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俺の負けです。

朝、デサンタ曹長と一緒に子山羊を撫でて遊ぶ。

寝転がって草笛を吹きながら今後の身の振り方を相談。



『合衆国に移住しますか?』



「歓迎はされなさそう。

俺も今月だけで相当の合衆国兵を斬ったからねぇ。」



『そして、王国にこっそり戻るのも難しいんですよね?』



「うーん。

取締部署に出向してた時期もあるから分かるんだけど…

脱走兵に居場所は無いね。

すぐに通報されると思う。」



『通報されたら…』



「その週のうちに斬り殺されて終わり。

部署に居た俺が言うんだから間違いないよ。」



『地味にキツいっすね。』



「派手にキツいよー。」



俺達が雑談していると、他のメンバーも起床してくる。



  「曹長殿!

  寝坊して申し訳ありません!」



「もう俺達は軍人じゃない。

起床ラッパも朝点検もない。

だから、何時起きても問題ないよ。」



  「…そうでありますか。」



「山羊を撫でるかい?」



  「え?

  山羊でありますか?」



「トビタ君が教えてくれたんだ。

気持ちが落ち着くってね。」



脱走兵達は呆けたような表情で座り込んでいる。

そりゃあそうか。

軍隊の中では全てを規制され汎ゆる命令を遂行させられてきた。

急に自由が湧いても困るよな。



「ねえ、トビタ君。

俺達、今日はどうしよう…」



『そうっすねえ。』



「何か手伝うことある?」



『えーっと。

何だろう?』



「力仕事は…

流石にドワーフにそれを申し出るのは失礼か。」



『そうでうすね。

彼ら数百㌔くらいの荷物は普通に運んじゃいますからね。』



「あはは、俺じゃあ何の役も立たないわ。

聞いたよ、ドワーフって背は低いけどパワーもスタミナも抜群で万能なんだろ?」



『いやー、万能は言い過ぎでしょう。

農耕とか畜産は苦手だって言ってますしね。』



「え?

農耕が苦手?

何で?」



『うーん。

ドワーフが苦手って言うよりも人間種がそういう作業に向いてるんじゃないですか?

だってちょっと小銭を持ったら皆さん自分の農園を持ちたがるじゃないですか。』



「そりゃあ、俺だってカネさえあれば真っ先に自前の農園を確保するよ。

農園されあれば、何とか自活出来るし…」



『ドワーフにとっては、それが鉱山なんです。

人間種が老後に菜園を始める感覚で自前の穴を掘ってます。』



「え?

そうなの?

って言うかアレって個人所有?」



『大きな鉱山だと坑道がバラ売りされてますし、鉢伏山みたいな辺鄙な場所だと個人でも所有可ですね。』



「はえー。

そこら辺は種族差だねえ。」



『この辺はドワーフが所有している土地ではないので自由にはならないと思いますが…

頼めば農耕地を割り当ててくれると思います。

荒れ地なので農耕には向いてないと思いますけど。』



「いや、かろうじて蕎麦なら成るかも。」



『え?

そうなんですか?』



「うん。

行軍中、ずっとその話をしてたもの。

農奴から徴兵された奴も多いからさ。

ほら、アイツら荒れ地の開墾とかさせられるじゃん。

だから、こういうゴツゴツした土地の活用方法は詳しいんだよ。」



そう言ってデサンタは農奴出身の兵士を何人か紹介してくれる。

皆で車座に座って傾聴。



  「穀物は無理ですけどカブと大根は普通にイケますよ。」


  

  「山羊と棲み分ければ農園は可能なんじゃないかな?」



  「僕、地元がこういう土地なんですけど…

  トマトと枝豆は育つと思います。」



何となく道が見えて来る。

ただ問題はそこではない。

彼らが暮らすだけならそれでも構わないのだが、この土地で農耕が始まれば王国・合衆国がより強硬に領有権を主張するだろう。

現状、この地に徴税吏事務所が存在しないのは国境際の荒野であるからだ。

そして何よりドワーフが半自立的な存在だから。

だが人間種を主体とした産業が起これば、両国は徴税を試みるだろう。



『ニヴルの規定では地表の作物は2割を氏族に納めることになってます。』



「え?

二公八民ってこと?

