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いや、ワープ使いが飛躍するのは仕方ないじゃない。

洞窟に帰還した俺はエヴァに数々のレクチャーへの礼を述べる。



『御礼になるかは分からないんですけど、お土産に鉱石を持って来ました。』



先程、御徒町で購入した屑石セットを見せる。

帰宅してシャワーを浴びて、まだ1時間も経過していない。



「あらあら。

随分、大雑把なプロポーズね。」



『え?』



「トパーズは求婚の象徴石。

不用意に見せては駄目よ。」



『あ、ドワーフにはそんな習慣もあるんですね。

申し訳ありません、早急に覚えます。』



俺がそう言うとエヴァは口元を押さえて上品に笑った。



「ゴブリンもエルフも人間もノームもそうだから気を付けなさい。」



『あ、この世界ではそうなんですね!?』



思わず驚くと、悪戯っぽく唇を抓まれる。



「君は()()()()から来たのかな?」



『あ、すみません。』



「言葉は刃物よ。

そして往々にして自分を刺す。

折角悪い見本に弟子入りしたんだから、ちゃんと学びなさい。」



『猛省します。』



「うふふ、宜しい。

さて、本題。」



『はい。』



「この5つには価値が無い。

この世界ではね?」



ペリドット・ムーンストーン・メノウ・ヒスイ・オパール。

指さしながらエヴァはテーブルに並べる。



「アクアマリンとターコイズは希少。

でも、地質学的にこの大陸では採取不可能。

私の言ってる意味分かる?」



『はい、2度と持ち込みません。』



「高く売れるのは事実よ。

最新式の車輪が買えるわ。

どうしても必要になったら、父から正式に依頼を出させるから。

頭の片隅に置いておいて。」



『あ、はい。』



「それでね。

問題はコレ。」



エヴァが持ち上げたのはラピスラズリ。



「うーん。」



『あ、問題ありましたか?

エヴァさんの首元に似合うと思ってました。』



「あら、ヒロヒコにもそういう感性があるのね。

安心したわ。」



笑いながらラピスラズリを台上に戻す。



「知らずに持ち込んだと思うから責めないけど…

兵器なのよ、コレ。」



『え?

まさか!?』



こんなに小さな屑石が?



「ラピスラズリは最高のスキル触媒。

スキルの効力や持続時間を劇的に向上させるの。

だから古来より権力者は血眼になってラピスラズリを掻き集めた。

だってそうでしょ?

自国の軍隊に配備出来れば、絶対に戦争で勝てるんだから。」



『この大きさでもですか?』



「私は学者じゃないから厳密な事は言えないけど、軽く見積っても10倍バフね。

普通にスキル使用する場合の10倍の効力、持続時間。」



自身の肉体に絶対の信仰を持つドワーフ達が持つスキルは大抵が身体強化系のもの。

(小細工が嘲笑される文化なので、ギミック系のスキルを持つ者は恥じて使わない。)

一般的には筋力を3倍程度に向上させるバフ系スキルが多い。

ただでさえ頑健極まりないドワーフが3倍強くなるのだから、人間種では絶対に歯が立たなくなる。

(彼らは非常に気位が高いので、臆弱な人間種如きに中々スキルを使ってくれない。)


もしもそんな彼らがラピスラズリを触媒に使えば…

ドワーフの30倍の筋力!?

もう生物兵器じゃないか。



「ヤバさが伝わった?」



『はい、ちょっと洒落にならないというか…』



「うん、洒落にならないよね。

しかもタイミングが最悪。」



『え?』



「ギガント族から貢納金の支払いをずっと求められていたのだけど…

拒否声明を出す事が正式に決まったの。」



『確か、凄く強い氏族ですよね?』



「太古まで遡ればウチの分家なんだけどね。

今は全種族を並べても屈指の大氏族よ。」



『そんな所とよく揉める気になりましたね。』



「行商先でもずっと嫌がらせをされてたからね。

魔界や共和国でも悪口を言い触らされて、これ以上黙っていたら笑いものになっちゃうわ。

例え負けたとしても一戦するべきだって、前から男衆は言ってた。」



『あー、そんな情勢だったんですね。』



「うん、そんな時にどうしてラピスラズリなんて持って来るかなぁ。」



『スミマセン。』



「別に怒ってはないよ?

