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11 進む道4

「ーー守護者、かぁ」


 レオンは考え込むように顔をしかめた。


ほぅはんだほ(そうなんだよ)〜。へほんは(レオンは)ひいたほほはふ(きいたことある)〜?」

「こら! いくら俺だけだからって……流石に行儀が悪いですよ、テレシア()()()


 口いっぱいにお肉を頬張って話すと、レオンに怒られた。それにしても料理長の焼くお肉は最高である!

 ……あれ? ステーキみたいな味だけど、そういえば牛……いないよね。なんのお肉なんだろう?


「俺も聞いたことも、本で見たこともないな。魔法のことはミュレー先生から少しだけ聞いたけど、それはテレシアも一緒だもんな」


 逸れかけた思考が元の話に呼び戻され、彼を見ると、無意識なのか尻尾が大きくゆっくりゆ〜らゆらと振られていて、つい目がいってしまう。

 

「猫の尻尾に(じゃ)れる猫の気持ちがわかるなぁ……」


「ねこ?」


「ううん! 何でもないの!」


 口に出していたらしい。また他のこと考えちゃった。そう思うのに、今度はまたお肉をフォークで刺しながら……


「魔力測定の玉には“嘘偽りのない名前”と“属性の色”が浮かぶ、だったよな?」

「うんうん」

「他の令嬢、令息の時は、名前の他に何か浮かんだ人間はいなかったのか?」

「……それが、ちょうど体に隠れちゃうのか、光るせいか、全然見えなくて……基本、手を置くと玉は輝き出してとっても眩しいし……」


 魔力測定については“魔力量と属性を測る” “白い衣装を着用しなければならない” ということしか聞いておらず、魔力測定についての本もなく“受ければわかる”というもので、謎に包まれている。



「そっかぁ……とにかく、その白い布を顔にかけた人は神殿長とか、神官長とかの偉い人じゃないかな。その人が神殿から人を送るっていうなら、その時に何かわかるんじゃないか?」


「……そうだよね。それに、お父様やお母様も、何かご存知かもしれないよね……」


「ん。今日は、ちゃんと食べて早く寝ろ。疲れてるだろ?」


 仕方がないなといった表情で、こちらに手を伸ばしたレオンが頭をぽん、ぽんと撫でてきた。

 きゃーーーー、美少年の破壊力ぅ!


 心の中で思わず叫ぶ。2歳のあの日以来時々頭を撫でられるけど、未だに2歳児扱いなのだろうか。

 相談してスッキリした私は、食事を平らげた他、料理長から与えられた大量のスイーツまでレオンと処理して、おやすみの挨拶をした。





「テレシア、魔力測定の結果が届いているがーー」


 白地に金の飾りの入った綺麗な便箋を手にしながら、ポムエット家公爵は言い淀んだ。

 次の日、朝からお父様の執務室へ呼ばれていた。ちなみにお母様もいる。


「なんだ……結果はお手紙で改めて届くのですね。安心しました! 自分では今一よくわからない結果となってしまいましたので……手紙にはなんと?」


 先を促すと、両親は困ったように顔を見合わせる。私の属性、そんなにまずかったのだろうか?


「ーーそれがこの手紙には“本日神殿より使いの者がお伺いします。公爵夫妻もお支度をお願い致します”とだけ書かれている」


「わたくし達も、このような結果の手紙は初めてなのよ。わたくしや、お父様の時も適性や魔力量の結果が書かれたお手紙が届きましたもの。一先ずテレシアちゃん、詳しいお話は後にして、外出の支度をして部屋で待っていてちょうだい」


「……わかりました、お父様、お母様」





 ラーダとメイド達に急いで外出用のドレスに着替えさせてもらい、髪を結われていると、外から馬の鳴き声がした。

 執事が部屋へ呼びに来て玄関へ向かうと、お父様とお母様も既に揃っていた。

「テレシア、こちらへ。神殿から使者殿がいらしている」


 お父様の向かいには、神殿の白い服を着た人が立っていた。


「テレシア・ポムエット様、神殿長、並びに国王陛下よりお呼びがかかっております。馬車をご用意してあります。公爵夫妻と共に、急ぎ王城までご同行をお願い申し上げます」


 丁寧にお辞儀をしながら、いきなりの爆弾発言! 



 王城! 国王陛下! 謁見のマナーなんて習ってない! おろおろとお父様を見上げると、お父様は深いため息をついて


「わかりました。同行させていただきます」


そう返事をした。お父様とお母様と共に、用意されていた白地に金のラインや模様の入った馬車に乗る。


 「テレシアちゃん、謁見のマナーはまだでしたわね。出来る限りお母様の真似をしてちょうだい。あと、一体昨日何があったの……?」


 馬車の中でそう言われ、魔力測定での自分の身に起きたことをかいつまんで両親へ説明した。

 ポカーンとした顔をされたが、そうこうしているうちに、あっと言う間にお城へついてしまった。




 謁見の間まで案内され、青を基調とした重厚な扉の前には2人の騎士。


「ポムエット公爵家です。娘のテレシアと共に、神殿を通した召喚に応じ参りました」


 騎士の一人が中へ入り確認したのか、扉が開かれた。


「お入りください」


 騎士に促され、お父様お母様の後を続いて赤いカーペットの上を歩く。

 カーペットは階段へと続き、その上には王座があるのだろう。足元あたりまで顔を上げようとしたところで、お母様からそれ以上顔を上げないよう小声で言われた。


「偉大なるルトルヴェール国王陛下にご挨拶申し上げます。ジュール・ポムエットでございます」

「偉大なるルトルヴェール国王陛下にご挨拶申し上げます。アレシア・ポムエットでございます」


 お、おお、お父様とお母様、そんなお名前だったの!? 聞いたこともなかったよ!?


