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※但し気圧は考慮しないものとする。

ドワーフと人間の組み合わせからは子供は生まれない。

それはドワーフ側の学問でも人間種側の学問でもとっくの昔に証明済だった。


どうやって証明されたかなど言うまでもあるまい。

昔は今と違って皆が乱暴だったので、捕虜に対して途轍もなく酷い仕打ちをしていた。

軍属のみならず民間人も平気で捕獲して、言語に絶するようなエグいごとをした。

相手が異種族の女性であれば尚更である。

そう言うことなのだ。


証明され終わってからも検証作業は長い期間続いた。

俺達が知らないだけで、世界のどこかでは続いているのかも知れないが…


人間種とドワーフが数千年掛けて念入りに実験したので、もはやこの両種が混血しない事は揺るぎない科学的事実であった。

原理もとっくに証明されている。

腟内のpH値が両種で極端に異なっており、どれだけ射精しても膣内で精子がすぐに死んでしまうのである。


それを聞いた瞬間、何となく真相が分かった。

…多分、俺の精子が直接ワープしちゃったんだろうなぁ。




「「…。」」



『親方、ブラギさん。

申し訳ありません。』



「いや、俺は怒ってはいない。

ブラギ。」



「トビタ君には怒っていないから安心しなさい。

正直、パニックにはなっているけどね。


…エヴァ、正直に答えろ。

こうなる兆候は感じていたのか?」



「無くはないと感じておりました。」



「論拠は?」



「トビタ・ヒロヒコは王国人が遥か遠方から召喚した存在です。

我々が知る人間種の法則は必ずしも適用されないと考えておりました。」



「…意識して妊娠したのか?」



「否定はしません。」



「何故そうした?」



「トビタ・ヒロヒコが氏族再興の役に立つと直感したからです。

いえ、それよりも敵対勢力に囲われる危険を何としても避けたかったのです。」



「いつも言っている事だが、女が勝手なことをするな。」



「申し訳ありません。」



「…ブラギ。」



「スミマセン、兄さん。

まだ取り乱しております。

エヴァ、隣室にて待機。」



「はい、失礼致します (ペコリ)」



(スタスタスタ、パタン。)



「トビタ君、ああいう娘だ。

やや持て余していてね。

君が仲良くしてくれていた事には感謝していた。」



『あの、ブラギさん。

この度は…』



「誤解しないで欲しいのだが、私も兄も別に怒っている訳ではない。

エヴァはやや軽率だった気もするが、少なくとも君の行動は終始好ましいものであった。」



『ありがとうございます。』



「さて、それはそれとしてだ。

人間種との間に子が出来たという前例は存在しない。

そういう神話もあるが、歴史においては存在しない。」



『あ、はい。』



「だから、私にはこの事態にどういう感情を持つべきなのかすら見当がつかない。

怒るべきか?

祝うべきか?

悲しむべきか?

喜ぶべきか?


…まるで見当がつかん。

兄さんはどうですか?」



「うーん、俺はもしもの話を好まないのだが…

もしもトビタが同胞であれば、多少の小言を言いつつも内心で喜んだんじゃないか?」



「では、もしも抜きなら?」



「正直、困ったことをしてくれたな、というところかな。

まぁ監督責任は俺にあるし、もう切腹の覚悟は出来たよ。」



『え!?