でも、まあタイミングが悪い事は理解出来るでしょ。」



『ちょっと、次からはもっと慎重に振る舞います。』



「ふふっ、お利口さんだ。」



そう言うとエヴァは付けていたペンダントを俺の首に掛ける。



『?』



「琥珀。

安物のお守りよ。

軽率な男の子が痛い目に遭わない為のね。」



『あ、戒めとします。』



エヴァは無言で笑いながら繕い物作業に戻った。

そして俺は一輪車の取手を握ると小刻みワープで坑道の奥まで到着。



『チワっす。

エヴァさんからパンと水筒の替えを渡されて来ました。』



「おう。

そこに置いとけ。」



『今日は余ってた黒胡椒を練り込んだらしいですよ。』



「ははっ、どこのお貴族様だよ。」



『親方、ルビーが高く捌けました。』



「へえ。」



『安く見積もっても金貨4枚分の価値だそうです。

仲介料として金貨1枚分を支払ったので、俺の取り分は金貨3枚分です。』



「…。


え!?

あんなのでか!?


じゃあ、サファイアも?」



『サファイアは10個持って来れば銀貨1枚。

アメジストは二束三文でした。』



「ふーん。

じゃあ、今度からオマエにはサファイアやらね。

アレ、結構良い石だったんだぞ?」



『ははは、すみません。』



「じゃあルビーだな?

あんなランクで良かったのか?」



『文句なしです。

評価が高過ぎて冷や冷やしました。

…あれ以上ランクが上がると目立っちゃって怖いかな、と。

10段階中の9評価でしたもの。』



「えー?

あれで9?

うーーーーん。

9…?

いやー、評価してくれる分には嬉しいんだが…

オマエ、相手を騙したりはしてないよな?」



『いえいえ!

しませんよ、そんなこと。』



「分かった。

これからも商いは誠実にな。」



『はい!


えっと、それで親方の取り分なんですけど。

俺が渡して迷惑にならない品物ってありますか?』



「うーーーん。

オマエからは黒胡椒や銀も預かってるからな…

これ以上受け取ってしまうと、長老連中から目を付けられる可能性がある。

寧ろ、返礼に悩んでいた位なんだが…。」



言いながらガルドは俺の胸元を見る。



「まあいい。

あまり貸し借りを言い過ぎるのも他人行儀だな。


一旦部屋に戻るぞ。」



『はい!』



長い坑道を雑談しながらテクテクと歩く。

途中、簡易整地や天井の保全について教わる。



『覚える事が多いですねぇ。』



「危険作業だからな。

怠れば死ぬし、最悪の場合仲間を危険に晒す。」



『俺、坑道をチョコチョコ動くことしか取り柄がないんですけど…

何か役に立てますか?』



「ガラ手子も立派な仕事だ。

胸を張れ。」



『もう一声何かの役に立ちたいんですよ。』



「…オマエが道具の名前を憶えてくれれば、皆が助かるかもな。」



『…はい!』



とは言え、鉱山道具ってどれも似たような形状なんだよな。

トンカチ・ハンマー・カナヅチ。

素人の俺からすれば『全部一緒じゃねーか』と言いたいのだが、全然違うらしい。

事実ガルドは器用にそれらを使い分けて作業を進めている。


カンテラで坑道を照らしながら自問自答する。

俺は何故ワープと対極の鉱山仕事に入れ込んでいるのだろう、と。

経済効率だけを鑑みれば、銀やら胡椒やらを気前良く配って金を買い取った方が儲かる。

いや、ホテル強盗を繰り返す方が遥かにコスパが良い。


それでも、自分の中で誰かがこの道が正解であると叫び続けている。

俺も賛成だ。

まだハッキリと言語化は出来ていないが、俺はミュータントであるからこそ庇護してくれるコミュニティを尊重すべきなのだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「トビター。

