上流の世界を見ておくのも勉強のうちだよ?
地球の図書館。
クーラーが効いて心地良い。
無料で冷水を飲めるのも助かる。
異世界の飲料は全て常温だからな。
今日の俺は経済誌を片手に異世界と地球のレートを脳内で何度も確認している。
俺の欲しいのは日本円だ。
喉から手が出るほど欲しい。
それもカタギ寄りの手法で獲得した税引き後の日本円(真水)が大量に欲しい。
その為にワープを使用した商売を真面目にリサーチする事にした。
資料を読み続ければヒントの一端くらいには触れられると思ったのだが…
やはり難しい。
異世界で簡単に取得出来て地球で売却可能な物質が無いか、ただそれだけの話なのだが。
結論から言うと見つからない。
銀やプラチナも異世界には存在するのだが、それを取得する為のコストが微妙に高い。
宝石も異世界に存在するが、カット技術含めて色々微妙。
何より俺が専門知識や換金手段を持ってない。
かろうじて金貨と棒金。
これだけは地球でも通用する。
やはり金こそ貴金属の王なのだろう。
つまり、異世界から持ち帰るべきは金一択。
逆に地球から異世界に持ち込むものが、見つからない。
無いのではない。
旨味のありそうな分野は、全て王家か貴族家が独占しているのだ。
例えばラノベだと胡椒で大儲けというのが常道だが、胡椒は王家の独占専売品。
ちょっかいを出したらガチで拷問されて壮絶な公開処刑をされるらしい。
そりゃあね、そんな旨味のある利権を専制君主が独占しない訳ないよね。
ちなみに1番旨味のある商売は塩をドワーフやエルフに販売すること。
言うまでもなく、このビジネスの独占しているのが王家である。
故に塩利権への挑戦は一族の残酷な死と同義。
辛うじて黒砂糖はまだイケる。
厳密には違法だが、そこまで取り締まりが厳しくない。
ただ量を捌けないので、これだけで富を築くのは困難だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は金属や香辛料の名称を手当たり次第に叩き込むと、ガルドの元に飛んだ。
『ちわす、親方。』
「おう、よく来たな。
シノギは見つかったか?」
『いやあ、難しいですねー。
最初は塩や胡椒を転売して大金持ちって思ってたんですけど、ははは。』
「それに成功して建国したのが今の王家だからな。
全力でブロックしてくるだろ。」
『ですね。
割のいい品目は諦めました。
細々と利鞘稼げる商品で頑張ります。』
「おう、賢くなったじゃねぇか。
そっちの方がトビタには合ってるよ。」
俺は親方と干し肉を齧りながら、図書館で暗記した金属名を並べていく。
流石はドワーフの鍛冶屋である。
大抵の金属は把握しており、実務でも取り扱った経験があった。
次に香辛料。
こちらも羅列する。
「値の張るものは専売だな。」
『ですよねー。』
「ナツメグなんか一袋で金貨10枚だ。」
『ははは、じゃあこれも取り扱ったら死刑だ。』
「ところがナツメグだけは専売品目でありながら売買が推奨されてるし、騎士団も絶対に出所を調べない。」
『えっ?
ど、どうして?』
「ナツメグが採れるのは熱林諸島だけなんだが…
先々代の頃に合衆国との戦争に負けて取られちまってな。
今、市場に出回ってるのは全て合衆国産なんだよ。
ほら、王国って海戦が弱いから。」
要するにタテマエこそ専売品目だが、ナツメグ利権を実質的に握っているのが王国の仇敵である合衆国なのだ。
王家としては合衆国産のナツメグなど銅貨1枚たりとも輸入したくないのだが、肉料理には必要不可欠。
なので、泣く泣く民間キャラバン経由で輸入していた。
なので、ナツメグの密売は黙認。
というより、王国は合衆国の密輸出業者や周辺海賊をこっそり支援して、同国にカネを出来るだけ落とさずナツメグを入手しようと画策している。
『じゃあ、ナツメグを俺が持ち込むのはアリですか?』
「一箱持ち込んでくれれば、オメーに金貨10枚払ってやれる。」
『え!?
そんなに!?』
「合衆国はその倍は吹っ掛けてきてる。」
…村上のジジーは金貨1枚を50万で買い取ってくれる。
なら、一箱で500万か。
これこれ、こういう展開を待ってたんだよね。
幾ら地道に強盗を頑張っても逮捕や報復のリスクを負って上限数百万な訳じゃない。
俺はもっとスマートに稼ぎたかったんだよね。
いいじゃない。
ナツメグ転売。
王様も出所の詮索をしない旨の内示を商人ギルドに出しているらしいさ。
国の最高権力者が承認してくれるシノギってことでしょ?
よしよし。
これで俺も大金だ。
『くっくっく。』
「おーい、トビター。
若者の悪い癖だぞー。
現ナマを手に入れないうちから、勝ち誇って笑う奴にはしっぺ返しが来るぞー。」
『あはははw
えー、勝ち誇りとかないっすよーーww
やだなー、親方ーーww』
「あったあった、俺も若い頃こんな感じで痛い目に遭ったわ。」
『うふふふ。
親方、ナツメグを仕入れて来ますんで!
俺と一緒に金持ちになりましょう!』
「うん、気持ちは嬉しいから程ほどにな。
ちゃんと保険は掛けておけよー。」
『もー、やだなーww
心配症なんだから。
じゃ、ちょっくら心当たりを調べて来ますんで。
大船に乗ったつもりで待っていて下さい。』
「あ、うん。
無理だけはしないようにな。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
胡桃亭に戻った俺はすぐに自室に閉じこもる。
コレット嬢に「何か良いことでもあったんですかー?」と指摘されたので、余程笑いを堪えられてなかったのだろう。
やれやれ。
一々詮索しやがって。
俺が金持ちになったら2度とこんな宿には泊ってやらねえ。
ヒルトンとかマリオットとか、地球の一流ホテルで女を侍らせて暮らすのだ。
人の気配が消えたのを確認してから、一言短く呟く。
『ワープ。』
くっくっく、みんなゴメンなーwww
俺の活躍をもっと見たかったよなww?
でも、ゴメンなーwww
ここから先は単なる作業だからww
読んでも退屈だと思うぞーww
俺が順当に金持ち階級になるだけの話だからww
ぷーーーーくすくすくすwww
あ、そうだ!
俺が金持ちになったら、地球各国のセレブグルメ事情を執筆してやるよ。
糞異世界の話なんかより、そっちの方が面白いだろ?
うん、それがいい。
君達もそうしなさい。
上流の世界を見ておくのも勉強のうちだよ?
いやあ、勝利が確定した瞬間って、どうしてこんなに気持ちいいんですかねぇww
あっはっはっはwwww
勝利確定♪
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