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これは光バイトなんです！！

エヴァと結婚した。

年内には子供も産まれるらしい。

イマイチ実感がないのだが、俺もしっかりとしなくてはならないな。

まあ、親父も貧しい中必死で俺を育ててくれた訳だしな。

そういう誠実さのバトンを俺も次代に繋いでいこう。

「Tさん、こんなレベルの高級ソープ奢って貰ってありがとうございます。

ボクの相手、滅茶苦茶美人でしたよ！

しかも爆乳！！

Tさんの相手は？」

『え？

まあ、普通に可愛かったですよ。

洗練されてる印象はありました。

東京のショボい店なんかより、従業員教育が行き届いているというか。』

「おお！！

東京よりも！？

いやあ、やっぱり博多は凄かですねぇ。

九州の綺麗所が集まってますよ。」

『俺は行き慣れた熊本が良かったんですけど、流石にNさんは顔を知られてるでしょうし。』

「そうですねー。

熊本市内のソープ店同士は繋がりも密接ですし、ボクが行ったらすぐバレますね。

博多はギリセーフです。

今日は本当にありがとうございました！」

『いえいえ、Nさんが換金ミッションを成功させてくれたからですよ。

メシの予約もしてあるんで、鍋でもつつきながらお話を聞かせて下さい。』

「おー！

女にメシ。

確実に闇に引き込まれてるのが実感出来て怖いです。」

『あっはっはｗｗ

宝石は闇を照らす文明の清涼剤。

Nさんが今やってる事は光バイト！！

断じて闇バイトなんかじゃない。

これは光バイトなんです！！』

「ひ、光バイトっすか。

ぶっちゃけ闇バイトよりも怖い気が…」

◇　◇　◇　◇　◇　◇　◇

Nとアラ鍋をつつきながら、本題に入る。

アラの炙り刺、馬刺し、サザエ刺。

美味い物を喰いながらカネの話をするって最高だよね。

「ではTさん。

それでは今回の案件の報告を致します。」

『お願いします。』

「まず、こんな大きなヤマを与えて下さったにも関わらず！

相場より遥かに安い売却金額になった事をお詫びします！」

『いえいえ。

予想以上に早く旗が上がったので正直驚きました。』

「旗を上げてる最中に来ないで下さいよｗｗ

監視されてるみたいで怖いですｗｗ」

『すみません！

たまたま近くを立ち寄ったらNさんがベランダでモソモソしておられたので、つい嬉しくなったので。』

「本当にたまたまだと助かるんですよけどねえ。

どこの店が気に入りましたか？」

『いや、なるべく同じ店には行かないようにしていて。

あの日は確か、パープルシャトーですね。』

「豪遊じゃないっすかｗｗ」

『「あっはっはｗｗｗ」』

笑いながらNはカネが入ったポーチを卓上に置く。

「大前提として、如何にヤクザと関わらずに済むかだけを考えておりました。

それで良かったですよね？」

『ええ、どれだけ金額が高くてもああいう連中とは接点を作りたくありません。』

「九州はTさんが思っている以上に酷いですから。

お互いに気を付けて行きましょう。」

『御忠告、肝に銘じます。』

「じゃあ本題。

あくまで買い手のコメントですが…

今回のエメラルド、等級は二つともAでした。

カラットは3.0カラットと5.0カラット。

相場ではAの3.0カラットは70万円以上、Aの5.0カラットは90万円以上の買取とされています。」

『おお！』

「あ、ようやくTさんが驚いてくれました。

エメラルドは人気のある石ですからね。」

『いや、メモも見ずにスラスラ数字が出て来るNさんに感動しました。』

「だってボク中卒ですよ。

せめて必死に勉強しなかったら、誰も相手にしてくれんとですよ。」

『ああ、なるほど。』

「だから会社には長期休暇をお願いして、しばらくフリーで動いてました。」

『そんなに簡単に休めるものなんですか？』

「会社組織なんて、こっちが勤めたそうな顔をしてれば冷遇されますし、辞めたそうな顔をすれば機嫌を取って来ます。

今回の件で痛い程理解出来ました。」

『なるほどー。

今、人手不足ですものね。』

「なので休職中は宝石のことばっかり考えてました。

かなり詳しくなったと思いますよ。」

『おお、頼もしいです！』

「今回、買い手はジュエリーアーティストに絞りました。」

『あ！！』

「ふふふ、Tさんがその反応をしてくれたと言う事は…

ボクの判断は的外れではなかったということですね？」

『ええ！

仰る通りです！！

いや、その発想は全くなかったです！！』

「それも海外で個展を開くレベルの成功したアーティストに絞りました。」

『…おお、Nさんにお願いして正解でした。』

「それで最初は博多の美術館やデパートの展示会に行きまくって。

いつの間にかアーティストさんに詳しくなって。

神戸でアトリエを持たれておられる、ケン野中さんに気に入って頂けました。」

