表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/69

カネを稼ぐ為には金持ちと提携する事が2番目に手っ取り早い。

「飛田さんッ!

その顔、どげんしたとですか!!」



『いやあ、ははは。

面目ありません。

実は新婚早々ソープ嬢を孕ませた件を義父に報告したら鉄拳制裁されました。』



「顔が半分凹んどるとですよ!」



『これでも回復した方です。

自分でも生きているのが不思議なくらいなので。』



「やっぱり、あの時のパープルシャトウで呼び止められたのは…」



『ははは。

社長さんからの、妊娠報告ですね。』



「えっと、これからどうするとですか?」



『いやぁ、どうしたものですかねぇ。

取り敢えず、社長に立ち会って頂いた上で、相手の女性の意思確認…

その辺が妥当なのではないでしょうか。』



「モテる男にも悩みはあるモンですねぇ。」



『これはモテなのでしょうか?』



「嫌がられてたら、女も妊娠しないように持って行くでしょうし、相談せずに堕ろすでしょう。

話が回って来た時点で、嬢は客以上の感情を持っちょるとです。」



ふーむ。

風俗嬢の本音など想像も付かないのだが、実際にボーイをしていた中本が言うのなら、そういうものなのかも知れない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



ガルドに忠告されたので、ほとぼりが冷めるまで異世界渡航は自粛。

義父ブラギが怒りを完全に呑み込むまでは顔を見せるなとの事。

ぶっちゃけ、その場で撲殺されても文句が言えない状況だったらしい。

そりゃあね、新婚早々…

それもイレギュラーな異種婚で悩んでる最中の報告だもんね。

娘を持つ父親なら誰だって怒るよね。



『それにしても参ったなー。』



日頃、【くたばれ異世界】を連呼している俺だが、いざ出禁にされると行きたくなる。

いや、正直に言えばセックスをしたいのだ。

ソープは行き辛くなったからなぁ。

何せ横の繋がりの強い業界らしいから、熊本・吉原の妊娠問題に区切りを付けないうちは、他では遊ぶべきではないだろう。


なので。

ソープが駄目ならエヴァなのだが…


でもブラギさん怖いからなぁ。

ドワーフの巨大な拳…

俺如きが生きているという事は手加減はしてくれたのだろうが、完全にトラウマ植え付けられちゃったわ。

そりゃあ、各国もドワーフの機嫌を取るよな。

あんなマッチョ種族と戦争なんてさせられたら、命が幾つあっても足りんわ。


ソープもエヴァも駄目ならどうしよう。

チャコちゃんは当然却下として、後腐れのない女とヤリたいなぁ。

でもどうせ、誰とヤッても妊娠確実なんだろうな。

俺、片親家庭だから、あんまりヤリ捨てとか堕胎とかは好きじゃないしなぁ。

うーん、ままならんものだな世の中。



「飛田、店長から返信あったわ。」



『え?

マジっすか?』



「ミミちゃん、店を辞めてシンママで産むつもりだったらしい。」



『えー、シングルは大変だと思いますけどねぇ。』



「…その微妙な他人事感よ。」



結局、色々あって村上翁を府中の隠れ家に招待した。

2人でソファーでゴロゴロしながらカネの話。

仮想通貨やらキルギス投資やら顔の凹み弄りやら、そういう話題で盛り上がっていた。



「どうするー?

避妊ミスは店側の責任だから、本来オマエに義理はないけど。」



『えっと…

まぁ、養育費やら何やらで物入りだと思いますので、ミミちゃんさんには纏まった金額を包みます。』



「先にDNA鑑定なー。」



『ええ、そうします。

でも、まあ多分俺の子ですわ。』



「認知したら籍入れるの?」



『いやぁ、どうでしょ。

相手の素性も知らないし…

そもそも、顔とかあんまり覚えてないんですよね。』



「常連だったら顔くらい分かるだろ?」



『いやあ、パネルの中から1番可愛い子を指名してたら、たまたま同じ子を指名してただけですからねぇ。』



「まあ、男の好みなんてそんな物だよな。

店長とグループライン作るけど、それでいいか?」



『あ、はい。』



何故かグループラインにミミも加わっており、最初から生々しい話になる。

(風俗嬢に言っても仕方ないのだが、真剣な話題なのに絵文字を使うのはややギルティ。)

アホらしいので割愛するが、「籍は諦めるけど、定期的に来訪して父親っぽく振る舞って欲しい。」とのこと。



『村上さん。

何て返信したらいいですか?』



「いやあ、オマエかどうしたいかだなぁ。

どうしたい?」



『いや、別に何でも…』



「じゃあ、取り敢えず会ってやれば?

