ワープ(×100)!!
ダンジョン攻略。
まさしくファンタジーの華なのだが、まさか自分が関与するとは思っていなかった。
でもまあ異世界だもんな。
ダンジョンがあっても不思議ではないよな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おう、トビタ。
俺、ダンジョンメンバーに選ばれたから。
しばらく留守にするわ。」
『え?
親方出禁じゃなかったんですか?」
「都合の良い時だけ駆り出されるんだよ。
一々言わせんな。」
『あ、そういうモンなんすね。
お気をつけて。』
「まあ小規模ダンジョンだし。
順調なら2泊で済むんじゃないか?
留守は任せたぞ。」
『じゃあ、坑木を入り口まで運んでおきます。』
「人間種には重いだろ?
…いや、オマエは小刻み移動か。」
『見られないようにしますので。』
「おう、手の内は出来るだけ隠せよ。
それが未来のオマエを守るんだからな。」
『はい!』
そんな感じで話を聞いた時点では当事者では無かった。
ガルドの為に水筒や弁当を用意して、引継ぎ事項をメモ。
完全に他人事として送り出すつもりだったのだ。
何でも、ここから南へ20キロほど進んだ辺りに廃坑があり、そこにモンスターが棲みついてしまって合衆国人は頭を抱えていたとの事。
冒険者ギルド合衆国支部も何度か討伐隊を派遣したのだが、悲しい結果に終わったらしい。
ニヴル氏族に話が回って来たのはそんな経緯から。
ちなみに氏族がガルドを指名したのは、屋内戦や市街戦の功績が図抜けているから。
本人も言っていたが、開けた平野よりも閉所での戦闘の方が性に合っているらしい。
もっとも、「昔、散々勝手をしたのだから埋め合わせをしろ。」という意味の方が強い。
「今思えば傲岸だったなあ。
青かったわぁ…
多少の無茶振りをされても文句言えないくらいには好き放題させて貰ってたわ。」
『え、でも武功も立てたんでしょ?
いつまでも責め続けられるのもおかしくないですか?』
「その武功にしたってなぁ…
俺、抜け駆けの常習犯だったんだよ。
その頃は《敵を倒したんだからいいじゃねーか。》って姿勢だったんだが。
あれは良くないわ。
うん、あれは良くない。」
『そっすか、俺も肝に銘じます。』
「だな。
特にオマエは行商人として期待されている。
問われる協調性に関しては、戦場の武者働きとは比較にならんよ。
窮屈だろうが、バルンガ先輩達と上手くやってくれ。」
そんな会話を交わして、ガルドの馬に荷物を積み込んでいる最中だった。
今回同行する討伐メンバーが深刻な顔で駆け寄って来る。
「ガルドさん、今ちょっといいですか?」
「おう、出発は午後だろ?」
「いやあ、ちょっと合衆国さんから追加要望がありまして。」
「え、何?
ノルマ増やされるの?」
「いえ、先方が今回のメンバーにトビタ君も加えて欲しいと…」
「え?
トビタは戦士じゃないよ?
それ合衆国さんには説明した?」
「ええ、ちゃんと名簿も提出した上での話です。
結構、食い下がって来られて…」
要はドワーフに対する不安と不信である。
合衆国側の立会人がドワーフとの共同作業に難色を示したのだ。
今回のアタックチームはガルドを筆頭にドワーフは5名。
一方、合衆国側のアタックチームは2人だけ。
この種族間のパワーバランスにクレームが入った。
「トビタ君の婿入りはそこそこ知られた話ですから。
先方としてはトビタ君が来るものだと思い込んでいたようで。」
「ああ、なのにこちらの提出したパーティー名簿にはトビタの名前が無かったと。」
「ガルドさん。
トビタ君の同行を認めて貰う事は出来ませんか?」
「え!?
いやいや、何言ってるの!
だってコイツは戦闘訓練も暗所実習も全くの未経験なんだぞ!?」
「勿論、我々も全力でカバーします。
トビタ君を連れて行かなきゃ、今回の話がポシャるかもなんですよ。
時期的に謝礼金は絶対に欲しいですし…」
「…トビタ、オマエはどうしたい?」
『俺なんかが役に立つとは思いませんけど。
それで先方が納得するなら…』
そんな遣り取りがあって、馬車ごとダンジョンに向かう事になった。
今回は運転を覚える為にエヴァと並んで運転席に座る。
ふと運転免許を取ろうとした事を思い出す。
地球に帰ったら免許取らなきゃな。
『エヴァさん、何か連日ゴメンね。』
「いいのよ、楽しいから。」
『え?