『いや、この短期間に見事です！』

「野中さんは相場を教えて下さった上で、《2つ100万でなら即金で買う》と。」

『ふむ。』

「野中さんが言うには、これは買い叩きではないと。

現時点のボクが領収証を切れないので、この金額でも苦しいそうです。

ただ、今後の縁を繋ぐ意味でも取引をしておきたい。

そう仰ってました。」

『…素晴らしいです。

では、まずは半分の50万を正当な対価としてお受け取り下さい。』

「ありがとうございます。」

『残りの50万は今回の経費と休業補償としてお納めください。』

「いやいや！

それやったらTさんが丸損じゃないですか？」

『そうでしょうか？

Nさんという能力・意欲共に優れたエージェントと出逢えたのは大きいと思います。

だって、宝石に疎い私がたったの100万円の元手でエージェントを探すのは不可能ですよ。』

「そう仰って頂いて嬉しいです。

…実は、風俗業界なんかじゃなくて宝石業界で働けたらって思ってて。」

『ええ、その想いには賛成です。』

「周りに言えないじゃないですか。

ソープの店員やってますだなんて。

でも、宝石業なら恰好も付くし、親も悲しませずに済みます。」

『本腰を入れて宝石業したいですか？』

「ですね。

カネが溜まったらカッティング器具も買い揃えていきたいですし…

もしもTさんさえご迷惑でなければ、もっと案件を振って頂ければ嬉しいです。」

『じゃあ、今後も余った宝石販売はNさんにお任せします。

近いうちに税金廻りの相談をさせて下さい。

俺は法人持ってますし、税理士事務所も割と深い話をさせてくれるので、』

「ありがとうございます！」

『ただ、俺は既に東京でルートを持っているので、当面はサブの扱いとなります。

その点だけご了承下さい。』

「噛ませて頂いているだけでもありがたいです。

あの、Tさん。」

『はい？』

「アレキサンドライトの原石は需要多かったです。

殆どの原石は1.0カラット以下なんで、それ以上のサイズは価値が出ます。

3.0カラットを越えると纏まった金額になります。」

『了解、念頭に入れておきます。

じゃあ、以降は裏じゃなくて表の依頼に切り替えて行きましょう。

表に出せないカネなんて幾ら持ってても仕方ないですからね。』

実は換金だけならジェイン一人で十分だし、あれ程信用出来る男もいない。

ただ、こうやって持ちネタを増やせることを証明しておかないと、向こうから信用されなくなるからな。

『Nさんはこれからどうされるんですか？

もう店は退職されるんですよね？』

「中本でいいですよ。」

『…じゃあ俺も飛田でいいです。

引き続き宜しくお願いします。』

「こちらこそです。

飛田社長。」

その後、2人でLineを交換した。

ワープよりもスマホの方が便利だからな。

◇　◇　◇　◇　◇　◇　◇

中本と別れた後、高級デパートで最新型のウォシュレットを堪能してから自宅にワープ。

え？

言わなかった？

俺、ウンコは全部外でしてるよ？

家でゴロゴロしてる日でも、ウンコしたくなったら高級デパートにワープして最新型便器でゆっくりとウンコをしている。

くっくっく、羨ましいかい？

これがワープの真骨頂なのだよ。

『～♪』

鼻歌を歌いながら、中本から渡された希望品目メモを眺める。

苛酷な風俗店勤務で仕込まれただけあって、結構仕事が丁寧な男だ。

先程伝えたがルビーは全てジェインを通す約束になっているので、中本にルビーは卸さない。

彼に渡すとすればそれ以外だな。

メモにはラピスラズリ名も挙げられていたが、異世界でそんな物を探していたら冗談抜きで処刑されかねない。

苦笑しながら却下。

『ふわああ。』

ウトウトしていたらしい。

気が付けば夜になっていた。

昼間あれだけ食べたのに小腹が減った。

吉野屋行こうかな。

いや、昨日も行ったしなぁ。

『ワープ。』

俺は短く呟く。

「…おかえりなさい。」

『ただいまー。』

「もう来ないんじゃないかと思ってたわ。」

『いやいや、ここは俺の大切な我が家だよ。』

「ふーん。

じゃあ宝石の販売ルートでも見つけたのね。」

『！？』

「分かるわよ。

ヒロヒコって思考と表情が直結してるから。」

『あ、いや。』

「ねえ、私のこと好き？

愛してる？」

う！？

何だこの波状攻撃は！！

いかん！！

表情を殺さなくては！！

平静を装え、俺！！

「安心した。

ヒロヒコは家庭が疎ましいだけで、私はそこまで嫌われてないのね。」

『…。』

今、俺はどんな表情をしているのだ？

「どうせお腹が減ったから戻って来たんでしょう？

シチューを温め直すね。」

『あ、はい。』

吉野屋ほどではないが、ドワーフ式の兎肉シチューも悪くはなかった。

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