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社畜の私は異世界でイケメン王子に溺愛されてモフモフ獣に囲まれた自由気ままなのんびりスローライフを満喫したい

掲載日:2023/05/24

「う、うぅーん」


 床が固くて……ゴツゴツして、いる。

 あと……すごく、眩しい。

 電気つけたまま、寝落ち……した、のかな……。

 今、何時、だろう。

 とりあえず、スマホスマホ……。


「えっ、待って!?ここどこ!?」


 自分の家じゃない。

 そう認識した途端に眠気が吹き飛んだ。


 私は上半身を起こして周囲を見回す。


「なにこれ……?」


 辺り一面真っ白な空間が広がっていた。

 混乱しつつも状況をなんとか把握してみる。


 まず、物体と呼べる物が何一つ存在していない。

 それどころか壁や天井すら見当たない。

 大理石みたいな質感の平坦で無機質な床がどこまでも続いているだけ。

 前後左右上下どこを見てもひたすら白、白、白。

 屋内か屋外なのかすらわからない。


 そしてもう一つ、ここは静かすぎる。

 全く音がしないと逆に落ち着かなくなるという話は本当だと実感できるくらいの静寂。

 その代わりに全身がふわふわしていて心地よく、最近悩んでいる肩こりと花粉症を全く感じない。


「あ、わかった。これ明晰夢だ」


「違います」


「うおあ!?びっくりした!?」


 いつの間にか目の前に人が立っていた。


「はじめまして山吹恵さん」


「えっ?あっ、は、はじめまして?」


 身長は低く10歳くらいの……多分男の子。

 中性的な整った顔立ちの美少年だった。

 金髪ショートと濃い青色の瞳は、外国人というよりもファンタジー世界の住人と表現したほうが適切だと思えるほどの美しさ。

 無地で真っ白の半袖半ズボンという健康的な服装から覗かせる色素薄めのスベスベ肌がとても眩しい。


「さて、どこまで覚えていますか?」


「ん?何が?」


「やはり直前の記憶が飛んでいるみたいですね。山吹恵さん、あなたは交通事故に遭って死にました」


「……は?」


 死んだ?

 私が?

 交通事故で?


