滅茶苦茶言うよな、このオッサン。
紆余曲折あってクラスメート達はドワーフ領の更に北にある公爵領に移住した。
俺はガルド親方のツテでドワーフ首都に家でも貸して貰おうと目論んでいたのだが、親方が余程の嫌われ者なのかその友人の俺まで首都での居住を拒絶されてしまった。
ドワーフの役人が申し訳なさそうな顔で、「村はずれの洞窟なら住んでも良いよ。」と現地まで案内してくれる。
てっきり洞窟地形を利用した不動産物件かと思っていたのだが、原始人でも住んでそうなガチの洞窟でドン引きする。
『ははは、結構な洞窟ですね。』
「そうだろうそうだろう!
ドワーフ領の中でも最高の洞窟を用意したんだ!
しかも賃貸じゃなくて分譲!!!
特例として君にこの不動産を提供する!!!
氏族からの好意だ!」
『…えっと、好意なら首都に住ませてくれませんかね?
立派な石造りの邸宅が並んでるのが見えたんですけど…』
「遠慮しなくていいよ!
我々もこの時期に人間種さんの心証を損ねたくないからね!」
最初は煽られているのかと勘繰ったのだが、どうやらドワーフ達は本気で俺の機嫌を取りに来ているらしく、虎の敷物や食料セットを恵んでくれた。
よく分からないが、洞窟を貰えた。
これは異種族に対しては破格の厚遇らしい。
ちなみに、降り出した夕立は容赦なく俺の荷物を濡らした。
『親方。
乾パン貰ったんで、親方も食べて下さい。』
「いらん!
俺はあんな小役人の施しは受けん!」
嫌われ者のガルドは領内に家を建てることすら禁じられているようで、野宿先を探し始めたので慌てて洞窟に引き留める。
やや恐縮されたがとんでもない。
俺だって番犬が欲しい。
『あー、ガルド親方が嫌われる理由…
何となく分かっちゃいました。』
「俺は嫌われ者じゃない!
若い頃、モテすぎたから嫉妬されとるだけだ!」
『ははは。』
「あー!
トビタ、疑ってるだろオマエ!」
『いやあ、ははは。
信じてますよぉ。』
もしもドワーフ女性がコミュ障や嫌われ者に惹かれる習性を持ってるなら、この人はさぞかしモテるだろうな。
「じゃあ、オメーはどうなんだ!」
『え?
俺っすか?』
「恋人くらい居るだろ!」
『いや、居たら親方なんかの店に入り浸る訳ないじゃないっすか。』
「カーッ、情けねえ!
いい若いモンが恋人1人居ないなんて。
あーやだやだ。
俺の若い頃は…」
女かぁ。
そうだな、家を手に入れたし強盗手法も確立した。
次はセックスの相手を確保する時期なのかもしれないな。
「オメー、誰か候補はいないのか?
男女のグループで召喚されたんだろ?」
『いやー、俺は親方と一緒で嫌われ者なんすよ。』
「俺は嫌われてない!」
『ははは。
おまけに貧乏人なので、女が一番嫌がるタイプでしょ。』
「流すな!」
『ははは。』
「でも今のトビタは貧乏ではないだろう。
寧ろ、召喚者の中じゃ一番安定しているように見えるぞ?
金貨もいっぱい持ってるしな。」
『どうなんすかねー。
こっちの世界の相場が全然掴めなくて。
幾ら持ってれば、こっちの世界で裕福に分類されるのか…
見当も付きません。』
「不動産持ってれば一人前だよ。
オメーはこの洞窟持ってるんだから一人前だよ!」
…いやあ、俺は都内に戸建て持ってるから。
こんな野蛮人の洞穴は、ちょっと…
「おめでとう!
オマエはドワーフ的には準富裕層だ!
おめでとう!」
『…普通の家に住みたいなぁ。』
「よし!