いや、親方が何で!?』



「あのなぁトビタ。

社会ってそういうモンだぞ。

オマエを歳を取れば分かることだし、今はまだ分からんでいい。」



『…はい。』



「トビタ君、幸いにして私は氏族の中では蓄えのある方だ。

君ほどではないがね。

なので、孫が生まれても経済的な面では負担はない。

ここまではOK?」



『あ、はい。』



「問題は、社会がこれを受け入れるか否か。

結論から言うと、人間種の社会には絶対に入れない。

それは分かる?」



『以前エヴァさんと王都のカフェに行った時、雨が降ってるのにテラスに通されました。

ウェイターに注文しようとしても、何回も無視されましたし。』



「寧ろ、よく入店させてくれたな。

私としてはそちらの方が驚きだ。


…孫は人間種の社会では良くてもそういう扱いを受ける。」



『はい。』



「ドワーフ社会ではどうかなぁ。

女であれば、愛敬さえあれば物珍しさ枠かな。」



『男が生まれれば?』



「早めに淘汰されるから気にしなくて構わない。」



『…。』



「これは混血云々とは関係ない。

ドワーフ社会に弱い雄は必要ない。

我々兄弟も過酷な選別を潜り抜けて、今を生きている。」



『…。』



「ただなぁ。

半分は人間種だ。

変な扱いはしたくても出来ないかもな。」



『…申し訳ありません。』



「繰り返すが、君に落ち度はない。

ただ、そういう状況であることだけは頭に入れておいて欲しい。」



『はい。』



「では話は終わりだ。

後は気にせず過ごしてくれ。

エヴァ!

行くぞ!」



「はい。」



『あ、あのブラギさん。』



「?」



『エヴァさんはどうなるんですか?』



「…私が知りたいくらいだよ。」



『娘さんにはこのまま洞窟に居て貰う事は出来ませんか?』



「それは正式にエヴァに求婚するということ?」



『…まあ、それで丸く収まるのでしたら。』



「あのなー。

タテマエでも、もう少し欲しそうな顔をしてくれよ。」



『あ、すみません。』



ブラギは背中を向けたまま大きく溜息を吐いた。

ガルドは腕を組んだまま真上を睨んでいる。



「…ワイバーン、狩れるかね?」



『え!?

は、はい。

何かのお役に立てると思います。』



「違う違う。

貢献ではなく証明を求めているんだ。

1人のオスとして、皆の見ている前でワイバーンを殺せるかと聞いている。」



『多分楽勝なんで、こっそりやらせて貰えませんか?』



「…。」



『あ、そうですよね。』



「ドワーフなんぞに生まれるもんじゃないぞー。

ましてや婿入りするなんて正気の沙汰じゃない。」



『あ、じゃあ。

皆さんが見ている前でワイバーン殺します。

牙の所有権も主張しません。』



「…そうか。

よし、行くぞ!」



『え?』



「常在戦場。

君はそういう種族に求婚しているんだ。

分かるか?」



『あ、じゃあ、今行きます。』



何もかもが急展開過ぎるだろ。

ワープだけにww



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



不肖の兄ガルドと違ってブラギは氏族の中で結構偉い。

職務で法律やら財務やら軍事やらに携わっており、役所では執務室を与えられているし、邸宅の裏手には数名の弟子を住ませてある。

それどころか長老会議のメンバーになる事も内定している。

そういう大物だけに負っている義務も多い。



『ブラギさん、この後用事があるんで手短にワイバーン殺していいですか?』



「いいよ。

ちゃんと見届け人があそこの外壁から見てるから。」



俺、通販で組み立て式の本棚を買ったんだよね。

今日の19時に配達人が来る段取りだから、絶対に帰らなくちゃ駄目なんだよね。

勿論、エヴァ問題の方が重要だとは理解しているけど、配達人さんに迷惑を掛けたくないからね。



「トビタ君、武器は?」



『適当に借りて来ます。

その前にトイレ。』



俺はそう言って外壁の外側にある厩舎番用のトイレを貸して貰う。

勿論、大だ。



『ワープ。』



いつか見た王都の武器庫に飛ぶ。

壮絶に物色された形跡があり、貴重品の類は持ち去られていたが量産品の槍が何本か転がっている。



『うんしょっと。』



結構重いな。

こんなモンを持って戦場を駆け回るのだから兵士さんというのは偉い仕事である。



『ワープ。

ブラギさん、親方お待たせしました。』



「流石の俺も便所から槍持って来る奴は初めて見たわ。

どうするブラギ?」



「ノーコメントで。」



「…じゃあトビタ。

始めてくれ。」



『はい!