 急に何を言い出すんだこの子は。

 そんなわけない。

 私はこうして生きている。

 今日だって朝起きて、支度をして、会社へ向か……。


 待って、それはおかしい。

 今は夢を見ているわけだから、私の現実の体はまだ布団の中で寝ているはず。

 あ、電車の座席で寝ている可能性もあるのか。

 だとしても電車に乗った記憶はない。


「あっ」


 そうだ。


 家を出て最寄駅へ向かう。


 駅前の交差点。


 信号が青になったから渡ろうとして。


 5歩くらい歩いて。


 右側から何かに突き飛ばされて。


 あっという間に世界がひっくり返って。


 人の悲鳴が聞こえて。


 痛いような熱いような。


 そのまま暗闇へ。


「……っ!」


 全てを思い出した。

 多分私、信号無視のトラックに撥ねられたんだ。


「ゔっ……おぇっ……」


 泥沼の底に意識を無理やり沈められるような不快感が蘇る。

 思わず吐きそうになったが何も出なかった。


「無事に思い出したみたいですね。精神ダメージも規定値の範囲内です」


「ほんと最悪……気分悪い……あ、でもこうして思考できるってことは、まだ生きてるんだよね」


「いえ、死にました」


「……それってあなたが勝手に言ってるだけでしょ」


「正確に表現すると、死が確定する直前で精神体だけを回収しました。一度完全な死を迎えた生物を蘇生させる権限はボクたちには与えられていません」


「要するに私はまだ生きていると」


「死にました」


「生きてる!死んでない!」


「処理的には死亡したものとして扱われます」


「なら生きてるじゃん!」


「話が進まないので一旦受け入れてください」


「ふーん、私の脳が作り出したオリキャラなのに創造主様に口答えするんだあ」


「全く面倒くさい人ですね」


「何か言った?」


「面倒くさい人ですね、と言いました」


「あ、はい」


 そういうことを結構はっきり言うタイプか。

 でも生意気ショタも嫌いじゃない。


「大抵の人間種はすんなりと受け入れるのですが……まあいいでしょう。さて、そろそろ説明を始めます」


「説明……?」


 その言葉を聞いて、ふと『夢は記憶の整理も兼ねている』という豆知識を思い出した。

 断片的な記憶の取捨選択、だったかな。

 必要な記憶と不要な記憶の仕分け作業的なことをこれから行うのかもしれない。


 正直言って忘れたい記憶は山ほどある。

 特に中・高生時代のネット上での痛すぎる言動と、書き溜めたポエムや夢小説。

 ふと思い出すだけで悶えるレベルの黒歴史たち。

 魂レベルでこびりついているのか、どうしても忘れることができないセルフ呪いと化している。

 もちろん個人ブログはアカウントごと消したし、ポエムノートや創作ノートなどの呪物は細かく刻んで全て処分済み。

 今は私の記憶の中にしか残っていないからギリギリ耐えられるけど、突然目の前に実物を出されたら精神崩壊して泡を吹きながら倒れる自信がある。


 いやそもそも、こんな悠長にしていていいのか?

 少なくとも交通事故にあったのは事実だ。

 私の体は救急車で運ばれている途中なのか、既に病室のベッドに横たわっているのか、それともまだ道路に放置されているのかはわからない。

 実は生死を彷徨うくらいの危篤状態で、呑気にお喋りしている途中で突然ポックリ逝く可能性だって十分あり得る。


「うーん……まあ聞こうじゃないか」


 でも今の私ができることは特になさそうだし、せっかくの明晰夢なんだから脳内妄想ストーリーに付き合うとしますか。


「さて、山吹恵さんには今まで生きてきた世界とは異なる世界で人生の続きを過ごしていただきます。わかりやすく言うと異世界転生です」


「はい質問。それって赤ちゃんからやり直し?」


「年齢変更下限は15歳までと定められているため、幼児期まで若返らせることはできません」


「それなら異世界転生じゃなくて異世界転移だね」


「どちらでも変わらないと思いますが」


「変わるよ!?気にしないって言う人もたくさんいるけど異世界転生と異世界転移は全然違うジャンル!NTRとBSSくらい違う!」


「そうですか」


「そうですよ!……待てよ、一度死んでから異世界に行く場合なら転生で合ってるのか?あ、いやそもそもまだ死んでないんだった。じゃあ転移でいいのか。あなたはどう思う……そういえば名前聞いてなかったよね」


「5667049371番です」


「はい?」


「5667049371番です」


「ごーろくろく……じゃあゴローくんに決定。あ、今さらだけど男の子だよね?」


「天使に性別はありません」


「あーそういう設定ね了解。それで、どうして私は異世界転移するの?」


「詳細は言えませんが、定期的なデータ収集です。一度目の人生を志し半ばで終えた人間が異なる世界で二度目の人生を送る機会を得た場合、何を考え、何を行い、何をなすのかを調査します」


「つまりプライベートを全部覗かれるってこと?いやんゴローくんったら、す・け・べ」


「基本的には半年に一度転送するアンケート用紙に記入していただく形になります。所要時間は10分ほどで記入を終えると自動的にこちら側へ再転送されます」


 くそっ、このショタ全く動じねえ。

 もしかしてあれか?

 天使設定だから見た目は幼くても中身は結構歳いってるのか?

 そういうのが好きな人がいることを承知した上であえて言わせてもらう。

 私はショタジジイをショタとは絶対に認めない!


「ゴローくんって今何歳?」


「何ですか急に」


「いいから答えて」


「地球単位に換算すると768日目です」


「それは2歳ってこと?」


「正式に稼働を開始してから、という意味ではそのような解釈で間違いありません」


 2歳児……完全にナシではないけど……。

 でもまあショタジジイと比べたら全然アリ。


「それがなにか?」


「あ、ううん何でもない」


「はあ」


「それで、その調査とやらに私が最もふさわしいということで選ばれたわけだね」


「違います」


「あ、そうなんだ」


「条件を満たした人間の中から無作為に選ばれた1000人のうちの1人が山吹恵さんです」


「つまり私の他に999人もいると。街中でばったり会ったらちょっと気まずそう」


「今回は全員が別々の世界に転生するため先駆者はいません。そもそも個人的な理由で世界間移動を行うためには評議会の認可が必要です。過去に世界間移動が認められた例は何度かありますが、そのような特例を除けば今回の調査で転生者同士が遭遇する確率は0です」


「ふーん。そういえば私が転移する異世界ってどんなところ?できれば優しくてイケメンの王子様がいる世界を希望。それと魔法も使ってみたい」


「世界番号06735935-3。平均文明水準176。世界法則エヴラ13型。ステータス7型開示。付与要素、魔法04型、スキル11-8型。です」


「なるほどわからん」


 これはあれだ、それっぽい単語を羅列して作者が設定を作り込んでいると見せかけて、実は特に何も考えてないパターンだ。

 かくいう私もたまにやっていました。


「はい質問。平均文明水準176って地球の時代だといつくらい?」


「少々お待ちを……最も近いのが西暦1946年から1973年の178ですね」


 つまり戦後から昭和あたり?

