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オマエってヒーローみたいだな。

鉱業従事者の最大の弱点。

それは、《世間の流れに疎くなる》という点。

坑道という閉鎖空間で一日の大半を過ごすのでニュースが入って来るのが兎に角遅い。


なので、王都に顔を出していた頃に比べて、鉱山に住むようになった俺は極度に異世界事情に疎くなっていた。

仕方あるまい。

最近はワープの際必ず鉱山内に着地するし、ガルドやエヴァと一通り話し込んだら、坑道から出ずにそのまま府中の自宅にワープで戻るのだから。



「ねえ、ヒロヒコ。

留守の間にタカハシさんが尋ねて来たわよ。」



『え?高橋?

アイツ何か言ってました?』



「クラスメイトの生死が掛かっている場面くらいは顔を出せ、とのことよ。」



『はぁ。』



人生なんて生き死にの連続だとは思うんだがな…

だがエヴァは咎める様に、或いは試す様に俺を観察している。



『行くべき?』



「うーーーん。

ドワーフ的な常識で言うと、私の話を最後まで聞かずに飛び出している場面。」



だろうな。

ドワーフって任侠的な価値観が濃厚だからな。

俺としてはクラスメイトには全員死んで欲しい。

彼らさえ死んでくれれば地球の物産をもっと異世界に持ち込めるからだ。

逆に、アイツらが1人でも生き残っていると、俺の能力が推理されてしまう確率が飛躍的に上がる。


…なーんて事を考えてる事がバレたらドワーフ達から確実に出禁にされてしまうだろう。

心配しているポーズくらいは取っておくか…



『氏族首都に行って来ます。』



「タカハシさんなら新都に行ったわよ。」



『あ、じゃあ今からそっちに行って来ます。』



ったく。

高橋め、手間を取らせやがって。



「コラ!」



『え?』



「街に行くって言いながら、どうして坑道に潜るの!」



『あ!』



「叔父さんにも言われてるでしょ!

警戒心!

他人にヒントを与えちゃ駄目!」



『スミマセン。

親方やエヴァさんは、もう身内って感覚になってて。』



「あ、うん。

気持ちは嬉しいよ。

でも、人生設計はもっとロジカルに組み立てようよ。」



『猛省します。』



反省するようなジェスチャーを取りながら、俺は坑道から抜け出す。

風が新鮮で気持ちいい。

新宿ほどではないが坑道は臭いからなぁ。

異世界の空を一通り眺めてから王都にワープ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



さて、城門には帝国旗が翻っている。

更には帝国騎兵が街道をリラックスした表情で巡回しており王国色は完全に消え失せていた。

当然、門番も帝国人。

遠目にでも王国人とは完全に人種が異なる事が理解出来る。



「おい君。

さっきから何をジロジロ見てる?

さては王国人か?」



当然と言えば当然だが、城門をキョロキョロ眺めてた俺は衛兵に捕まってしまう。

そりゃあね、俺が彼らでも絶対逮捕するもん。



「分かってると思うけど!

もうこの街は皇帝陛下の直轄都市だからね!

王国の許可証は意味ないよ!

ちゃんと国際条約でも決まったことだからね!」



あー、なるほど。

王都を接収した帝国は領土確定に必死になっていると。



『あ、いや。

俺は王国人ではなくて…』



「ん?

王国人じゃない?

じゃあ国籍は!?

来訪目的は?」



『えーっと、俺は今ドワーフの鉱山で働いてるんですよ。

居候というか徒弟というか。』



「え? (ドン引き)

ドワーフ?

何で?

君、人間種だよね?」



『実は俺、人間に全然友達が居なくて…』



「Oh…」



『それで、たまたまドワーフ界で干されてるオッサンと仲良くなって…

王都が陥落し…「新都ね! 間違えないで!」



衛兵がヒステリックに訂正する。

まあ、それが彼の任務だからな。



『失礼しました。

新都が陥落したんで、何となく流れでドワーフ領に同行して…

そのオッサンが街を出禁になってたんで、今は鉱山に住んでます。』


ガルドの事も手短に解説。

平たく言えば鼻つまみ者同士が慎ましく暮らしているのだ。


衛兵は泣きそうな表情で俺を見ている。

相槌も心底から同情的で、寧ろこちらが心苦しい。



「…凄い人生だね、いや皮肉抜きで。」



『自分でも坑道に住む事までは想定していなかったので驚いてます。』



「大変じゃない?