逆じゃなくて?」



『それくらい農耕をやりたがる者が居ないんです。

人間種だって自主的に坑道掘りを始めることは殆どないでしょ?』



「へー、いいなー。」



『その代わり産業としての優先度は後回しにされますよ。

あくまで鉱物資源がない隙間で許されるだけなので、鉱業の邪魔ならあっさり許可が打ち切られます。

鉱害への配慮もゼロですし。

まあ、それが人間種がドワーフ種を嫌う原因だと思いますけど。』



「あー、そこまで関心がないから裏返しで税が安いってことだね。」



皆の見ている前でギョームに頼む。

脱走兵を匿う事の是非を長老会議に問うて欲しい、と。

デサンタ達は不安そうな目線でギョームの背中を追っているが、心配の必要はない。

既に脱走兵が流れ込んで来た場合の対処法は全て決定しているからである。

無論、恩を着せる為に丸2日回答を保留するが、全ての脱走兵に小農地が分配される事が決まっている。

どの場所にどう配置するかも決まっているし、人間種がどうやっても力を持てない仕組みも作ってある。

周辺に人間種が増えるのはニヴルにとってもかなりのプレッシャーだが、肉の壁や政治的ブラインドが必要不可欠である事も痛感している。


言うまでもなく脱走兵など不安要素以外の何者でもないのだが、そこにあるなら労働資源として活用するべきであろう。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『え?

金貨300枚払うんですか?

王国が?』



「うん。

しかも、先日の使者は中尉だったけど今度は中佐。

言い値で払うから君と面談したいんだってさ。

本営に来て。」



『あ、はい。』



エヴァだけを連れて惣堀に掛けられた縄橋を渡る。

振り返ると、脱走兵達は山羊が気に入ったらしく雑草を食べさせたりして遊んでいる。

寝転がって草笛を吹いている者も居た。



「トビタ殿ですね。

まずは先日の非礼をお詫びしたい。」



『あ、いえ。

お構いなく。』



「まず金貨300枚、1か月分!

お支払いさせて下さい!」



『あー、どうもどうも。

毎度ありがとうございます。』



「それで領収証の件なのですが。」



『はい。

原則的に宛名は《人間種様》となりますが…』



「待って下さい!

合衆国には国名で発行されたと伺っております!」



『ええ、お願いされたので同国を宛名とさせて頂きました。』



「我が国にも同様の措置をお願いしたい!」



『はい、構いませんよ。

それでは宛名は《王国軍様》としましょうか?』



「是非!」



『但し、その場合。

契約中、王国軍以外は鉢伏山停車場を使用出来ません。

それでも宜しいでしょうか。』



「ええ、寧ろ望むところですよ!

我が軍以外に使われては困りますので!」



『承知しました。

但し、今はまだ合衆国さんの契約期間が残っております。

領収証の発行日は合衆国の契約期間終了日の翌日から30日となりますが…』



「え!?

あ、ちょと待って!!

じゃあ、それまで使っちゃ駄目ってこと!?」



『いえ。

あくまで人間種さん同士で仲良く使って下さる事を想定した契約なんです。

強くお願いされたから宛名を国名で表記しているだけで…

俺としてはあの鉱山は人間種さんに貸し出している認識に変わりはありません。』



「…じゃあ、我々も人間種だから、もう使っていいんだよね?」



『そこら辺はよく分らないので合衆国さんと話し合って下さい。』



「いやいや!

ちゃんと調整してくれなきゃ困るよ!!

こっちは客だよ!」



『…別に俺はそれでも構わないのですが。

それだと、ドワーフが人間種同士の戦争を調停したという前例が出来てしまいますよ?』



「え!?

あ、いや!

それは困る!!」



『ええ、俺もそう思います。

中佐殿が復命される時に是非伝えて頂きたいのですが…

我々ニヴル族には人間種の政治や戦争に介入して利益を得るという魂胆はありません。

今回のノータッチもその証明だと考えて下さい。』



「…分かりました。

上官にはその様に伝えます。」



『領収証、どうします?

今日は取引無しにしましょうか?』



「すぐに戻ります!