 中世ヨーロッパ風が多い異世界転移物にしては割と高めな気がする。

 

「もう一つ質問。ステータスって言ってたけど、それってゲームに出てくるHPとか攻撃力とかのアレ?」


「概ねそのような認識で構いません」


「つまりゲームの世界に転移するってこと?」


「違います」


「あのさ、私前から思ってたんだけど『ゲームの世界に入り込んじゃった!』とかでもないのにステータス的なものが存在するのっておかしくない?特にレベルとか意味わかんない」


「全ての世界のあらゆる事象にステータス値が内部設定されています。開示範囲や出力形式が異なるだけで、根本的な部分では同じシステムが稼働してます」


「それって地球にも私たちが知らないだけでレベルとかステータスの概念はあるってこと?」


「認知する手段はありませんが設定されています。そのような世界では道具などで測定した独自単位が用いられているので理解しにくいかもしれません」


「ふーん……」


 そうかな……そうかも。


「山吹恵さんが使用するステータス値は既に基本設定が完了して反映されています。ステータスオープンと言ってみてください」


 今どき安直な掛け声だなあ。

 と思いつつも、


「ス、ステータスオープン!」


 HP:9737/9999

 MP:9999/9999

 名前:ヤマブキメグミ

 年齢:

 性別:女

 種族:人間

レベル:9999

 職業:

スキル:

生命力:9999

 筋力:9999

素早さ:9999

器用さ:9999

 知力:9999

抵抗力:9999

 魔力:9999

  運:9999


「うわ、ほんとに出た」


「これが山吹恵さんが使用するステータスです。全ての数値がステータス7型の最大値である9999に設定されいます。ざっと現地人の50倍程度と思ってください」


「うん、まあ……うん……」


 欲望全開感すごっ!?

 中学生の時にクラスの男子がデータ改造したRPGを見せびらかしていたのを思い出す。

 個人的には255や65535のほうがカンストっぽさはあるけど、9が並んでいるというのもこれはこれで直感的にわかりやすい。


「あれ?HPが減ってるのはどうして?」


「先ほど死の間際の記憶を思い出した際に発生した精神ダメージです。現在の山吹恵さんは肉体を持たない精神体だけの状態のため、所謂心への過剰な負荷がHPの減少に直結します」


「精神ダメージねえ」


「その代わりに肉体損傷と異なり精神が安定すれば回復速度も比較的早いです」


「なるほど、だから肩こりと花粉症が治ってたんだ」


「もちろんHPが0になるダメージを受けた場合は回復することはなく消滅します」


 ゴローくんが言った通り、9737だったHPが徐々に回復していた。


「ここの年齢と職業とスキルの枠に何も書いていないのはどうして?」


「職業は現地での立場や評判によって自動的に設定及び更新されます。年齢とスキルは今から設定します」


 スキル設定はなんとなくわかるけど年齢設定?

 そういえば年齢変更下限が15歳とか言ってたっけ。

 え、それってつまり……。


「若返りができるってこと!?」


「あくまで肉体年齢だけです。肉体年齢に精神性が多少引っ張られる可能性はありますが、自己同一性が失われることはありません。もちろん肉体年齢の変更を行わなくても構いません」


「やるに決まってるでしょ!」


「希望される年れ」


「もちろん15歳!」


「それでは15歳だった自分を思い描きながら、ここに両手を置いて意識を集中させてください。15歳時点の情報がステータスに反映されると同時に、山吹恵さんの意識領域を核としてスキルが生成されます」


 私は差し出された黒い板に素直に両手を当てた。

 冷たそうに見えたけど意外とぬるい。

 板の表面で格子状の青い直線がピカピカと点滅を繰り返している。


「それでは、スキル生成を開始します」


 15歳だった時の私、15歳だった時の私……。

 ダメだ、余計なことを思い出すんじゃない。

 集中集中。


 ……ところでこの夢はいつまで続くんだろう。

 いつの間にかノリノリになってしまったけど、これは交通事故にあって気を失っている私の脳みそが作り出したただの夢。

 本当に異世界へ行けるわけではないことはきちんと理解している。

 そりゃあ私だって、異世界でイケメン王子に溺愛されてモフモフ獣に囲まれた自由気ままなのんびりスローライフを満喫したいと思うことはあるけどさ。


「ねえ、もう離していい?」


「あと20秒ほど動かさないでください」


「はーい」


 そしてもう一つ、現実世界の私の体の安否が気になる。

 流石に病院に搬送されてる……よね?

