出所は言えませんが盗品ではありません。
『親方!
話があります!』
「あ、うん。
手短にな。」
『渡しても怒られないお土産を教えて下さい!』
「え?
オマエが何言ってるのか分からない。」
『だーかーらー。
俺が物を持ち帰る度に皆さんが怒るじゃないですか。
なので、怒られない土産を教えて欲しいんですよ!』
「あ、うん。
坑道の奥に潜ってた奴が加工食品とか香辛料とか土産で持って来たら、叱責せざるを得ないだろ?
お互いの年齢的に。」
『いや、まぁ、確かにその通りなんですけど。』
「こう言うのは順番だから、オマエがオッサンになったらちゃんと若者を叱ってやれよ。」
『俺、まだ17歳っすよ?
自分がオッサンになる事なんて想像が付きません。』
「25過ぎたらあっと言う間だぞー。」
『ぐぬぬ。』
「じゃあ、丁度今日ブラギに会い行く用事があるから、その時聞いておいてやる。
その間トビタは…
エヴァに同じ質問しておけ。」
『はーい。』
ガルドが出発したので、作業場の掃除や道具の整頓に勤しむ。
勿論、水汲みも行う。
折角のワープだから有効活用しなくちゃな。
「水汲みに関してはヒロヒコが1番よ。
恐らくドワーフ史上、こんなに迅速に行われた水汲み作業はないわ。」
『やったぜ!』
「でもね?」
『あ、はい。』
「場所は選びなさいね。」
『外ではこんな神速の水汲みしませんよ。』
「うん、それが賢明。
勘の良い者なら、ヒロヒコのスキルに見当を付けちゃうから。」
『付きますかね?』
「例えば靴。」
『靴?』
「明らかに、この鉱山の地質と異なる泥が付いてる。」
『あ!』
「世間様は私程甘くないからね。
それだけは覚えておきなさい。」
ワープに弱点はない。
使用者が俺であることを除けば。
もう少し俺自身を向上させなければ先が無いよなぁ…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
と言う訳で、俺は熊本県に来ている。
スマホで【ソープランド おすすめ】と検索した所、皆が熊本女を絶賛していたからだ。
まずは鉱山から来訪経験のあるJR博多駅にワープ。
(所要時間0秒)
九州新幹線でJR熊本駅まで通常移動。
(所要時間39分)
熊本市電に乗りJR熊本駅から辛島町駅まで通常移動。
(所要時間25分)
辛島町駅から散歩がてらに色街見物。
(所用時間37分)
ソープランド体験。
(所要時間150分)
悪くは無かったが東京の店との違いがよく分らなかった。
きっと俺が釈然としない表情をしていたからだろう。
退店する時にボーイさんがそれとなく機嫌を取って来る。
『いやいや、素敵な女性でしたよ。』
「そう思って頂ければありがたいんですけど…」
『いや、本当に本当に。
いい思い出になりました。』
「ははは恐縮です。
お兄さん東京の方ですか?」
『ええ。』
「お若いのにロング入って凄かですねぇ。
ボクなんか一生無理ですよ。」
聞けばボーイさんは18歳。
喧嘩で高校を中退してからはアルバイトを転々として、最近この店に落ち着いたらしい。
「…金持ちになるコツとかあるとですか?」
『え?
コツですか?』
「はい、お兄さんには一代で稼いだオーラが出てます!」
『いやいやお兄さんはやめて下さいよ。
俺の方が1コ下ですし。』
「いやいや!
教えを乞うちょる以上は年下の人でも師匠ですたい。」
参ったな。
俺は人に何かを教えた経験がない。
せめて体育会系の組織に所属した事があれば応用が効いたのだが。
『えっと。
教えるも何も…
人様に言える様なビジネスではないと言いましょうか…』
ボーイさんの表情があまりに真摯だったので、思わず真面目に考えてしまう。
俺のやって来た事って強盗とか窃盗とか密輸とか。
カタギの稼ぎ方をした事が無いんだよな…
「そ、それは… (ゴクリ)
やはり闇バイトをやっちょるということでしょうか?」
『え!?