ミミちゃん押上住みらしいから少し遠いけど。」



『まあ、距離は何とでも。』



俺にとっては異世界も熊本も押上も大した違いはない。



「熊本の子はどうするの?」



『うーん、公平に扱うべきでしょ。』



「チャコちゃんは?」



『いやいや、身内と風俗嬢を混同するのは辞めましょうよ。』



「一般論としてはそうだけどな。

でもソープ嬢以下の扱いをされるのは可哀想だ。」



『うーーーん。

言いたい事は分かりますけどねぇ。

仮にチャコちゃんさんと付き合い始めたら、必ず妊娠させてしまうと思いますし…

子供が生まれても籍は入れないと思いますよ。

あ、勿論養育費とかは入れますけど。』



「オマエの歳でそこまで断言出来る奴はアタリだわ。」



『そうなんですかねえ?』



「そもそも養育費踏み倒す奴多いもん。」



『まあ、手元で動向を確認出来ない子供にリソース注ぐくらいなら、次の女を探す方がコスパいいですしね。』



「そこまで理解していてソープ嬢に優しいんだな。」



『女なんて多かれ少なかれ全員売春婦みたいなもんじゃないですか。』



「うーん、否定しにくい極論だな。」



『じゃあ、売春婦界で上位に居る高級ソープ嬢に産ませるのは優生学的にアリかなと。

どのみち父親の供養の為にも地球に子は残しておきたかったですしね。』



「あ、うん。

まるで地球以外にも地盤があるような口ぶりはやめてな?

俺がオマエの失言をスルーするのにどれだけ気を遣ってるか少しは分かってくれよな?」



『あ、すみません。

村上さんは俺にとって身内枠なんですよ。

ついつい本音が出てしまうというか…』



「気持ちは嬉しいけどさあ。

じゃあ、チャコちゃんも身内枠?」



『ウチは孤立してたんでリアルでは体感した事がないんですけど…

盆と正月に顔を合わせる親戚のお姉さんみたいな距離感ですね。』



「従姉弟とかそういう距離だな。」



『ですです。

流石に従姉弟とセックスするのは非常識でしょ?

社会通念上、おかしいと思います。』



「あ、うん。

社会通念上、大量の国籍不明金貨を所持している事が一番非常識なんだけどな。」



『ぐぬぬ。』



「お、店長から返信来た。

取り敢えず今から4人でメシでも喰わないかって。

どうする?」



『え?

そういう空気感ですか?』



「ん?

でも、こういう大事な問題をLINEで済ますのもおかしな話だろう。」



『そりゃあ、そうですけど。』



「居酒屋と焼肉どっちがいい?

ちなみにミミちゃんは殆ど飲めないそうだ。」



『え、いや。

飲めない人を居酒屋に連れて行くのは論外でしょ。』



「ん、わかった。

じゃあ焼肉。」



『なんか軽くないですか?

産むにしても堕ろすにしても、お腹の中のお子さんに失礼でしょう。』



「お、いいねえ。

初めて飛田の熱い一面を見れたよ。

よし、早速グループで共有するか。」



『いやいや、そういう事ではなく。』



「でもほら、メッセージ見てみろ。

店長もミミちゃんも喜んでるだろ?