楽しいの?』
「旦那様と一緒にお仕事するのって女の夢なのよ。
悪い気はしないわ。」
『婦人会の仕事よりこっちの方がいいって事?』
「アレは悪夢。
好きで婦人会に入ってる子なんている訳ないでしょ。」
『みんなニコニコしてたから、楽しんでる婦人部員もいるのかと。』
「女は笑顔を強要されるの。
…疲れるわ。」
『ドワーフって男は無愛想なのにね。』
「羨ましいわぁ。
私も叔父さんみたいに、ずーっと眉間に皴を寄せていたい。」
『そう?
親方は結構笑うよ?』
「うん、だから皆が驚いているし、ヒロヒコの評価が高いのもその所為。」
こんな風に取り留めのない会話をしながら馬車に揺らえる。
世間一般の新婚さんもこんな感じなのだろうか。
いや、仕事にイチャイチャするのも不謹慎に思われるかもな…
ドワーフの価値観は未だによく分からない。
喜怒哀楽のツボが人間種とは明らかに異なるのだ。
合衆国人の不安も理解出来る。
小一時間走っていると、合衆国の騎兵が合流して来る。
運転席の俺を見るなり安堵の表情を浮かべたので、相当不安だったのだろう。
まあな、確かにドワーフって乱暴な種族だからな。
無駄に強くて人間種が御すのは極めて困難だし。
俺だって縁がなければ敬遠していたんじゃないだろうか。
「あの!
アナタ人間種の方ですね?」
『あ、はい。
飛田と申します。』
「おお、やはりトビタさん!
小官はハックマンと申します!
ジョン・ハックマン、階級は中尉。
宜しくお願いします!」
『ああ、それはそれはご丁寧に。
飛田飛呂彦です。
軍籍はありません、行商人です。』
ハックマンの隣を騎走しているのが部下のサンダース兵長。
母親が少数民族出身らしく、合衆国人の中ではダンジョン経験が豊富なのが選抜理由とのこと。
ダンジョンの脇には合衆国軍のテントが2基張られており、俺達と目が合うと整列して敬礼した。
合衆国側の支援要員は6人。
加えて明日の午後から偉い人が視察に来るとのこと。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【廃坑ダンジョン攻略パーティー】
「ニヴル族」
グンナル (長老の孫)
ガルド (年長者枠)
イヴァル (夜目が効く)
ハーコン (器用枠)
トルケル (期待の若手)
トビタ (荷物持ち)
※エヴァ (トビタの妻)
「合衆国軍」
ジョン・ハックマン中尉
デニス・サンダース兵長
※トニ・クルーガー少佐 (部隊長)
※ブルース・リヴァー技術少佐 (技官)
※クラーク・トレバー少尉 (衛生兵)
※マイク・キャリー曹長 (通信兵)
※ジム・コーナー伍長 (ポーター)
※ダン・フランクリン上等兵 (ポーター)
※は後方要員
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
現場に到着した俺達は合衆国側の人数が少ない事に拍子抜けする。
そこそこの金額が動いてる割に任務に従事しているのが一個分隊のみだからである。
「いえ!
我が国としては、この案件を重要案件と認識しております。
無論、ニヴル氏族の皆様の御不審はご尤もです!
従事者数が少ないのは首都から遠い上にモンスターが多い地域なので、人数を絞ったのです。
背後には1個中隊が道路整備任務に従事しておりますのでご安心ください。」
新兵のトルケル君(14歳)が身軽に丘を駆け上がって事実確認。
「崖下に合衆国軍旗が見えます!
ここから全容は確認出来ませんが、最低でも2個小隊は展開中!
大半が騎乗ッ!」
要は合衆国から見て、この辺はかなりの僻地なのだ。
(だからニヴルの居留が許可された。)
地元の駐屯軍ですら、あまり来たくはない立地。
ここで俺は合衆国の意図を予測する。
彼らはこの廃坑を売りたいのではないだろうか?
