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どうしてオマエらはそんなに飛躍するんだ?

少なく見積もってもドワーフ種は人間種の5倍の膂力がある。

ガルドの様にドワーフ種の中でも腕っぷしの強い男になると、10倍はあるだろう。


「10倍は言い過ぎだろう。」


そう思った人は、一度でいいから彼らの鉱夫仕事を見てみて欲しい。

あまりのスペック差に戦慄を覚えるだろう。

岩盤を汗もかかずにサクサクと掘り進むガルドを見る度に、俺はそんな気になる。



『ふうふう。』



「かなり上達したな。」



『ほんの真似事ですよ。』



最近、ツルハシの使い方を始めとした鉱山仕事を教わっている。

特に鉱業に興味があった訳じゃない。

坑道に住んでいる以上、ある程度の知識は得ておきたかったのだ。



「なあ、トビタ。」



『あ、はい。』



「単刀直入に言うぞ。

俺の姪がオマエに興味を持っている。

一緒に遊んでやってくれ。」



『え?

姪御さん?

ドワーフ種ですよね?

何で人間種の俺に?』



「オマエさあ。

自覚ないかも知れないけど、ウチの氏族で一番注目度の高い人間種だから。」



『…胡椒やナツメグが目立っちゃいましたか?』



「いや、嫌われ者の俺とつるんでるから。」



『どんだけ嫌われてるんですか。』



「後、ロック鳥の卵を採ってきただろ。

アレ、魔界の連中がかなり高く買ってくれたみたいだぞ。

その所為か長老連中が接触したがっている。」



『呼びつけてくれれば長老さん達にも挨拶に行きますよ?』



「いや、俺がジジー共に凄く嫌われてるからさ。

アイツらもオマエに声を掛け辛いんだよ。」



『どんだけ嫌われてるんですか。』



「まあ、そういう訳でオマエは注目株。

俺とつるんでさえ居なければ、普通に叙勲されてたと思うぞ?」



『親方が昔何やらかしたのか興味ありますね。』



「うん、今のオマエの10倍くらいの興味を姪が持っている。

名前はエヴァ。

弟が30の時に出来た子だから…

丁度20歳か。

トビタとは年齢的に釣り合ってるんじゃないか?」



『いや、好奇心って…

俺のどこに…』



「オマエ、俺にツルハシ仕事習ってるじゃん。」



『ええ、まあ。』



「人間種って鉱夫仕事をやたら差別してるからさ、オマエのスタンスは珍しいんだよ。

ほら、王国でも帝国でも鉱業は囚人の仕事じゃん。

あれって地味に気にいらねえんだよな。

俺達の生き方を否定されてるみたいでさ。」



『なるほど、確かに…

王都でも囚人が炭鉱送りにされてる場面を見たことあります。

皆、泣いてました。

まあ、ある意味ドワーフの皆さんに失礼ではありますよね。』



「そういう訳だ。」



『え?

それが結論?』



「今日、洞窟に来るから。

2人でメシでも食って来いよ。」



『…この辺で食事するとことかあるんですか?』



「じゃあ、2人でメシでも狩って来いよ。」



『いやいや、趣旨が変わっとる!』



「お!?

来た来た。

おーーーい、エヴァ!!!

こっちの部屋だ!!!」



  「叔父さーーん。

  どもでーす。」



「おう、こっちこっち。

まあ上がれや。」



「どもー。

これお父さんからの差し入れです。」



「お!

