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俺がそうであるように。

別に打ち解けた訳ではないのだが、ドワーフ親方のガルドと昼メシを食う機会が増えた。

シャッターを閉めた店内で、目立たたずに売れる物品について聞き取り調査。

盗聴対策にガルドは屋内水車を回す。

(俺達でさえ耳打ちし合わないと会話出来ない。)



『塩は?』



「死にてえのか、王家専売品だ。」



『胡椒は?』



「死にてえのか、王家専売品だ。」



『じゃあ少し捻ってシナモンとかって…』



「死にてえのか、王家専売品だ。」



そりゃあ、そうだろう。

見た所、中世か近世の社会体制だからな。

なんだかんだ言って、王権が途方も無く強い。


どうやら塩・胡椒への監視は砂糖の比ではないらしく、少しでも流通ルートに不審点があると大量の密偵がローラー作戦で非正規ルートの調査(拷問含む)を開始するらしい。

当然、密売者は族滅。

専売制度は国王大権の最たるものだからね、それに挑む者は許されなくて当たり前だよね。



『意外に売れるものってないですよねー。』



「モンスター素材なら気前よく買い取って貰えるぞ?」



『…。』



それって庶民は命を懸けて社会に尽くせって意味だよな?

…まあ日本でも似たようなものか。



「言いたい事は分かるけどさ。

その露骨な不満顔を外では見せるなよ?」



『じゃあ、一番高く買い取って貰えるモンスター素材って何ですか?』



「竜の卵。」



『うおー、いきなりファンタジー要素来たー!』



「現実だっつーの。

共和国との国境になってる飛龍山脈。

西側に連なってるだろ?

あそこに棲んでる竜の卵は高く売れるぜ?

王様が破格の値で買い取ってくれる。

金貨10万枚は堅いな。」



『…危険なんですよね?』



「大丈夫大丈夫、王国の歴史で2人だけ生還した奴がいるから。

初代アーサー王陛下と伝説の勇者バルデスだ。」



聞けば、両名共に異世界史を代表するスーパーレジェントだった。

しかもバルデスはその時の傷が元で翌年に死没している。



『えっと、もう1ランク下げて貰えませんか?』



「うーーーん。

水龍の鱗かなー?

これは現実的。

年に数回取得者が現れる。」



『ほう!』



「但し、水龍の棲むアパラチア湖周辺は5年前から帝国に占拠されてる。

王国さんが奪還してくれれば立ち入りも出来るんだろうけど…

戦力差的にどうかなー。

王国さんも結構頑張ってはいるんだけどなー。」



聞けば、王国の奪回作戦を警戒して帝国軍がガチガチに防衛線を固めているらしい。

当然、アパラチア湖への外国人の立ち入りは禁止されているとのこと。



『じゃあ、もうワンランク落として下さい!

国内で! 出来るだけ王都から近い所で!』



「注文が多い奴だなー。

じゃあ、ロック鳥の卵かな。

王都から日帰り圏だし。

ドワーフ組合員なら金貨30枚で買い取ってくれる。

オマエの取り分は金貨20枚だ。」



『えー、親方が10枚も抜くんですかー。

厳しいなー。』



「違う違う。

俺は地元で揉めちゃって組合員資格を凍結されてるんだよ。

だから部外者価格の25枚でしか買い取って貰えない。」



『あっはっはww

どうせ喧嘩したんでしょww』



「るっせーな。

向こうが喧嘩売って来たから買ってやっただけだよ。」



面白いジジーなので金貨5枚を抜かせてやる約束をする。


まあ、この異世界じゃ他に安心して話せる相手もいないしな。

稼がせてやるとするか。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



下見のつもりだった。

この日はやや早起きしてしまったので、郊外まで乗合馬車で向かいワープポイントを確保したら帰って寝る予定だった。

同乗の農夫が親切な男で色々教えてくれた。



「ほら、アレがロック鳥だ。

サイズだけならワイバーンを越える超巨大鳥類。

絶対に巣に近づいちゃ駄目だよー。」



『んー?

