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兵隊さんは俺達と違って忙しいのだ。

俺の祖国は日本国であって王国ではない。


異世界に興味の乏しい俺にとって、呼び出した王国にも関心が無くて当然だったし、その王国が周辺国からのプレッシャーに苦しんでいる事もどうでも良かった。


なので当然、王国と帝国の戦争も俺には全く関係がない。

王国の掲示板には如何に帝国が邪悪で正当性に欠けるかが列挙されているが、市井で聞いた所によると税率は帝国の方が僅かに低い。


例えば、街で店舗を構える場合。

王国であれば1テナントにつき商業税として金貨3枚を月初に納めなくてはならない。

帝国は金貨1枚で済むし支払いは月末まで待ってくれる。

王国・帝国共に五公五民を原則としているが、帝国は五公のうちの一公は地元自治体の飢餓備蓄として半年間ストックする事を許されている。


こんな風に新興国である分、帝国の方が微妙に税負担が軽いので人民は王家にやや冷淡である。

王国はこの世界で最も歴史ある超大国だけにシガラミが多く、簡単に制度を変える事が出来ないので仕方ないのかも知れない。



「私は両親が帝国人だしねー。」



胡桃亭の食堂で相席になったキーンなる行商人は気軽に言う。

どうやら国外の高級不動産を扱っているらしいのだが、王国の資産家に飛ぶように売れているらしい。



「ねえ、トビタ君。

顧客を紹介してくれたら、キャッシュバックするよ。

具体的には売り上げの5パーセントをマージンとして支払う。

*1億ウェンの物件なら500万ウェンの謝礼だ。

当然、王国貨幣で支払う。」



*ウェンは国際通貨単位。

王国金貨1枚=100万ウェンのレートが一般的だったが、近年乱高下か酷い。



『キーンさん。

俺、余所者ですよ?

そりゃ、金貨は欲しいですけど。

営業なんてやった事もないし。

キーンさんは営業マンとしてもやり手だと聞いてます。

御自身では売らないのですか?』



「あっはっは。

私は見ての通り帝国人そのものの風貌だからねえ。

協定失効が噂されている今は、派手に動けないよ。」



『確かに。

ちょっとピリピリしてますよね。』



「王都なんて、まだマシな方さ。

前線では互いに猛スピードで塹壕を掘ってる。

狙撃櫓もガンガン建ててるしね。」



『まだ停戦中なのに、そんなことしていいんですか?』



「国際法的には当然アウトだけど…

でも塹壕も無しに失効日を迎えるのは怖いよ。

君だって遮蔽物の無い平地で一斉射撃なんか受けたくないだろ?」



『まあ、安全には代えられませんね。』



「そんな状況で帝国系の私がセールスするのもねえ。」



『それでゴロゴロしてたんですね。』



「たまの休息さ。

じゃあ、不動産顧客の件、任せたからよー。」



『いやいや、だから営業経験ないんですって。』



「でもさ?

カネになる仕組みが整ってる状態で金持ちと会ったら…

キーン不動産の話をしてくれるだろ?」



『そりゃあ、売れれば儲けものですし。』



「ははは。

それが営業の秘訣さ。」



胡桃亭は商人宿である為、この手の人種がチラホラと居る。

ヒルダ女将もかつてキーン不動産に送客して数百万ウェンのマージンを得た事があるとのこと。



『ふーむ。

金持ちになるコツがわかり掛けてきました。』



「お、優秀だね。

キミ、見込みあるよー。」



『そもそも金儲けのネタなんて労働者じゃなく社長さんが持ってる訳じゃないですか。』



「ああ、経営者と労働者ではそもそも情報格差があるからね。」



『じゃあ、まず経営者の知り合いを増やす事が大切なんですよね?』



「ふふふ。

いい線を突いてるね。


だが、どうやって経営者の知り合いを増やす?