ただ、モンスターが住み着いたようなダンジョンを売り込んでは感情的な齟齬が生じる恐れがある。
なので、共同調査というワンクッションを挟んでから俺達の反応を確認した上で、徐々に販売なり賃借の形に持って行きたいのではないか。
だが馬車の中でガルドに見立てを話すと「それは一番楽観的なシナリオだな。」と笑われる。
そしてここからが、長老のお孫さん(27歳)のグンナル氏の意見。
「多分、お行儀を見られているな。」
『え?
そうなんですか?』
「モンスター討伐の腕前自体は既に信用されているんだ。
我々は実績があるから。
彼らにとっての問題は《ニヴル氏族をどこまで信用出来るか》に尽きると思う。
今回の討伐も試験の一環だな。」
『グンナル隊長。
俺に何か出来る事はありますか?』
「…出来るだけ合衆国兵と雑談を交わしてくれ。
我々が自然に話題に入れるように誘導して欲しい。
つまり異種族間コミュニケーションの仲介なんだ、合衆国やニヴルが君に期待しているのは。」
成る程、確かにな。
俺はニヴル唯一の人間種だ、人間国家とのクッション役に努めるべきなのかも知れない。
ドワーフはその容貌が極めて魁偉でありビジュアル的な圧迫感が非常に強い。
ガルド達は付近のモンスターを(善意で)狩っているだが、その殺戮劇が荒々し過ぎるのもドン引きポイント。
ニヴル側に威圧の意図は無いのだが、結果として合衆国の選抜チームが接しあぐねている。
そこで俺は、雰囲気を好転させる為にエヴァに頼んで人間種とドワーフが同時に食べれる茶菓子を出させた。
そしてピエロに徹して皆の自己紹介タイムまで漕ぎ着ける。
(陰キャなので辛い。)
小一時間雑談を交わして、クルーガー少佐とグンナルが後日酒を贈り合う所まで持っていく。
途中2カ所だけディスコミュニケーションがあり少しヒヤヒヤする。
…確かに俺如きでも間に入る価値はあったかもな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ダンジョン探索に関しては、当然俺の出番は無い。
この廃坑にはミニベアーなる巨大モグラが住み着いており大いに恐れられていたのだが、ガルド達はサクサク駆除していく。
「地下1階フロア制圧完了!」
フランクリン上等兵がキビキビ敬礼しながら報告してくれたので恐る恐る進むと、血の臭いが充満しておりそこらに頭をつぶされた人間大のモグラが横たわっていた。
一旦地下2階との階段を塞いでから合衆国人とみられる遺骨・遺品を回収。
ここからは我ながら小賢しいと思う発案なのだが、グンナルの口から遺骨に対しての黙祷を提案させた。
クルーガー少佐はこの提案に多いに喜び、皆で地上に上がってから遺骨に対して全員で黙祷。
これがかなり心証を稼いでくれたらしく、合衆国兵がニヴル個々に話し掛けるようになった。
上手くは言えないが、来た甲斐があったと思った。
その後、ニヴルで古来から使われている坑道防虫剤を散布。
(当然セールスも兼ねている。)
薬効が切れるまでの時間はミーティングを兼ねた懇親会に充てられる事になった。
「いやあ、流石はドワーフ種の皆様です!
素晴らしい御武勇!
感服致しました!」
クルーガー少佐が大袈裟に褒める。
無論、ドワーフが精強なのは既知の事実。
少佐が喜んでいるのは、コミュニケーションが成立したという点に対してである。
合衆国側の配慮もあったが、ニヴルも各所で気遣いを見せた事で作戦行動が恐ろしくスムーズに進んだ。
どうやら少佐はニヴルとの合同作戦には微塵も期待してなかったらしい。
寧ろ、ドワーフが野盗に豹変するのではないかと悲観していた。
(古代のドワーフは人間種に対して平然とそういう振る舞いをしていたので仕方ない。)
それだけに初日で足並みが揃ったの事に感激したらしいのだ。
エヴァが即興でドワーフの専門用語や固有道具の解説をした事も少佐を安堵させた。
合衆国側も彼らの道具や軍隊用語を教えてくれたので、メモを取った。
どんな社会にも不文律が存在し、それを侵し合ってしまう事で闘争は発生する。
つまり、互いのルールやエチケットを事前に学んでおけば不要な争いが発生する確率を下げる事が出来るのだ。
2時間経過して薬剤の効果が切れたので、皆で地下1階フロアに下る。
恐らくそれが本題だったのだろう。
合衆国側が鉱脈や地質の話題ばかりを振ってくる。
「どうですかー?
