ワープアは自己責任なんだってさ
何故、数ある異世界ラノベで『ワープ主人公』をあまり見かけないのか、改めて理解した。
強すぎるからだ。
正直、我ながら理不尽な異能だと思う。
だからこそ、俺がワープ使いである事は不用意に知られてはならない。
どう考えても社会にとって有害な能力だし、何か事件があった時に俺が第一容疑者に挙げられてしまうからだ。
例えば、俺が乗っている馬車の2台後ろの車両。
ここには貴金属や薬品が積載されている。
もしも、俺がワープ使いと発覚した状態で、ここで何かが紛失すればどうなるか?
言うまでも無い。
盗んでようがいまいが、皆は俺を犯人だと決めつけるだろう。
だからこそ、俺のスキルは絶対に知られてはならない。
『高橋…
他の奴も警備してやれよ。』
「いやいや。
このキャラバンの依頼者は飛田だからな。
俺も全力でオマエも警備させて貰うよ。」
高橋は俺がワープ使いであるとまでは気付いてないが、何らかのチートを保有している事は悟っている。
そんな俺が明らかにクラスに対して冷淡である事に強い不満を抱いている。
「不満?
別に、そんなもの抱いちゃいないさ。
大切なクラスメートじゃん。」
『…そういうの、もういいよ。
男なら言いたい事言えよ。』
「…もう少しクラスの連中にコミットしてやれよ。
オマエ、一番上手くやってるんだからさ。」
『地球に居る時からクラスの連中から特に何もして貰ってない。
むしろ侮辱的な態度ばかり取られて、極めて不快だった。』
「…ゴメンな。
改めて謝罪するよ。」
『勘違いしないで欲しいんだけど。
俺、高橋に恨みはないよ。
オマエなりに気を遣ってくれている事は伝わってくるし。
他の連中を必死で守ろうとしている姿勢なんかは尊敬もしている。』
「…クラスに嫌いな奴とかいるわけ?」
『他人だろ?
好きでも嫌いでもないよ。
クラスの奴らも俺をそう思ってたんじゃない?
【嫌い寄りのどうでもいい】
俺は周りからそう思われてるんだろうな。』
「…。」
『そう思うだろ、高橋。』
「かもな。
飛田は壁を作るタイプだから。」
『わかってるんなら、その壁を越えて来るのやめてくれるか?』
「皆、助かりたいだけなんだよ。」
『あっそ。
俺は直接助けを求められた事なんてないから知らなかったよ。』
「挨拶に来させようか?
俺は皆が飛田に礼を言うべき場面だと思ってる。」
『挨拶は不要。
俺はクラスの連中と話したいことなんて何もない。
キャラバンに便乗したいなら勝手にすればいいし、その後どうなろうが自己責任。』
「何でもかんでも自己責任って酷くない?」
『ウチの親父、中卒の貧乏労働者だったからさ。
世界中からそう言って苛められてたよ。
ワープアは自己責任なんだってさ。』
「あの時、スキル名を笑ったことは反省しているよ。」
『あの時、高橋は笑ってなかっただろ?
だからオマエには反省する資格がない。』
「…かもな。」
こんな風に意味のない会話が延々と続いた。
高橋だって知っているのだ。
俺達はたまたまクラスが一緒になっただけの他人で、別に助け合う義理も義務もないことを。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて。
皆の危惧が的中した。
キャラバンが王国軍に包囲されたのだ。
包囲軍の総大将は王様の従兄弟のスティーブ・グリンヒル侯爵。
侯爵の旗本である騎士ホーキンスなる人物が俺の馬車に押し入って来て、王国における正式な徴発権限を保有している旨の宣言をする。
「勘違いしないで欲しい。
新王陛下は慈悲深いお方である。
徴発などと言う酷烈な真似はしない!
