総額10万円。
銀塊を村上翁から買った。
1キロインゴットで27500円。
村上翁が金貨を55万で買ってくれているので、地球では王国金貨1枚は銀塊20キロ分の価値がある計算になる。
つまり、20キロ以下の銀塊を異世界人達が金貨で買ってくれれば俺は得をする寸法だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
異世界にワープしようとして、ふと我に返る。
『あ!
駄目だ!』
銀塊に刻印がある。
万が一これが級友達に見られたら…
俺のスキルがバレる!
当然ヘイトもこちらに向くだろう。
『ふー。
やっべ。
欲に目が眩んで身を滅ぼすところだった。』
刻印を消さなきゃ…
ネットで検索して、【バーナーで熔かせる】と知る。
早速、携帯バーナーを購入。
『ゴホッ!
臭ッ!』
縁側で何気なく炙ったところで臭気に焦る。
家に臭いが付いたら嫌なので、無人島にワープして刻印を熔かす。
『…これで、誤魔化せるだろうか?』
銀塊を何度か裏返してチェック。
痕跡は消した。
四隅も熔かした方が良いのだろうか?
やや不安になるが、そのまま洞窟にワープ。
ガルドは仕事が一段落したのか、干し魚をツマミに早めの晩酌をしていた。
『あのぉ、親方。
銀を持って来たんですけど。』
「ほう。
これか?」
『価値はあるかなと?』
「へぇ、純度高いな。」
ドワーフ式の鑑定器がカチャカチャと鳴ってる間、俺も1杯だけ付き合う。
『良くこんなキツい酒飲めますね。』
「飲まずに済むなら幸福な人生だ。」
『幸せになりたいですね、お互い。』
「俺はオマエと知り合えて運が向いて来たと思ってるがな。」
『これからも、そう思って頂けるよう精進します。』
「お互いにな。」
さて、ガルド曰く。
異世界では概ね銀4枚と金貨1枚の交換レート。
あまりに俺にとって都合が良いので拍子抜けする。
だが現に俺の手には金貨5枚が残った。
つまり、地球銀塊1キロ(2万7500円)を王国金貨5枚(275万円)に換えるルートが確立されたのだ。
『…ゴール。』
思わず溜息が漏れる。
「どうした?」
『親方のおかげで食っていける目処が立ちました。』
「俺もトビタのお陰で似たようなモノさ。」
その後、ガルドと寝転がりながら干し芋をグチャグチャと噛り、他愛も無い雑談にふける。
ドワーフの神話やら帝国で流行ってるオペラの演目やら、毒にも薬にもならない話をしているうちに、いつの間にか眠り込んでいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目を覚ますとガルドは既に目を覚ましており、酔い覚ましの薬をくれた。
「理論上は人間種が飲んでも死なない筈だ。
魔族が飲むと躁鬱が激しくなるらしいけどな。」
『魔族?』
「頭に2本の角が生えてて、肌が青い。」
『へー。
色んなのが居るんですね。』
「ほら、地図の1番北側。
ドワーフ領とも国境を接してる。
昔はドンパチが絶えなかったが、今は大切なお得意様さ。
ウチの氏族の採掘会社が随分儲けさせて貰ってる。
王国との停戦協定は、一応続いてるのかな?
いや、失効だったか?
すまん、よく覚えてない。」
聞けば、今の魔王がかなりの猛者で、平民身分ながらも無数の決闘に勝利して、文字通り徒手空拳で成り上がってきた傑物らしい。
戦場では必ず陣頭に立ち、単騎で敵陣に突撃しては大将首を挙げるので、今の魔王になってから魔界軍は対外戦争で全勝している。
しかも魔王氏、長い魔界の歴史の中で屈指の猛将でありながら、無用の合戦を好まない理性主義者とのこと。
「だから、魔界債は人気なんだ。
やっぱり戦争の強い国の債券は皆が欲しがるからな。」
『おお、買ってみようかな。』
「目立たない程度にな!」
『分かってますよー(笑)』
「『あっはっは。』」
話が思いの他盛り上がったので、行商人(当然ドワーフ種である。)が酒食を売りに来た時に魔界債と帝国債を購入する。
「ガルドさーん。
たまには氏族に貢献して下さいよー。」
「ちっ、氏族債なんて俺が知ってるだけでも30回は不払いしてるんだがな。」
「あはは。
それは昔の話ですよー。
ここ3年は健全配当してるでしょ。」
「4年前の執行部の不義理を許してねーって話だよ。」
「当時のメンバー、全員クビになったじゃないですか。」
行商人氏曰く、この100年はドワーフ金融冬の時代とのこと。
とにかく気軽にデフォルトする悪習が身についてしまい、国際社会からの信用を完全に失っている。
(特にガルドの所属する氏族は評判が悪い。)
「まあ、いい。
10枚買ってやる。」
「えー!
どう言う風の吹き回しっすか!?