それではですね、目にも止まらぬ速さでジャンプします!』



「「…。」」



『あの、お2人共。

周りの皆さんに、俺が普段どれほどジャンプ力を鍛えているかを力説しておいて下さいね?』



「善処しとくわ。」



『ワープ!!』



俺の能力は【ワープ】。

一度見た場所にならどこにでも瞬間移動可能。

なので、ワイバーン達の真上に飛べる!!


※但し気圧は考慮しないものとする。



『うおおおおおおおおお!!!!!!

飛んだぁあああああああ!!!!!!』



今や俺は法人代表なのでこんな荒事をする必要など1ミリもないのだが、男なので殺し合いは楽しい。

空中の同じ座標にワープし続ける事によって落下を防止しながら、眼下に見えるワイバーンの背を眺める。

5秒ほどホバリングしながら、一番動きのゆったりしたワイバーンの背に!!



『必殺ッ!! 

ワープ刺しいいいい!!!!!』



渾身の一撃を!!!!

































(SE:カキンッ)



『え?』



おかしい、ワイバーンは竜族にしては比較的柔らかく、標準的な男性の腕力なら楽に刺殺出来るとガルドに聞いていたのだが…

いやいや、冷静に考えろ。

ドワーフの言う《標準的男性の腕力》に俺が達している訳ないじゃないか。



『ワープ!!』



王都の武器庫に飛んで慌てて武器を漁る。

俺でも取り回せて、かつワイバーンを殺せそうな武器!



『とりあえず槍ッ!!!』



(SE:カキンッ)



『じゃあ剣!!』



(SE:カキンッ)



『意表をついて小刀!!!』



(SE:カキンッ)



…やっべ、俺の積み重ねてきた強盗体験が何一つ活かせない。

いや、冷静に考えれば桧山社長と、その悪口を言ってた淫売くらいしか殺してないよな、俺。



『うーーーん。』



ワイバーンの背中で考え込んでいると、違和感にイラついたのかワイバーンが左右に首を左右に揺らして不快を示し、そして一瞬振り返る。

想像よりも獰猛な顔つきをしていた。



「アオーンッ!!!!」



咆哮と共にジグザグ飛行。



『無駄無駄。

俺、ワープ飛行の要領分かっちゃったもんねww』



ワイバーンの背中から10センチくらい離れた空中に浮いて追尾する。

俺が相当気になるのか5秒に1回くらいチラ見してくる。

埒が明かないなぁ。



『ワープ!』



再度王都の武器庫に。

ゴソゴソやっていると軍用の砥石を発見。

これで穂先を研げば俺でもワンチャンあるか?

いや、悠長過ぎんだろ。



『なんかないか?

なんかないか?』



キョロキョロしているうちに陣地構築用のワイヤーを発見。

あー、これで括ってやろうか…



『ワープ!!』



俺が背中に飛び乗った瞬間、ワイバーンと目が合う。

あ、コイツかなり知能高いわ。

少なくとも俺より賢い。

いや、勿論自分が愚かすぎる点はちゃんと差し引いているよ。



『上手く絡むかなあ…』



ワイヤーを翼に引っ掛けようとした瞬間、本能的に危機を察知したのかワイバーンが大きく身を捻じった。



『うおっ!!!』



空中に放り出される!!!



『うわああああああ!!!!』



恐怖のあまり自宅にワープ。

飲みかけのドクターペッパーを飲み干し、失禁していないかをチェックしてから再度戦場に戻る!!!!



『うおおおおおおおおおおおッ!!!!!』



空中に出現した俺はワープホバリングを駆使して獲物を探…

あ、見事なまでに絡まっとる!!!



ワイヤーを嫌がって暴れたのが裏目に出たのだろう。

左翼と右足を結んでしまったワイバーンは海老のように曲がった姿勢のまま、旋回していた群れに突っ込む。




「「アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!」」



不幸にして大柄な一匹が巻き込まれた。

二匹は絡み合うように揉み合って…




ズガ――――――――――――――――――ン!!!!!




脳天から大地に激突した!!



『わはははははは!!!!

