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プロローグ

「さすが作家目指してるってだけあって物語の完成度は高いね。いいと思う」

 校舎の端の人通りの少ない場所にある教室で、1人の男子生徒――杉山宏人の書いた小説を読み、文芸部の部長が言った。

 新学期が始まってから1ヶ月ほどが経ち、文化祭に向けて文化系の部活が本格的に始動し始める5月。今年から活動を開始した文芸部は、文化祭で出版する冊子に載せるための小説を持ち寄り、お互いに作品を評価していた。その中で、今日は宏人の小説について部員全員で意見交換をすることになっていたのだ。

「うちには恋愛小説を書ける部員が今までいなかったから、宏人には期待してるし、現時点でこれくらい書けるなら、本当に作家なれるんじゃない?」

 部長の感想に続けて他の部員も宏人の小説を絶賛する中、ある程度意見が出尽くした所で、

「ちょっといい?」

と、それまでずっとパソコンで作業をしていた顧問が口を開いた。

「1つ聞きたいんだけど、杉山って恋愛経験あるの?」

「完全にゼロってわけじゃないです。一応中学の時に少しだけ彼女がいたことはありますね」

「少しだけってどれくらい?」

「具体的に言っちゃうと3ヶ月くらいですね」

 宏人がそう言った途端、教室の中に部員の笑い声がこだました。

「宏人、それは世間では恋愛経験あるって言わないぞww」

「わかってますよそれくらい。だから『ゼロじゃない』って前置きつけたんじゃないですか」

「まあ確かに気持ちは分からなくもないけど。それで、先生は宏人の小説を読んでどう思ったんですか?」

「改善点があるなら言っていただきたいです。作家目指してるんで」

「なら遠慮なく言わせてもらうけどさ、何と言うか、杉山の小説は確かに小説としての完成度は他に比べて高いけど、恋愛小説って考えた時に、なんとなくリアリティが無いんだよね」

「なるほど、リアリティですか……」

「何と言うか、恋愛小説を読んだ時のドキドキする感じがあんまり無いっていうか、リアリティが無いことで物足りなくなってるように感じるんだよね。そこが改善されれば本当に優秀な小説が書けると思うんだけど」

「分かりました。これから頑張ってみます」

「頑張るって言ったって、リアリティのためにできることって何なんだよww」

「何なんでしょうね?本当に何すればリアリティって得られるんでしょうね?」

「まあパッと浮かぶのは本当に恋愛するってことくらいだけどね」

「まだ知り合って1ヶ月くらいしか経ってない人と付き合えって言うんですかww」

「小説のためって言えばいけるんじゃない?」

「知り合って1ヶ月くらいの人に『恋愛小説のスキルアップのために付き合ってくれない?』なんて言われて付き合います?相当モテる奴以外は逃げられると思うんですけど」

「まあこれから頑張っていけばリアリティも出てくるでしょ。まだ1年生なんだから将来性もあるし」

 そんな会話がしばらくの間続く中、宏人はまさか本当に「恋愛小説のために」彼女ができるとは夢にも思っていなかった。

読んでいただきありがとうございました!

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