表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/70

実はしてないけどなww

さて、今までの全エピソードは茶番だ。

ぶっちゃけ王国だの帝国だの魔界だのはどうだっていいし、何なら1ミリも興味がない。

(辛うじてニヴル氏族と魔王にだけは愛着がある。)


俺は金持ち階級になりたいのだ。

いや、親父への供養の為にも成り上がらなければならない。

もし今この時点で死んだら、親父もその子も何者にもなれず貧民として終わったことになってしまう。

それだけは絶対に認められない。

身分が欲しいのだ。

親父を馬鹿にした奴らを必ずや見返さななければならない。



『柴田先生、先日は大変申し訳ありませんでした。』



「いやいや。

飛田社長が事故や事件にさえ巻き込まれてなければ。


今はもう大丈夫なんですよね?

村上君も心配してましたよ?」



『あ、はい。

もう、そんなに危ない事はないのではないかと。』



「老婆心で申し上げますが、乱暴な生き方は最終的に御自身に返って来ます。

どうか頭の片隅に留めておいて下さい。」



『ありがとうございます。

柴田先生の御忠言、肝に銘じます。』



説教ターンが終わらないとカネの話をして貰えないのは御愛嬌。

一通り怒られてから、新米社長としてのレクチャーを受ける。

納税システムやら社会保険やら、令和の経営トレンドやら。

柴田税理士の口ぶりからして初歩的な話だったのだろうが、体系的な解説を聞いたのは初めてだったので非常にありがたい。



「さて、ここからは私の独り言。

あくまで独り言。」



『はい、俺は何も聞いておりませんし、この先に何かがあったとしても全て俺の自己責任です。』



「税引き後の日本円はそこまで持っていないが、宝石や貴金属は大量に持っておられる。」



『はい、正規の手段で銀行口座に入金したいです。』



「今までの飛田社長の口ぶりからすると、法人税や社会保険料は大して恐れていないように思えるのですが、節税にはそこまで興味がない?」



『正直に言いますと、俺は幾らでも稼げます。

日本円は苦手ですが、宝石や貴金属なら割と簡単に入手出来ます。』



「なるほど。

では、お持ちの宝石・貴金属を現物出資の形で法人に移しましょう。

これで表に出せます。

宝石商の査定が必要になって来ますが、そこら辺は村上君が詳しいですから。


100万円を超える現物出資には原則として検査役(弁護士・税理士)などの評価が必要ですが、複数に分けて100万円未満ずつ出資するなどで回避するスキームも現実に使われています。」



『それは帳簿上の話ですよね?

俺が心配しているのは【どうしてそんな量の宝石を持っているのか?】と追及された時にどう切り返せばいいかなんです。』



「確かに税務署や世論は、そこを突いて来るでしょうね。


…うーん。

では芸術で攻めましょう。」



『え?

芸術!?』



「はい、飛田社長はジュエリーデザインの若き天才。

その卓絶したセンスを一部のセレブ達に認められ、宝石を無造作に預けられてしまった。」



『な、なるほど。

何か無理がありませんか?』



「そもそも無から真水を産み出そうとするのが無理筋の話なので…」



『ですよね。』



「反社企業なんかは、もっと滅茶苦茶なストーリーをでっち上げてますよ。

【永久機関を発明した】とか【M資金の運用を任せられた】とかね。

この前も昔のオレオレ詐欺が発覚して普通に逮捕されてました。

ジュエリーデザイン案などは、かなり無難な線です。」



『友人がジュエリーデザインを始めていて、かなり熱心に取り組んでるんです。

肥後人なんですけど、自腹で神戸のアトリエを訪問したり。

そいつを使えませんか?』



「…友人と仰るとかなり仲が良い?

何年くらいの付合いですか?」



『あ、いえ。

最近知り合ったばかりです。

すみません。』



「こちらこそ厳しい目線で申し訳ありません。

逢ったばかりの人間との金銭トラブルは、ベテラン経営者でも陥り易い問題ですから。

せめて村上君くらいの付き合いのある相手ならねえ。」



『え?

いや、村上さんともその中本なる知人も出会って間もないですよ。

村上さん…

初めて会ってから半年経ってないんじゃないかな…』



「え!?