やっぱり男は誠意だよ。」



『んーーーーー。

釈然としないなあ。』



「いや、本当にオマエはいい線言ってるんだって。

風俗業界の妊娠騒動って、大抵が卑しい罵倒合戦に終始するもの。

若さもあるんだろうけど、飛田の対応は誠実だよ?」



『いやあ、誠実な人間はアチコチで子供作らないでしょ。』



「お、いいねえ。

そういう自省的なスタンス。

ミミちゃんも安心すると思うぞ。

さあ、発言引用っと。」



『村上さんは俺の着地点をどこに持って行きたいんですか。』



「いや、それはこっちが聞きたいよ。

飛田がビジョンを語ってくれたら、俺もちゃんと支援するよ?」



『ビジョンも何も…

今の俺は割と万能感ありますし、上手く行ってるんで…

自由にやらせて欲しいですね。』



「既に自由じゃん。」



『…まあ、かなり好き勝手はさせて頂いている方だと思います。』



「お、店の情報来たな。

えっと、銀座でいい?」



『あ、はい。

俺は別にどこでも。』



「アレルギーあるか?」



『うーん。

辛い食べ物が苦手なので、キムチとか出されても食べれないと思います。』



「OK。

伝えておく。

あ、ミミちゃんは甲殻類アレルギーなんだってさ。」



『了解、配慮します。

店長さんは?』



「アイツはガチの酒豪。

芋焼酎さえ出しとけば機嫌がいい。」



『ちなみに村上さんは?』



「俺かぁ。

若い頃はアレコレ言ってたけど。

この歳になると、若い奴が楽しく笑って食事してくれればそれでいいよ。」



『あ、いや。

流石に今日は笑顔を見せるのはイカンでしょう。』



「最近の奴は真面目だなー。

飛田ですら真面目なんだから。」



『なんすかそれ。』



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



さて、銀座の個室焼肉。

想像の30倍くらいの高級店だった。

後で知った事だが、若手の国会議員が会食に使うこともあるレベルの店だそうだ。



『改めまして、飛田です。』



「いつもありがとうございます、沼袋です。

この度は…」



沼袋というのが源氏名なのか本名なのか不明だが、お互いに頭をペコペコ下げ合う。

ビールの御酌を沼袋を申し出るが謝絶。

こういう場面でお客様面するのも違うと思ったからだ。


まずは店長が俺の顔面の凹みについて質問。



「もしも弊店が原因でしたら!」



『ははは、御安心下さい。

別店が原因です。』



店長は申し訳なさそうな表情で一礼すると、村上翁と一通りの状況を整理。

そして俺と沼袋に意思確認。

俺は養育費を払うと伝え、沼袋も出産希望は変わらないと言った。

DNA鑑定に関しては、俺側・沼袋側のそれぞれがチョイスした医療機関で2回行う事に決まった。

ただ、何となく俺の種である事を場の全員が確信していたので、あまり真贋は問題にならなかった。

少なくとも沼袋は最初俺を見た瞬間に予感があったらしい。



『え?

そうなんですか?』



「客と付き合ったり結婚する嬢は少なくないんです。」



『ええ。』



「私はそういうのに抵抗が強くて、お客さんとだけは絶対にないなって思ってたのですけど。

飛田さんにお目に掛かった時…」



『…。』



「多分、この人なんだろうなって感じました。」



『…。』



「それで何度も指名して下さったから…

飛田さんも満更でもないのかって、内心舞い上がっちゃって。

でもLINEとか全然聞いてくれないし、名前も覚えてくれないし…

どう対処したらいいのかな?

って思ってたタイミングで妊娠が分かって…

ああ、これ絶対飛田さんだって…」



『なるほど。』



理解不能。

いや、煽りではなく、この女がどういうロジックで動いているか分からない。



『俺、自分の話をそんなにしてないと思うんですけど。

どこが良かったんですか?』



曰く、他の客は沼袋に気に入られる為にペラペラと誇張した自己PRをしていたらしい。

接客業なので表向きは「すごーい。」と話を合わせていたそうだが、内心苦痛で仕方なかったとのこと。



「…自分を大きく見せようとする男の人は却ってスケールが小さく見えるんです。

いえ、気持ちは分かるんですけど。」



日頃、複数の男性を見比べているだけあって、男の嘘は一発で見抜けるらしい。

多いのは喧嘩自慢や金持ち自慢なのだが…

沼袋に言わせれば、誇張は滑稽なのでやめて欲しいとのこと。

何せ都内で男を接客し続けているのである。

現役のアスリートや大会社のオーナーも普通に来店する。

そういう連中と比較されているという視点が誇張連中には抜け落ちているらしい。



「その点、飛田さんは男らしかったです。」



『え?

そうですかね?』



「まず女を人間と思ってない。」



『いやあ、ははは。

そんな事は…』



やっぱり見抜かれてるんだな。

流石はプロである。



「…後、本当に修羅場を潜っておられる方は少数なので。」



沼袋の客には喧嘩自慢やワル自慢をする者が多いが、その大半がまがい物らしい。

そもそも沼袋は漁師町育ち。

3年前に獄死した父親からして水産会社社員(ヤクザ)だったし、高校の同級生にもアレな連中が多かったとのこと。

なので、東京の背伸びしたサラリーマンの嘘武勇伝などは聞いてるだけでうんざりしていたそうだ。

(そもそも喧嘩の強弱は体格・筋骨・顔付きで分かる。)



「その点、飛田さんは本物です。」



『あ、いえ。』



「本物のワルです。

気合が入ってます。」



俺は不快に感じたが、口ぶりからして沼袋的には褒めているらしい。



「だから思ったんです。

この人なら…

いいかなって。」



『あ、ども。』



「じゃあ、私からも質問いいですか?」



『あ、はい。』



「飛田さんは私のどこが良かったんですか?」



『え?』



「毎回毎回指名してくれて…

ウチ、大所帯だからもっと可愛い子もいるし、もっと若い子も居るし…」



『あ、いや。

受付する時、写真を選べるじゃないですか?

