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強盗よりも儲かりそうだ。

さて、行き詰まったな。

厳密に言えば成功はしている。

既に手持ちのキャッシュが1000万円を越えた上に、家まで確保したからだ。

今までの極貧生活を思えば歓喜すべき場面だろう。



ただ…

【ワープという異能を持ちながらこんなものなのか?】

という率直な想いがある事も否めない。

俺に智力や胆力があれば、100億くらいの貯金は既に手に入ってるのではないか、そんな自問自答もある。



『親方ぁー。

何か手伝わせて下さいよ。』



ガルドの鉱夫仕事を手伝ってみようと思ったのも、そんな思いからだ。

とにかく停滞感から逃れたかった。

目先を変えたいのだ。



「気持ちは嬉しいがな…

人間種がドワーフの鉱夫仕事を手伝うのは難しいと思うぞ?

ああ、勘違いしないで欲しいんだが、別に侮辱で言ってる訳じゃない。

向き不向きの話をしていてだな…」



『この土砂の詰まった一輪車。

表の捨て場ですよね?』



「おい、馬鹿!

人間種の転がせる重さじゃ…


…馬鹿野郎が。」



『じゃーん。

空っぽにして戻って来ました!』



「0点!

落第!」



『えー、厳しいなぁ。』



「熟練のスキル使いが手の内を推測されて、あっさり討死なんて話は昔からよくある事だ。」



『…はい。』



「俺の様な無学者に推測させてるうちはオマエは3流!

もっと慎重に生きろ!

…命は1つしか無いんだからな。」



案の定怒られた。

ガルドの言ってる事は全て正論なので反論の余地がない。

更なる叱責を覚悟で一輪車仕事を申し出る。

駄目元だったが、幾つかの条件を飲まされて手伝いを許された。



「あのなぁ。

俺もオマエが憎くて言ってる訳じゃねぇ。

ただなぁ、若い奴が無茶してるのを見るとヒヤヒヤするんだ。

頼むからその点だけは理解してくれ。」



『へーい。

わかってまーす。』



「あー、俺の若い頃もこういう舐めた態度取ってたんだろうなー。

今思えば、先輩方は辛抱強く向き合ってくれてたんだろうなー。」



ガルドが一輪車に積んだ土石をワープで表にポイッ。

ちなみに自分の腕力ではピクリとも動かない。



『親方!

俺、役に立ってますか!』



「おう、トビタは雑用界のスーパールーキーだぜ。」



『へへへ。』



「褒めた訳でもねーんだがな。

この年頃の奴には褒める箇所見つけて付き合って行かなきゃならねーのかもな。」



最初、ドワーフ達から洞穴を居住地として与えられた時は、嫌われているのかと思った。

ただ、彼らと付き合っているうちに、向こうなりの好意も多少は混じっている事を悟った。

何せ、この洞窟を所有すると言うことは、採掘権もセットで付いて来るからだ。

無論、俺の細腕で坑道を掘り進む事は不可能だが、そこは鉱業を主産業としたドワーフ社会。

外注システムが充実しており、採掘権さえ保有していれば十分生存が可能だった。

(採掘権は年金っぽい位置付け。)

首都に居場所のないガルドが住み着く事も計算のうちだったのだろう。

その視点で見れば、彼らには感謝するべきだった。



『要は膨大な土石の中から希少鉱物を発見して採取する仕事なんですね。』



「まぁ、そうなるな。」



『で、その作業工程の中で大量の土石が発生すると。』



「はいはい、オマエが居てくれて捗ってるよ。

具体的には、いつもの3倍の作業効率だ!」



『あざす。』



「ほら、見えるか?

銀脈だ。」



『んー?

薄っすら白く光ってるような。』



「小規模な銀脈だが、上手く掘れれば1年は遊んで暮らせる。」



『射幸心そそりますね。』



「分かった来たじゃねーか。

でも、トビタは射幸心禁止な。」



『えー、何で!?』



「バーカ。

一発当て終わったら、それを防衛する事に神経注がんか。」



『確かに。

仲良くなった帝国商人も、割の良い債券を買えって教えてくれました。』



「その心は?」



『債券発行体、要は国家や大諸侯ですよね。

これと仲良くしておいて損はないとの事です。』



「ふっ、多少は学んでいるようだな。

もし買うとすれば、何処の債券を買う?」



『まずは帝国です。

これからの覇権国ですし。』



「鉄板だな。」



『次にドワーフ。

それもこちらの氏族で発行している債券があれば、それを買わせて下さい。』



「ウチの氏族なんかより、ギガント族やブンゴロド族の方が遥かに大勢力だぞ?

何せ共和国元老院に議席まで持ってやがるからな。」



『余所者の俺がお世話になってるので。

感謝は形で示しておきたいな、と。』



「ふむ。

悪くはない考えだ。」



『そして王国系債券。』



「何故だ?