いや、幹康君じゃなくて顕康君の方の話ですよ。

本当に半年!?」



『あ、はい。

村上さん、新宿のショップを運営されておられるじゃないですか。

それくらいの時期に、客として買取をお願いしに行ったんですよ。

そしたら実家に案内されて。』



「…常連だったのですか?」



『いえいえ。

最初に行った時に巣鴨に招かれまして。』



「…ふーむ。」



『やっぱり問題ありますか?』



「いや、あの顕康君がねぇ…

それも初対面で…

えっとジュエリーの勉強をされておられるご友人…」



『中本ですね。』



「はい、中本さん。

彼とは深く付き合っておられます?」



『いやあ。

一緒に風俗行ったり、その程度です。』



「…もしも彼が本気でジュエリーデザイナーになりたいのなら。

彼を巻き込んだスキームはありかも知れません。

飛田社長であれば、ありかもです。」



芸術は便利なんだってさ。

値段があってない世界だから。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




取り敢えず勝手知ったる熊本に飛ぶ。



「えええ!!!

それってマネーロンダリングじゃなかとですかー!?」



『いやだなあ。

親友の中本さんへの善意のスポンサードですよ。

よっ、新進気鋭のジュエリーデザイナー!!』



「あ、あの。

この宝石の出所は?」



『盗んでない盗んでない♪

合法合法♪

個人的にプレゼントされただけ♪』



「なるほど。

じゃあ具体的に誰からのプレゼントですか。」



『…。』



「…。」



『まあ、そういう細かい事はいいじゃないですか。』



「絶対これマネロン案件たい!!!」



だって、他にジュエリーデザイナーの面識ないもん。

中本を税務上都合の良い何かにし立て上げれば、真水が手に入るもん。



「で?

ボクは具体的に何をすればよかとですか?」



『お、話が早いですねえ。

まず中本さんには世界のセレブがあっと驚くようなスーパー芸術品を作って貰います。』



「えっと、最初から無茶振りなんですが、それは…」



『やっぱり難しい?

結構、中本さんって上手いと思いますけど。』



そうなのだ。

中本の部屋に置かれているジュエリー工芸。

素人目に見ても悪くない。

いや、それどころかかなり才能があるんじゃないだろうか?



「手先が器用なのは認めます。

図工の授業だけは昔から褒められてましたし。

死んだ爺ちゃんが飴細工職人でグランプリを取った事もありますから。

きっとそういう家系なんでしょう。」



『あ、じゃあ。

中本さんを売り出せば…』



「そんなに甘い話じゃなかとですよー。

これ全部模倣品ですから。

上手く見えるのは当然です。

ほら、カタログの方が遥かに美麗でしょ?」



『え!?

カタログ見ながら作ったんですか!?

凄いじゃないですか!』



「アートの世界はオリジナリティが評価されますからね。

こんなん分かる人間が見たら、トニ・ヘンダーソンの不出来な模倣って一発で見抜かれますよ。

そっちは大隈清吾先生のコピーです。

日本でこんなモンをオリジナルと称して発表したら袋叩きになりますよ。

大隈先生のお弟子さんは日本全国におられますから。」



『なるほどー。

オリジナリティかぁ。』



スマン、1ミリも興味が湧かない。

多分俺は芸術との相性悪いんだろうなあ。



「そんな事より先日の、このおカネ。

絶対飛田さんでしょ!

これも犯罪資金ですか!?」



『違う違う。

中本さんには普段お世話になってるから、ささやかなお歳暮ですよお。』



「きょうび田舎の選挙でもポストに札束ツッコむ奴はおらんとですよ。」



『反省してま-す。』



「じゃあ返しますから、ちゃんと数えて下さいね。」



『あ、ゴメン。

幾ら突っ込んだか知らないから、数えられても分かんない。』



「うっわー。

絶対犯罪資金たい…」



『いやいや!