無敵ぃいいいい!!!!!!!』



俺は小刻みワープで落下速度を殺しながら、パラシュート下降をしていた。

下方を見れば、ドワーフ達が見事な馬術で落ちたワイバーンに急行するのが見える。



『着地ッ!!』



そしてワイバーンの死骸を踏みしめる。

1分も経たないうちにガルド兄弟含む数騎が到着。



「「「…。」」」



『どうです皆さん。』



「「「…。」」」



『トビタが討ち取っちゃいましたー♪』



彼らが気まずそうな表情をしていたので、務めて明るい表情で勝利宣言。

ん?

一人見覚えのある顔が…



『あ!

ギガント族長!!

御無沙汰しております!』



「…あ、うん。」



『族長も見て下さりましたよね!!

俺の華麗な空中殺法!!!

蝶の様に舞い、蜂の様に刺す!!

いやあ飛んだ飛んだ。

今日は一生分のジャンプ力を使い果たしたわ。』



「…。」



『あれ?

族長?

どうしたんすか?

俺の跳躍りょ…』



「小刻みに瞬間移動しとるだけやないかいッ!!!!」



『ひえっ!』



あー、やっぱり見る人が見れば分かるものなんだなぁ。

ギガント族長は若い頃、ずっと戦場に居たらしいしね。

誤魔化しの効く相手じゃないよね。



『えっと、ワイバーンの牙を…』



「マイペースか!!!!」



理不尽な話だが、突然湧いたギガント族長に凄い剣幕で怒られる。

説教の途中で恐縮だったが、本棚が届く時間帯だったのでトイレと偽って中座ワープ。



「どもー、飛田さん。

お届けに上がりましたー。」



『あ、どもどもこっちです!』



「あー、バックでトラック入れるかなー。」



『すみません、ちょっと道が細いですよね。』



「大丈夫大丈夫、去年まで勤務していた台東支店なんてもっと狭かったですよ。

もう路地ばっかりでして。」



『へー、路地の配達とかどうするんですか?』



「離れた駐車場に停めて、そこからひたすら人力ですよ。」



『うっわ、しんどそう。』



「しんどいですよー。

僕より後に入った後輩が全員辞めちゃいましたもの。

えっと、じゃあ組み立ては2階の6畳間で構わないですか?」



『はい。

ここを書斎というかオフィス代わりにしようと思って。』



「何かの御商売ですか?」



『ええ、実はつい先日法人登記したんですよ。』



「はえー、若社長じゃないですか。

御開業おめでとうございます!」



『ありがとうございます!』



「僕も独立とか夢見てるんですけど。

どんな業務内容なんですか?」



『えっと、怒られるのが仕事です。

今日なんか朝から怖いオッサンに囲まれてずっと怒られてました。』



「あははは、社長さんも大変だ。」



『大変ですよー。

この後は外国の議員さんに怒られてきます。』



「あっはっは!

何をやらかしたんですかw」



『取引先の娘さんを孕ませちゃって…』



「わははははwww

飛田さん絶対に大物になりますよ!!!

あ、良かったらこれ、僕の名刺です。

携帯番号とLINEのID書いときますんで、いつでも連絡下さい。」



『あー、どもども。

じゃあ、怒られて来ますw』



「『あっはっはっはwwww』」



妙に馬の合う配達員だったので、思わず肩を叩き合って爆笑。



「何を笑ってやがるッ!!!!」



笑顔のまま戻ったのが災いしてギガント族長に滅茶苦茶怒られた。

怖かった。

この話が面白いと思った方は★★★★★を押していただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
わっはっはw
トビタのワープは自分と共に所持品などをテレポーテーションする能力だがざっと見てだがとんでもないチートですね まずは「※但し気圧は考慮しないものとする。」ですが異世界がそうなのか、それとも人間が適応で…
進歩がない奴 異世界人の人間と地球人の人間の違いで当たるだなんて… めんどくさい士族だなぁドワーフは もう完全にスキルバレしてる と言うか高空飛んでる相手とか中世レベルで普通倒せないですわ
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