デフォルトの危険性が高いぞ?」



『いえ、どのみち近辺の人間種は全て王国人なので、保険を掛けておきたいんです。

いずれ王国人は王都の奪還戦に挑むでしょうし。

帝国人が駆逐された後に標的にされたくないんで。』



「そうか。

今度バルンガ事務長にその話をしてやれ。

あの人喜ぶぞー。」



よく分からないが合格らしい。

よし、地味な手法だが異世界にも地歩を築けそうだな。



「今オマエ、悠長な話って思ってるだろ?」



『いえいえいえ。』



「チートは…

ギリギリ人様に言える形で運用しろ。

人生の先輩からのアドバイスだ。」



『うーーーん。

相手が親方だから腹を割って話しますね。

折角手に入れたチートなんだから、もっと大胆に使いたいんです。

それにチート相応の成果も挙げたいです。』



「世の中には色々な能力がありノウハウがあり戦術がある。

その中にはオマエにとって洒落にならないレベルで相性の悪いものもあるだろう。」



『…。』



「確かにオマエは凄いよ。

だったら、その凄さを自分以外の誰かが持ってると想定して動け。

バケモノはトビタ一人じゃない。

それだけは覚えておいて欲しいんだ。」



『…。』



まあな。

俺以外の誰かがもっと凄いチートを手に入れているかも知れない。

確かにワープは卓絶した能力だ。

だが、広い世の中にはワープを完封して来るような天敵も存在するだろう。

この男は【そういう相手を出会う前の時点から不用意に刺激するな】と言っている。

確かに、日頃から敵を作らないような運用を心掛けていれば、天敵が形振り構わず強襲してくる確率は減るだろうな。



「年頃の若造に地道に生きろとは言わん。

だが、地道な生き方を尊重するポーズは取っておけ。

債券なんぞより、余程保険になるぞ!」



『…。』



どうしてジジー共って、こんなに口煩いんだろうな。

勿論、その理由は痛い程分かっているんだけどさ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『親方。

もうすぐ別件あるんで、上がらせて貰っていいですか?』



「おう!

遊びでも仕事でも存分に行って来い!

今日のオマエは半月分くらいの活躍をした!

胸を張れトビタ!」



『あざす!』



駄賃に貰った銀粒をポケットに入れて地球にワープ。

府中の自宅でシャワーを浴びる。



『ふう。

スッキリした。


…ワープ!』



風呂上がりに新宿へ飛ぶ。

冷静に考えたら、今の俺って凄いことしてるな。

行き詰ってるんじゃなくて、有難みが薄れているだけなのではなかろうか?



『ちゅーす。』



「よう。」



仕事帰りの村上翁と肩を並べて歩く。

どこかの店で晩飯でもと思ったが、歩きながらの方が盗聴防止に良いらしい。



「あの10枚の金貨な。

来週には換金が終わる。」



『村上さん、ちゃんと利益取ってくれてます?』



「んー?

俺は悪い奴だからな。

中抜きしまくりよ。

だから若造の癖に一々気遣いすんな。」



絶対このジジー手弁当だろ。

参ったなー。

ちゃんと利潤を得てくれないと、こっちも物を頼みにくいんだよなあ。




『こんなのはカネになります?』



「銀?」



『そこらで拾いました。』



「俺もいつかは、そんなそこらを歩いてみたいものだ。」



2人で笑う。



「銀のグラム単価は200円前後で推移している。

見た感じ10グラムってトコか。」



『2000円ですか!?』



おっかしいなあ。

ガルド親方は大喜びだったし、もっと価値があるって言ってのに。


…いや、俺は何を言っているんだ?

地球と異世界で金銀レートが同一な訳ないじゃないか。



『ねえ、村上さん。』



「んー?」



『銀って買えるんですか?』



「お、また悪い商売を思いついたなww」



『茶化さないで下さいよーww』



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



帰宅してから、高校の歴史教科書を引っ張り出して来る。

幕末…

我が国の金銀レートは国際的なそれと大きく異なっていた。


日本では金1両に対して銀5両程度の価値とされていたのに対し、欧米では金1に対して銀15程度の価値とされていたのだ。

欧米の商人達はこの金銀比価の差を利用して日本の金貨を大量に手に入れ暴利を貪った。


要は商売など多かれ少なかれアービトラージだ。

俺のワープはこれと途方もなく相性がいいんじゃないだろうか?


うむ。

少なくとも、強盗よりも儲かりそうだ。

この話が面白いと思った方は★★★★★を押していただけると幸いです。

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おお、貿易無双のコスパに気付きましたか 異世界貿易を本格化するならいつか起業しないとダメそうだけど 正体を隠した上で合法非合法ともにワープ運び屋サービスだけ宣伝するのも単価高そうだけど、トラップ対策…
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