合法合法!!』



「ふーん。

じゃあ出所を教えて下さいよ。」



『実は宝石を売ったんです!』



「ふーん。

じゃあその宝石の出所は?」



『…。』



「…勘弁して下さいよー!!」



『ソープ奢るから許して。』



「ぐぬぬ。」



『高いソープ奢るから許して。

売ってたら回数券も買ってあげます。』



「それ熊本市内の話ですか?」



『あ、うん。

熊本が一番俺や中本さんの肌に合うかなーと。』



「ちなみに宝石の出所は?」



『親切な人に貰ったー。』



「それ犯罪者の常套句!!」



そんな遣り取りを2人で楽しんでから中央街で豪遊した。

途中、中本の元雇用主に絡まれる場面があったが、一気呑みしたら許してくれた。


…九州のノリはソープだけでいいわ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




『中本さん、どうでした?』



「いやあ、ただひとえに感激ですよ。

自分如きがこんなレベルの高い店で接待されちゃってよかとですか?」



『でも中本さんは未来のセレブ御用達アーティストですし。』



「あ、その話、もう決まってるんですね。」



『今度、俺の税理士を交えて東京で作戦会議をさせて貰えませんか?』



「既にマネロンスキームに組み込まれとるー!!」



『はい、中本さんの会員券♪』



「え!?

このソープの会員券!?

いやいやいや、かなり取得ハードル高いって有名ですよ?」



『まあまあまあ。

俺と中本さんの仲じゃないですか。

長い付き合いになるんですし、これくらいはさせて下さいよ。』



「えー、付き合いの長期化も決まってるんですか?


いや、まあ。

ボクも飛田さんの事は嫌いじゃないし、それは嬉しいですけど。」



『あ、じゃあ。

もう一発行きます?』



「そのおカネの出所は?」



『親切な人が宝石をくれました!』



「その宝石の出所は?」



『…。』



「…。」



『「あっはっはwww」』



説明のしようがない以上、笑うしかないよな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



中本と談笑しながら、〆のラーメンについて相談していた時である。

ソープの店長が追い付いて来て呼び止められる。



「飛田様、呼び止めてしまい大変申し訳御座いません。」



『ああ、店長さん。

いつもお世話になってます。』



  「この人、どんだけ出張しとるとね。」



「…あの、大変申し上げにくい事なのですか。

少々お時間を頂く事は可能でしょうか?」



『あ、はい。』



  「あ、ボクは自己愛発動したんで

  先に帰ってますね。」



『はーい、じゃあ税理士の件。

日程決めといてねー。』



  「いやー、急に言われても。」



『じゃあ明日。』



  「反社ァww」



中本と笑って別れる。

そして連れて行かれたのは、ソープ街からやや離れた駅前のオフィスビル。

窓から巨大な熊本城が見えるので、恐らくは一等地なのだろう。

そこで件のソープ店・パープルシャトゥの社長さんが出て来る。

刷り上がったばかりの名刺を見せびらかしたい気分だったので丁度良かった。

俺の名刺交換第一号はソープ屋の社長だ。



「飛田様。

まずは非礼を深くお詫びします。」



『あ、いえいえ。

お構いなく。』



ソープランドには結構行ったが、その経営母体を見たのは初めてである。

プチ感動。

しばらく社長と形式的な歓談。

《若いのに起業とは素晴らしいですね。》

《このドワープという社名には何か意味が?》

とかそういう無難な話題。



「単刀直入に申します。

いつも飛田様が指名してくれている【遠藤】の件です。」



『あ、はい。』



そう言えば、最初にアレコレと好みを聞かれて面倒だったので同じ子ばかりになっていたな。



「…何と申し上げていいのか分からないのですが。」



『あ、はい。』



「遠藤が妊娠してしまったようなのです。」



『あ、それはおめでとうございます。』



「…あ、ありがとうございます。」



『…。』



「…。」



『?』



「それで、大変申し上げにくい事なのですが…

本人がですね。

どういう訳か《飛田社長の子供だ》と言い張っておりまして。

いや、当然弊社では避妊は徹底しておりますし、殆どそんな事は起こらない…

少なくとも、ほぼほぼ前例のない事なのですが…

まずは飛田社長に御一報しようと考えていた所、来店の報を聞きまして慌てて博多の会議を打ち切って戻って参りました次第です。」



『ああ、それはそれは。

お忙しい所を申し訳ないです。』



「弊社では本人の体質に合ったピルの服用を義務付けておりまして…

運用もかなり厳密なので、医学的には妊娠はあり得ないのです。

最初は遠藤の狂言かと思ったのですが、産婦人科でも妊娠が確認されまして…」



『あー、それは多分俺ですね。』



「え!?」



『聞くところによると、俺は精子が人より強いらしいんです。』



何せ俺の子だからな。

射精時ワープくらいはお手のものだろう。



「え!?

