皆さん同士の争いにまでは興味を持てませんでした。
法人登記の準備がしたい。
一刻も早く今までに得た日本円を真水に変える作業に着手したいのだ。
村上翁に海外の投信についても色々教えて貰った。
今の俺なら、今年中にFIREに持って行く事が可能なのだ。
早く、配当生活を楽しみたい。
少し気が早い気はするが旅行計画も立ててある。
なんと!
今年の冬は台湾やパタヤのリゾートで豪遊するのだ。
来年の夏は北海道旅行もいいな。
蟹にホタテにジンギスカン。
夢は膨らんでいる。
…いるのだが。
「クッソ!
ギガント族の奴ら俺達を干し上げる気かよ!」
「ああ、そうなんだよ兄さん。
貢納金を払わなければ共和国で商売はさせないと通告して来た。」
「ちょっと元老院に議席を持ったからって調子に乗りやがって!
元々は分家に過ぎない癖によ!
…なぁ、ブラギ。
アイツらは幾ら払えと言ってるんだ?」
「毎年、銀塊1㌧。」
「ざけんな!
そんな大金払える訳ねーだろ!」
「他の氏族も僕らの動向を観察している。
こっちが弱気な姿勢を見せたら利権を奪いに来る算段だよ。」
「どいつもこいつも!
単独じゃ俺達に敵わないからってよ!」
「…負けるとしても、一戦しておかなきゃ今後に響くと長老達は判断した。
戦士長も腹を括ったようだ。」
「俺も出陣するぞ。
兵力差にビビって泣き寝入りする位なら、せめて一矢報いて死んでやる!」
参ったなー。
税理士さんへの挨拶は早目に済ませておきたいんだよなー。
村上翁に紹介された税理士事務所は浅草に拠点を構えて4代目。
税務署長の天下りを迎え手堅く営んでいる。
昔から若手を積極的に支援する方針らしく、10代の俺は優遇されるだろうと聞かされている。
この税理士事務所の話を聞いた事で俺の中で法人化への意志が固まった程だ。
今月中に挨拶しておきたかったのだがなー。
「ブラギ、陣借りの形で構わねぇ。
俺も戦列に加えてくれ。
ヨルムの野郎とは色々あったが、ドンパチとなりゃあ話は別だ!」
「分かったよ兄さん!
ヨルム戦士長には僕から話を通しておく!」
なーんか、ドワーフ同士の抗争が始まりそうなんだよなー。
ギガント族なる強勢を誇る氏族がガルドの氏族に以前から圧迫を加えており、とうとう「貢納金を支払わない限り共和国での商売を禁止する。」と言い出したらしい。
王国が半壊した現在、ガルド達は販路の乗り換え先を必死で模索しているのだが、他国には既に別の氏族が食い込んでおり、急速に摩擦が生じていた。
ギガント族は元老院に議席を獲得する程に共和国に全ベットしていた連中なので、王国が敗戦した途端に共和国に営業を始めたガルド達が目障りで仕方ない。
『エヴァさん。
本音を言えば、あまり興味が湧かないんですよ。』
「うん、露骨に顔に出てるから気を付けなよ。」
『え?
親身を装ってるつもりなんですけど。』
「うーん、興味ない人が頑張って親身なフリしている表情をしてるよ。」
『マジっすかー。
自分じゃ上手くやれてると思ってたんですけど。』
「多分、叔父さん死ぬと思うから、ちゃんとお別れを済ませておきな。」
『え!?
ガルドさん死んじゃうんですか!?」
「だってギガント族の兵力はウチの20倍だよ?
それに共和国製の最新装備で軍装を統一してるし。
ポーションメーカーとタイアップしてるから、エクスポーションも山程溜め込んでると思う。」
『タイアップとかあるんですね。』
「ドワーフは頑丈なイメージあるからね。
製薬会社の広告案件は結構来るよ。
ウチも昔は毒消し系の広告塔だったし。
その頃のパンフレット、実家を探せばまだあると思う。」
『へー。
その話、もっと聞きたいです。』
「うん、それはお父さん達とお別れを済ませてからね。」
『え?