ただ、国難にあたって諸君らの愛国心を証明して欲しいだけなのだ。」
『証明と申しますと?』
「それは私の口からは言えない。
ただ諸君らの自主性を信じている。」
言えないも何も侯爵の騎士達は貨物車両を勝手に覗き込んで、忙しなく手元の書類に何事かを書き込んでいる。
接収を前提にキャラバンを包囲しているのだ。
きっと評判を落としたくないのだろう、あくまで俺達が自主的に物資を献上したという形式を踏みたいらしい。
「我々は何も強制しないよー!」
騎士達は厳重にキャラバンを包囲したまま、それだけを連呼している。
酷い奴らだ。
避難民の中に都市貴族が数家族いたので彼らが財産保証特権書を示す。
「と、当家は代々王様から財産権を保証されてます!」
なるほど。
俺は特権階級が大嫌いだが、こういう場面では役に立つな。
安堵のため息を吐こうとした瞬間のことだった。
突然、騎士が貴族氏を殴り倒す。
「黙れ!
その特権書はもう無効だ!!
国を捨てた臆病者一家は裁きを受けた!!
諸権利を保証する大権は救国の英雄たるスティーブ2世国王陛下だけが保有している!!」
騎士が指した王国旗のデザインは王都で見慣れているそれと微妙に意匠が異なっていた。
騎士の誇らしげなドヤ顔を見るに、どうやら王様一家は英雄氏によって殺害済らしい。
そりゃあね。
都を捨てて逃げる王様なんて殺されて当然だよね。
「なぁ、飛田。」
『んー?』
「オマエなら、この状況打開出来る訳?」
『俺1人なら何とかなるかもな。』
「皆を助けることは出来ない?」
『助けるとは?』
「わかってるんだろ?
家財を奪われたら、避難民は全員飢え死するぞ。」
『そっか。
家財があるなんて羨ましいよ。
俺みたいな貧乏人には縁の無い話だ。』
「スマン。」
『別に高橋は悪くないさ。
誰も悪くない。』
「…。」
『ああ、勿論オマエらは俺を悪者扱いしてくれていいんだぜ?
積極的にクラスメートを助けようともしない薄情者だもんな。』
「…。」
解決は簡単だった。
膠着状態になりそうなタイミングで、ガルド親方が後方から騎馬で追いついて来たのだ。
ドワーフの姿を見た瞬間に包囲していた騎士達が表情を歪めて荷馬車から距離を取った。
離れた場所に居た所為で会話は殆ど聞き取れなかったが、侯爵はすぐに包囲を解いた。
「スマンッ!
まさか王国の人間種同士でこんなトラブルが起きるなんて!」
『いえ、おかげで助かりました。
それにしても親方の影響力って凄いんですね。』
「俺に影響力なんてないよ。
アイツらも他種族と揉める余裕は無いんだろう。
向こうの気が変わるにキャラバンを出発させるぞ!」
『はい!』
侯爵は簒奪直後。
まだ諸侯から正式に王位を承認されていない。
そんな不安定な状況でドワーフ族とまで揉めたら、取り返しの付かない事態に陥る。
振り返ると、騎士達は残念そうな表情で荷馬車を凝視していた。
後から知った話だが、グリンヒル侯爵は簒奪の為に全リソースを使い果たしており、大軍を搔き集めたのはいいものの、早くも兵糧が底を尽き掛けていたとのこと。
そりゃあ血眼にもなるよな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後も数日、キャラバン旅に付き合わされた。
俺には何のメリットも無かった。
ガルド親方や冒険者ギルド長や貴族達とは社交を行ったが、高橋以外の級友達とは口を利かなかった。
俺に挨拶が無かったからだ。
義理は十分果たしたと判断したので、ドワーフ領に入った時にクラスメート達の乗っていた馬車に宣言する。
『これから俺は単独行動を取る!
後は頑張って自活してくれ。』
級友達は丁度俺に何事かを要求しようとしていた矢先だったらしく、眉間に皺を寄せて黙り込んでいた。
幾人かの女子がヒステリックに叫んでいたが、女の主張に理があった試しがないので内容までは聞かなかった。
オマエらが脳味噌グリンヒルなのは勝手だが、俺は便所の芳香剤を選ぶのが忙しいので構っていられない。
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