消去法で俺だろうな。
さて、想定以上にグリンヒル残党の数が多い。
そして元は正規軍だったこともあり武装が非常に充実している。
「トビタ!
停車命令だ!
馬車を盾にして簡易塹壕を掘るぞ!」
『はい!』
ドワーフ軍にとって想定外だったのが、残党軍が街道脇の村落を接収し要塞化していることだった。
しかも、彼らが最新式の長距離ボーガンを装備している事もあり、既にこちらが5名も射殺されている。
更には時刻の関係もあり、完全な逆光。
要塞の視認すら苦労する。
『親方、俺も射手に加えて下さい。』
「…いや、気持ちは嬉しいが。」
『でも、俺なんかが塹壕掘りに参加しても役に立ちませんよ。』
「分かった。
オマエは荷台から狙っておけ。
あくまで自衛用だからな!
飛び出してドンパチするような真似はやめてくれよ!」
鉱業を主産業とするドワーフ種のシャベル捌きは圧倒的だ。
固い土をバターの様に抉って信じられない速度で塹壕を掘っている。
あの作業に俺が加わったとしても足手纏いになるだけだろう。
「副長が撃たれたッ!!!」
前方から悲鳴が挙がる。
ヤバいな、高所から一方的に撃たれ続けている。
しかも地形的に前進も後退も出来ない。
「トビタ。
流石にマズいわ、コレ。」
『そっすね。』
「オマエだけでも逃げてくれ。」
『ははは、前後を包囲されてるのに逃げようがないっすよ。』
「オマエだけでも逃げてくれ。」
『…。』
先程渡された軍用ボーガンはドワーフ用というだけあって、かなり重い。
残党軍を撃とうと試みたのだが、情けない事に照準姿勢を保持するのは2秒が限界だった。
かなり高性能のボーガンらしく撃てば照準内に飛ぶ。
だが、撃つまでの姿勢保持が出来ない。
くっそ、俺にもっとチカラがあれば。
「うおっ!」
悲鳴に振り返ると、すぐ後ろの11番車両に矢が刺さっている。
車長は穀物取引の責任者を務めるドルオン地区長。
『ドルオンさん!』
「情けねえ声を出しちまってスマねぇ!!
11号車両負傷者なし!!!」
『良かったです。』
「スマンな。
まさか、ここまで派手な合戦になるとは。」
『いえ、氏族の皆さんは悪くないですよ。』
「平地での戦闘なら自信があるんだが…
この高低差だからな…」
『ドワーフの皆さんでもキツいですか?』
「ああ、正直かなりキツい。
やっぱりドンパチは高所を取れるか否が全てだからさ。
特にボーガンでの射ち合いなんて高所さえ確保出来れば素人でも圧勝出来るよ。」
『…素人でも、ですか?』
「そりゃあ、そうだ。
反撃を気にせずに確実に狙いを付けられるからな。」
10番車両に戻った俺は11番車両の無事を報告。
ガルドも安堵した様に僅かに微笑む。
『…そうだよな。
高所さえ確保すれば素人でもだよな。』
荷馬車の隙間から残党軍の要塞を覗き見る。
三方を峻険な崖に囲まれた天然の要害である。
逆に言えば、崖上にさえ登ってしまえば要塞内を一方的に撃てる。
『ワープ!』
自分でもどうしてそんな馬鹿な真似をしたのか分からない。
崖上に飛んだ。
素早く周辺警戒をするが伏兵は配置されていない。
次に崖下を覗き込む。
逆光と角度のお陰もあり、要塞内からこの崖上ポジションを確認するのは相当困難と見た。
ドワーフの車列からはギリギリ視認可能な角度。
もしも雲が太陽を覆ったら、この場を離れよう。
『…1射目。』
教わった通りにボーガンを放つ。
呆気ないほど簡単に壁上の弩兵を射倒した。
付近にいた残党軍が戸惑ったように周囲を見回すが、こちらには気付かれていない。
『…もう少し撃つか。』
矢筒が空になるまで発射し続けた。
最後の一発を撃つ時にうっかり石を転がしてしまい、狙撃点がバレたので慌てて馬車にワープで戻る。
出現時に一瞬ガルド親方と目が合い掛けるが、親方が俊敏に目を逸らしたのでタテマエ上はバレてない事となる。
『すみません。』
「謝るような事はしてないだろ?」
『どうでしょう。
結構してるような気もしますし。
バレた所で形式的に謝る事はあっても、本心から反省する事はないと思います。
スミマセン。』
「…安心しろ。
多かれ少なかれ皆似たようなものだ。」
『そっすか。』
「味方が城門を潜った、もうすぐ決着だ。」
『潜る?』
「オイオイ、坑道戦術はドワーフの真骨頂だぞ。」
まさか。
この短時間で要塞までのトンネルを掘ったのか!?
いや、ドワーフ達ならあり得るか。
「誰かが背後から援護射撃をしてくれたようでな。
最高の陽動になったよ。」
『…。』
「俺は感謝してる。」
『…そっすか。』
「ほら、見ろ。
突撃準備開始の合図だ。
俺も斬り込みに参加するから、オマエは馬車で休んでろ。」
『援護射撃、あった方がいいっすか?』
「…そうだな。
敵の迎撃シフトを崩してくれたら…
味方の犠牲が多少減る。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ドワーフ達は合戦慣れしているので戦場勘が良い。
逆光と高角度にも関わらず、数名が援護射撃の主が人間種だと気付いたようだ。
しかも発射された矢の筈巻には氏族の象徴色が用いられていた。
まあ、消去法で俺だろうな。
「制圧完了!
総員車列に戻れッ!!
日が暮れる前に中継ポイントまで進むぞ!!」
残党軍の完殺を確認と同時にキャラバンは出発する。
正規の合戦ではないので首実験は行われない。
『200人弱、一個中隊ですか。
もっと籠城してるのかと思いました。』
「戦場ではいつだって敵は多勢に見える。
安心しろ、俺もそうだ。」
矢を射ち尽くした事を詫びたが聞こえないフリをされた。
この10番車両に積まれていた矢筒は3挺。
ドワーフの軍規では1挺に30本を収納することが定められているので90射した計算になる。
半数以上の頭部に命中し吹き飛ばしたので50人前後を殺した計算になる。
頭に血が上っていたとは言え、我ながらどうしてそんな愚行を犯したのか想像も付かない。
俺に何のメリットがあるというのだろうか?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
中継ポイントはフランドル侯爵派の支配下にあり、グリンヒル軍からの脱走兵が点呼を受けているのが見えた。
近く残党軍は一掃されるとのこと。
どうやら俺も緊張が限界だったらしい。
停車許可区画に馬車を止めるなり、荷台に横たわって眠り込んでしまった。
翌朝。
戦友達の遺骸を埋葬してから新都に出発する。
中継ポイント以降は安全な旅路だったので、ガルドに手綱の使い方を教わりながら、のんびり進む事が出来た。
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