いつも済まないな。

ブラギの奴には宜しく伝えておいてくれ。


で、これが噂のトビタ。」



「こんちはー♪

いつも叔父がお世話になってまーす。」



『いえ、こちらこそ親方には世話になっております。』



成る程。

これがドワーフ種の女か。

やや身長は低いが、やはり首回りや胴回りがゴツい。

典型的な相撲体型。

絶対に喧嘩しちゃ駄目なタイプである。



「この人変わり者だから話してて疲れるでしょ。」



「おい。」



『あ、いえ。

自分にとっては、居心地の良い師匠です。』



「あははは。

さてはトビタ君もそっち側だなー。」



…どっちだよ。



「聞いたよー。

かなりの腕利きなんだって?」



「おい、その話は!」



「分かってるって。

外じゃ言ってないから。


ねえ、叔父さん。

この坑道、どんな感じ?」



「銀・錫・銅。

クリスタルは炎系と風系だな。」



「へえー。

上の人達もいい鉱区を割り振ってくれたんだね。」



「トビタは手柄を挙げてるからな。

繋ぎ止めておきたいんだろう。」



「へえ、有望枠だ♪

凄いね、キミ。」



『あ、ども。』



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



ガルドの姪御に案内されて氏族首都に入る。

城門には馬車屋と軽食屋台が軒を連ねており非常に盛況。

殆どがドワーフ種だが、頭に角が生えた魔族も散見される。

聞けば、ドワーフと魔族は昔から交易が盛んらしい。


首都の規模はあまり大きくない。

一辺3キロ程度の中規模都城である。

但し地下街が発達しており、面積の割に人口が多い。

ドワーフ式のレストラン(?)の様な店に招かれ、フルーツ盛りを一緒に食べた。



『エヴァさん。

1つ聞きたい事があって。』



「エヴァでいいよ♪」



『はいエヴァさん。

ガルド親方の氏族資格凍結って、どうやったら解除されるんですかね?』



「んー?

簡単だよー。

叔父さんが心を入れ替えたら、上の人達も大目に見てくれるでしょ。」



…なるほど。

凍結は解けないか…



「それか月並みな話だけど、大手柄を挙げるとかね。」



『大手柄ですか?』



「前にトビタ君がロック鳥の卵を獲って来てくれたでしょ?

アレを魔族の人達が高値で買ってくれるのよ。

魔法の触媒になるんだってさ。」



『ああ、アレですね。』



「アレを10個くらい叔父さんが仕入れてくれたら…

大手柄だと思う。」



『何で10個?』



「分かんない。

魔族の人達が《10個セットなら大奮発する》って言ってるみたい。」



『へー。』



ふむ。

小まめにワープすれば親方の凍結は解除出来そうだな。

よしよし、これで義理は返せそうだ。



「コラコラ、駄目だぞー♪」



『え?』



「トビタ君、ロック鳥の卵って聞いて

《そんな簡単なことでいいんだ。》

って安心したでしょ?」



『あ、いや。』



「今の表情はヤバかった。

《ボクにはとっておきの隠し技があります。》

って白状してるのと同じだよ。

叔父さんからも念を押されてるよね?

手の内はちゃんと隠せって。」



『す、すみません。

確かに迂闊でした。』



「一応、確認しておくけど。

1日で10個納品とか、そんな馬鹿な事は考えてないよね?」



『いやあ、たはは。』



「悪い事は言わないから、月イチにしておきな。」



『そうっすね。』



《10個まとめて》と言う魔界側の買取打診は、山岳民族が集落総出で狩りに行くような規模を想定しているそうだ。

ドワーフに打診が来たのは、鉱業の関係で山岳民族とのコネが強いから。

平地の農耕民である王国人は山岳民族を差別しており不仲だが、鉱業特化のドワーフは山仕事を見下さない上に食習慣も似ている。

要は、山岳民族との太いパイプを持たない魔族達がドワーフのそのルートを活用させたがっている構図なのだ。


その日はエヴァの父親(ガルドの弟)であるブラギ氏に挨拶。

返礼品を渡して解散。

普通に社会的地位・常識を備えた好人物だったので驚いた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「…あのねえ。」



『え?

卵は一個しか獲って来てませんでしたけど…』



「じゃなくて。

打診があった次の日に既にブツがあるって、どう考えても怪しいでしょ!

私、女だからスキルの話とかあんまり興味ないけど!

それでもトビタ君の能力に見当が付いちゃったよ!!」



『あ、すみません。』



「叔父さんからもちゃんと注意しなよ!」



「コイツ、全然人の話を聞かないんだよ。」



「まるで若い頃の叔父さんみたいに?」



「いやあ、トビタの悪質な所は…

コイツは返事だけはいいんだよ。

すっごく素直で真摯なの。

でも、本質で理解してくれてないんだよ。」



「そこを何とかするのが叔父さんの役割だと思うけどね。

…まあいいわ。


あのね、トビタ君。

今からでも希少品に関しては、何社か噛ませてロンダリングするべき。

当然口銭は取られるけど、キミも目立ちたくはないんだよね?」



『何から何までスミマセン。』



「怒ってる訳じゃないのよ?