い、いや!!』
違う、と否定しようとして、どうしても否定出来ない。
強盗殺人は光か闇かで言えば、明らかに闇だしな。
「ご、御安心下さい!!
ボクは仁義は絶対に通します!!」
『あ、いや。
仁義と言うなら仕事中に客と雑談するのは…
…いや、それもアフターサービスとも言えなくもないのか…』
ボーイさんが怒られると可哀想なので勤務終わりに飯を付き合う流れになる。
俺に何のメリットがあるのかは謎だが、本人が「損はさせましぇん!」と力説しているので何かがあるのだろう。
「し、仕事終わりに一杯どうですか?」
『いやいや、お互い未成年じゃないですか。
わかりました、何時に仕事終わります?
少しだけ顔を出しますよ。』
「26時退勤でしゅ!」
『え?』
「え?」
頭の中で時計盤を思い浮かべる。
26時?
24時が0時だから、深夜2時退勤?
『いやいや、流石に夜は寝ましょうよ。』
「じゃあ明日!
15時出勤なんです!
それまででしたら!」
『あ、はい。
まあ昼飯くらいなら付き合います。』
ワープで府中の自宅に帰り(所要時間0秒)、結構真面目に考える。
金持ちになるコツは時間を確保することなんじゃないかなあ?
先程の話ではボーイさん(名前聞くの忘れた)が自宅に帰りシャワーを浴びて寝る頃には深夜3時半頃。
翌日の正午頃に起床して洗濯や食事をするらしい。
激務の為にどれだけ寝ても疲労が抜けず、新しい事を考える余裕がないらしい。
以前から闇バイトに応募しようと計画していたのだが、ズルズルと先延ばしにしてしまっていたとのこと。
『その点、俺は幸せなんだろうなあ。』
ガルドから貰った宝石を個包装しながら呟く。
逆に俺はワープで移動時間の大半をカット出来るので、可処分時間に一切困らない。
余った時間に自己投資出来ている自覚もある。
先程も、ジェインとオンライン通話を行い、ルビー以外で高値が付くであろう宝石についてレクチャーを受けた。
「画面越しの為に断言は出来ませんが…
そのエメラルドは恐らく逸品です。」
『逸品と言いますと?』
「富裕層が競り合うレベルです。」
とのこと。
他に売り先も知らないのでジェインへの予約品という事に決める。
強く感謝されたので、余程良い品なのだろう。
無論、換金相手は分散して行く方針だが、あのインド人との縁は大切にしたい。
『はい、今日の仕事終わり。』
今日どころか、あのエメラルド1つで一般的労働者の1年分の仕事を済ませたかも知れない。
元はガルドが気まぐれにくれた物なので、原価はゼロだ。
その日は吉野家にワープして牛丼を喰ってから眠った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝、思ったより早く目が覚めたので坑道へ飛ぶ。
「ブラギに聞いて来たぞ。
持ち込んでも迷惑にならない商品。」
『おお!
ありがとうございます!』
「ワイバーンの牙!」
『そ、そっすか。』
少しガッカリする。
地球で楽に手に入る物が良かったな。
『それにしても、どうしてワイバーン?』
「いや、俺達の領土の上空を飛んでるだろ?」
『え?
マジっすか?』
「いつもウジャウジャ飛んでるだろ。
オメーはそういう所、駄目だよなー。
いいかー。
商人として大成したいなら、もっと観察力を身に付けとけよ。。」
『あ、はい。』
だって氏族領じゃ鉱山に潜りっ放しだし、移動は馬車かワープだしなあ。
空なんて見ねえよ。
「ほら、俺達の首都の真上。」
ガルドに連れられて鉱山から出た所の高台へ。
そして氏族首都を眺める。
『あー、何か黒っぽいのがフワフワしてますね。』
「あれがワイバーンの群れだ。」
『はえー。』
何でもドワーフが好んで食べるキノコ類に集る羽虫から特殊な香りが分泌されているらしい。
そしてどうやら、その香りはワイバーンのメスのフェロモンに酷似しているとのこと。
なので、ドワーフ都市の上空にはワイバーンが来訪し易い。
また、躍起になってモンスター駆除を行う人間種と違って、ドワーフはそこら辺が非常に鈍感であり、自分達の首都上空にモンスターが滞空していても特に騒がない。
これもワイバーンが常駐する大きな理由らしい。
「でな?
