お風呂の介助……想像したらボンっと顔が熱くなる。流石に6歳でも異性に裸を見られるのは抵抗がある。


「いくら獣人だからって、わたし達が6歳だからって、それをさせるのは少し恥じらいが足りませんよ!」


 めっ! と人差し指を立ててお説教しているソフィアが、ミュレー侯爵婦人の幼い版に見える。さすが親子…


「……その辺は考えていませんでした。一人で入浴することが好きで、屋敷でも数年前からメイドの手を借りていなかったものですから……」


 小さい時は、頭を洗うために腕を上げていると疲れて大変だったけれど、前世の記憶もあるしもう慣れっこなのよね。

 奥に座るテオは顔を赤くしてそわそわしている。男の子の前で話す内容じゃないかも?


 しかしソフィアのお説教は止まらず、靴下止めはどうするのかと聞かれればそれも自分で出来ると答え……なるほど、そういう所で変な噂が立ってしまったようだ。


 内容的に口を挟めない男の子は放置され、おとなしくお叱りを受けていたら最初の授業が始まった――。

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