一旦上官の判断を仰がせて下さい!」



中佐氏は猛スピードで鉢伏山に駆けていく。

長老衆を振り返るとクスクス笑っていたので、及第点ではあったのだろう。



『お義父さん、如何でしたか?』



「そもそも論として王国は…

30日間も鉢伏山を保持出来ないだろうなあ。」



『ですねえ。

古参下士官が逃亡するってよっぽどですよ。』



「だからこそ領収証を血眼になって欲していると?」



『ええ、彼らが壊滅して本国に帰還したら、まずは敗戦責任を問われると思うのです。

一時的でも現地勢力の懐柔に成功したという物証があるに越した事はないでしょうから。』



「まあなあ。

このままだと彼らは何も得る事のない侵攻戦を行った事になってしまうからな。

しかも5万の軍勢だろ…

途中の村々ではキツめの徴発を行ったらしいし。」



結局、中佐氏はその日のうちに戻って来て金貨300枚を払った。

宛名は《王国軍様》とし、日付は合衆国軍との契約満了日の翌日とする。

現在、合衆国が権利保有している土地を王国が占領している形になるが…

そもそも戦争ってそういうものだからな。



『では長老会議に貢納金として…』



「トビタ君、前に払ったばかりじゃろ。」



『まあ、そうではあるんですけど。

今は一枚でも多くの金貨を氏族に溜め込む時期だと思うんです。

俺としては最低200枚は受け取って欲しいんですけど。』



「…折半。」



『承知しました。』



はい、前回と合わせて計300枚の金貨を獲得。

異世界なら兎も角、地球ではこれだけで一生暮らせる。


異世界の金貨は概ね50㌘強。

品位は24k。

仮に村上翁に㌘1万で処分をお願いするとすれば、1枚50万円。

つまり、300枚×50万円=1億5000万円。

よし、これで遠藤・沼袋・ラァラ(本名)を当面養う事が可能だな。

あくまで体感だが、産まれた子供の小学校入学までは何とか凌いで貰えそうな気がする。



『あの、長老の皆様にお伺いしたいのですが…

生活は成り立ちそうですか?』



「ふふふ。

もうすぐトンネルが完成するんじゃ。

掘削途中で盆地も発見したしな。」



『おお、流石!!』



「まだ調査中だから何とも言えんが、その盆地は全くの無人。

水量は少ないが小川も流れておる。」



『え?

凄いじゃないですか。』



「ふふふ。

ニヴルは君が思っている以上に優秀じゃよ。」



長老の1人が小袋を投げて寄越す。

中には…



『ルビー!?

しかも粒が大きい!!』



「はっはっは。

ガルドの奴から頼まれてたのよ。

トビタ君がルビーを集めてるってな。」



『あ、いや。』



「恩賞じゃよ、受け取りなさい。」



『き、気持ちは嬉しいのですが…

こんな高価な物は受け取れませんよ。』



「でもどうせこっそり換金して、氏族の為に費やしてくれるんだろう?

これまでそうして来たように。」



『あ、いえ。

誤解があるようなので報告しますが、俺だって全額をニヴルの為に使ってきた訳ではないですよ?

私事にも費やしてますし。』



「ブラギから聞いてるぞww

新婚早々、外で娼婦を孕ませたんだって?」



ブラギ以外の全メンバーが笑う。



「…君の脱走兵活用構想。

最初は首を捻ったがな。

案外良いアイデアだ。」



『ありがとうございます。』



「確かに人間種をダミーとして全面に押し出せば…

我々は恨みを買わずに交易の利を得れそうだ。」



『ええ、多少の調整は必要になると思いますが…』



「だがなあ。

人間種は農耕が得意だから…

今は脱走兵の境遇でも、時間が経てば豊かになって我々を圧迫するんじゃないか?」



『ああ、それなら御心配なく。

農地は細かく分断して富が蓄積されない仕組みを作りますよ。』



「ふむ。

そんな仕組みが作れるかね?」



『土魔法の使用許可があれば…』



「ああ、君の嫁さんの話なww

ワシも遠目に見たけど、すっごい魔力だなあ。

アレが男だったらなあ。」



『檻みたいな形状の一反農地を造成してみます。

何故か土壁っぽい隆起で囲われてる奇妙な農地を個々に分配。』



「うーーーん。

でも、それじゃあ人間種が住み着いてしまわないか?」



『ところが穀物が育たないから、住みつく事は出来ないんです。

大して高額ではない商品作物しか作れない。

しかも都市が遠いから個々が売りに行ってもペイ出来ない。』



「活かさず殺さず、と?」



『ここに居る限り生存は出来るし、多少の貯金や職業経験も蓄積されます。

ただ、所帯を持つのはかなり難しいですね。』



「お、君も所帯を持つ苦労を分かって来たかw?」



『ははは、結構物入りですね。』



皆で大笑いして話は終わり。

筋書きが鮮明化した所為か、皆の表情は明るい。



・魔界とのトンネル開通間近。

・手つかずの盆地発見

・王国の弱体化判明



明るいニュースが多いので、俺の気力も増して来る。



『では懸念点はなさそうですね。』



「…いや、それがの。」



『あ、はい。』



「実は炉が上手く回っておらん。

丁度、風が通らない地形なんじゃよ。

うーーーーん。

色々と場所をずらせないか試行錯誤しているのじゃが…」



『なるほど。』



「我々の真骨頂は人間種では扱い得ない高炉!

