無料で人殺しの練習が出来るなんて本当に感謝しかない。
「あれ?
トビタ殿か?」
数名のクラスメイトが遠巻きに見守る中、騎士団長が間の抜けた声で俺の顔を覗き込む。
『御無沙汰してます。』
「ははは。
良かったァ。
生きてたんだ。
急に居なくなったから死んだのかと思ったよ。
葬儀を挙げた方が良いのか迷ってたんだ。
今年度分の予算は使い切っちゃったからね。
いやあ、生きててくれてよかった。」
『…ども。』
相変わらず無神経な男だが、悪気の無さは伝わる。
雑兵身分から剣一本で這い上がったというだけあって、デリカシーがない。
但し、この団長。
敵兵にも容赦なくデリカシーの無さを発揮するので戦争指揮官としての適性は極めて高い。
スイッチが入ると相当ヤバい人物らしいので、俺も慎重に接することに決めている。
「トビタ殿が急に消えたから驚いたよ。
でも、ゴブリン討伐に参加してくれるなんて嬉しいなぁ。」
『え?』
ヤバい。
変なタイミングで来てしまったか?
「城壁の外とは言え、王都からあんなに近い位置にゴブリンが湧いちゃったでしょ。
今朝になるまで誰も気づかないなんて酷いよな。
さっきも国王陛下に怒られちゃったよ、はっはっは。」
『いやぁ、ははは。
大変ですねぇ。』
「君のクラスメイト達は人型の魔物を殺す事を嫌がってねえ。
恩賞を弾むと言っても殆どが志願してくれなかったよ。
我々も召喚には莫大な予算を費やしてるから…
消極的だと困るんだけとね。」
なるほど。
大体、理解出来た。
この王国は大金を叩いて俺達を召喚した。
(戦略級の大要塞を5つは建造出来る額らしい。)
にも関わらずクラスメイト達は非協力的であり、王国としても世論の突き上げに苦慮しているとのこと。
王様の構想としては、俺達を稀少スキルを持った傭兵として運用することで国際社会に武威を誇るつもりだったらしい。
だが、呼び出されたクラスメイト達は殺人に強い忌避感を持っており、どれだけ恩賞をチラつかせても協力的な姿勢を見せてくれずに困っているとのこと。
『もっとチカラづくで脅迫して従わされるのかと思ってました。』
「直臣でもない君達にそんな事をしたら、合戦が始まった時に傭兵が集まらないじゃないか!」
『なるほど。
一理ありますね。』
王様の本音としては、ゴチャゴチャ言う召喚者を見せしめに何人か殺して服従させたいらしい。
ただ、国際社会に対して召喚を派手に発表済みなので俺達を粗略に扱えない。
傭兵達は常に君主を観察しているからだ。
少しでも悪い噂が立てば、契約の更新を見送られてしまう。
なので、王宮から目と鼻の先に湧いたゴブリンの退治依頼を拒絶されても、そこまで強いペナルティを与える事が出来ないとのこと。
「トビタ殿が加勢してくれて助かったよ。
私も国王陛下に対して面目が立ちそうだ。」
『あ、いえ。
ども。』
一瞬、ワープで逃げようとしたのだが、すぐに考え直す。
地球で強盗する為にも殺生の練習はしておきたい。
聞けばゴブリンは人間に近い骨格や体格をしているとのこと。
彼らを殺し慣れておけば、地球でも円滑に強盗殺人が出来るのではないだろうか?
『えっと、俺は武器を持ってないんですけど。』
「いやいや、支給するよ!
公務なのだから当然じゃないか!
丁度、武器庫に向かうところだった。
トビタ殿も来なさい。」
『あ、はい。』
実は異世界には一瞬だけワープして武器だけ盗んで、さっさと地球に戻る予定だった。
だが、支給してくれるなら渡りに船である。
ここは黙って流れに従おう。
『おおっ!!』
流石は封建国家の王宮である。
剣・槍・鎚・弓・盾etc
ありとあらゆる武具が整然と並べられていた。
『これを借りれるんですか?』
「んー?
こっちは支給品コーナーだから、好きなの持ってってもいいよー。」
『気前いいんですね。』
「そう?
首都の武器庫ってどこの国でもこんな感じだけど。」
『なるほど。』
「で、どうする?」
『え?』
「いや、武器だよ。
まさか若者を丸腰で討伐に連れて行くわけにもいかないでしょ。」
『あ、そうですね。
じゃあ、武道未経験者でも使えそうな武器を下さい。』
「んー?
トビタ君も未経験者?
男子なら剣術の1つでも学んでおくべきだと思うけど。
まぁ、いいか。
こういう話をすると最近の若い子は反発するからね。」
『あー、スミマセン。
今度、ググっときます。
じゃあ、何かオススメあります?
携帯性と殺傷能力が高くて、一目見ただけでは武器である事が分からないモノを希望します。』
「おいおい。
素人の癖に妙に具体的だな。」
『たはは。』
「これなんかどう?
武器というより暗器だけど。」
『筒?』
「馬鹿っ!
危ない!」
『え? はい。』
「そこから鉄針が伸びるんだよ!
気を付けろよ、自決用だから!」
『うおっ、怖っ。』
「女子供でも扱えるけど、敵に密着しなくちゃ撃てない。
ゼンマイ式だから何発でも撃てる代わりに、撃つ度に逃げ回ってゼンマイを巻かなきゃ行けない。」
ほー。
俺と相性良さそうだな。
確殺出来るなら
『あ、じゃあこれを支給して下さい。』
「いいよー。」
騎士団長は上機嫌でそう言うと、民間人向けの防刃ベストを着せてくれた。
そのまま2人で武器庫から退出。
「んー?
どうしたー?
行くよー。」
『あ、はい。』
…マジか。
【支給品管理表】とか【持ち出し申告書】とかそういうのは無いのか?
見ると団長は左腕に投げナイフセット(?)らしきものを抱えており、控室に居た部下に「馬車に積んどいてくれー。」と談笑しながら無造作に押し付けている。
主従共にセットの数を数える気配すらない。
信じ難い事だが、そういう文化らしい。
だから財政難になるんだよ、とツッコミたかったが、一番欲しいモノを貰った以上文句は言えない。
というより、武器庫の隅々まで目視したからな。
今後はパクリ放題である。
自決筒の他にも強盗に使えそうな武器がいっぱいあったし、感謝しかない。
さて、ゴブリン退治か…
無料で人殺しの練習が出来るなんて本当に感謝しかない。
後は彼らの肉体構造が少しでも地球人に近い事を祈るのみである。