ケチンボのガルドさんから意外な提案!?」
「老後に備えてだよ。
デフォルトしたらぶっ飛ばすからな!」
「いやいや!
僕は単なる販売窓口ですって。
デフォルトの苦情は長老衆にお願いします、えへへ。」
「半分はトビタの名義だ。
おら、持っとけ。
理論上は、毎年配当が貰えるぞ。」
『いや、悪いっすよ。
俺もカネ払いますから。』
「バーカ、どうせ来年には紙切れになっとるわ。」
『そうなんですか?』
「近年は3年に1回デフォルトしてるからな。
下手すりゃ、今年の配当前にゴチャゴチャ言い出すぞ。」
『ははは、老後の安泰には程遠いですね。』
「毎年支払い額面だけは上がってやがるんだ。
踏み倒すつもりなんだから、そりゃあ目論見書の上では気前がいいもんさ。」
確かに証書を見ると凄い。
氏族債の価格は1枚につき銀貨10枚。
持ってるだけで、毎年7枚の銀貨が配当として受け取れる。
『凄いじゃないですか!
2年目で元が取れてしまう!』
「それって暗に2年目の支払日直前にデフォルトするって意味だから。
一々言わせるな、恥ずかしい。」
『そっかー。
世の中旨い話はないですね。』
「既存のスキームってのは、オマエ以外の誰かが儲ける為のモンだ。
儲けたけりゃ発案側に回れ。」
『銀塊をどこからともなく持ってくるスキームは?』
「それ、オマエ以外に出来るのか?
再現性のないモノをスキームとは呼ばんぞ。」
…そっかー。
【無限交換スキーム】と命名する予定だったが、国語的に間違ってるならやめておこう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
府中。
自宅の風呂で泥を落としている。
あの後、ガルドにツルハシの使い方を教えて貰ったからな。
手も豆だらけだ。
勝ち確。
金価格の高騰に関するニュースを横目で見ながら再認識する。
最近結構真面目に調べているのだが、金の上昇トレンドはしばらく続く見込み。
また異世界の銀需要は魔法・スキルの触媒という実需に基づいている為に底堅い。
『うーーーーーーーん。』
いや、悪くはないのだ。
俺の生まれや年齢を鑑みれば、破格の収入ルートを構築出来たと断言しても構わないだろう。
…ただ、やはり納得感が薄い。
ワープは途方もないチートだ。
神域と言っても構わない。
それが1億前後の収入で喜んでいて良いのだろうか?
【能力は凄い、どこにでも行ける。
でも俺は凄くない、行き先を思いつけない。】
これがモヤモヤの原因である事は重々承知である。
うーーーん、もうちょっと行動の幅を広げたいな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「で?
何で俺が呼び出されたの?」
『あ、いや。
村上さんにはいつもお世話になってるんで、お礼というか。
まあ主要取引先への接待ですね。』
「マジかー。
10代の小僧から接待される日が来るとは思いもよらなかったわ。
この店、高いんじゃないのか?」
『GoogleやChatGPTで調べたたんですよ。
【都内・接待・高級】って。』
「最近の若い奴はトビタでもツールを使いこなすんだから怖いよな。
神楽坂の日本料理店って高いんじゃないのか?」
『えへへ。
一人前5万円です。』
「マジかー。
引くわー。
オマエ、接待って暴力だぞ。」
『まあまあ。
こういうお店で日頃のお礼を出来る位には儲けさせて貰っているということで。』
「俺は大したことはしてないんだがな。」
『ちゃんと中抜きしてくれてます?』
「若造が余計な心配せんでいい。
俺はガメツイからな。
東京五輪よりも悪質な中抜きしてるよ。」
『安心しました。
これからもちゃんと利益取って下さいね。』
「わかったわかった。
大阪万博程度には中抜きしてやるから安心しろ。
それにしても、旨いな。
赤ナマコの上に、瀬戸内海産のこのわた…
いやあ、こんなの何年ぶりだろ。
おい、オマエは食わないのか?」
『和食って、見た目がグロい上に箸が上手く使えなくて。』
「コイツ接待に向いてねー。
ほら、こういう場合は茶碗蒸し用の匙を使うんだ。
仕事と思って食え。」
『なるほど。
匙なら俺でも食えそうです。
えー、何これ?
ナマコ?
うわっ、まっず! まっず!』
「ちなみにそれ、単品なら2500円はするぞ?」
『嘘ォ!?
言われてみれば、何か美味しい!!』
「素直な舌だなー。
いや、苦手なら無理しなくていいんだぞ。
オマエの歳で値札を見ながらの食事はせんでいい。」
『いや、値段を差し引けば普通にマズいですけど。
口当たりも気持ち悪いし、これは残そう。』
「他の食え。」
『これは何すか?』
「フグの白子焼。
ちなみに凄く高い。」
『うわ、まっず。
スイマセン、喰えたもんじゃないです。』
「オマエ普段何喰ってるの?」
『吉野家とか。
サイゼリヤのランチとか。
コンビニでのり弁買ったり。』
「そっか。
じゃあ、帰りに口直しで奢ってやるよ。」
『マジっすか?
