だから俺が最強なんだろうけどさ。
電話の音に起こされる。
ディズニーが余程疲れたのかな、こんなに熟睡したのは久し振りだ。
『もしもし。』
「おう、ちゃんと生きてるな。」
『村上さーん。
朝電は勘弁して下さいよ。』
「ちなみに今は正午5分前な。」
『マジっスかー。
言われてみれば腹減ってます。
一緒に何か食いに行きません?』
「オマエと違って仕事なんだよ。」
『あ、スンマセン。』
「ポストに金貨入れるの止めてくれなー。
税務署に見つかったら酷い目に遭うから。」
『あ、はい。』
「贈与税の概念は前に教えたな?」
『100万円以上貰ったら税金が取られるんでしたよね。』
「厳密には110万円な。
で、オマエがポストに捻じ込んだ金貨…
ちょっと洒落にならんだろ。」
『あ、はい。』
「新聞配達員やらに見られたら…
村上家が詰むから。
マジで勘弁してくれな。」
『そこまで思い至ってませんでした。
他に宝石をプレゼントした人も居るんですけど、迷惑掛けてますかね?』
「取り敢えず謝っとけ。」
『色々世話になった人には、感謝の想いを伝えたいじゃないですか。』
「そっか。
次からはチラシの裏にでも書いておけ。」
『はい。』
「オマエには言いたい事が山ほどあるが…
修羅場は越えたのか?」
『そっすね。
脅威らしい脅威は殆ど消えました。
後はチャコちゃんさん位じゃないですか?』
「俺も最初の嫁の時な…
結婚プレッシャー激しくて病みかけたわ。
まだ同棲半年目だったんだけどな。」
『村上さんモテそうだもの。』
「うーん。
同世代の中では女に困らない部類だったな。
それだけにさぁ。
20代はずっと遊んでいたかったのだが…」
『今は女遊びしないんですか?』
「話が合う世代がBBAしかいないからなあ。
バーサンとヤッても仕方ねーだろ。
でも若い子とは話してるだけでしんどい。」
『あ、すんません。
俺の若さが村上さんを苦しめてましたね。』
「いや、トビタの場合は若さというより…
まあ、俺も歳だからもう少し手心を加えてくれ。」
『あ、はい。
なんかすんません。』
「まあ元気なのは本来良いことだけどな。
今からジンギスカンでも行くか?」
『はい!
行きます!』
「その可愛気…
飯かソープ以外でも発揮出来ればなぁ。」
ドワーフは山羊食文化。
支配する山脈に無造作に山羊を放すことを彼らは牧畜と呼ぶ。
数を数える素振りすら見せないのは、ある意味男らしいあり方だと思う。
なので、彼らの配給食には山羊肉や山羊チーズか多い。
栄養価は高いらしいのだが美味しくはない。
逆に帝国は牧羊文化圏。
王都を占領した彼らは嬉々として周辺住民にラム肉を振る舞い始めた。
王国民は苦笑で拒絶したが、俺は旨いと思った。
なので、ジンギスカンの誘いは嬉しい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「この店はなぁ。
北海道じゃあ、かなりの名店なんだぞ。
向こうの新鮮バターをふんだんに使った、【特濃ガーリックバターたれ】はインバウンド客に熱狂的に支持されてる。」
『確かに錦糸町にしてはガイジン比率高いですね。』
「3種の帆立盛り合わせも頼む?」
『はい! 是非!』
異世界では野営が続いたからな。
久し振りに贅沢がしたい。
「オホーツク雲丹三昧も食べたいか?」
『食べたいです!』
いやあ、もしも異世界でワープを喪失してたら、こういう美味が2度と食べられなくなってたのだろうなぁ。
ふー、良かった良かった。
「なぁ、飛田。」
『はい?』
「金貨どうするんだよ?
流石にあの枚数は洒落にならんぞ。」
『もう村上家に寄贈したんだから、好きに使って下さい。
チビチビ換金して行けばいいじゃないですか。』
「何、あれはやっぱり遺贈のつもりだったの?」
『そういう可能性もあったって事ですよ。』
「若者にそういう事されると傷つくから本当にやめてな。
生きた心地しなかったぜ。
幹康も泣いてたしさ。」
『マジっすか?