俺達ニヴル族の首都が地形的にも丁度ワイバーンの通り道になり易いんだと。
ほら、両側が高山だろ?
気流の関係で楽に飛べるんだってさ。」
『へー。』
「で、あのワイバーンの牙を長老連中が欲しがっていてな。
多少の事は目を瞑るから、兎に角狩って来いって五月蠅いんだよ。」
『…何かの素材にするんですか?』
「ギガント族が血眼になって探してるんだよ。
だから、ここで貸しを作っておきたいというのが長老会議の総意だ。」
先日、ギガント族の和平は成った。
但し、単に口頭の休戦協定が結ばれただけであって、お友達になった訳ではない。
それどころかギガント族以外のコネを作っておきたい共和国の思惑もあり、水面下の綱引きは休戦前より激しくなっているのが現状だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ニヴル族」
共和国利権に食い込みたい。
「ギガント族」
共和国利権を独占したい。
「共和国」
ニヴル族も引き込み国際社会とギガント族を牽制したい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「当初、共和国はギガント族にワイバーンの牙を依頼していた。
ドワーフと縁の深いモンスターだからな。
連中も乗り気だったらしいんだが、中々上手く行かずに頭を抱えてるそうなんだ。」
共和国に入り込む為にギガント族は血の滲む努力を重ねている。
氏族内の反発を押えて祭礼や服装に共和国風を採用したのだ。
その努力は食性にまで及んでいる。
『ひょっとしてキノコの栽培、止めちゃったんですか?』
「らしいな。
大半の苗木を焼いてしまったそうだ。
共和国人が好むマッシュルームとエリンギだけは細々と栽培してるってよ。」
『ああ、それでワイバーンが…』
「ギガント自治領の上空は素通りだそうだ。
昔は秋の風物詩だったらしいがな。」
ドワーフに社会にも酒歌という俳句のような文化があり、ワイバーンは秋の季語として昔から親しまれていたそうだ。
『なるほど。
共和国に採取を約束したにも関わらず、ギガント領にはワイバーンが居ない。
だから困っていると。』
「そういうこった。
奴らにとっては相当な苦境、つまり俺達にとってのチャンスになる。
こちらが牙を確保してしまえば?」
『なるほど、交渉材料になりますね。』
「共和国は俺達とギガント族の間に平和条約を結ばせたがっている。
長老連中も条約そのものには反対してない。
ただ、同じ結ぶなら少しでも有利な条件で結びたいよな。」
『ふむ。
やる価値はありますね。』
「だろ?
来週には、山狩りチームの編成が始まるそうだ。
ワイバーンの巣がある確率が極めて高いからな。」
ワープを駆使すれば、何とかなるか。
じゃあ、報酬にルビーとかエメラルドを貰おうかな。
『それにしても、何で共和国はワイバーンの牙なんて欲しがるんですか?』
「ああ、魔界が欲しがってるんだよ。
共和国の元老院は外交材料になると思ったんだろうな。」
『へー、魔界なんてあるんですね。』
「あるよー。
前にも説明しただろ。
王国とも絶賛戦争中じゃないか。」
『ああ、王国が周辺国と戦争してる話、まだ続いてたんですか。』
「概ね落ち着いたんだけどな。
領土が減りっ放しじゃあ面子が立たないって事で、魔界への侵攻は再開したらしい。
魔界の飛び地が王国の北側にいっぱいあるんだよ。
飛び地だから援軍も来れないって事でノリノリで攻めてるらしい。
幾ら今の魔王が優秀でも、領土の反対側にまでは来れないからな。」
『へー。
どこも大変ですね。』
「ワイバーンの牙ってのは移動魔法に重宝される触媒だからな。
援軍を送る為にでも使うんじゃないか?」
『はえー。
やっぱり軍需は固いですねー。』
「でも即納を求められるから結構大変だぞ?