ラッキー。』
接待したはいいが俺に食べれるのは【牛しゃぶご飯】だけだったので、それをもう2杯持って来て貰う。
(釜炊きのご飯の上に薄切りにした黒毛和牛の生のサーロインを敷き詰めた逸品)
『ウメー♪』
「それは良かった。」
『村上さん、ちゃんと楽しんでくれてます?』
「若い奴が旨そうに飯を食ってるのを見るのは楽しいよ。」
『捻った楽しみ方だなー。』
「ばーか。
30年もしないうちに、オマエもこっち側だ。」
『そんなもんすかね。』
「チ●ポと胃袋は使えるうちに使っとけよー。」
『胃袋は使ってるんですけどね。』
「シモの方は相変わらず奥手か?」
『相手がいなくて。』
「チャコちゃんに連絡取ってやれよ。
最近落ち込んでて俺らも困っとるんだ。」
『あのぉ。
風俗店って使ってみたいんですけど、方法が分からなくて困ってるんです。』
「おお…
悪い意味で男らしいよなトビタは。
明治の陸軍なら重宝されそう。」
『駄目っすかね?』
「本来なら苦言の1つでも呈するべきなんだが…
オマエの年齢なら、その方が健全だしな。
まあいいや。
一回幾らまでなら納得感ある?」
『うーーーん。
じゃあ1万円。』
「数字の根拠は?」
『女の代金って労働者賃金を越えるべきではないと思うんです。』
「Good!
世界はオマエを糾弾するだろうが、俺は肯定してやる。」
『あざす。』
「じゃあ、この後ソープ奢ってやるわ。」
『え?
ソープランドのことっすか?
アレ高いって聞きましたよ?』
「ばーか。
激安店ってのがあるんだよ。
オマエには儲けさせて貰ってるからな。
接待だ。
口直しに牛丼食ったら行くぞ。」
『はい!』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結論から言うと。
ソープランドは普通だった。
安い店なのでそうだったのかも知れないが、丁度想定ラインの前後である。
『村上さん。
ありがとうございました。』
「おう、気にすんな。
俺の若い頃は年長者がこういう女遊びを若者に教えてやるシキタリだったんだ。
で?
どうだった?」
『コスパは当然悪いんですけど。
平均年収の5倍稼げば、そこまで家計を圧迫しないかなと。』
「ほう。
いい目の付け所だ。
あまりハマり過ぎない様にな。」
『そうですね。
月に10万円以上費やすのは馬鹿かなと思いました。』
「まあ、風俗に10万は使い過ぎだな。」
『あ、いえ。
女全体に対してです。』
「マジかー。
最近の若者はシビアだなー。
まあ、それも時代かな。
何?
今月から10万ずつ使っていく訳?」
『生活にリズムを付ける為に決まった曜日に通います。』
「曜日?」
『当面、水曜日にこのソープに来る事を己に義務付けました。』
「何で水曜?」
『あ、いや。
【水】商売ですし、ソープランドに来たら濡れるじゃないですか?
だから覚えやすくていいかなと。』
「まるで海軍カレーだな。
まあいい。
ここの店長とは昔馴染みだ。
オマエを気遣うように言っておく。」
『え?
村上さんは来てくれないんですか?』
「勘弁してくれー。
オマエも歳を取れば分かると思うが、オッサンになると女を抱くのも心身の消耗激しいんだよ。」
『それは残念です。』
「情けない話だが、精々月イチだ。
オマエもチ●ポは勃つうちに使っとけよー。」
『はい!』
「ソープで余ったカネはチャコちゃんに使ってやってくれ。」
『えー、マジっすか。
いや、村上さんが仰るのなら善処しますけど。
理論上、4万2千円しか使えないですよ?』
「人間としては兎も角、オマエ絶対商才あるわ。
保証する。」
『えへへ、どもっす。』
「いや、褒めてる訳ではないんだが。
まあいい。
もう令和だしな。
トビタくらいドライなのが案外正解なのかもな。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
こんな他愛もない一日だった。
ソープランドの帰りに村上翁から法人登記のやり方や税理士の使い方を教えて貰う。
知りたい事をピンポイントにレジュメに纏めてくれていたので、涙を流して感謝した。
なるほど、金持ち身分になる為には法人成りする事が第一歩なのか。
何故そういう大事な事を学校で…
あ、そうか。
教師は労働者身分だから教えようがないのか。
世の中って難しいよな。
『さて弾みで言ってしまったが…
10万かぁ。』
女に10万使うと言ってしまったからな。
この万札10枚は棚の上に置いて区別しておくか。
ソープランドで15000円×月に4回で計6万円。
余った分は村上家に顔を出したついでにチャコちゃんにでも使ってやればいいだろう。
総額10万円。
何度計算しても余裕だった。
…まさか女が増えるとは思いもよらないじゃないか。
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