ブラギさんも出陣するの?』
「お父さんは役職者だからねぇ。
こういう場面で矢面に立たない訳には行かないでしょ。」
参ったなぁ。
ようやく確保した換金ルートなのに。
大体、ガルドが死んじゃったら鉱山を貰った意味ないじゃん。
もっとルビー掘って欲しいじゃん。
『ブラギさん。
抗争って、もう避けられないんですか?』
「そりゃあ僕だって無駄な戦いは避けたいよ。
でも、共和国から締め出されたら…
何度も計算したんだけど、氏族の経済が成り立たなくなるんだ。」
『ギガント族は強いって聞きましたけど。』
「ドワーフ三大氏族の筆頭だからね。
兵力も武装も比べものにならないよ。
でも、ここで引いたら…
ウチが弱体化したと思われて、他の氏族からも侵食されちゃうからね。
例え負けたとしても、一戦しておかなきゃマズい。
僕達ドワーフって面子で生きてる種族だからさぁ。
舐められたら終わりだよ。」
そっかあ。
彼らの勇猛な生き方には秘かに憧れていたんだけど…
ヤクザにはヤクザの苦労があるんだなぁ。
「じゃあ、トビタ君。
短い付き合いだったけど、兄の面倒を見てくれてありがとうね。
エヴァ、トビタ君が生活に困らない様に配慮するんだぞ。」
「はい、お父さん。」
『え?
ブラギさん、もう行っちゃうんですか?』
「予備役とは言え僕も戦士団の一員だからね。
大急ぎで準備しなきゃ。
はい、これ形見ね。」
『え?え?え?
やっぱり死ぬの確定っすか?』
「まあ、戦力差凄いからねぇ。
死ぬでしょ普通。」
『いやいやいや!
話し合いで解決とか…
無理なんですか?』
「うーーーーーーん。
仮にここから和を乞うて、成功したとして…
それを解決と呼ぶのかな?
少なくとも僕は氏族の栄誉を穢す事を解決とは思えないなぁ。」
『ええ、まあ、はい。』
「じゃ、準備あるから僕達はこれで。
兄さん、行こう!」
「おう!
じゃあなトビタ!!
達者で暮らせよ!」
振り返りもせずに行ってしまった。
ああ、やっぱり戦士文化なんだな。
湿っぽさが一切ない。
男としては最高にカッコいいんだけど…
取引先に勝手に死なれると困るんだよなあ。
『ねえ、エヴァさん。
今から本音で話すけど怒らないでね?』
「怒られるような話をするのやめなよ…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【共和国国境】
「オラアアッ!!」
「コラァァッ!!」
「やるんか、コラァ!!!」
「おう上等じゃァッ!!」
(日本の放送基準で規制されるレベルの凄惨な殺し合い開始。)
「ハアハア!!
やるやんけ!!
褒美に全員地獄に落としたらあ!!!」
「アホォッ!!
死ぬのはオドレらじゃ!!
皆殺しにしたるわ!!!!」
(乱戦の最中、土魔法・極発動。
東京ドームと同面積の範囲に降り注ぐ4㌧トラック大の岩石群。)
《共和国軍監察官》
「あの、ギガント議員。
今、少し宜しいですか?」
《ギガント族長》
「え?
今、戦闘中なんすけど。
え?
はい、何すか?」
《共和国軍監察官》
「今、議員がニヴル氏族の方と戦闘を行っているのは、要求した通商税を彼らが支払わないからなんですよね?」
《ギガント族長》
「あ、はい。
以前から通達はしていたんですけど。
彼ら勝手に我々の商圏に入って来るんですよ。
価格協定とかガン無視するし、ホント困ってるんすわ。」
《共和国軍監察官》
「今、通商部から連絡が来ているのですが、先方の使者が納付手続きに来訪しました。」
《ギガント族長》
「え?
今、戦闘中っすよ?」
《共和国軍監察官》
「もう現物を持って来てるんです。
額も額ですから、通商部もこの場でギガント議員の判断を仰ぎたいと…」
《ギガント族長》
「えー、参ったなあ。
このタイミングで持って来られても…」
《共和国軍監察官》
「ああ、そこ!
勝手に入って来ないで下さい!!!
彼らですよ、ニヴル族の納付人。」
《ギガント族長》
「え?