言っておくけど、経営者でも仲間を増やすのは苦労しているんだよ?」



『まずは俺自身が社長さん達から見て価値のある人間になること…

そこがスタートラインだと思うんです。』



「ははは。

そうだね。

経営者連中は常に価値ある若者を探している。

勿論、私はトビタ君が既にそうだと信じているけど。」



目は笑っていない。

人当たりはいいが本質的には冷徹で能力の乏しい者を相手にしない。

それがドナルド・キーンなる不動産屋に対する正直な感想。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




『商売かぁ。』



いや、悪い提案ではないのだ。

俺も折角のワープを強盗殺人だけに費やす程に馬鹿ではない。

次のステージに昇り詰めなくてはならないからな。



『そりゃあ日本でも不動産屋は儲かるって言うけどさ。』



…いや、でも異世界でも纏まったカネは必要だな。

何せ日本の生活費が異常に高い上に、未成年者の俺にとって不動産契約のハードルは高い。

一度不動産屋に入ったが…

レオパレスを高値で契約させられそうになったしな。

なので、当面のネグラは異世界とする。

無論、纏まった日本円さえ手に入れば、すぐにでも引き払うが。



日本の不動産屋で知った話だが、一括買取なら未成年でも取引可能だし地方の中古戸建なら数百万円で借りれるものも多かった。

極端な話、ワープ使いの俺にとってはアジトは多少辺鄙なくらいが好ましい。

何せ盗品の隠し場所が欲しいだけだからな。

山奥の一軒家のように簡単に入ってこられない場所だと助かる。

…二重生活はそれなりに面白いのだが、両方の通貨が必要な点は少ししんどい。


どのみち不動産は欲しい。

能力の性質上、喉から手が出る程欲しい。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【飛田飛呂彦の物件リクエスト】



・部外者に絶対に侵入されないこと

(カネや盗品の隠し場所にしたい為)


・空調・水回り完備

(戦闘回数が増えた場合に備えて汗を流す為の風呂は完備したい)


・僻地希望、但し地元民とは絶対に接触したくない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



いい物件落ちてないかなぁ…

図書館で不動産サイト売買を見たけど、どれもロクな物件じゃなかったしな。


現在、カネの大半は瀬戸内海の無人島の高台に隠してある。

接岸不能な立地なので船での侵入はかなり困難。

洞窟状に花崗岩が覆っているので上空からも衛星の視線が通らない。


無論、こんな原始人みたいな保管先は不安で仕方ないので、早急に文明的な保管場所が欲しい。

当然、合法のカネを銀行に預けたいのだ。

それも税金が掛からない形で!

今、中学生の頃に作ったみずほ銀行口座に10万だけ入れている、

最終的に複数の銀行口座に分散してカネを入れたいのだが…

俺にはその為の知見が一切ない。

いや、それ以前に住所がない。


まずは住所。

地球の住所を早急に確保しなければならない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



まぁ、何はともあれカネだな。

極端な話、銀行口座や住所がなくても現金100億円があればキャッシュパワーでゴリ押せるだろうし。

要はカネだ。


現在、手持ちの日本円は350万と端数。

ワープ獲得前の俺にとっては大金だが、本格的に動くには十分と言えない額である。



  「金持ちになるコツはねー。

  目標金額を決める事だよ。」



昨日のキーンの言葉。

聞いた時は抽象論だと思っていたが、よくよく思い返すと正鵠を射ているのかも知れない。



『じゃあ、2000万円。』



鏡に向かって反射的にそう呟いていた。

根拠の無い数字ではない。

1000万円あれば地方の中古戸建は十分買えるし、残りの半分のキャッシュで1年間日本のホテルを泊まり歩ける。

いや、異世界泊まりで宿泊費を節約すれば、2年は凌げるだろう。

よし、機械的に2000万を貯めてみよう。

その合間にセーフハウス探しだ。


じゃあ、早速強盗の下見に…



「(コンコン)トビタさーん。

お城からの伝令の方が来られてますよ。」



東京にワープしようとした寸前に、コレット嬢がノックする。

相手が高橋なら無視出来るんだが…

王宮に対してそういう態度を取るのは自殺行為か…

ったく、これだから封建国家は。



『はい、飛田です。

何の御用でしょうか。』



ドアを開けると軽鎧姿の王国兵が書状を広げている。

直接話した事はないが、王宮内で何度か会釈し合った記憶がある男だ。

新兵の階級章を襟に付けているから、年齢は俺と大して変わらないのだろう。



「おめでとう!

飛田飛呂彦殿!

貴殿は栄誉あるコボルト討伐隊に抜擢された!

国王陛下は貴殿の武勇と忠誠を高く評価されておられる!

支度金として金貨5枚を支給する!」



『え? え?

いや、そんな急に言われても。』



伝令は無表情のまま金貨袋を押し付けてくる。

あ、ヤバい!

これ受け取ったらヤバいカネ!



「おめでとう!

おめでとう!」



必死で押し返しているのだが、本職の兵隊さんに腕力で勝てる筈もなく、文字通り力ずくで金貨をポケットにねじ込まれてしまう。

オイオイ、封建指数高過ぎだろ!



「貴殿の快諾を得れて嬉しい。

国王陛下もさぞやお喜びになるだろう。」



『あ、いや。

そもそもコボルトって…』



「それでは承諾書にサインを!」



『え!?

いや、ちょ!』



「拇印で構わないから。」



『いや!

そんな無理やり!

痛い痛い!

いたたたた!」



「はい、承諾印頂きました。

いやあ、めでたいなぁ。」



『痛ぁ。

乱暴はやめて下さいよ!』



「乱暴?