 この夢空間にやってきてからまあまあ時間が経っているとはいえ、夢の中での体感時間と現実の時間の流れが同じとは限らない。


「はい、結構です。もう一度ステータスオープンと言ってください」


「ステータスオープン」


 HP:9784/9999

 MP:9999/9999

 名ネーム》めぐ@病み期

 年齢:》15

《性別》生物学上は女(←ぉぃ

 出身種族:一応人間ですが

大切な人に手を出したら許さない(暗黒微笑)

レベル:99ンキング圏外

 職業》みんなのペット

スキル:【創造B】【魔力適映画を見ること、オリジナル小説を書くこと、妄想すること(ぇ

お知らせ:9999

 筋力:ブログ お気に入り 友達申請 メッセージ

《誕生日》7月699

べ物 甘い物、寿司 フォロー 349人

続きを読む:9999一言

 知力:9999

抵抗力:寂しがりやで甘えん坊。心が優しい人に構ってほしい。たまに病む。

 魔力:999ワサビ、トマト、

フォロワー 51人99

  運:9足あと999日常


「は?」


「うわ何だこれ気持ち悪っ」


「きもち……わる……?」


「スキル生成の際にイレギュラーなノイズが混入したのかもしれません。それにしても、このような幼稚でおぞましいものが生成されるとは……」


「オロロロロロロロロロロロロロロロロロ!!!」


「恐らく規定値以上の雑念が混ざった影響でしょう。生物の意識領域は非常に複雑なので、できるだけ余計なことを考えずにもう一度……どうしました?」


「あがっ、がっ、がっ、がっ、がっ、がっ、がっ」


「山吹恵さん?」


「……はっ!?い、今のはまさか!?」


 私は覚悟を決めて、もう一度ステータス画面を見る。


「オロロロロロロロロロロロロロロロロロ!!!」


「え、なに、こわっ」


「オロロロロロロロロロロロロロロロロロ!!!」


 うわきっつ……でも間違いない。

 断片的だけど私が昔ハマっていたブログ作成サイトのプロフィールだ。

 しかも口と鼻をハートスタンプで隠した自撮り付き。

 当時の自分はよくこんな恐ろしいものをインターネットに公開できたなと改めて……ん?


 HP:8756/9999


「山吹恵さん、もう一度両手をーー」


「ねえ、これ大丈夫なの?ものすごい勢いで減ってるんだけど」


「どれですか?」


 HP:7481/9999


「おや、本当ですね。少々お待ちください……え、2万ダメージ?あー、これはもう手遅れですね」


「ちょっと……」


 もしかして、結構やばい状況?


 HP:6210/9999


「まあいいか。代わりはいくらでもいるし」


「ねえ、手遅れってどういうこと?私どうなるの?」


「消滅します」


「はい?」


 HP:4671/9999


「ちょっと、えっ、待って、ねえ、消滅するって、えっ、なに、どういうこと?」


「業務連絡。回収部署、こちら101室の5667049371番です。はい、ケース840です。至急代わりの個体の手配をお願いします」


「ねえゴローくん聞いてる!?」


「はい、その条件で……いえ、オスではなくメスでお願いします。死因は問いません。はい、それではよろしくお願いします」


 あ、そうか。

 きっと夢から覚めるってことだよね。

 まさか不意打ち黒歴史&2歳児の罵倒オチだとは思わなかったけど。


「また最初から説明かあ。面倒くさいなあ」


 ゴローくんはもう私に興味をなくしているようだ。


 HP:2636/9999


 HPがどんどん減っていく。

 でも大丈夫、だってこれは夢だから。


 HP:2165/9999


 目が覚めたら病院のベッドの上。

 点滴に繋がれていて、全身が地味に痛くて、退院までちょっと不自由な入院生活が待っている。


 HP:1741/9999


 心配することなんて何もない。


 HP:457/9999


 絶対大丈夫。


 HP:0/9999

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