ニヴルの皆様から見て、こういう鉱山は価値があるものですか?」
この手の質問には正直に答える事を最初から決めていた。
皆を代表して鑑定部署に在籍しているハーコンが回答。
「断言は出来ないのですが、金脈があっても不思議では無い岩質です。
またミニベアーの体色からして、火属性魔石は確実にこの下にあります。」
合衆国側が静かに歓声を挙げる。
あ、彼らのこの雰囲気は金脈の存在を知っていたな。
(知っているからこそ、ドワーフが移住して来た途端に駆除を依頼したのだ。)
それをドワーフが正直に答えたのが嬉しかったのだろう。
次にガルドがミニベアーの死体から逆算して彼らの栄養状態や総数を推定する。
これが非常に好評。
積極的に情報を出そうとする姿勢に安堵した模様。
特にガルドは偏屈が顔に染み付いてるからね。
こんな気難しそうなジジーが協力的な態度を取ってくれると、落差効果で感激も倍増するよね。
「少佐殿。
今日中に地下2階を制圧する事も可能だと思いますが、如何しましょう?」
「ご提案ありがとうございます。
それではグンナル隊長、お願いして宜しいでしょうか?」
そんな遣り取りもあり、護衛を任じられたイヴァル以外のドワーフチームが地下2階へ突入。
またもや物凄い轟音が響き渡るも、合衆国側に先程までの怯えはない。
むしろ頼もしがってくれている様子。
途中、グンナルが1人で階上に戻って来る。
手には一際巨大なミニベアーの首。
「トルケルがリーダー個体を仕留めてくれました。
後で少佐殿から称えてやって下さい。
若手に自信を付けてやりたいのです。」
「おお!
首だけでもこんなに巨大なのですね!
ええ、勿論です。
トルケル君、まだ14歳ですよね?
ウチの馬鹿息子にも見習わせますよ。」
「そして、これです。」
グンナルは懐から何かを取り出す。
「小さくて分かりにくいですが金片です。
金脈がある可能性がますます上がりました。」
この報告を聞いた合衆国人達が顔を合わせて安堵の溜息を漏らしていた。
そりゃあね、ここまで馬鹿正直に取得物を見せてくれれば安堵もするよね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ガチれば最下層である地下3階も制圧出来たのだろうが、合衆国側の疲労も激しくなってきたので今日はオシマイ。
皆で地上に戻って休息を取ることになった。
夜間哨戒は当初の取り決め通り合衆国側が担当する。
俺はガルド・エヴァと3人で馬車に入り睡眠を取る。
『親方、お疲れ様でした。』
「ああ、疲れたな。」
意外な回答に驚く。
普段、強がりばかり言う男なのだ。
「一挙手一投足を常に観察されている。
特に手癖の良し悪しを見極めに来てるな。」
『え?
そうなんですか?』
「驚くことじゃあるまい。
アイツらだって不本意に受け入れたニヴルの使い道を考えなきゃいけないからな。」
『合格したんですかね?』
「どうだろ。
でも、最後はストレートに入札や委託の話題をしてただろ?
不合格なら、そういう単語は不用意に出さないさ。」
『掘るんですか?』
「条件次第。
鉱区として割り当てられた所で面積の狭い鉱山だからな。
少人数で真下に掘り進む形になるんだ。
金脈自体はあるんだが、その深度は結構深い。
だから、10年以上の長期採掘権なら旨味はある。
1年更新とかだとペイラインに乗らないだろうなぁ。
逆に合衆国さんとしては、駆除と坑道整備だけさせたいのが本音だろう。
誰だって他人に金鉱を掘らせたくないよ。」
まぁな。
誰だって他人に得をさせたくない。
俺とエヴァはガルドの身体を拭き清めながらダンジョン談義で盛り上がる。
着替え終わったガルドはエヴァに運転席の清掃を命じて、荷室から退室させる。
「…なあトビタ。
実は俺達は地下3階まで降りている。」
『え?