(キョトン)」



くっそ。

呼び出された時から思っていたが、コイツらマジで糞だな。

しかも可能な限りマシな糞であろうと努力はしている。



「ではトビタ殿。

今から簡単な壮行会を団長閣下が開いて下さるから。早く馬車に乗って。」



『…。』



ワープをもってしても権力から逃れるのは難しい。

いい教訓になった。




「飛田君、久し振りー。」



『沢口さん?

君もコボルト討伐に?』



「えへへー。

どっちが多く倒せるか勝負しようぜー♪」



沢口春奈。

中学の頃も同じクラスになった事がある。

無口でインドアな子という印象だったが…

妙にテンションが高い。

そして何より結構ガチ目の武装に身を包んでいる。



「ねえねえ聞いてよ!

皆と違って私はずっと志願してたんだよ?

でも団長が理由を付けて討伐隊に入れてくれなかったの!

これって絶対女性差別だと思わん!?」



大体の事情は把握出来た。

この馬鹿女に差別と保護の違いを説いた所で理解する知能や感性を持ち合わせていないだろうから、俺は何も言わない。

御者さんも冷ややかな目で沢口を見ているので、似たような感慨を抱いているのだろう。



『なあ沢口さん。

安永さんが亡くなった事は残念だったな。』



「私、あの子きらーい(笑)」



名前を出した途端に沢口は醜く唇を歪める。

それを咎めるつもりはない。

俺もあの女は大嫌いだった。

自覚がないだけで、案外訃報の瞬間は似たような表情をしてしまっていたかもな。



『そうか。

まあ、沢口さんが生き残ってくれる事を願ってるよ。』



「えへへっ!

私を心配してくれるんだー♪

飛田クンって案外いい奴ー♪」



『…。』



誰か皮肉の概念をこの女に教えてやれよ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



コボルトというのは、犬頭の亜人だ。

武器を持ち群れで戦闘を行うほどの知能を持っているが、休戦交渉を理解する程の水準ではない。

必然、接近=開戦となる。



『王都から馬車で3時間も掛かってない村なのにな。』



「帝国の決死隊だよ。

王国に潜入して召喚術を使うの。」



後に知った事だが、コボルトを召喚した帝国の決死隊員達は山伝いに祖国に逃げ帰ろうとした所を王国騎兵団に追いつかれて全員討ち取られたとのこと。

正門前に晒された首は一様に幼く、小学生か中学生くらいの雰囲気だった。

コイツらにはコイツらのドラマがあったのだろう。



『村人は無事なのか?』



「そんな訳ないじゃん。

コボルトって狼の3倍強いんだよー(笑)」



『だろうな。』



沢口曰く、亜人を敵領に送り込むというのは、停戦協定中にやっていいギリギリグレーな破約行為らしい。

(死球と故意死球の真ん中くらいの所業だそうだ。)

当然、こんな事をすれば国際社会からの信頼が失墜するのだが、この手法を考案したのが王国なのであまり文句を言えないらしい。

ちなみに王国は帝国領内でゴブリンを撒き散らしている最中とのこと。



「ねぇねぇ、飛田クン♪

私のスキルは何だと思う?

当ててみてよ♪」



『…戦闘系かな』



「えっ!?

何でわかったの!?」



そりゃあ、そんなに好戦的な雰囲気を出してたら、嫌でもな。



「じゃあさ、じゃあさ!

戦闘スタイルを当ててみてよ!」



『…剣術かな。』



「えー!

うっそー!

何で分かったのー(笑)

キモーいwww

飛田クンって鑑定持ちー(笑)?」



そりゃあね、女がそんな物々しい剣を自慢げに差していたらね。

他の結論に至るのが難しいよね。



「聞いたよー、飛田クンって帝国弓兵を倒したんだって?

それも向こうじゃエースだったらしいじゃん!

キミ、結構凄い奴だったんだね♪」



『怪我をして苦しんでた所を斬っただけだよ。

別に凄くはない。』



「あははは!

謙遜謙遜www

ヒュー、カッコいいー(笑)」



…コイツ、こんな奴だったか?

そう思い掛けて認識を修正する。

人間の思考・価値観なんてその場その場の力関係や懐事情で変わって当然ではないか。

俺だってそうだ。

纏まったカネを手にしてからは、長期的な視点で物を考えられるようになった。

沢口はチカラを手に入れた。

恐らくは魔物を倒せるくらいには強い。

だから、強者相応の言動をするようになった。

ただ、それだけの話だ。



「君達は無理をしなくていい。

戦闘が落ち着くまでは馬車に搭乗しておく事を許可する。」



中隊長はそう言うとキビキビと号令を掛けてコボルトが占領する村落を包囲した。

他の中隊が配置に付き次第、突入作戦が敢行されるとのこと。



「えーっ!