アフターファイブとかどうしてるの?

遊ぶ所とかあるの?」



『いやぁ、親方の晩酌に付き合ったり。

道具の手入れをしたりですかね…』



「Oh…」



衛兵は涙ぐみながら唇を噛む。

聞けばこの衛兵は生粋の陽キャであり、仕事終わりは仲間と飲みに行ってパーリナイフォー!

人生の喜びは仲間と集まってパーリナイヤー!

という価値観の持ち主らしい。

そんな彼から見れば坑道暮らしなんて地獄でしかないだろう。

(逆に人嫌いの俺にとっては心地良い。)



「君は若いんだから、もっと真面目に人生設計しなさい!」



最後は涙ながらに説教して来る。

陽キャの価値感からすれば不真面目な生き方に見えるらしい。



「で?

今日は何をしに来たの?

買い出し?」



『あ、いえ。

知人に来いと言われたので、仕方なく来ました。』



「…駄目だよー。

そんな受動的な生き方。」



『はい、我ながら駄目駄目の自覚はあります。』



「で?

何で呼び出されたの?」



『いや、自分も事情はよく知らないんですけど。

仲間の危機だから来い、って伝言があったので。

命に係わるとかなんちゃら。


たっく、高橋の奴…

概要くらい書置きしとけっての…』



「え?

タカハシ?

君、タカハシって言った?」



『あ、はい。』



「えーーー、マジかー。」



『アイツなんかやらかしたんすか?』



「うーーん。

不敬罪で入牢中。」



『へー、アイツ口が悪いっすからね。』



「あ、キミ…

本当に申し訳ないんだけど…」



『あ、はい。』



「逮捕するね?」



カチャリと手錠がハメられる。



『え?』



「いやー、違うんだよー。」



『いやいや、違わないですよね?

いきなり手錠は禁止カードにしましょうよ。』



「タカハシ容疑者の仲間が来たら逮捕しろって命令されてるんだよー。」



『え?

それは不敬罪の連帯責任的な意味で?』



「いや、法的根拠は全くないし、本国で君達に国家賠償訴訟されたらほぼ確実に帝国が敗訴しちゃうんだけどね。」



『いやいやいや、違法性が無いなら手錠外して下さいよ。』



「ゴメンねー。

僕みたいな小役人にとっては直属の上官の命令が全てなんだ。」



『ああ、それは大変ですねぇ。』



「だって士官学校の同期で中尉になれてないのは僕だけだよ?

軍隊内の扱い分かるでしょ?」



『折角占領した街なのに、どうして城門に落ちこぼれを配置してるんですか?』



「言い方ァ!!」



『スミマセン。』



「門外から狙撃されても死ぬのが僕なら損害が少ないからじゃない?」



『軍隊って酷い所ですねぇ。』



「キミが考える6000倍くらい酷い所だよ。」



『うっわぁ。』



2人でペチャクチャ話しながら牢屋に連行される。

途中、少尉は獄吏とフレンドリーに談笑しながら俺を紹介する。



「この子悪いことしてないから。

単なる連帯責任だから優しくしてあげてね。」



「少尉殿…

連帯責任って、誰のでありますか?」



「噂のタカハシ君。」



「ああ、なるほど。

なるほどなるほど。」



獄吏は《なるほど》を連呼しながら俺の腕を捻じり上げて牢屋に蹴り込む。

俺は激痛に呻くが、獄吏氏の表情を見るに相当手心を加えてくれたらしい。


じゃあ普段はどんな風に囚人を扱っているのか?

答えは簡単。

目の前で転がっている男のような目に遭わせるのである。



「う、う…

お、おう、飛田か。

だ、大丈夫か?」



『よう有名人。

オマエよりは丁寧に扱って貰えてるよ。』



残酷なまでに顔が腫れ上がっているのは不敬罪の高橋容疑者。



「す、すまないな。

俺の巻き添えか?」



『気にすんな。

さっき少尉さんに聞いたんだけどさ。

法律的にはオマエはそこまで悪くないんだってさ。』



「…だろうな。」



『ただ封建的にはタダでは済まされないんだってさ。』



「…。」



『助け船、出そうか?