人間種?
なんで?」
《共和国軍監察官》
「鉱山に住んでドワーフの徒弟をしているらしいんです。」
《ギガント族長》
「え?
なんで人間種が?
え?
徒弟?
え?
なんで?」
《共和国軍監察官》
「えっと、御存知だとは思うんですけど。
他国が支払う通商税に関してはギガント議員には拒否権が無いので…
不本意だと思いますが、受領手続きに移って貰えませんか?」
《ギガント族長》
「え? いや?
戦闘中っすよ?
え?
この状況で受け取り義務とかあるんすか?」
《共和国軍監察官》
「いやあ、我が国が宣戦布告を受けた訳ではありませんし…
ここで通商税の支払いを拒んじゃったら、変な前例が出来てしまう訳でしょ?
通商部も、それだけは勘弁して欲しいと。」
《ギガント族長》
「…はい。
いや! 納得はしてませんよ!
ニヴル族の出禁については議会にもちゃんと報告してますからね!
納得はしてませんけど…
ええ、まあ、はい。
野郎共ッ!!!
戦闘中止ッ!!
直ちに国境線の内側まで戻れッ!!
中止ッ! 中止ッ!!
俺が一番納得してないっつーーーーの!!!!!」
《共和国軍監察官》
「ギガント議員。
いつも我が国の方針に寄り沿って下さっている事、本当に感謝してるんですよ。」
《ギガント族長》
「…いえ、はい、いえ。
今後も宜しく御指導お願いします。」
《共和国軍監察官》
「(ペコリ)」
《ギガント族長》
「で?
そこの人間種の少年。
その細腕で鉱夫仕事が務めるとは思えんが、本当にドワーフの徒弟なのか?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
流石に大氏族の族長だけあって威圧感が半端ない。
一般的にドワーフは人間種よりも低身長なのだが、ギガント族長に関しては俺よりもやや目線が高く存在そのものがプレッシャーの様な男だった。
『は、はい!
ニヴル族ガルドの徒弟・飛田飛呂彦です。』
「…人間種に鉱夫仕事は務まらねえよ。
オマエみたいな小僧なら尚更だ。」
『ですよねー。
俺も務まらないと思います。』
「…小僧、手を見せろ。」
『手ですか?』
「広げろ。」
『…はい。』
「オマエ、向いてないわ。」
『え?』
「人間種の中でも鉱夫仕事の適性の無いタイプだ。」
『…ですよね。』
「だから認める。」
『え?』
「向かないなりに精進してるのなら…
そこには損得を越えたが絆があるんだろう。」
『…。』
「隣の姉ちゃんは?」
『親方の姪御さんです。』
「…だろうな。」
ギガント族長は俺の引いて来た荷台を一瞥する。
「1㌧でいいと言っただろう。」
『急ぎでしたので正確な計測が出来ておりません。
万が一の不足が無いので大目に持参しました。』
「1.1㌧だな。
どうやって持って来た?」
『恥ずかしい話なのですが、自分では微動すらもさせる事が出来なかったので、エヴァさんにお願いしました。』
「あのなあ。
幾ら種族差があるとは言え…
男が女に荷運びを頼むとか…
もうちょっと体裁を気にしろよ。」
『すみません。』
「コレ、女が曳ける重さだとは思えないが?」
エヴァは無言で懐からそれを取り出す。
「ッ!?
まだ、そんな大きなラピスラズリが残ってたとはな…
なるほど、確かに女でも曳いて来れるわ。」
『たまたま拾ったので有効活用しようかと。』
「なあ。
どうしてこれを親方とやらに渡さなかった?
戦闘に使えば確実に俺の首まで届いていたぞ。」
『ドワーフの皆さんの文化や歴史には敬意を持ってますが…
皆さん同士の争いにまでは興味を持てませんでした。
ただ、それだけです。』
「あっそ。
…オマエ、ドワーフの才能はあるよ。」
『光栄です。』
小一時間ほどして、ギガント族長とニヴル長老の間で共和国ビジネスに関する協定が結ばれた。
俺は皆からこっぴどく叱責された。
かなり後になって知った話だが、強く叱った人ほど俺を高く評価してくれていたそうだ。
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