 内心で、この世界の両親の名前を今更知ったことに動揺しながら、お母様のカーテシーを真似て……


「偉大なる、ルトルヴェール国王陛下にご挨拶申し上げます。テレシア・ポムエットでございます」


 ドレスの両端を持ち、片足を後ろでクロスさせ、膝を深く曲げてご挨拶した。


「顔を上げよ」


 20代後半位だろうか。青銀色をした髪を後ろで一つに束ね、緑色の瞳をした壮年が金色の玉座に座っていた。その双眼から聡明な印象が伝わってくる若き国王の横には、神殿で見た、顔に白い布をかけ、白地に金色の刺繍の服を着た人が立っていた。


 王様若そう……と思うのは前世があるからこその感覚かな。王様の隣に立つことから、神殿の力の大きさがわかる。

 この国以外にも国はあるのに“絶対神”で“唯一神”、だもんね。


「本日は、神殿長よりそちらのテレシア・ポムエット嬢の魔力測定について、重大なお話があるとのことで、其方らを呼び寄せた」


 王様が人ばらいをすると、おもむろにそう話し始めた。

 顔に布をかけた人、神殿長だった! 声からすると若そうなのに。


「今日は国王陛下、ポムエット公爵家の皆様、お忙しい中お時間を頂き誠にありがとうございます。さて、まずは見ていただいた方が早いでしょう。テレシア様はこちらへ」


 そういって促された先には、先日の魔力測定の玉が、紅色のクッションの上に置かれている。

 神殿長が階段を降りその玉まで行くと、神殿長の横に立つように言われた。

 玉を挟んで少し離れた正面にお父様、お母様、右上に王様の座る玉座、そして私の横に神殿長がいるような配置で、何が始まるのか……ゴクリと生唾を飲んだ。


「テレシア様、先日の魔力測定と同じように、玉に両の手を置いてください」


 こくりと頷き玉に手を置くと、途端に輝く世界が広がる。目の前にいるはずの両親も、王様も、神殿長も見えない。

 幻想的な色合いと、手元に浮かぶ文字。何もかもが魔力測定の日と一緒だ。


「ご覧になっていますか?」


 中性的な、神殿長の声が響いた。


「これは……昨日白昼におきた謎の光……。皆にも見えているのか?」


 これは国王陛下の声だ。先日白昼にも、おきたーー?


「わたくしにも見えております。魔力測定の日にも、屋敷でこの光景を見ました……!」

「目の錯覚ではなかったのか……! テレシア、そこにいるのか?」


 両親の声も聞こえて、はいと返事をする。


「皆様、テレシア様がいた方角に、文字は見えていらっしゃいますか?」


「テレシア・ポムエット……中央は読めないが……守護者……?」


「見えるようですね。テレシア様、お手をお離しください」


 そっと手を離すと、やはり先程の光景が嘘のように、元の謁見の間に戻った。


「えっと……」


 何か言わなければならないのかと、口を開いてみるが、何も言葉が出てこない。


「ご覧になりましたでしょうか。先程の輝く光は、昨日神殿どころか、王城までを覆った光にございます。そして公爵夫人のご様子ですと、ポムエット公爵邸をも覆ったと言うことでよろしいでしょうか」


「間違いございません……」


「神殿長、先程の光と、それにあの真実の名は一体ーー?」


 王様と両親の視線がこちらに集まる。


「先程の光は、テレシア・ポムエット様の魔力測定の結果にございます。これまで、魔力量は極小、小、小よりの中……から最大で特大まで、輝きの範囲に応じて決定しておりました。仮に、先程テレシア様が輝きで覆った範囲が魔力量であるとするならば、これ程の魔力は見たことがありません。

 また、何色にも輝く世界、これも初めての現象にございます。恐らく、全属性適応があるものと推測します」


 表情が見えない神殿長は、その声からも感情が読み取れない話し方だ。


「膨大な魔力量に全属性とは……神殿長、“守護者“とはなんだ? 名前と“守護者”の間にあった文字はなんと書いてあったのだ?」


「まず謎の文字についてですが、そちらは古代文字でもない上該当する文献もなく、わたくしにも解読不可能です」

「また、守護者と言う文字に関しては、そのままの意味かと思われます。“守護”する“者”。先程の魔力量から考えましても何かしらの守護を、絶対神より担っていると思われます」


「え? ええ?? 私、神様にあったこともないし、何かの守護をまかされてるの!?」


 あっ、と思った時には遅かった。声に出してしまった。


「娘が……申し訳ございません!」


 お父様がバッと頭を下げて、私もつられて頭を下げる。


「ジュール、良い。其方と私の仲ではないか。ここに他の者はおらぬし、テレシア嬢はまだ6歳、多少言葉使いが乱れようと、気にすることはない」


「ありがとうございます……」


「ふむ。幼いテレシア嬢に立ち話も酷だな。神殿長、部屋を移してもかまわないだろうか?」


「はい、陛下。わたくしは砂糖を多めでお願いいたします」


 神殿長の返事は、返事になっていない気がするが、これまでの会話で一番感情の感じられる抑揚(よくよう)があった。

 王様はくくくっと笑って、わかったと答えた。

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