そうなんですか?』
「地下3階から下が自然の大穴になっていてな…
かなり大きな金鉱床があった。
目視可能なレベルで金鉱石が露出している。」
『え?
それって…』
「俺とオマエで掘りやすい箇所だけ全部取っちまおうか?」
『え?』
「言葉の通りだよ。
駆除が一段落して合衆国側が金鉱床を見つければ、俺達には掘らせない方針に必ず切り替える。
そうなる前に表面だけ頂くぞ。
オマエが反対ならパスだ。」
『…やりましょう。
但し、絶対に足が付かない形で。』
「おうよ、細心の注意は払うさ。
俺だって合衆国と揉めたくないからな。
この歳になって氏族に泥を掛けようとも思わない。」
手筈はシンプル。
明日の駆除には荷物持ち名目で俺も参加。
地下3階から目視した金鉱床にワープ。
ガルドも滑落した体にして大穴の下に移動。
表面に露出した金鉱床をごっそり掘り取ってしまう。
そして俺はワープでガルドが砕いた金鉱床を我らが鉢伏鉱山に隠す。
『他のメンバーが反対するでしょ?』
「本当にそう思うか?」
『いえ、氏族も物入りですし…』
「但し、発覚した時の弁護は期待するなよ。
あくまで俺とオマエが勝手にやる事。
アイツらは何も知らないし、何も見ていない。」
『な、なるほど。』
「出来るか?」
『出来ます!』
「よーし、種族間親善の為にもバレずにやるぞ。
明日はヨロシクな。」
『はい!』
話が終わった途端にエヴァが戻って来たので、やっぱり全部聞かれてたんだろうな。
ドワーフはここら辺がガバい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、翌日。
荷物運びとして俺もダンジョン入りする。
疑義を呈する合衆国に対してグンナルは「雑用を合衆国さんにお願いする訳にはイカンでしょうw」と明朗に説明。
クルーガー少佐も賛同する。
(合衆国人がドワーフの風下に立つような前例を作りたくない。)
そして今日の討伐だが、合衆国人にバレない程度に手を抜く。
「くっ! 2階層までとは格が違うぜ(棒)!」
流石にトルケル君は若手のホープだけあって、演技にも余念がない。
冷静に考えれば数メートルの高低差でモンスターの強さが急変する訳でもないのだが、グンナル以下ドワーフチームの熱演により《地下3階は危険地帯》という認識が合衆国側に広がる。
「うーん、これは長期戦になりますなー。(棒)
ドワーフの本気の戦闘シフトを組んで良いですか? (棒)
巻き添えの懸念があるので合衆国さんは上で休憩していて下さい。(棒)
ドビタは大丈夫ですよ。(棒)
我々の邪魔にならない位置取りだけは覚えさせておりますので。 (棒)」
よく、こうも口から出まかせがペラペラ出るものだと内心舌を巻く。
ともあれ、世慣れたハーコンが真顔でそう合衆国側に伝えた為、一日だけドワーフチームが地下3階に先行出来るようになった。
俺・ガルド・グンナルの3人で大穴に到着。
互いに顔を合わせて無言で頷き合う。
次の瞬間、ガルドが大穴にダイブ。
50メートルほどの下の岩肌に激突する。
俺が思わず声を掛けようとした瞬間にガルドは立ち上がり、ハンドサインで俺を手招きする。
ここまでフィジカルが強いと、ギミックだの工夫だのにリソースを割く気が湧かないのも仕方がない事なのかも知れない。
「私は大丈夫だから。」
グンナルが短く俺に告げる。
直訳すれば《オマエのワープは予測済だからさっさと行け》という意味である。
『ワープ!』
俺はガルドの隣に瞬間移動する。
慌てて崖上を見上げるとグンナルが「安心しろ、私は何も見ていない!」と叫んだ。
後になって思う事だが、共犯になったこの瞬間に俺は真にニヴル入りしたのだろう。
「トビタ、俺の小型ツルハシ持って来い!」
『ワープ!』
鉢伏鉱山の仮小屋に飛んで道具を掴んで即座に戻る。
「よし、俺が砕いて行く!
