大いなる力には、大いなる責任が伴うッ!!
俺は無言で図書館のPCを操作する。
「異世界 ワープ」
「チート ワープ」
「異世界 瞬間移動」
と検索ワードを変えて書籍検索をし続けるのだが、上手く行かない。
ヒットしないのではない、【異世界にワープさせられるところから始まる物語】が多いのだ。
これに関しては文句が言えない。
何故なら、俺も異世界にワープさせられたのだから。
次に図書館のPCで【なろう】や【カクヨム】をチェック。
俺の様なワープ使いを題材にした作品を探す。
『うーーーーーん。』
思わず唸ってしまう。
やはりワープは物語の導入であって、主題ではない。
そりゃあね、そんなチートを持ってれば余程のボンクラでもない限り瞬時に物語が終わってしまうからね。
『…俺は駄目な奴だなぁ。』
自嘲して笑いながらふと思いつく。
なろうの中で検索しているのがそもそも間違っているのでは?
折角集合知云々を言ってるのだから、もっと広い範囲から探そうぜ。
『まあ、セオリーから言えばGoogleだよな。』
カタカタターン。
カタカタターン。
カタカタターン。
カタカタターン。
カタカタターン。
カタカタターン。
『しゃあッ!!』
前を歩いていた老婆に睨まれる。
まあね、幾らアタリを引いたからと言って図書館で大声を出すのはいけないね。
【瞬間移動 金儲け】
この検索が正解だった。
俺の見たかったサイトがいっぱい出て来る。
特に俺達の世代が日頃軽蔑しているYahoo!知恵袋にそんな項目があって思わず笑ってしまう。
今までは痛いオッサン・オバサンの巣窟だと思っていたが、今後は手心を加える事を誓う。
『えっと、どれどれ。』
【空想問題です。
特殊能力で『瞬間移動』ができるとして、お金を稼ぐ方法と平和利用にどう利用できると思いますか?
なお、体のみしか移動できませんので服や物など運べません。
移動は安全にインターバル無しでできるものとします。
以下の理由から、考えても考えても良いものが思い浮かびません。
・瞬間移動すると全裸になってしまう。
・大々的に世間に公表したら研究材料として捕獲されてしまう心配がある。
せめて、生活できるぐらいは瞬間移動を使ってお金を稼ぎたいです。
よろしくお願いいたします。
1番現実的にお金を稼げて、平和的なものをベストアンサーとします。】
ふむ。
興味深い設問だな。
まさしく今の俺の状況だ。
…さて、回答は?
【 『ベストアンサー』
>世間に公表したら研究材料として捕獲されてしまう心配がある。
本当に瞬間移動ができたら捕獲することは不可能なのでは?
それはさておき、実は某映画でこれに近いネタがあったのですが、瞬間移動能力を表向きは”奇術”ということにしておいてマジシャンとして稼ぐ、という使い方があると思います。手錠して縛り上げられ、箱に入って箱ごと爆破! しかし離れたところに置かれていた箱を開けると無事登場(瞬間移動先の箱にはあらかじめ着替えを入れておいた)、拍手喝采。
”奇術”としては他にもいろいろな使い方があると思います。
また、公表はできないが国家レベルでの支援が受けられる場合、宇宙開発に活用できると思います。月や火星への有人飛行が困難なのは、往復時間の間(月でも往復6日)は宇宙空間で生命を維持することが困難だからです。しかし瞬間移動できるなら居住設備だけ目的地に送って(設備だけなら輸送中は生命維持装置を稼働させる必要がない)居住設備が目的地で稼働開始してからそこに瞬間移動して観測活動を行えると思います。瞬間移動先がわずかにずれても真空極低温で即死、というおそれはありますが、個人的には自分が瞬間移動できたらこの方法で宇宙に行ってみたいです。】
宇宙には興味ないが、『奇術に偽装する』というアプローチは悪くない。
級友達の目を欺く為にも、カモフラージュは必要だと思ってた。
…そうだ!!
もしも高橋や団長に能力の開示を強要されたら【脱出能力】ということで誤魔化そう。
ピンチになったら自動的に逃げてしまうという能力。
【逃げ癖が抜けないからワープア身分のままなのかも知れないな】
この台詞で締め括れば、何となく話の筋道は通るんじゃないだろうか?
事実、俺も親父も逃げ癖が酷く、ちょっと苦しいことがあるとすぐ逃げ出していたからな。
いや都合が良いかも知れない。
俺、去年のマラソン大会をサボってみんなの前で怒られたことがある。
確か高橋もその場に居た筈だ。
よし、この線でこじつけよう。
【逃げ癖=ワープア】、やや強引だがそこまで的外れでもないしな。
『結構、検索は使えるな。
他も見て行こう。』
【まず外国に幾つかの拠点を作り、商品の輸入輸出でお金を稼ぎ、その稼いだお金で紛争地帯などに支援を行うとかどうでしょうか?】
この回答も漠然としてるなぁ。
その輸出入の詳しい話を聞きたかったんだが…
紛争地帯への支援も何も…
既に王国を支援してやってるからな…
『よし、次だ。』
カタカタターン。
カタカタターン。
『まとめサイト!?』
さっきのババーが俺を睨みながら「シーッ」というジェスチャーをする。
うぜえな、と思いながらも形式的に頭を下げる。
【瞬間移動能力で楽に金稼ぐ方法】
ねいろ速報なるまとめサイトの記事。
これこれ、こういう話を読みたかったんだよ。
『どれどれ、何か有用なヒントはないかな?』
・宅配
・運送
・運び屋
・密輸
・配達業
ふーむ。
やはり最初はそれを思いつくよな。
いや、俺は強盗殺人しか思いつかなかったが。
続きを読もう。
・電車バスを利用せずに交通費を会社に請求する。
俺がサラリーマンなら、そういう不正請求も…
いや、俺の性格なら絶対仕事やめてるだろうな。
・アメリカの連邦準備銀行に入って金塊を盗もう。
見た場所にしか行けないからな…
それに、アイツらは額面通りの金塊を持ってない気がする。
・瞬間移動関係の悪事ならジャンパーを見ればいい!