これがあるからこそ、人間種から様々な案件を受注出来ておるのだ…

風さえ!

風さえあれば!」



  「な、な、な、なーんと!

  天目山エターナル風林火山ウインドは永続技です!」



『なるほどー。』



「トビタ君。

君にばかりお願いして申し訳ないが…

風魔法使いをスカウトして来てくれんか?

それも持続系の風魔法を得意とする者が欲しい!!」



  「MPが尽きるまで任意の地点に風を吹かせ続けます!」



『なるほどですねー。』



「心当たりはないかね?」



  「しかも消費MPより

  私のMP回復速度が上回っているので!

  永遠に風力発電を回し続けることが可能です!

  永久機関は実在したァァァッ!!」



『うーん。

ちょっと心当たりがないですねー。

まあ、ぼちぼち探しておきます。』



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



翌日、その翌日は平和だった。

脱走兵達には少量ながら団子やチーズが支給される。


無論、曹長達もただ遊んでいる訳ではなく、岩を組んで炊事場を作ったり材木の研磨を申し出たりして、何とか居場所を作ろうと必死だった。

脱走兵の中に農奴出身の兵士がおり、豪農の家で課せられていた漬物製造に関しての提案を行う。



「大根と人参なら毎日作らされていました。

ドワーフの皆さんのお口に合うかは分かりませんが、必要ならお役に立てると思います!」



長老衆も興味を持ったのか、実験的に漬物製造が任される事になる。

まずは人参が一箱だけ支給され、俺も塩を贈った。

みな最初は半信半疑だったが、彼が器用に人参をスライスしていく様を見て未使用の壺も追加支給。

あまりに手際が良いので大根も一箱追加支給され、賃金として干し肉が下賜される。

これに刺激を受けたのか、陶器工員出身の男が名乗りを上げる。



「あ、あの!

僕は兵士としては足手纏いでしたが、陶器作りなら人並み以上の仕事が出来ます!

ニヴルの皆さんが必要としている陶器はありませんか?」



陶器の不足に困っていた所なので、彼には粘土が支給される。

すると器用に皿や湯飲みの原形を作ったので、ロキ爺さんが面白がって焼いてしまう。

その日の夜には完成し文句のない堅牢さであったので、バルンガ組合長が100枚の平皿を発注した。

やはり共同で仕事をしたのが良かったのだろう。

惣堀の中から職人組が遊びに来て酒食が振舞われた。

皆で放歌高吟し、大いに盛り上がる。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



さて問題は宴の翌日である。

和やかなムードで山羊の解体を行っていたところ、不意に楼上の戦士団が警笛を鳴らす。

慌てて振り返ると、見張り兵が南方を激しく指さしている。

皆で岩場に登って眺めると…



『デサンタさん。

合戦ですか?』



「あー、今度は王国軍が追撃されてるねー。」



『鉢伏山は…

合衆国側が再占領?』



「うーーーん。

ここからじゃ良く見えないけど…」



俺が鉢伏山を指さしながら首を傾げると、楼上の見張り兵が《戦況反転》のブロックサインを送ってくれる。



『あー、多分合衆国側が取ってますねぇ。』



「そっかー。」



『まさか王国の陣がこんなに簡単に破られるなんて。』



「流石に何も食わせて貰ってないのに防衛戦なんて無理でしょ。」



『ですよねー。』



言っている間に総崩れになった王国軍が追撃を受けみるみる討ち取られていく。

豪華な衣装を着た一団だけが振り返りもせずに逃げ去って行ったので、あれが首脳部なのだろう。



「あ、ゴメン。」



『はい?』



「えっと、多分あの2個小隊はこっちに流れて来る。

50人くらいかなぁ。」



『え?

そうなんですか?』



「敗走中の兵隊は行動が読めないから怖いんだよな…

トビタ君、どうすればいい?」



『え?

いや別に。

逃げ込むくらいでしたら…』



「一旦、君達は避難して欲しい。

多分、話は通じると思うんだけど。」



デサンタの勧めもあり、縄橋を渡って惣堀の中に避難。

30分程して2個小隊が駆け込んで来る。

脱走兵と敗走兵では感覚が異なるのだろう。

激しい口論の声が聞こえる。

ギョームと顔を合わせて仲裁しようか悩んでいると、不意に複数の悲鳴が上がった。



『デサンタさん!!!』



「俺は大丈夫!!」



駆け付けてみると、小隊長らしき肩章を付けた死体が2つ。



『え?

