ゴメン、話の展開に頭がついて行けない。
いや、俺も全く話の展開に頭がついて行けないのだが…
前に俺が落とした風魔石(微)。
これを拾ったチャコちゃんは持ち前の研究能力を活かして、異世界の風魔法運用方法に自力で辿り着き、風魔法スキルのレベル1を入手した。
そして執念の検証作業と根性の風魔法連打により、明らかに能力の3段階目に到達したとの事。
…この人はちょっとおかしいのかも知れない。
「えー、一緒に飛ぼうよ!」
『あ、いえ。
公営の駐車場で暴れるのはマナー違反かと…』
チャコちゃんはまだまだ飛行能力を披露したそうだったのだが、村上翁がショップに戻って来る時間なので、戻る様に促す。
「飛田クン!
これで私という人間が伝わったと思うの!」
『あ、はい。
存分に。』
「(ガッツポ!)」
義父ブラギも言っていたが、女は余計な事をしないのが1番だわ。
仕事以外で悩みを増やされると疲れるんだよな。
「ふっふっふ。
飛田クンと私の2人だけの秘密が出来ちゃったね♥」
『いえ、別に。
チャコちゃんさんの能力に関しては、口外なさるのは御自由ですので。』
「私、飛田クンとなら、どこまででも飛べる♪」
…女に歩幅を合わせた飛躍譚なんて聞いたことねーよ。
「楽しみにしててね。
プレゼン最終章は絶対に飛田クンが喜んでくれるから!」
…え?
まだ続くのか!?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『村上さん、すみません。
勝手な買取をしてしまって。』
「いや、飛田が判断したのなら、それが正しいんだろう。」
『こちら、現物を一旦提出します。
買値はグラム70$。
【あくまで居合わせた一般客との私的な売買である】と伝えましたが、どこまで通じているのか分かりません。』
「エンドユーザーってそういうモンだよ。
ああ、飛田の目利きは本当に伸びたなあ。
オマエ真面目だからさ。
こういうノウハウ蓄積型の商売とは相性いいよ。」
『ありがとうございます。
こちら、先方の名刺です。
利用価値ありそうなら、村上さんの利益にして下さい。』
「ああ、写メだけ撮らせて。
甲府かあ。
いい目を引いたかも知れんなあ。」
『そうなんですか?』
「うん、宝飾業が盛んな土地だからさ。
ほら武田信玄とか鉱山のイメージ強いだろ?」
『信玄の隠し金山とか言いますもんね。
山に囲まれてるし…』
「もしも出張依頼来たら顔を出してみろ。
多分、飛田のプラスになるよ。」
『はい!』
勿論、この甲府の客は村上の店舗の客である。
従って、俺は出た利益を村上に還元する義務がある。
そこら辺はきっちりと話し合って、妥当なマージンを設定した。
「70$かあ。
まあ、税金迂回出来るなら喜ばれるか…」
『ええ。
向こうはかなり喜んでました。
じゃあ、俺は上海で83〜85のレンジで換金して来ます。
村上さんへのバックマージンは差額10$でどうでしょう?』
「アホ。
そんなの俺が取り過ぎだ。」
『でも、この一等地ですよ。
集客したのは100%村上さんの功績じゃないですか。』
「まあな。
新宿と言う土地のブランド性もある。
後な、1つ知識として覚えておいて欲しいんだが。
この店の向かいに歌舞伎町が広がってるだろ?」
『あ、はい。』
「これが金持ちを呼ぶコツなんだよ。」
『え!?』
「田舎の一軒家に金だけ売りに行くのも疲れるだろ?
でも新宿なら取引の後に女遊びも楽しめる。
だから、同じ売るなら地元の貴金属店じゃなくて都心ターミナル駅という考えで来る客も多いよ。」
『ああ、確かに。
ここら辺ならメシも酒もありますしね。』
「まあ、そういう顧客心理のセオリーも徐々に勉強して行こう。」
『はい!』
よーし、じゃあ上海に飛ぶ前に村上翁とこれからの仕入れの打ち合わせでも…
「異議があります!」
『え?』
「今回はチャコちゃん回でしょ。」
『えー、そうだったんですか。』
参ったな。
今回の金地金は日本での初仕入れ。
しかもプロではない素人からドル札で買うという、異例中の異例である。
この後スムーズに換金出来るのかを早く試したい。
また、このケースの場合。
貰った名刺に対してどうリアクションをするべきか、村上翁に判断基準を教わりたいのだ。
…この人、微妙に邪魔なんだよなぁ。
「専務!