いや、そんな話があるんですか!?

私もこの業界かなり長いのですが…」



『実は恥を忍んで告白するのですが…

最近、外国の通常では妊娠しない方を妊娠させてしまっているんですよ。』



「ッ!?

そ、それでその方とは?」



『いやー、取引先の娘さんですし粗略には出来ないので、相手の御親族と話し合って。』



「はい。」



『まあ国籍とか文化の件もあるので籍は入れてないのですが、事実婚的な関係ではあります。』



「…うーーん。

にわかには何とも言えない話ですが…

医学的にはそういうケースもあるのでしょうか。

いやしかし(ブツブツ)」



結局、その場では何とも話が纏まらず、社長の御自宅(熊本唯一のタワマンの最上階)に招かれて小一時間色々話し合った。

向こうも客の俺をこういう用件で引き留めた事を苦に思ってるのか、高い酒をくれた。

ロマネコンティという名前は俺でも聞いた事があるので、きっと凄く高いのだろう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「あら、お帰りなさいヒロヒコ。」



『ただいま、エヴァさん。

今日の土産はちゃんとラベルを剥がしました!』



「あ、うん。

そもそも瓶の形状が…

まあいいわ、一歩進んだわね。」



『これを親方に渡してもいいですか?』



「駄目。

こっちの瓢箪に移し替えるから待ってて。

瓶は熔かしとくから。」



『なんかごめんなさい。』



「いいのよー。

叔父さんに気を遣ってくれるのは嬉しいし。」



『ブラギさんにも飲ませてあげてもいい?』



「駄目。

父さんは役職者だから。

お願いだからこれ以上危ない橋を渡らせないで。」



『あ、はい。』



今度から酒を貰う時はドワーフ瓢箪に中身だけを移してもらおう。



『ねえエヴァさん。

お願いがあるんだけど、怒らないで聞いてくれる?』



「んー?

怒られるようなお願いするの?」



『…えっと。

一応、仕事で…』



「じゃあ私は誰かさんの持ち込んだ、この世の物とは思えないデザインの瓶を溶かしておくから。

後ろで勝手に独り言を呟いてなさい。」



『あのぉ。

ドワーフの皆さんの宝石細工を幾つか購入したいと思いまして…』



「…。」



『…。』



ヤバい、背中が怒ってる。



「これ、独り言なんだけど。」



『あ、はい。』



「勘の良い者が聞けば、その一言でヒロヒコのスキルや商法が分かっちゃうわよ。」



『え!?』



「まるで、ドワーフの宝飾デザインを知らない世界に売りに行く話に聞こえたから。」



『え!?

はは、やだなあ。

ははは。』



「ヒロヒコが転移者である事は少なくない者が知っている。」



『…。』



「じゃあ、もう自分で答えを言ってるのと同じでしょう。」



『ごめんなさい。』



「…。」



『反省してます。』



実はしてないけどなww



「私はヒロヒコの懲りない性格、結構好きよー。」



なーんで背中越しに全部見抜いちゃうんだろうね、この人は。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ワープ能力はすべての精子が持っているのでしょうか。 だとしたらすごい受精戦争だな……億単位の精子が卵子に向かって 「「「受精!(ワープ!)」」」……ってあれ? 目視したところじゃないと飛べなかったはず…
村上さん→弁護士→中本の会話の流れが超面白い
ロマネコンティ(瓢箪)ワイルドすぎて草 エヴァさんホント出来た人 マネロンスキームに中本(ドワーフ製)入れ込むの面白い 技術はあるけど創作の発想がないのは惜しい 地球の銀が回り回ってクリーンな万札に変…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