これは?』



「トビタ君。

釈明をさせて欲しい。」



『あ、はい。』



「小隊長達に説明したんだ。

俺達がこの数日如何にニヴルの皆さんに助けて貰ったかを。」



『ええ。』



「そしたら…

小隊長達がニヴルから食料を奪って戦線に復帰しろって騒ぎ出して。」



『なるほど。』



「説得すればするほど逆にエスカレートしちゃったんだ。

そしたら。」



話がそこまで進むと数名の兵卒が挙手をした。



  「自分達がやりました!」



  「軍法会議も覚悟の上です!」



  「もう他に道が無いと判断しましたので!」



暗黙のルールとして、兵隊の職務にはパニックになった上官の処分も含まれているとのこと。

この最も重要な業務に従事する報酬は斬首刑というのだから兵隊さんは大変な仕事だと思う。

居合わせた全員で遺骸を埋葬し合掌。

ロキ爺さんやギョームが恭しく死体に黙祷する姿を見た敗走兵達は相当のカルチャーショックを受けたらしい。

皆が放心したように俺達を眺めていた。



【保護下の人間種68名】



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



その夜。

王国の将校が来訪。

階級は准尉。

聞けば臨時任官した士官学校生らしい。



「単刀直入にお尋ねしたい。

現在、鉢伏山の正当な賃借人は誰か?」



『え?

明後日までは合衆国さん。

それ以降の30日間は王国さんですね。』



「では布告を出して貰いたい!」



『え?

布告ですか?』



「3日後以降に合衆国が鉢伏山に居座った場合、それは不法占拠である!

なのでニヴル族には、これに対する非難声明を出して欲しいのだ。

それも国際社会に向けて!」



『いやいやいや。

流石に人間種さん同士の戦争にそこまで深入りするのは…』



「貴殿も人間種であろうが!」



『俺はもう婿入りしちゃったので…

勿論遺伝子的には人間種なのですが、ニヴルの一員を自認しております。』



「分かった、この話は後回しにしよう。

それより非難声明だ。

万が一3日後も合衆国が鉢伏山に居座った場合。

それは我々の正当な賃借権を侵害したことになる。

そこは間違いないな?

ちゃんと証書も交わしたよな?」



『あ、はい。

まあ、そうなるのかな?』



「奴らがおとなしく撤退要求を呑めばよし。

拒めば信義を破った罪を全世界から糾弾されなくてはならない。」



『え?

信義…

ですか。』



「非難声明の書状。

前倒しで作成して貰えまいか?

どうせ奴らは居座るに違いなからな。」



『いやいやいや。

その理屈だと、王国さんが今日まで前倒しで占拠していた非難声明を合衆国側から依頼されちゃいますよ?』



「我々はいいんだよ!

ここらは正式には王国領なんだから!」



『そうは言われましても…』



「そしてもう1点!!」



『え?

まだあるんすか?』



「翌月の契約もお願いしたい。」



『え?

いや、困りますよ。

合衆国さんには1ヶ月更新って説明してますし。』



「ほら金貨300枚だ!

拒否は許さんぞ!!」



『いやいやいや、急に渡されても…』



「来月には本隊が到着する事が決定している!

ウィリアム殿下やジョーンズ元帥も鉢伏山に御在陣の予定だ!

所有権について僅かでも瑕疵がある事は軍の面子に賭けても許されん!!」



『なるほどー。』



「ほら、ここに置くぞ!!」



『いや、ちょ!』



「直ちに領収証を発行するように。

計60日間の賃借だ。

拒むと為にならんぞ!!!」



『参ったなー。

…ええ、参りました。

俺の負けです。

そこまで言われては折れざるを得ません。

じゃあ、これ追加の領収証です。』



准尉氏は無言で力強いガッツポーズ。

こういう人が軍隊社会で出世するんだろうな、と思いながらその背を見送る。



『お義父さん、これも折半ですか?』



「いや、君が200枚でいいよ。」



『それじゃあ俺が取り過ぎでしょう。』



「その気遣いは王国人にしてやれw」



皆で大笑いして話を締めくくった。

この案件での取得金貨は計500枚。

子供達の中学入学くらいまでは賄えるかなあ。

この話が面白いと思った方は★★★★★を押していただけると幸いです。

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