例によって本人には事後承諾だけどな。
「うおおおおお!!!!」
「おほおおおおお!!!!」
「ああああああああ!!!」
中本のオリジナルジュエリーを見て驚愕しているのは、柴田税理士・奥様・義弟さんの3人。
宝飾にかなり五月蠅い奥様が興奮しているという事は合格点なのだろう。
「中本クン!!」
「あ、はい。」
「キミは天才よ!!
この圧倒的なオリジナリティ!!
ワタクシッ!
この分野には相当精通しているつもりだけどッ!!!
キミは別格!!
ジュエリーの歴史を塗り替えたと言っても過言ではない!!」
「…たはは。」
「ワタクシが出資するわ!!
早速ブランドを立ち上げるわよ!!
次のHRDデザインアワードにエントリーなさい!
大丈夫、アントワープにはワタクシのお友達がいっぱい住んでるから!」
「いやあ、ははは。
流石に初対面の方におカネを出して貰う訳には…」
「駄目よ!!
出展なさい!!
キミ程の才能を埋もれさせておくのはアートへの冒瀆ッ!!
事務手続きは全てワタクシがやってあげるから。
キミは作品作りに専念なさい!
アナタ、いいわね?」
「あ、うん。
中本さんは飛田社長の部下だから。
ちゃんと飛田社長の許可を取ってね。」
「飛田クン!!
若いのに相当の切れ者と聞いているわ。」
『あ、ども。
奥様にお見知りおき頂けて光栄です。』
「中本クンを発掘したそうね。
素晴らしいわ、その人物鑑定眼。」
『あ、ども。』
「ベルギーのアントワープ。
世界のダイヤモンド原石取引の8割がここで行われるわ。
当然、多くのジュエリーデザインコンテストが開催されている。
お分かり?」
『あ、でしょうね。』
「HRDデザインアワードはジュエリー界のオスカーと呼ばれている。
ワタクシ、ここで中本クンを売り込むべきだと思うのだけれど、異存ないわね?」
『あ、はい。』
奥様が興奮気味に義弟さん(後で知ったがかなりの大物だ)と帰ったので、柴田税理士・中本と共に浅草の蕎麦居酒屋でプチ打ち上げ。
「中本さん、ごめんなさいね。
妻は関心のある分野だと、前のめりになってしまうのです。」
「あ、いえ。
評価されたのは嬉しいです。」
「2人共、コンテストの件は嫌なら断ってくれて構いませんよ。
妻には…
私から注意しておきますので。」
「自分は飛田さんの下に付いとる人間ですから、飛田さんさえ構わなければ…」
『えっと。
ここまで奥様が乗り気になって下さるとは思っていなかったのですが…
私は柴田先生さえご迷惑でなければ。』
「いや、物は凄く良いです。
多分、高く評価されると思いますよ。
妻があそこまで評価する事って滅多にないんですよ。
基本、辛口評論家なので。
グランプリ作品にも平気で駄目出ししますしね。
あ、LINE来た。
えっと、ブランド名はもう決まってるのですか?」
『あ、いや。
何も。』
「駄目ですよー。
そういう基本はちゃんと抑えてないと。
ブランドは物語ですからね。
命名の時点から勝負は始まっているんです。」
『はあ。』
「何か由来とか無いのですか?
それもドラマティックな。」
『劇的か否かは不明ですが…』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
中本は東京に引っ越す事になった。
アトリエや機材を奥様のツテで幾らでも用意出来るからだ。
中本の税務も以後柴田税理士事務所が請け負う。
「飛田さん。
ボクねえ、最初に貴方に会った時はとてつもない悪党に捕まったと思っとったですよ。」
『よく付き合ってくれましたね。』
「会う前に闇バイトに応募せんで本当に良かったです。」
『私もやってる事、そこそこグレーだとは思いますけどね。』
「でも光バイトです!!」
『そうなのかなあ?』
「だってキラキラしてるじゃないですか!!
如何にも女受けする最高の虚業ですよ!!」
『まあ、ソープのボーイよりかは喜ばれるでしょうねえ。』
「飛田さんのおかげでボクにも運が向いて来ました!!
恩返しするんで期待しとって下さい!!」
壮行会も兼ねて熱海へのソープ旅行を奢ってやろうかと提案するも、一刻も早く作業に集中したいと断られてしまう。
ひたむきな目が少し羨ましい。
そんな経緯で俺達のブランドは始動した。
まさか、ソープ遊びと闇バイトがここまで発展するとは。
みんな、ドラマティックな創設譚じゃなくてゴメンな。
でも、この名前に思い入れはあるんだぜ。
エヴァ。
例によって本人には事後承諾だけどな。