世界が先に俺を苛めた。
帝国を盟主とする連合軍の攻勢は凄まじく、王国軍は各戦線で敗退。
とうとう王都までも陥落してしまったらしい。
おまけに主だった王国側の武将が全員戦死した。
チャック・バーンズ将軍
オスカー・ガン将軍
ブラッド・デービス将軍
ケイン・ゴールドバーグ将軍
アリオス・ハーン・スティッツ将軍
カルロス・ブチャーチン提督
パット・ロングウッド提督
いずれも世界的に名の通った名将だったらしいが、今は彼らの首級が王都の城門前に掲げられているらしい。
そして先日、満を持して帝国皇帝が王都に入城し新都と改名した。
更には王国南部を帝国領に編入する宣言を行い、各国代表団は万雷の拍手でこれを承認した。
『へー、大変っすね。』
「いや、王都近辺は年貢が下がったらしいぞ。
店舗税も10年は半額で済むらし。」
『え?
減税っすか?
何で?』
「そりゃあ、皇帝からしたら折角手に入れた新領土だもん。
何としても既成事実化したいだろ。
要は人気取りだよ。
帝国遠征本部に物資を持って行けば相場より高く買い取ってくれるみたいだぞ。」
『え!?
マジっすか!?』
「マジマジ。
ウチの氏族も温存していたミスリルや魔石を売りに行く事になった。
久々の儲け話だ。
いやあ皇帝様様だな。
あ、塩も買い取って貰えるってさ。」
『おおッ!!!』
「なあ、トビタ。
オマエ、黒胡椒って手に入らない?」
『胡椒っすか?』
「帝国様式の晩餐会には必須なんだよ。
帝国料理=黒胡椒のイメージだからな。
皇帝は奪った領土を帝国色で染めたがっている。」
『はえー。』
物価と言うのはアホみたいな理由で上下するものだ。
俺の様な貧民にとっては腹立たしい事この上ないのだが、適応するしかあるまい。
『親方。
俺…
胡椒を手に入れる自信があります。』
「粉末は駄目だ。
あくまでホールで欲しい。
多すぎると目を付けられちまうから2箱まで。」
『まとめ売りをしたら出所を探られちゃうって奴ですね。』
「ははは。
オメーも商売のコツが分かってきたようだ。
新都へのドワーフキャラバンは来週出発だ。
それまでにブツを仕入れられるか?」
『行けます!!』
「よし、胡椒はオマエに任せる。
俺はモンスター素材を調達しておくから、5日以内に仕入れてくれ。
胡椒はこのドワーフ袋に詰め替えろ。
出所、知られたくないんだよな。」
『了解しました。』
「それじゃあ、馬車を調達してくるから…
あ、オマエ流石に車軸用の潤滑油とかは持ってないよな?
長旅には必須なんだが、車両屋連中と昔揉めたことがあってな…」
『それっぽいのは、多分イケます。』
「わかった。
じゃあ5日後に!」
『はい!』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
よく分らんが、王国よりも帝国の方が気前が良いらしい。
何より皇帝は幾つもの金鉱山のオーナーであり、今回の戦費として莫大な金貨を持って来たらしい。
金貨が欲しい俺にとっては嬉しい話である。
『ワープ!』
早速、府中に戻る。
黒胡椒を20キロ売らせて貰える。
いいね、販路と品目が既に確定している安心感は最高だ。
寝転がってスマホでのんびり検索。
なるほど、ハウス食品が㌔3000円で通販しているのか。
つまり20㌔で6万円。
どれだけ少なく見積もっても、黒胡椒は㌔辺り金貨15枚は固いと聞いている。
つまり最低でも300枚の金貨が手に入る計算だ。
先日、村上翁に確認したところ王国金貨なら55万円で買い取ってくれるとのこと。
55万×300枚=1億6500万円!!
これだよ!!
折角、手に入れたワープ!
強盗みたいなチンケなシノギではなく、こういう大商いがしたかったんだよ!!
念の為、経済ニュースを見て金価格が高騰している事を確認。
(ウクライナ戦争やパレスチナ情勢に鎮静化の兆しが見られない為)
よしよし、金貨の買値がすぐに下がることはないだろう。
『ふー。』
オンラインショップでハウス食品の胡椒20㌔を注文する。
届くのは明日。
それをドワーフ袋に詰め替えて親方にチェックを頼むだけの仕事だ。
『…。』
簡単過ぎて、逆に不安になって来る。
俺、何かミスをしてないだろうか?
オンラインショップの購入履歴をチェックして、ちゃんと注文が通った事を確認。
どうやら明日の午後に到着するらしい。
絶対に家に居よう。
『…食料、買い込んでおくか。』
近所のコンビニで数日分の食料とお菓子を買い込む。
暇つぶし用の雑誌も買った。
そして死角に隠れてからワープで部屋に戻る。
『よし!』
地味だが、かなり有用な使い方を出来ている。
【移動】という無駄な時間を省略出来るのはデカいな。
『ムシャムシャムシャムシャ!!』
高い菓子パンをいっぱい買った。
ストロベリーチョコが美味そうに見えたので、手掴みで貪る。
『ムシャムシャムシャムシャ!!』
俺は金持ちになる。
『ガブガブガブガブ!!!』
ドクターペッパーをがぶ飲みする。
パンのクリームで手がベトベトになり、ベトベトの手がペットボトルをドロドロにしてしまう。
そうか、こういう時はティッシュやハンカチを使うのだ。
『ゴクゴクゴクゴクゴクゴク!!』
俺はどうして、そんな単純な事も分からないのだろう?
いや、答えは分かっている。
生まれが卑しいからだ。
『ムシャムシャムシャムシャ!!』
たまたま貧民の子に産まれたから、皆が普通に持っている文化資本を俺だけが持っていない。
だから笑われる、嫌われる、蔑まれる。
『モグモグモグモグモグモグ!!』
俺は復讐しなくてはならない。
これは親父から社会という名の敵を引き継いだ俺の義務なのだ。
『グッチャグッチャグッチャグッチャ!!』
世界が先に俺を苛めた。
だから俺はどんな手を使ってでもオマエ達に報復しなければならない。
金持ちになる、というのはその第一歩だ。
もしも、俺がめでたく金持ちになれたら。
そんなことで満足出来たら。
きっと復讐は終わりなのだろう。
『グッチャグッチャグッチャグッチャ!!』
金持ちになれたら、この飢えは満たされるのだろうか?
『グビグビグビグビグビ、ズズーーーーーーーー!』
金持ちになれたら、この渇きを忘れる事が出来るのだろうか?
それを確かめる為に、俺は生きているのかも知れない。
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