さっき保釈金の相場とか教えて貰ったから。』



「河西さんを助けてやってくれ。」



『カワ…?』



「河西由美。

クラスメイトだろ。」



『ああ、そんな子も居たのかもな。』



正直、思い出せない。

ただ、《河西》という文字列は転移前に何度か見た気がする。

勿論、俺との接点はない。

だってポジティブな接点があったら少しは意識しちゃってただろうから。



「河西さん、貴族と結婚したんだ。

相手のへインズ子爵、滅茶苦茶イケメンだったよ。」



『へー、良かったじゃん。

イケメン貴族の嫁さんとか、女の夢叶えちゃってるじゃん。』



「全然良くないよ。

その後、すぐに王都が陥落して子爵は戦死したんだから。

へインズ一族は帝国軍に全員逮捕された。」



『え?

じゃあ、その子も。』



「逮捕されて…

尖塔に幽閉されてる。

河西さんは《戦争の事は分からなかった》って無罪主張してるけど…

へインズ家は反帝国で有名な家門だから…

多分処刑されると思う。」



『お、おう。』



「何とか赦免の道が無いか探ってたんだ。

河西さんは結婚したばかりだし、そもそも地球人だし…

赦免の道を探っているうちに逮捕された。」



高橋は王国法と帝国法の両方を調べて、あくまで合法的な解決方法を目指して動いていたらしい。

当然、帝国からすればこんなに煙たい存在はない。

無理筋を承知で逮捕に踏み切ったという訳だ。

そりゃあね、新領土が手に入るか否かの瀬戸際だからね。

多少は強引な手は使って来るでしょう。



「オマエが先に釈放されると思う。

河西さんを助けてやってくれないか?」



そうか。

高橋は理念や思想に拠らず、ただ義侠心のみで死地に飛び込んだのか。

コイツって本当に…























































ゴミだな。



『あのなあ、高橋。

俺はその河西とやらは処刑されるべきだと思う。』



「何を言ってるんだオマエ!!」



『大体さぁ、もう嫁いだんだろ?

じゃあ河西じゃなくてヘインズ夫人だ。

この異世界の貴族秩序の一員じゃないか。

だったら、そのコミュニティの掟で裁かれるのは当然じゃないか。』



「でも河西さんは地球人だぞ!!」



『…旦那さんが国に殉じたんだよな?

じゃあ嫁は旦那に殉じろよ!!!』



「…。」



『…なあ、正直に教えてくれよ。

河西は無理矢理結婚させられたのか?』



「…本人はとても乗り気だった。

他の女子にマウントを取るような発言をしている場面も何度か見た。」



『オマエも本当は分かってるんだろ?

もうそれが答えだよ。』



「…仲間が危機にあるなら、救うべきだと思う。」



『オマエこれだけ王国に長く住んで、その重税に疑問を感じた事はないのか?

王都の貴族共は贅沢三昧してたのに、痩せ細ってない農民を1人でも見たか?』



「な、なにを。」



『全ての支配階級は人民の敵だよ。

どんな殺され方をしても当然の報いだし、その一族も同罪だ!』



「…例えそうだとしても女子供に罪は…」



『ある!!!』



「…オマエ。」



『貴族や政治家は全員抹殺すべき泥棒だ。

奴らが住んでいる屋敷も豪勢なパーティーもドレスも!

全て俺達から奪ったものだ!!


なあ高橋。

オマエが何か勘違いしているみたいだから教えてやるよ。

貴族に嫁ぐって奪う側に回るって事なんだよ。』



高橋は唇を噛んだまま俺を見つめている。

俺なんかに助力を求めたコイツの馬鹿さ加減に腹が立つ。

県内の最貧困区画に住んでた俺が貴族制度にどんな感情を持ってるかすら想像出来なかったのかオマエは?



『…。』



「…。」



『河西とは仲が良かったの?』



「いや、ちゃんと話した事はなかったけど。」



『オマエってヒーローみたいだな。』



「…褒めてくれてる訳じゃないんだよな?」



『糾弾してるんだよ、言わせんな恥ずかしい。』




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




『あのお、牢番さん。』



「くおらああ!!