そんなにデカいですか?

普通の鳥だと思うんですけど。』



「違うって。

遠近法だっつーの。

山脈の頂上を旋回してる飛影が肉眼で見えるって異常なんだよ。

真上を飛ばれたらチビるぞ?」



『あ、はい。

ああ、言われてみれば確かに。』



一応、農夫の顔を立てて納得したフリをするが、そこまでの巨鳥には見えない。

皆が大袈裟に言っているだけなのではないだろうか?



「あー、その顔は実感してないだろーww」



『いやいやww

ちゃんと理解しましたよーww』



「君の年頃の子はすぐ慢心するからなーw

ほら、農地監視用の竹筒だ。

覗いてみて御覧。」



農夫が望遠鏡のようなものを渡してくれる。

ここらの農地は広大過ぎて、肉眼では到底管理が追い付かないらしい。



『うおっ!!

凄いズーム!!』



「もう少し上を見てごらん。」



『あ、はい。

うっわ!

凶暴な顔しとる!!

典型的な猛禽!!

爪がエグイ!!』



「お、ようやく伝わったね。

エグいよー、牛舎の天井を突き破って牛を奪うんだから。

5、6頭を纏めて鷲掴みにするからね。」



『スンマセン。

ちょっと舐めてました。

頑張ったらイケるかな、と。』



「ははは。

俺も若い頃はそういう妄想してたよ。

ロック鳥の警戒を掻い潜って卵を盗んだら、すぐに金持ちだってな。」



『俺も一攫千金を狙って来ました。』



「真下を見て御覧。

山の頂上に大木が何本か生えてるだろ?」



『あー、何かチョコチョコ見えますね。

あのフサフサしたのが巣ですか?』



「そう。

ロック鳥は高山の頂上にしか巣を作らない。

あんなトコ行くだけでも、命が幾らあっても足りんわなww」



『確かに。

あの山、かなり高いですよね?』



「4000メートル級だからねえ。

山民でも中腹より上はめったに登らないって話だよ。」



…富士山より高いじゃねーか。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



俺は農夫と別れ、この郊外集落を見回し景色を覚える。



『よし、これでいつでもワープで来れるな。』



言ってから、さっき山頂の巣を目視した事を思い出す。



『いや、どうだろ?

望遠鏡越しもOKなのだろうか?


…ワープ。』



それは巣と言うにはあまりに巨大だった。

俺は一軒家くらいの大きさの藁(?)の塊の真上に居た。



『え?

ここが巣なの?


って寒っ!?』



あまりに寒かったので、地球の無人島に戻り盗んだ古着を可能な限り着込む。

手袋も装着してから巣に戻る。


…多分、これだよな?

俺の胴体程もある巨大な物体を持ち上げ…

重ッ!?

これで金貨30枚とかおっかしいだろっ!



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「いや、出所は詮索しないぞ。

きっとスキルだろうけど、絶対に他人に言うなよ?

それが分からないほど馬鹿じゃないよな?」



『あ、はい。

大人の人に怒られたら修正出来るレベルの馬鹿です。』



「Good。

オマエはガキの中の上澄みだ。」



『あざす。』



金貨は22枚貰えた。

ひょとするとこのジジーに気に入られてるのかも知れない。

俺がそうであるように。


まあ、だからと言って慣れ合うつもりもない。

俺は人間関係にはワープを使わない主義でね。

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― 新着の感想 ―
4000mにいきなり転移したら気圧関係で体調狂わんのかな 確かに30枚は安すぎなw 300枚で良さげ
そんなヤバい山の上に一瞬でぶっ飛んだら気圧差でぶっ倒れないかとかちょっと まぁ転移先の安全とかそういう諸々の保護含めてのスキルなんでしょうけども
農夫さん大丈夫かな? 卵の報復で… さすがに距離あるし…
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