まあ、背に腹は替えられんか。
天空騎士団。
大そうな名前をつけたものだと最初こそは思ったが、戦歴を聞く限りは王国軍のトップエースである。
激戦区を転戦し各地で輝かしい武功を挙げている。
俺達が王都に召喚された頃は、帝国に足並みを揃えて侵攻して来た首長国や公国を相手に奮戦していたらしい。
首長国戦線では勇将テオドール将軍を討ち取るという大功を挙げている。
そして先月、両国との休戦条約が締結されたので、この合衆国戦線に投入されたとのこと。
『デサンタさん。
そんなに強い部隊なんですか?』
「…王国軍のトップオブトップ。
各地の精鋭部隊のエースだけを引き抜いて構成されているんだ。
ガチだよ。」
天空騎士団の旗指物は《青地白翼》と鮮やかなカラーリングなので、遠目からでも所在が分かりやすい。
心なしか、他の部隊より動きが速いように見える。
「いやいや、そりゃあそうだよ。
天空騎士団には最高級の駿馬が支給される。
馬具も武器も常に最新型で固めている。
他の部隊とは格が違うよ。」
『でも、デサンタさんも騎乗を許されてたでしょ?』
「いやいやいや!
そういうレベルじゃないんだって。
俺なんて*精鋭部隊への受験資格が与えられただけの雑魚だから。」
*一般兵の上位2%くらいにしか与えられない。
『はえー。
じゃあ、天空騎士団が到着したことで。』
「うん、この時点で王国側の勝確。
しかも戦場は見通しのいい平野。
ワンサイドゲームになるよ。」
『なるほどー。』
頷いてはみたが、この時点では半信半疑だった。
聞けば天空騎士団は定数1000名。
そりゃあ多少は強いのだろうが、数万同士の合戦に影響を与える程のものだろうか?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【2時間後】
『アレは反則でしょ。
あんな部隊に勝てる訳ないじゃないですか。』
「だからそう言ったじゃない。」
天空騎士団の機動力は圧倒的だった。
戦端が開かれるや否や、戦場を大迂回して合衆国軍の戦列に横槍を入れた。
合衆国側が動揺して浮足立つと、後は処理作業。
逃げ遅れた部隊をサクサク潰していき、残されたのは合衆国兵の大量の死体。
理不尽なまでに強かった。
『いやあ、王国軍って怖いですねえ。
ちょっと舐めてました。』
「ちなみにもっと怖いことになるよ。」
『え?
何が?』
「その天空騎士団がこっちにやって来た。」
『えー、やだなー。
何の用だろう。』
「ヒント。
集落に軍隊がやって来る時の用事とは?」
『え?
ひょっとして徴発ですか?』
「だろうねえ。」
但しデサンタの読みでは、突然斬りかかって来る事はないとのこと。
今の王国にはこれ以上敵を増やす余裕はない。
もっとも、俺は彼らが戦線を拡大している場面ばかりを目撃しているので何とも言えない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「御用改めであるッ!!!」
凄まじい大音声。
声のデカさだけでオス度の高さが伝わって来る。
惣堀の向こうに居るのは恐らくは天空騎士団の首脳陣。
心なしか体格・馬格がデカすぎる気がする…
参ったなあ…
今日は夕方に上京して来る犬童を迎える約束してるんだけどな…
物陰に隠れようとするも銅鑼声が追い討ちを掛けて来る。
「トビタ氏との面会を要求する!!」
義父ブラギと目が合うも、《行け》の合図。
仕方がないので、無言で惣堀の縁まで歩み寄る。
相手を刺激しない為にも戦士階級は同行しない。
老齢の為に腕利きである事が分かりにくいロキ爺さんだけが傍らに立つ。
「天空騎士団団長!!
レフ・レオナールである!!」
『あ、飛田です。
どうもです。』
ガタイが良すぎて遠近感が狂うのだが、レオナールの身長は低めに見積もっても2メートルはある。
いや、2.2メートルは確実だな。
言うまでもなく横幅もゴツい。
顔つきも好戦的っぽく、あまり関わり合いになりたくない相手だ。
「まずは礼を述べる!!」
『え?
御礼?』
「鉢伏山の供与に関してだ!!」
『あ、なるほど。
どうもです。』
「ただ、不満も残るなぁ(ギロッ)!!」
『(ビクッ)
え?
不満っすか?』
「1日金貨10枚はやや暴利と感じる。
また、合衆国にも貸し出しをしている点が納得が出来ない。
この一帯は王国領である。
何故王国人の君が合衆国にレンタルしてしまうのだ?
裏切り行為ではないか?」
レオナール隊長が槍の石突で大地を突く。
間に深い堀が掘られているにも関わらず、何故か衝撃が伝わって来る。
そう、俺は恫喝されているのだ。
相手が怖い人なので心理的には屈したい気持ち。
もっとも経済的な観点から見て屈する気はさらさらないのだが。
3分も話さないうちにレオナール団長の真意が理解出来た。
要は《兵糧を寄越せ》という話なのだ。
恐らく天空騎士団の武力をもってすれば、鉢伏山は元よりノースタウンを陥落させる事すら可能なのだろう。
だが、戦線を維持する為の兵糧がない。
余程歯痒い思いをしているのだろう。
レオナール団長は坑道の入り口付近で放している山羊の群れを無言で観察している。
「誠意を見せて欲しい。」
『…誠意と申しますと?』
「誠意と言えば誠意だよ。
そこは自分で考えて欲しい。
我々はニヴル族が敵ではないと信じているが…
そうでない者も多少は存在する。
証明をしなければ困るのは君達じゃないか?」
『困りますか?』
「これは善意の独り言なのだが…
通商路に検問所が建てられるかも知れないな。」
『え?
ちょっと待って下さいよ。
それって経済封鎖ってことですか?』
「いやいやいや、物騒な話をしてはいけないよ。
言葉を慎みなさい。
誇り高き王国軍人が自国民を困らせるような真似をする訳がないじゃないか。」
『…。』
「じゃあ、誠意を払ってくれるね?
今は金銭よりも兵糧の方が欲しいかな。」
『…。』
「黙ってても話は進まないよ?
あ、そうだ。
君達が誠意を払ってくれるまでは、ここで休憩しちゃおうかなー。」
言うなり天空騎士団は俺の眼前でテキパキと野営陣を組み上げてしまう。
流石は最精鋭部隊である。
テントの組み立て一つとっても、3倍速くらいで俊敏である。
そしてご丁寧にも櫓を組んで俺達の坑道を見下ろすように監視し始めた。
さて困ったな。
こっちも食糧に余裕がある訳では無いんだがな。
まあ、背に腹は替えられんか。
コイツらは日の沈む前に皆殺しにしよう。
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