オマエは一輪車だ!」
『ワープ!』
再度、鉱山に戻り一輪車を固く握りしめる。
「右の坑道のドンツキにバラ撒いとけ!」
『ワープ!』
右のドンツキにガルドが掘った金を積む。
「予備ハンマー、長尺ツルハシ!」
『ワープ!』
当然、道具の名前は全て覚えている。
何せ徒弟だからな。
「後100回飛べるか!?」
『ワープ(×100)!!』
例えワープに回数制限があったとしても、この場面で飛ぶことに抵抗はない。
何せ金脈だからね。
「よし、痕跡隠蔽作業!
不自然な飛沫は全部捨ててこい!」
『ワープ!』
そりゃあね、今後合衆国が鉱山を再開した時に不自然な割れ方をしている破片を見かけたら不信感が生まれるよね。
ガルドも流石にプロだけあって、隠蔽作業の手際が良い。
最後に2人でダブルチェックを済ませて、俺はワープでガルドは腕力で崖上に登ってオシマイ。
『グンナル隊長、終わりました。』
「そうか私は何も見ていないが、ちゃんとミニベアーは退治してくれたか?」
『いえ、あまり戦果はありません。』
「2人共怪我はない?」
『あ、はい。
無傷です。』
「よーし、引き続き作業を続けよう。
トビタ君はこの火魔石をクルーガー少佐に献上してくること。
かなりの上物だから向こうも喜ぶだろう。
状況報告を求められたら、7割がた始末したと答えてくれ。」
『承知しました。』
俺は指示通りに巨大な火魔石を抱えて地下2階に上がる。
アタックチームのハックマン・サンダースから「自分達にも出番が欲しい。」と頼まれた為、階下のグンナルにその旨を伝え了承を得る。
その足で地下一回を視察していたクルーガー少佐の下に向かい、火魔石を献上。
大いに喜ばれる。
そう、合衆国人が見たいのはドワーフの能力ではなく忠誠なのだ。
結局、最後は合衆国軍から更に5名の隊員が選抜され地下3階の掃討作戦に従事した。
5人共かなりガタイのいいお兄さんだったが、作戦中に3人が骨折などの重傷を負ってしまう。
あまりに簡単に退治していたので感覚が麻痺していたが、やはりミニベアーは恐ろしいモンスターだったのだ。
担架で後送されていくサンダースがすれ違いざまに、「あんな化け物を一撃で倒すなんて、ドワーフの武勇は想像以上だ…」と呆然とした表情で呟いていたのが印象的。
やはりドワーフの戦士団は人間種とは比較にならない精強さなのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日、掃討が完了した地下3階の大穴を合衆国側が目視し、予想通り話の流れが変わる。
「いやあ、今回はありがとうございました。
おかげで操業再開出来そうです。」
合衆国には遠目で岩質をチェックする機材があるらしく、それを覗き込んだ途端に彼らが急に無口になり、そして異様に愛想良くなった。
勲章だの表彰状だの特別手当を気前良くくれるらしい。
そりゃあ金脈の場所を知ってしまったら、そういうリアクションするよな。
グンナルはさも残念そうに言う。
「いやー、そうですよねー。
この鉱山任せて貰えたら嬉しかったんですけど。 (棒)」
「わかりました!
私も出来るだけ上層部に掛け合ってみます!
いやー。
個人的にはニヴルさんに任せたいのですけど。(棒)」
「「あっはっはっは。(棒)」」
最後はクルーガー・グンナルの両隊長がにこやかに握手をして終了。
合衆国側から事前に取り決めた報酬がニヴル氏族に支払われ、参加したパーティーメンバーにも心づけが渡される。
俺もその場で金貨5枚を貰えた。
「どうもー!
これからも宜しくお願いしまーす!」
背後の合衆国人が爽やかな笑顔で俺達に手を振る。
直訳すれば、《この金鉱山にはもう近づくなよ。》という意味である。
俺が彼らでもそうするので文句はない。
「なあ、トビタよ。」
『はい?』
「俺、こんなに楽しかったのは久しぶりだわ。」
『ははは、親方スイッチ入ってましたものね。』
「これからも宜しくな、相棒。」
こうして、存分に暴れ存分に盗んだ俺達は悠々と帰路についたのであった。
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