何、気安く話しかけてんだテメー!!

ぶっ殺すぞコラァッ!!!」



『あ、いえ。

獄舎の玄関に掲示されておられた憲兵部寄付金のポスターの件で。

あれって一口幾らですか?』



「これはこれは失礼しました!

一口銀1㌔からとなっております!

今は戦勝キャンペーン中ですので、寄付者の皆様には無条件で帝国勲章が授与されます!」



『じゃあ取り敢えず10口納めますんで、後で具体的な納入手順を教えて下さい。』



「おおおおお!!!

10口っすか!!!!?????

いやあ、感激だなぁ。

寄付は騎士団の奴らばっかりに行きますからねぇ…


いやはや!

アッシも旦那様はただ者では無いと思ってやした!!」



『えっと、何か食べる物があれば頂けますか?

無論、費用が発生するなら支払います。

ニヴル族のトビタ鉱山に請求して下されば、家人が応じると思いますので。』



「いえいえ!

囚人食(クサイメシ)は無料サービスとなっております!

アッシの意地悪で出してなかっただけなんですよ!」



『それは助かります。

あ、高橋の分もついでにお願いします。』



「はい、薬と包帯もどうぞ!

いやあ酷い怪我ですよね、殴ったのはアッシですけど。」



『いえいえ、これも牢番さんの任務だと思いますのでお気遣いなく。』



「いえいえ!

個人的な鬱憤を晴らすために殴っただけです!!」



『鬱憤とかあるんですか?』



「…まあ、アッシは3級市民とは言え帝国人ですし。

やっぱり急に転勤とか言われても…

年末には初孫が生まれるんです…

それをいきなり占領地への単身赴任とか…

強要されるのは辛いっすよ。」



牢番氏と雑談しながら高橋に薬を塗ってやる。

不器用な俺がモタモタしていると、牢に入って来て治療をしてくれた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



翌日、面会に来てくれた少尉から豪胆さを褒められる。



『え?

豪胆?

俺がですか?』



「うん、普通は牢屋に入れられた人間って、もっと絶望的な表情になるんだ。

トビタ君は若いのにどっしりと構えてるからさあ。

見直したよ。」



『普段、坑道で寝泊まりしてるから岩壁に耐性があるだけですよ。』



2人で笑い合う。



「さて、折角新都まで来て貰った所を申し訳ないんだけど。

ヘインズ夫人の処刑だけは絶対に邪魔はさせないよ。

そこは国際慣例だからね、僕達も譲る気はない。」



『あ、はい、どうぞ。』



「え?」



『え?』



「いやいや!!

ヘインズ夫人は君の友人だと聞いたよ!!

同じ学び舎で机を並べた関係と言うじゃないか!!」



『ええ、そこは否定しません。』



「じゃあ助けるでしょ普通は!!!」



『いえ。

慣習なら従えばいいんじゃないですか?』



「え?」



『え?』



「いやいや!!!

反対するべきでしょ、君は!!!

皇帝陛下だってお悩みになっておられるんだよ!!!」



『え?

悩む?

どうして?』



「いやいやいや!!!

まだ少女の年齢だよ!!!

しかも王国人じゃないんだよね?

それに結婚して一ヵ月も経ってないって!!」



『嫌なら殺さなければいいんじゃないっすか?』



「いやいやいや!!

例外を作れば諸外国との大きな軋轢を生む!

これまで帝国が処刑した者の遺族が黙っちゃいないよ!!」



『なるほど。

確かに自分の身内だけが殺されるのは不公平感ありますよね。

じゃあ、殺すべきなんじゃないですか?』



「いやいやいやいや!!

君に人の心はないのか!!!

皆、悩んでるんだよ!!!」



『でも帝国の皆さんはオッサンはサクサク殺すじゃないですか?

1人くらい女が混じる事もあるでしょ。』



「誇り高き帝国軍人は貴婦人を害することなどしない。」



『でもヘインズ夫人は処刑するんでしょ?』



「だから陛下もお悩みなんだよ!!」



アホらしいので寄付金の話題に移る。

高橋の保釈金と併せて20㌔の銀を納入することに決める。



「え?