でも、儲けたいならちゃんと出口戦略を考えないさいってこと。」



『出口戦略ですか?』



「金持ちにも色々な種類が居るでしょ?

政商みたいな生き方が好きな金持ちも居れば、享楽型やステルス型も居る訳じゃない?

最初からゴールを設定しておかなきゃ破綻するよ。」



『た、確かに。』



「この世で一番恨みを買い易くて、何かあった時に狙われるのが金持ち。

それは分かるよね?」



『まあ、現に俺は恨んでますし。』



「OK。

じゃあ、少しは頭を使って行こ?」



エヴァの言う通りなんだよなあ。

ワープは凄い能力なんだが、使い手の俺がこの体たらくではなあ…

だって仕方ないじゃん。

俺、単なる貧乏人のガキなんだもん。

この能力を引き当てた時は万能感に溢れてたんだけど、俺の知見・学識が見合ってないよな。


例えば、俺は分不相応な日本円を保有しているのだが、それは合法のカネではないので使い道がかなり限定される。

村上翁曰く、【カネとは税引き後の真水】を指す言葉だそうだ。

俺が府中に隠してある紙幣はまだカネじゃない。



『エヴァさん。』



「んー?」



『謝礼は銀塊で弾むので金貨を稼がせてくれませんか?』



「トビタ君、言い回しには気を付けよ?

まるでレートの違う街とこっそり行き来しているように思われるよ?」



『あ!?』



「君って本当に危なかしい。

叔父さんが入れ込む気持ち分かるわ。」



『も、申し訳ないです。』



『キミは私が止めても【レートの違う街】から物品を仕入れちゃうと思う。

日持ちのする物は、この洞窟に隠すようにして頂戴。

足が付かないように捌くわ。』



『あ、ども。』



「金貨で欲しいのね?

銀貨は要らない?」



『あ、銀はお好きに。

寧ろ、必要なら調達します。』



「あのねぇ。

ドワーフ相手に【鉱物はこっちで調達】って凄い大見得なのよ?」



『あ!

スミマセン!

そういうつもりで言った訳では…』



「オッケー。

分かってる。

じゃあ、黒胡椒ホール。

10キロイケる?」



『はい!』



「欲しいのは金貨だけなのね?」



『あ、はい。

出来れば金決済でお願いさせて下さい。』



「分かった、王国金貨で払うね。

お父さんとは話が付いてるから。」



おお。

思いもよらない形で換金ルートが完成した!

嫌われ者のガルドよりも、氏族内の地位が高いブラギ氏の方が融通は利きそうだ。

しかもエヴァはかなりステルスに配慮してくれてる。



『ありがとうございます!

これからお願いします!』



「分かった、じゃあ私が担当として住み込むね。

お母さんとは話が付いてるから。」



…え?

住み込み?



「叔父さん、トビタ君の部屋ってどこ?」



「桧の扉。」



「ありがと。

じゃあ、荷物運ぶね。」



『え?

いやいや、住み込むとしてもエヴァさんは身内のガルド親方の部屋でしよ!?』



「いやいや、そんなの近親相姦になっちゃうじゃない。

そんなふしだらな真似出来る訳ないでしよ。」



「トビタぁ。

オマエもいつまでもガキじゃないんだから、もうちょっと常識的に考えなきゃいかんぞ。


俺は数日ほど深めに潜ってみるから。

後は若い2人で仲良くやってくれ。

んじゃ。」



「ご安全にー♪」



『え?え?え?』



「じゃあ、トビタ君。

まずは背中でも流すね♪」



『え?え?え?』



どうしてオマエらはそんなに飛躍するんだ?

もっと地に足の付いたアプローチをしてくれよ。

この話が面白いと思った方は★★★★★を押していただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
>2人でメシでも狩って来いよ 笑w うっまw 言葉遊び大好き爺には刺さるぜ〜w そして姪御ちゃんもいい子やなぁ
腕相撲かな?勝てる気がしないです。
うーん相撲…
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