それで折角おカネ払うんだから、美人を選ばなきゃ損だなって。

毎回、真面目に選んでただけです。』



「ッ!?」



沼袋が一瞬目を見開く。

あ、しまった。

返答間違えたか?



「…。 (プルプル)」



そして彼女は無言で肩を震わせながら涙を流し始める。



あ、ヤバいヤバい。

だって、こういう場合、どう答えていいのか知らないんだもん。

俺、女性経験の大半がソープだし。



『…。』



「…。」



『…。』



「…。」



『あ、あの。』



「嬉しいです!」



『え?』



「ごめんさい、社交辞令でも嬉しいです。」



『あ、はい。

ども。』



あれ?

この回答で合ってたのか?

分からん。

この女の脳構造が微塵も理解出来ない。

いや、どのみち他の女の思考も分かった試しがないのだが…

(その割に俺の思考は読まれ続けているのは不公平だ。)



『えっと、それで本題に入っていいですか。

特に店長。』



「あ、はい。」



この店長なる人物。

会社が運営しているのが2店舗のみ(それでもアホみたいに儲かる)であり、更には両店の店長を兼任しているので社の実質的なナンバー3である。

1位は創業者会長(御年91歳、実質的に隠居済み)、2位はその息子さんである社長(子供の頃家業が原因で苛められていた為に風俗業界が大嫌い、業種ロンダリングしか考えてない。)が現場に出て来ないので実質的なトップであるそうだ。

金のなる木を一任されるだけあって知見が深く、相談相手として信用出来る。



『仮に出産するとして、具体的に養育費ってどれくらい掛かりますか?』



「…はい。

あくまで一般論ですが、0歳児の養育には100万円前後掛かるとされています。

オムツやミルクのような消耗品に加えて、ベビーベッド等も必要になって来ますので。」



『あ、いえそうではなく。

人間が成人まで育つのに幾らくらい必要なのかなと。』



「え!?

いや、最近は高いですよ。

大学卒業までに3000万は掛かると言いますし。」



『ああ、ではまず3000万工面します。』



「え?

いきなりですか?

普通、分割ですよ?」



『いやぁ、分割だと俺も含めて男は払いませんよ。

だって身近に居ない女のことなんか、一々意識しませんもの。

女性側も全額を確実に確保したいですよね?

カネに優る精神安定剤はありませんし。』



沼袋が涙を拭いながら笑顔で何度も頷いているという事は、彼女の男性観に合致した提案なのだろう。

施設に居る祖母に挨拶に行く約束もさせられる。

正直、気は進まないがこれも俺の仕事なのだろう。

参ったなぁ、ワープ全然関係ないじゃん。


いや、本質的には諸問題と同じなのだ。

孕ませるまではワープで簡単に辿り着ける。

でも、そこからは俺自身の器量が問われる。

否が応でも、この能力の本質が見えて来た気がする。

ラストワンマイルには俺が向かい合わなければならない。

ワープが割愛してくれるのは99.9%の途中工程だけなのだ。



「飛田ぁ、どうだった?」



『え?

上ミノが美味かったです。』



「いやいやいや、話し合いの感想だよ。

オマエって本当に大物だなぁ。」



『あざっす。』



「褒めてねーけどな。

で?

どうする?」



『取り敢えず1億工面しますわ。』



「え?

3千万って話だろ?」



『熊本にも同額払いますわ。』



「…残りの4000万は?」



『いや、どうせチャコちゃんさんにも、そのうち押し切られるでしょ?』



「まぁなぁ。

あの子も意思は強い方だからなぁ。」



『俺は意志が弱いですし、時間の問題ですよ。』



「でも、何でウチだけ4000万?」



『いやいやいやいや!

村上さんには普段からお世話になってるのに、風俗嬢と同額は許されんでしょ。

例え形式でも、数字で差を付けないと!』



「オマエってほーんと真面目だよなぁ、妙な所で。」



『なので頑張って1億用意します。』



「あ、じゃあ俺も頑張るよ。」



『いえいえ!