幹康さんとは、そんなに接点ないと思ってましたけど。』
「オマエは俺の客人だからな。
アイツなりに遠慮があるんだろ。
昔からそういう奴なんだよ。」
『幹康さんにも金貨分けてあげて下さい。』
「それはオマエの口から伝えてやれ。
多分アイツ、ちゃんと怒ってくれるから。」
『なーんか俺、色んな人に怒られてばっかりです。』
「それだけ愛されてるんだよ。
感謝しろとは言わん。
自分がオッサンになった時、若者をちゃんと守ってやれ。」
『俺、年下の人に嫌われそう。』
「大丈夫、癖のあるオッサンと相性の良い若者は一定比率で存在するから。
そいつは必ず下らない奴だからから、オマエがちゃんと導いてやれ。」
『あーあ、またノルマが増えました。』
「ジンギスカン喰わせてやってるだろ。」
『高い焼肉になっちまいました。』
「エゾシカのタレ焼きはどうする?」
『鹿・山羊・兎は喰い飽きてるんですよ。』
「しれっとヒントを漏らすな。
勘のいい奴なら察するぞ。」
『チャコちゃんさんとか?』
「あの子は昔から頭の回転が速かったな。
そんなに勉強しなくてもテストで100点取れるタイプ。」
『あの人、飛田クイズの正解率が高すぎて怖いんですけど。』
「女はみんな勘がいいし。
オマエは男の中でもボロを出し過ぎ。」
『自分では結構ポーカーフェイスに徹してるつもりなんですけどね。』
「あ、うん。
人には向き不向きがあるから、オマエは猿みたいにスロット回してろ。」
『そんなに顔に出てます?』
「トビタは表情筋死んでる癖に、悪だくみする時だけニヤニヤ笑うからな。
交番の前は極力歩かないようにしろよ。
厳しい警官なら職質掛けてくるぞ。」
『そんなの聞かされたら、交番の前で挙動が却って不審になりますよ。』
「勘弁してくれー。
持ち歩いてる宝石とか金貨が見つかったら、マジでヤバいぞ。」
『捕まったら村上さんに泣きつきますわ。』
「なーんか、芋づる式に俺も罪状被せられそう。」
そんな取り留めのない話をしながらラムを腹いっぱいに貪る。
ビールは苦手なのだが、村上があまりに旨そうに呑むので2杯も飲んでしまった。
結局、2人共まともに歩けなくなったので錦糸町公園でへたりこんでしまう。
息をするのもダルいので、桜の木にもたれ掛かって…
やがて、それすらも面倒なので地べたに大の字になる。
「トビタってガキの癖に酒好きだよな。」
『大人ぶってるだけですよ。』
「クソガキあるあるだな。」
『ねえ、村上さん。
どうして大人って酒を飲むんですか?』
「他にやる事ねーからだよ。
言わせんな恥ずかしい。」
『…実は俺、やることなくなっちゃいました。
酒でも飲んだ方がいいんですかね。』
「ズルい金儲けはどうした?」
『軌道に乗っちゃいました。
後は作業っす。』
「オマエそれ、絶対外で言うなよ。
ただでさえ景気悪いんだからさ。」
『でも、顔に出てるんでしょ?』
「出てる。
今のオマエは典型的な成金クソガキ顔してる。」
『えー、なんなんすかそれ。』
「YouTubeとかに居るだろ。
仮想通貨で一発当てただけのガキがドヤ顔で人生語ってるじゃん。
オマエ、あんな顔してる。」
『マジっすか!?
最低じゃないっすか!』
「ある意味仕方ないよ。
トビタくらいの年齢で稼いでたら万能感凄いだろうし。」
『えー、俺そんなに顔に出てるかなー?』
「悪いことばかりでもないさ。
そういう奴の方がモテるしな。」
『モテませんよ。』
「モテてるよ。
例えば、前に連れて行ってやった吉原のソープ。
あれからもちょくちょく通ってるらしいな。」
『ええ、東京でヤル時はあの店に決めてます。
店長さんと村上さんが昔馴染みって聞いたんで。』
「あそこのミミちゃんってオマエ何度か指名しただろ?」
『いやー、名前までは覚えてないっすねー。』
「そうか?
写真見る度、ミミちゃんを選ぶって言ってたぞ。」
プライバシーぇ…
『そりゃあ写真見せられたら一番好みの子を選びますから。
自然に同じ子になっちゃうでしょうねえ。』
「ミミちゃんがオマエに御執心なんだってさ。」
『まあ、太客らしいですしね。』
「違う違う、結構マジトーンで店長に相談してるらしいぞ。
それだけモテてるよって話。」
『次は吉原以外の所に連れてってくださいよ。
東京なら夜遊びスポットいっぱいあるでしょ。』
「あるよー。
この錦糸町もそうだし。」
『え、マジっすか!?』
「若いなーw
秒で酔いが醒めやがったww」
『これから一緒に行きません?』
「そんなに性欲あるならチャコちゃんにモーション掛けてやれよ。」
『あの人とヤッちゃうと村上家に囲われそう。』
「嫌か?」
『いえ、村上さんの家なら丁稚でもいいですよ。』
「流石に自分よりカネを持ってる奴は丁稚にさせられねーわww」
『ははは、世の中上手くいかねーww』
「上手く行かねーから楽しいんだよ。
…じゃあ丁稚に福利厚生するわ。」
『マジすか!?
社長w 社長w』
「調子のいいやっちゃなぁ。
エステとおっパブどっちがいい?」
『両方行き比べないと選べませんねえ。』
「悪い意味で大物だよな、オマエ。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
風俗店をハシゴして疲れ果てたのでタクシーで巣鴨まで戻る。
「飛田ぁ。
そっちの女はどうだった?」
『え?
普通でしたけど。
村上さんはどうでした?
結構美人だったでしょ?』
「うーーん。
顔は整ってるんだけど、俺のあんまり好きじゃないタイプの整い方だった。」
『ああ、ありますよね。
世間の基準なら美人だけど、個人的には好きじゃない系統の顔。』
「一応念を押しとくけど、チャコちゃんの顔ってどうよ?」
『え?
どうだろ。
あの人の場合は、最初から村上さんの身内枠でしたからね。
未だにそういう目で見ない様にブレーキ掛けてるのかも知れません。』
「いや、そういうバイアスを外してさ。
純粋なルックスだけならどうよ?」
『えー。
どうだろ。
凄く好みではあるんだけど…
結婚したら豹変するんだろうなー、って気配は漂ってますね。』
「ははははは。
いい眼をしてるじゃねーかww
若い頃の俺に見習わせたいぜww」
2人で爆笑しながらタクシーを降りると、幹康さん夫妻が凄く怖い顔で睨んでいたので、慌てて乗り直して逃げた。
ワープは駄目だなあ。
このスキルは万事において逃げ癖が染み付いちゃうわ。
まあ、だから俺が最強なんだろうけどさ。