不動産取得祝いに俺が洞窟を掘ってやる!」
『はぁ。』
「まともに発注したら高いんだぞ!」
聞けば、ドワーフの土木チームは各国政府から依頼を受けて掘削系の公共事業を請け負っているらしい。
力強く地質学に詳しいドワーフ種はどこに行っても歓迎されるらしい。
自慢するだけあってガルド親方の掘削スピードは常軌を逸して早い。
『はぇー。
流石ですねえ。』
「茶化すな!」
『いえいえ、岩をこんなにサクサク掘り進むというのが俺から見れば突出した異能なので。
あ、掘った分は親方の住処にして貰っていいですよ。』
「駄目だ!
家主はオマエなんだから、まずトビタの居住スペースを確保してからだ!」
妙な所で融通が利かない。
そりゃあこのオッサン嫌われるだろうな。
『親方。
何か必要な物資はあります?』
「いや、俺達ドワーフは何でも自給出来るからな。
外から仕入れる必要があるのは、塩くらいのものじゃないか?」
『…俺、塩持って来ましょうか?』
「スキル?」
『ええ、俺のスキルの内訳は…』
「馬鹿かオメー!
そんなに貴重なスキルなら迂闊に口外するんじゃねえ!!
勿論俺は言い触らすような真似はしねーが、拷問されたら吐いちまうかもだぞ!」
『あ、すみません。
そこまで考えてませんでした。』
でも塩は必要らしいので、府中に戻って塩1㌔袋(89円)を10袋購入。
ドワーフ壺に入れ替えてから、異世界に持ち帰る。
「バカヤロウ!!
限度知らねーのか!!!」
どうやら地球の塩は異世界にとっては上質過ぎたらしく、凄く怒られた。
少し意地悪心が湧いたので、一斗缶でオリーブオイル(5万3000円)を買って、空の油壺に補充してやる。
「こんな贅沢品、万が一見られたらどうしてくれるんだ!!!」
親方に殴られる。
凄く痛い。
大きな瘤が出来たが、死んでないという事は極限まで手加減してくれたのだろう。
『親方ー。
俺、旅人なんでしばらく自由行動していいですか?』
「おう、客が来たら上手く誤魔化しておくわ。
遠出してくれてもいいけど、一応毎晩顔を出せよ。」
『はーい。』
このオッサン、絶対にワープに気付いてるだろ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『じゃ、そういうことで。
俺は旅に出ますんで、この洞穴は親方が好きに使って下さい。
んじゃ。』
「待て。」
『はい?』
「男が旅に出るなら、1つ義務が生じる!」
『ぎ、義務っすか?』
「妻か恋人を作れ!」
『えー、いきなり言われても。
俺、そういうの本当に奥手なんすよ。』
「駄目だ。
本来、男が旅に出るのは妻を娶る為だ。」
『そうっすかねー?
それ、ドワーフ限定の話じゃないんすか?』
「最近の若い奴はすぐそうやって逃げようとする。
一緒だ!
ドワーフも人間もゴブリンもエルフも全部一緒!
男の仕事は女を獲得すること!」
滅茶苦茶言うよな、このオッサン。
「恋人を作れ!
オマエの為に言ってるんだぞ!」
『いやあ、まあ努力はしますけど。』
「結果を出せ!
そして俺に見せろ!」
『いやいや、旅先で女が出来たらどうするんですか?
持ち帰りは出来ませんよ?』
「バカヤロウ!
人生経験が違うんだよ!
オマエが女を獲得したか否かくらい、顔を見た瞬間に判別出来るわ!!」
…参ったな。
いや、女は欲しいと思ってたよ。
ただ、それが義務化されると…
仕事みたいでしんどい。
「最近の若い奴らは背中押されないと何もしないから!
俺がこうやって憎まれ役を演じてやっとるんだ!!!」
『あ、はい。
感謝してます。』
このオッサンに限っては演じる必要もないと思うが。
そんな訳で女を作る事を義務付けられてしまった。
…参ったな。
ワープはチートだが、恋活に寄与するとは到底思えない。
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