量も求められるしな。」
『へー。
じゃあ、あんまり深入りしないようにしときます。
俺、のんびり稼ぎたいんで。』
「ははは、トビタは如何にも最近の若者だな。
夢はスローライフとかいうクチだろ?」
『え!?
何でわかったんすか?』
「顔に書いてるよww」
『「あははははww」』
そんな会話があったので、俺の最後の荒稼ぎはワイバーンで締める事に決める。
ほら、俺さぁ今月中に法人登記する事が決まってる訳じゃない?
今や社長な訳じゃない?
いつまでもチートだのワープだの言ってられないんだよねぇ。
【資産を年利4%で回しながら南国リゾートで悠々自適なFIRE生活♪】
俺の着地点、ここだから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
で、ガルドに討伐を約束したら軍資金代わりに屑宝石をいっぱい貰えた。
ドワーフ的には価値が相当乏しいらしい。
ただ、人間種は普通に喜ぶので行商先の挨拶回りに用いられているとのこと。
そりゃあね、宝石をプレゼントしてくれるような行商人なら、ついつい優遇しちゃうよね。
『では、本題に入ります。』
「えー、いきなりですか!?
乾杯とか挨拶とか!?」
水道町駅でボーイさんと落ち合ってから、眼前にあった鶴屋百貨店の屋上に昇る。
ここなら会話が漏れにくい。
しかも時間帯の関係なのか、ほぼ無人に近い状態である。
『金持ちになるコツについて。』
「あ、はい。」
『これを換金して来て下さい。』
「え!?
い、石?」
『宝石の原石です。』
「え? え? え?」
『安心して下さい。
出所は言えませんが盗品ではありません。』
「出所が言えない時点で社会的には盗品同然なのでは?」
『もしも貴方がこれを換金出来たのなら、次からも似たような案件を回します。』
「え? え? え?
コツの話では?」
『即行動こそがコツです。』
「いや、まあ仰る通りですけど。
ボク達、自己紹介もまだ。」
『そうですね、俺の事はTとでもお呼び下さい。』
「もう完全に闇じゃなかとですかー!
え? これを換金し終わればLINEか何かで報告すればいいんですか?」
『じゃあボーイさんのアパートのベランダに合図でも出しておいて下さい。』
「合図?」
『旗とかノボリとか。』
「近所で国旗が売ってますけど。」
『じゃあ、それで換金に成功したら外から見える位置に日章旗を掲揚しておいて下さい。
自国の旗なんだから目立たないでしょう。』
「あ、はい。
日本以外なら目立たなかったと思います。」
2人でボーイさんのアパートまで行き、実際にベランダに掲揚して貰う。
壁色が黒系なので遠目にも鮮明に映る。
「えっと、ボク宝石の換金なんかした事がないんですけど…
どこで売れるモンなんですか?」
『それもお任せします。
出来るだけ多くの店を回って信頼出来る相手を探して下さい。
但し目立たないように、名前や顔を覚えられない様に。』
「著しく相反する指示だと思うんですが、それは。」
『では、私はこれで。』
「え!?
もう行ってしまうとですか?」
『自宅が東京ですので。』
「あ、そうか。
確かに。」
『じゃあ、後の連絡は国旗で。』
「あ、はい。
まさか即日闇バイト指令が下るとは夢にも思ってませんでしたけど。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ワープのコツ、少し理解したかも。
これ、普通なら管理出来ない遠方の人間を使うのに滅茶苦茶便利なんじゃないだろうか?
もしも俺がワープを持ってなければ、仮にボーイさんがとても優秀で誠実な人間だったとしても仕事を任さなかったと思う。
(管理や監視のコストが膨大だから。)
でも、いつでも様子を見に来れるという気安さが俺の中にあるから、名も知らぬ彼に大胆に物を頼めるのだ。
まだ正確に言語化は出来ていないが、今の俺がワープの本質に迫ろうとしている事だけは確かだ。
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