村上家への養育費を稼ぐのに村上さんのチカラを借りるのは不正ですよ!

他で何とかしてみます。』



「あ、うん。

個人的にはオマエの話に乗るのが娯楽なんだが…

まあ、いいや。

今回の飛田劇場は遠目から見守るよ。」



『じゃ、そういう事で。』



「え?

2軒目行かないの?

新橋に良い店があるんだけどな。」



『いえ、沼袋さんも初妊娠という事で不安でしょうから、早めに道筋をつけなきゃ。』



「あ、うん。

若者特有の謎ルールってオッサンの胸を打つよ。」



『じゃ、行って来ます!』



「おう、程々にな。」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『さて…

大変だな。』



そう呟くも、口元は勝手に笑っている。

やはり男はタスクが設定されている方が動き易いな。

【1億】という身の丈以上の目標額を決めた瞬間に、モチベーションが湧いてくる。

やはり俺はチカラを振るいたかったのだ。

自分を試せる場面が欲しくて欲しくてしかたなかった。



『さぁ。

結局は振り出しに戻ったな。』



ワープを駆使して大金を稼ぐという初期目標に戻って来た。

以前は漠然としていたが、今回は我が子の養育費という極めて分かりやすい利己行為である。

エヴァ、沼袋、遠藤。

3人が産めば、どれかは育つだろう。

うん、そうだな。

これを以って親父への供養に換えよう。

ちゃんとした葬式も出してやれなかったことを申し訳なく思っていた。

だが、これで多少はあの世の親父に顔を合わせる事が出来る。



『ルールを決めよう。』



鏡の中の自分に語り掛ける。

魔王もこんな風に己と向き合っているのだろうか?



『村上の助力は頼まない。』



良くも悪くもあのオッサンに依存し過ぎているからな。

あまり特定の相手に頼り過ぎるのは良くないだろう。

万が一、チャコちゃんに捕まった場合、村上一族に完全に囲われてしまう。

別に彼らを嫌っている訳ではないのだが、ワープの強味をもっと活かしたいのだ。



『ジェインと中本も封印しようか…』



インド人宝石商のジェイン、ジュエリーデザイナー見習いの中本。

勿論、彼らとは関係を続けるつもりだが、ソープ遊びの始末に付き合わせても仕方ない。



『強盗が一番性に合ってるんだけどな。』



俺の自信の源は強盗殺人のコツを完全に掴んだ事にある。

そう、相手が誰であろうと確殺した上で財布の中のキャッシュを奪う自信だ。

別に毎日強盗を働いて強盗御殿を建てても構わないのだが、生まれて来る子供が哀れなので自粛。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




『ワープ。』



俺が飛んだのは六本木。

何か新しい金儲けのネタを仕込みたかったからだ。

金儲けのネタは金持ちだけが知っているとドナルド・キーンが教えてくれた。

あの帝国人とは逢えず仕舞いだが、相当したたかな男である。

どこかで大商いを続けているに違いない。



何かと因縁のある六本木を歩く。

この坂には見覚えがある。

桧山と共に歩んだ道程だ。



『桧山社長…

俺、本物の社長になりました。

きっと貴方のお陰でもあるんだと思います。


…いつか、真面目に働いた人間が報われる時代を作れたらと考えてます。』



瞑目して桧山を殺したビルを遥拝する。

さあ、前進しよう。

桧山の分まで!



六本木の中でワープは使わない。

それどころか敢えてゆっくりと歩く。

眼球だけを動かして左右を睨みつける。

目の前にそびえるリッツカールトンを見た瞬間に、次のシノギを思いついた。

真理を悟った俺は異世界抜きでも勝てるだろう。


そう。

カネを稼ぐ為には金持ちと提携する事が2番目に手っ取り早い。

無論、1番は殺して奪う事だが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ミミちゃんこと沼袋さんと、熊本の遠藤さん・・・ある意味「シンデレラ」じゃないですかね 怖いんだ、チャコちゃんさんがこれからどんな手を打ってくるか、ハンカチ噛んで嫉妬する程度の女の子なら安心するがその卓…
 つわりが無いのか軽いにしても焼き肉店はやめておけ、匂いが充満しているから急なつわりや悪化する可能性が高い、フレンチ系か日本料理が無難。
どちらも産ませるだけ産ませて金だけ渡して会う気はさらさらないんだろうなぁ、当たり前だけど。 でもせめてエヴァの子供だけにはちゃんと父親としての誠意見せてあげてくれねぇかなあ...幼稚すぎて無理か。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