店番を手伝ったんだから飛田クンを下さい!」
「高い時給になっちまったなー。」
聞けば、このショップで雇っていたアルバイト店員は全員辞めてしまったとのこと。
『確かこの辺のショップじゃ1番時給が良いんですよね?』
「まあ、貴重品を扱う仕事だからな。
低賃金で妙な感情を持たれたくなかった。」
『なのに辞めちゃったんですか?』
「ハッキリ言われたよ。
《このショップでどれだけ真面目に働いたところでFIREは出来ない》ってな。
仮想通貨のセミナー会社に転職するんだと。」
『まあ、確かに。
俺がドバイで会った億り人なんか、まだ23歳でしたからね。』
「だな。
凡人が20代で一発当てるとしたら、今は仮想通貨が無難だわ。」
『ええ、俺もそう思います。』
「オマエは非凡だから、金地金&宝石路線を続けて構わんぞ。
どの道、仮想通貨で当てた奴は資産の何割かをゴールドに替えたがるからな。」
『ですね。
その人も、《資産を半減させてでも日本で合法的に使える円が欲しい》って言ってました。』
「あ、うん。
税務署って所がその要望に対応しているって教えてやれ。
しかも、自分から出頭する分にはプレミアムを付けてくれるんだと。」
『それはお得情報ですね。』
2人で肩を叩き合って笑う。
いやあ、こうやってカネの話を教えてくれる先達って最高だよな。
気難しそうで取っ付き難かったけど、あの日村上翁に話しかけて本当に良かったわ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『あ、じゃあ俺は別件あるんでこれで失礼します。』
「おう。
またな。」
「ちょっと待って!」
『え?』
「え?」
「今日は村上枠の日じゃないの?
手土産まで持って来てくれて、それドバイって書いてあるよね?」
『いや、そんな枠があったなんて初耳なのですが…』
「言わんとする事は分からんでもない。」
「私、飛田クンが土産袋を持ってるのを見て舞い上がっちゃって!
家ぐるみのお付き合いを期待しちゃったのよ!」
『あ、変な期待を持たせてしまって仕方ありません。
じゃあ次にドバイに行った時は、チャコちゃんさんにはアフガニスタンの名物飲料でも買って来ます。』
「多分それ、女受け悪いぞー。」
「絶対、他の女の人に渡すんでしょ。
その袋の庇い方、本命臭がするから彼女さんね!」
『…。
じゃあ、俺はこれで。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
チャコちゃんはなあ。
美人だし、頭もいいし、勘も鋭いし、商才もあるし、特殊能力まで身に着けている。
身のこなしからして身体能力もかなり高い部類だろう。
そういう余計な要素さえなければ、別に付き合っても良かったんだけどなあ。
『さて、と。
早めに甲州の金をドル化しておきますか。』
一旦、自宅に戻ってシャワーを浴びた俺は香港のワープスポットに転移。
最近はネイザンロードから西洋菜街への道で売り場を探すようにしている。
こういう個人質屋・金買取専門店・両替所が軒を連ねる通りは俺とは相性が良い。
「你好、年輕嘅總統。」
「你今日又做緊學徒工作?」
「哦、你成日都喺度。」
ただ、顔見知りが増えたのは好ましくない。
香港はしばらくクールタイムにして、次は台北で売ろうかな。
後で以前知り合った陳水鴻にWhatsAppで打診してみよう。
さて、甲州人から買った金。
83~84$での売却を想定していたが、意外にも86$で売れた。
これは儲かったというよりも、ドル安が進んでいるから。
大量のドル札を持っている俺にとっては愉快ではない状況。
まあ、でも70$で買った物を86$。
差額16$なら満足はするべきなのだろう。
10オンスは283.5グラム。
283グラムで計算するとして…
16$×283グラムで4528$の利益だ。
今日のレートが1ドル=146円なので、利益を日本円換算すると66万1088円。
よし、このノウハウを磨けばワープを喪失しても食つなぐ事は出来そうだな。
府中に帰ってから村上翁にSignalで連絡。
5分程ワチャワチャ言って、2000$を円転しないままテラ銭として受け取って貰う事になった。
『さて、食べ物だから早めに処分しないとな。』
冷蔵庫に仕舞っておいたドバイチョコを取り出す。
そろそろドワーフ洞窟に顔を出すのだ。
エヴァは怒るだろうか?
甘味なら、そこまで厳しい事は言われないんじゃないかな?
不安半分、期待半分。
義父ブラギがやや甘党寄りだと聞いているので、あわよくば機嫌が収まるかも知れないという計算もある。
『ワープ!』
ドワーフ洞窟の俺の寝室区画に飛ぶ。
ベッドに着地したのだが。
ムギュ!
『うわっ!
エヴァさん!?』
時間が遅かった所為か、そこではエヴァが横臥していた。
どうやらその胸に飛び込んだらしい。
「あら、驚きたいのはこっちなのだけどね。」
『あ、ど、ども。
あ、あの、これお土産…』
「まーた、異郷の文字が記されている…」
『あ、すいません。
炉で焼いて頂ければと思いまして…』
「全ての炉は落とされたわ。
私の女炉も含めてね。
ヒロヒコは一々間が悪いのよねぇ…」
『え?』
「さ、軍議よ。
送ってあげるから出席して来なさい。」
『え?え?え?
軍議?』
「当たり前でしょう。
貴方は役職者ブラギの娘婿なんだから。
参陣の義務があるわ。」
『な、なるほど。』
「王国軍は2万とは言え精鋭揃いよ。
気を付けてね。」
『え?え?え?
王国?
何で?
いや、せめて事情説明を!!』
「だから、その為の軍議でしょ。」
『あ、いや。
まあ、そうなんだけどさ。』
エヴァに先導されて坑道を出る。
促されて振り返った眼下には…
『え?
火がいっぱい?』
「王国軍の篝火よ。
ああ、東側も塞がれちゃったかぁ…」
『え?え?え?』
「ヒロヒコ。」
『あ、はい。』
「御武運を!」
え?え?え?
ゴメン、話の展開に頭がついて行けない。
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