実は俺も結構異世界ではキョロキョロしてるんだよ。
さて、先行していた民兵2名が射殺されている。
何気なく見上げると、弓を構えた人影が樹上の簡易足場に立っているのが見える。
「本職の弓兵だなー。
軍隊崩れかも。」
民兵のリーダーらしき者がそう呟きながら仲間の遺骸を背負って元来た道を戻って行った。
「不用意に近づいたら君達も射殺されるぞー。」
言われなくとも想像が付くので、距離を取る。
高橋と俺は離れた場所から弓兵を見上げるが、彼が持ち場を離れる様子はない。
30分程すると高橋は俺をチラチラと見ながら別の敵を求めて去って行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、人目は無くなったな。
地球で使いたい戦法を試しておくか。
『うおーーーー!!!』
わざとらしく叫んでみると樹上の弓兵が視線をこちらに向けて腰を落とした。
遠目で表情は分からないが、不思議と殺意だけは伝わってくる。
ただ、この位置までは届かないのか、矢をつがえる様子はない。
俺が5歩進むとゆっくりと箙から矢を取り出した。
更に5歩。
突然男が高速で射撃体勢に入って、ほぼノータイムで…
『ワープッ!!!』
眼前に現れた広い背中を全力で突き飛ばす。
「うおっ!?」
何が起こったのか分からないまま、弓兵が高い樹上から落ちた。
俺も変な態勢で落下するが地面に叩きつけられる寸前に樹上にワープして戻る。
「ぐああああああああ!!!!」
弓兵は咄嗟に自らの両手をクッションにして頭を打つのを防いだらしい。
転げ回って激痛に堪えていた。
苦悶の悲鳴を挙げながらも、必死で左右を確認して状況を把握しようとしている。
…アイツ、結構凄い奴なんじゃないだろうか?
『ワープ!!!』
男の側に瞬間移動し、短剣で後頭部を深々と貫いた。
弓兵は一瞬だけ、もがき…
すぐに動かなくなった。
怖かったので数か所を刺したが、悲鳴はおろか痙攣すらなかった。
名もなき豪傑は死んだのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「軍功発表ッ!!」
整列した討伐参加者の前で副団長が広げた巻物を読み上げる。
「一番手柄ッ!!
南アガサ村のチャック・スミス!!
討ち取り4名!! 生け捕り1名!!
見事な戦果であると国王陛下もお喜びである!!
我々騎士団が留守の間によくぞ王都の平和を守ってくれた!!」
スミス氏は若い頃に兵士として前線で活躍した予備役。
現在、51歳。
武勇・人格共に評価されている人物なので、退役した今も度々招集されているとのこと。
手柄を挙げても決して鼻に掛けない性格なので村でも慕われている。
次期村長への就任も内定しているらしく、王様もかなり期待を掛けた存在らしい。
「二番手柄ッ!!
転移者の高橋慶介!!
討ち取り3名!!
その若さで見事である!!
今回の君の活躍で召喚の有用性が証明されたと言っても過言ではないだろう!!
戦闘は思っている以上に疲労が蓄積する。
今日はゆっくりと心身を労わるように!!」
進み出た高橋が恭しく副団長に一礼した。
最後に副団長が戦死者の名を読み上げ全員で黙祷し、論功行賞が終わった。
約束通り、討伐に参加した全員に金貨1枚と食券1か月分が支給される。
また討ち取った人数×5枚の金貨も支給される。
一番手柄のスミス氏には王から宝物が下賜され、更には南アガサ村の年貢が減免される。
(通常は五公五民だが、今年度の南アガサ村は四公六民となる。)
二番手柄の高橋にはブランド物の宝剣が下賜され、クラスメートの配給食に将校用の酒菓が一ヵ月間追加されることになった。
俺が殺した弓兵に関しては手柄認定保留。
だってそうだろう。
あんな高い所に居た敵を飛び道具も持たない俺が殺したのはどう考えても不自然だからだ。
後に、捕虜の取り調べで判明したことだが、あの弓兵は去年まで帝国の猟兵師団で活躍していた凄腕らしい。
部隊の積立金を横領して不名誉除隊処分になった後は盗賊の用心棒にまで成り下がっていたとのこと。
そんな凄腕を俺がどうこうしたと主張するのは馬鹿馬鹿しいので
「相手が足を滑らせて落下し苦しんでいたので夢中で刺しました。」
と証言しておいた。
やや珍しいケースなので討ち取り数にカウントするかどうか意見が割れたらしい。
前例をあれこれ調べていくうちに、今回のケースは討ち取りには含まれないと結論に至ったのだが、何故か金貨が3枚貰えた。
「軍隊が若者の努力に報いるのは当然じゃないか!」
辞退しようとしたが、主計係にそう叱責されたので素直に受け取った。
俺はスミス氏や高橋のように英雄にはならなかったが、【見込みのある若者枠】には入ったらしい。
手元には金貨が4枚。
慎ましく暮らせば半年は生き延びれる額らしいが、王家の紋章がデカデカと彫られたこの金貨が地球で換金出来るとは到底思えなかった。
実は俺も結構異世界ではキョロキョロしてるんだよ。
地球で売れそうな物が全然見当たらないのが辛いよな。