高橋容疑者には保釈適用されないんじゃないかな?

え?

どうだろう?

上官に申請はしてみるとけど、途中で握りつぶされると思うよ?」



『いや、これは駄目元なんで。

もしも適用外なら、そちらも憲兵部さんへの寄付に回して下さい。』



「分かった。

聞くだけ聞いてみる。


でも期待しないでよ!?」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



死刑執行は翌々日だった。

ヘインズ夫人はかなり見苦しく命乞いしたらしいが、睡眠薬で無理矢理眠らされた状態で刑場に現れた。

華美なドレスに着飾られたヘインズ夫人は処刑台に(目が覚めてしまわないように)そっと設置されると、あっと言う間に首切り役人の大斧で斬首された。

女の処刑を見物する趣味などなかったが、牢屋の窓の直下が刑場だったので仕方ない。


最前列でメソメソ泣いているフードの男が居たのでヘインズ家の関係者かと思ったのだが、それこそがお忍び中の皇帝だったらしい。

(騎士も獄卒も全員気付いてたが、封建的なお約束で気付かないフリをしていなければならない。)

呆れて物も言えないが、皇帝には皇帝の言い分があるのだろう。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



釈放は更にその翌々日。

エヴァが寄付金を持って駆け付けてくれたからだ。

ワープで府中の自宅に銀塊を取りに行き、その後エヴァに平身低頭して王都への迎えをお願いし、急いで牢屋に戻っておとなしくしていた。

ワープって脱獄が簡単過ぎて逆に模範囚になってしまうのだ。



『エヴァさん、ごめん。』



「何か怒られるような事をしたの?」



『今回はあまりしてない。』



「そう。

程々にね。」



『あのさあ。

ちょっと色々あって他の女の人をカフェに誘わなきゃならない雰囲気なんだ。』



「それ、この状況で言う?」



俺達が歩く大通りには演台が組まれ、皇帝が任命したアンスバッハ総督が力強く演説している。

どうやら、まだ年若いヘインズ夫人を処刑するのが如何に不本意だったのかを世論に訴えているらしい。

群衆の反応は半々。

嫌悪と納得が綺麗に分かれているように見えた。

本来なら処刑された敵国貴族は晒し首になる慣例なのだが、軍部の強い反対によってそのまま埋葬されたらしい。

ただでさえピーキーな占領地感情をこれ以上刺激したくないそうだ。



『その人とカフェに行ってもいい?』



「怒るよ?」



『ご、ごめん。

この政治情勢で出す話題じゃないよね。』



「その子に失礼だって言ってるの。」



『あ、そっち。』



「私なんかの許可を求めたって知ったら、その子が傷付くでしょう。」



『いや、その子が言ったんだよ。』



「何て?」



『彼女さんが反対なら諦めるって…』



「上手いわねー、その子。

反対しにくくなっちゃった。」



『あのさ。』



「んー?」



『帰る前にメシでも食って行かない?』



城下のカフェは殆どが占領軍に迎合して帝国様式を採用していたが、何軒かが王国様式を墨守していた。

てっきり王国人としての気骨を示しているのかと思ったが、どうやら帝国人の好奇心を惹く為の工夫らしかった。

俺と大して年齢の変わらない帝国兵達が頬を紅潮させて王国土産を買い漁っていた。



天気が悪かったので俺とエヴァは誰も居ないテラス席に通される。

2人で苦笑しながら飲んだ小雨入りのコーヒーの味は妙に印象深いものとなった。

この話が面白いと思った方は★★★★★を押していただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
タカハシやべぇ サイコパスよりキマってるわ ダブスタだらけな事に疑問を感じないんやな
天気が悪かったので俺とエヴァは誰も居ないテラス席に通される。 ・・・ん?んん???これは酷い!何が理由でこのような仕打ちを!この酷さを理解した時に絶句してしまったが市役所みたく放火するなよトビタ! …
結局いつまでもトビタくんにおんぶして欲しい症候群が治らないタカハ氏はダメだなぁ でも彼には定期的に現れてトビタくんの言葉のサンドバッグになる役目がありそうなので排除されなさそう
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