オマエなぁ…」



部屋に戻った早々叱責される。

俺が考えていた以上にラピスラズリの保有はヤバいらしい。



「そもそも氏族の掟で私有が禁止されてるんだぞ。」



『すみません。』



「俺、切腹処分を受けるかも。」



『えー?

そこまでっすか?』



「エヴァに説明されたろ?

昔はコイツの採掘権を巡って何度も戦争が起きとるんだ。」



『じゃあ今は大丈夫なんですね?』



「もうとっくに枯渇しとるわ。

戦争なんて起きようがないレベルで枯渇。

俺も実物を見たのは兵学校の特別研修以来だからな。

あれって何年前だ…

(ブツブツ)

もうそんなに経つのかぁ、俺も歳を取る筈だわ。」



『見つからない場所に捨てて来ましょうか?』



「無断投棄は重罪だぞー。

発見した場合、長老会議への提出義務があるからな。」



『じゃあ、提出します?』



「うーーーーーーん。

エヴァ、ブラギと内々に話がしたい。

呼んで貰う事は出来るか?」



  「分かった。

  この足でお父さんに報告する。」



『なーんか大事になっちゃってスミマセン。』



「オマエが謝る事じゃないさ。

別に損害を与えられた訳じゃない。

ただな?

大き過ぎる利益は時として小さな損害よりも状況を悪化させる事もある。

分かるか?」



『…はい。

これまで俺は儲かれば儲かる方が良いと思ってました。』



「うん。

若い頃は俺もそう考えていた。


だが、1人が儲け過ぎると摩擦が起きる。

何より嫉妬や猜疑を産む。


俺は馬鹿だから、こんな簡単な事に気付くのに随分時間が掛かってしまったが…

オマエは今ここで学べ。

出来るな?」



『…はい。』



「でも一気に金持ちになりたんだよな?」



『…なりたいです。』



「じゃあ、クレバーに行こうぜ。

お互いにな。」



軽く背中を叩かれて話はそこで終わった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



勿論、ガルドとブラギの兄弟会議は簡単に終わる物ではなく、夜通しヒソヒソ声が続く。

「トビタ君は先に眠りなさい。

エヴァ、よく尽くすように。」

ブラギ氏は優しい声色で労ってくれたが、目の奥は笑ってない。

流石に父親の前でセックスする訳には行かないので、エヴァとは別々に身体を洗い別々の布団で寝た。



『エヴァさん、寝る前に一言いい?』



「一言だけね。」



『俺、なーんか噛み合わないんだよね。』



「そう?

傍目から見てると上手く行ってるわよ?」



『いや、実はさあ。』



「一言。」



『おやすみなさい。』



「はい、おやすみなさい。」



…上手く行ってるのか?

その割に皆から飛躍し過ぎを注意されてる気が…


いや、ワープ使いが飛躍するのは仕方ないじゃない。

この話が面白いと思った方は★★★★★を押していただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
チャコちゃんさんとの通話の時とかもそうだけど、 距離がある人との会話で段下げしてある描写に凄い感心した 近寄ると段差げなくなるのとか、距離描写の最高峰と思った。ニンニン
もしかしてワープ先生もトビタ専用みたいに赤く輝いて強化されるのかな すでに次元越えは余裕なので一緒に跳べる体積増加かな
ワープ使いが飛躍(能力を使う)する時は精密でなければいけない それは「いしのなかにいる!」(ウィザードリィ)みたいな結果を避けるためだ、前に出過ぎても後ろ過ぎても、高すぎても低すぎてもダメだ そしてと…
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