ふむ?
未知の単語、ジャンパー?
検索してみると、そういう映画があるらしい。
【映画「ジャンパー」
冴えない高校生デヴィッドは、幼い頃に母親が家出して、酒浸りの父と二人で暮らす冴えない高校生。
同じハイスクールのミリーに憧れるが、同級生の苛めで真冬の川に転落してしまう。
その時、眠っていた彼の能力が覚醒し自分がテレポート能力を持つ“ジャンパー”だったと知る。
その能力を自覚的に使えるように訓練したデヴィッドは、銀行の金庫室に移動して大金を手にする。
それから8年。特権的な自由を得て高層マンションに暮らすデヴィッド(ヘイデン・クリステン)は、世界中を気ままにジャンプして遊び、金は銀行から好きなだけ持ち出す生活を満喫していた。】
そう!
これなんだよ!!
>特権的な自由を得て高層マンションに暮らすデヴィッド
俺が目指しているのはここなんだ!!!
いいね、悪くない。
インターネット凄いね。
…よし、この映画を視聴してみよう。
強盗のヒントがある筈だ!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ニコニコ動画に違法アップロードされていたので視聴。
素晴らしい…
名作だった!!
いや、何が素晴らしいかと言えば主人公が銀行でトイレを借りて貸金庫の位置を探るのだ。
そして深夜の銀行にワープしカネを盗む!!
無論、俺も何度もシミュレートしたが、映画の登場人物とは言え主人公が札束をゲットするシーンには感涙を禁じ得ない。
いやあ、名作だった。
女は足手纏いにしかならないという事実も再確認出来た。
(ハリウッド女に比べれば、沢口なんかまだ上澄みだったな。)
大した発見は無かったのだが、俺のモチベーションを大いに向上させてくれた!
やっぱり地球のカネを盗まなきゃ意味がないよな。
なーにがロック鳥だ。
一生やってろ未開人共が。
今の俺の脳内は完全に地球モードである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
やって来ました六本木。
俺はこの街が大嫌いだが、カネと言えばこの街しか思い浮かばない。
当然、監視カメラだらけなので、ここで強盗を働くつもりはない。
ただ、強盗のヒントは掴めると確信している。
それとなく周囲を見渡す。
高級車が多い、ショップが多い。
そしてその2つにはカメラが搭載されている。
今日も俺は六本木を歩く。
但し、貴金属店の店内を秘かに網膜に焼き付けながら。
時計屋・宝飾屋、当然NG。
店全体をカバーする様に監視カメラが設置されてるに決まっている。
だが、強盗の予行演習にはなる。
『あれ?
ここ通ったっけ?』
不思議と見覚えのある通りで出た。
六本木に土地勘なんかない筈だが…
『あ!
桧山社長!』
懐かしいなぁ。
ここは俺と桧山社長が出逢った思い出の通りだ。
思わぬ偶然に目頭が熱くなる。
桧山さん、貴方と語り合ってみたかった。
「でさあ、死んだアイツ。」
「ああ、アパレル経営ww」
「ニュースでハケンって書いてて超ウケるww」
「個人情報ーーーwwww」
ん?
聞き覚えのある声?
振り向くと…
あ!
桧山社長に塩対応してた淫売共!!!
間違いない!!
あの卑しい顔付きは覚えてる!!
…いや、周囲の女は全員似たような顔つきだが。
思わず聞き耳を立てると…
信じられねえ!?
あの淫売共、桧山社長の悪口を言ってやがる!!!
おいおい、社長がお亡くなりになる直前まで一緒に居たんだよな、テメーら。
どういう神経してりゃあ、その死を笑い話に出来るんだ!?
『…許せねえ!!』
さっきまでカネの事しか考えて無かった俺は愚かだった。
俺は超人なんだぞ?
自分が得た恩恵を少しは正義の為に使うべきではなかったのだろうか?
『大いなる力には、大いなる責任が伴うッ!!』
自分自身に言い聞かせる。
そうだ、男は私利私欲だけじゃ駄目なんだよ。
正義。
それに優る目的がある訳ないじゃないか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
淫売共は談笑しながら歩道橋の階段を下り始めた。
周囲に人は居ないし、淫売共は買い物袋で両手が塞がっている。
俺は静かに息を吐いた。
『ワープッ!!!!!』
眼前には淫売2人の背中!!!
『天誅ッ!!!!!』
全体重を掛けて身体ごとぶつかり吹き飛ばしてやった。
淫売共が押し出されたのを確認してから、正面に見えていた雑居ビルの階段踊り場に着地。
急いで歩道橋を見る。
よし!!
淫売共は大量の血を流して苦しみ悶えている!!
ふー、スッキリした。
いやあ、今日はずっとカネカネ考えてたからな。
大切な事を忘れるところだったよ。
確かにカネは大切だ。
でも、世の中にはもっと大切な事がある。
それは正義だ!
私利私欲を満たすだけの能力なんて、ケダモノと一緒じゃないか。
天国の桧山社長、見ておられますか?
貴方の悪口を言っていた屑共に裁きの鉄槌を下しておきました。
いつか遠い未来、俺がそっちに行ったら2人で酒でも酌み交わしましょう!!