私も作戦に入れてくれるって言ったじゃないですか。」



『沢口さん。

中隊長を困らせるのはよせ。

素人の俺達が混ざったら、彼らが迷惑する。』



まさしくその言葉を聞きたかったのか、中隊長は安堵したように笑った。

勿論、本音は女を戦場に関与させたくないだけであるのだろうが。



「分かった。

では、討ち漏らしはトビタ・サワグチの両名に任せる。

任せるが、接敵しそうになったらホイッスルを鳴らしてくれ。

可能な限りカバーする。

担当は右側の側道だけだ。」



「…討ち漏らしですかー。」



露骨に沢口が不満そうな顔をするが、兵士達は取り合わずに逆茂木を組み始める。

オマエと違ってみんな忙しいんだよ。



『あのなぁ。

王様は召喚した俺達が従軍したという事実が欲しいだけだ。

結構な予算を掛けちゃったらしいからな。』



そう。

俺達はあのコボルト達とは本質的に変わらない。

ただ、コスパが悪いだけだ。

少なくとも、王国が頻繁に周辺国に送り込んでいる召喚ゴブリン達は人道上の理由から従軍拒否をしたりしない。

王様は群臣の反対を押し切って俺達を召喚した。

ゴブリンの数千倍のコストが掛かったらしい。

そんな俺達は殆ど活躍していない。

同時期に帝国に放ったゴブリンの群れは守備副隊長を殺害する大金星を挙げたというのにである。

結果、王様は完全に面目を失っている。

諸侯の態度が明らかに冷ややかになったし、幾つもの傭兵団が契約延長に難色を示し始めた。



「おっ!

敵影発見だよ!

討ち漏らし?

討ち漏らしだよね!?」



『いや、明らかに第3小隊の戦闘区域内だろ。』



「でも、まだ誰も居ないじゃん!」



言うと沢口は嬉々として抜刀し、長距離を走り込んでコボルト2匹を斬り伏せてしまった。

馬鹿、明らかに持ち場の外じゃないか。

案の定、第3小隊の面々は困ったように顔を見合わせている。



「なんでー!

なんで手柄を立てたのに怒られるの!?

意味わかんない!」



『だから。

さっきも言われただろ。

俺達はこっちの側道まで逃げてきた敵を倒すのが仕事なんだよ。』



「…折角強いスキルを当てたのに!

全然、活かさせてくれない!」



そりゃあね。

女が嬉しそうに殺生する所なんて見たくないよね。

俺ですら不快なんだから、封建人達は更にそうだろうさ。

ちなみに小隊長にはオマエと歳の近い娘さんが居るんだってさ。



「あっ!

今度は側道!

今度は側道!」



沢口が歓声を挙げて指すが…

あのコボルト達は側道に近いエリアをウロウロしているだけで、別に逃げて来た訳ではなさそうだ。

乱戦に夢中になって自分の位置を見失ったのだろう。



「文句はないよね?」



責めるように、俺に食い下がって来る。



『こっちに来たら応戦しよう。』



「駄目だよ!

他の部隊に手柄を取られちゃう!」



…コイツが男なら王様の面子も立ったんだろうな。



『わかった。

但し、俺もカバーに入るぞ?』



「えへへ、飛田クン話わかるじゃーん。

じゃ、側道に入り込んだのが見えたから仕方なく持ち場を離れたって事で♪

ちゃんと口裏合わせてよねー!」



喜び勇んで沢口が走り出す。

…早い。

相当走り込まないと、あんな速度では走れない。



「うおーーー!!!」



コボルトは5匹。

沢口がリーダー格に斬りかかると同時に、残りの4匹が素早く包囲態勢に入る。

不思議とコボルト達が俺には殆ど敵意を向けてこない。

当然だろう。

俺はコボルトに何の恨みもない。

コイツらなんかより六本木をうろついてる淫売共の方が何億倍も憎い。

そういう無関心はちゃんと伝わってしまうのだろう。


沢口の死角に回った1匹の背後にワープして殺す。

後頭部を貫かれても数秒暴れていたので、やはり狼の3倍強いという世評は正しいのだろう。

残りの4匹は沢口が殺した。



「へへー♪

私の勝ちー♪」



『おめでとう。

さあ、馬車に戻ろう。』



「ねえ、飛田クン。」



『んー?』



「ごめん。」



『別に沢口さんは何も悪くないよ。』



持ち場を離れたことは特に叱責されなかった。

残敵の捜索・負傷者の救護・避難民の帰還・内通者の逮捕・被害額の算定。

兵隊さんは俺達と違って忙しいのだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



計6匹のコボルトを討ち取った勇者を懸賞しない訳には行かず、王様は沢口に勲章と賞金を与えた。

当然、周辺国はこの出来事を政治利用する。



「王国は少女を動員せざるを得ないほど窮乏している!!」



帝国や合衆国の工作機関がかなりの予算を掛けてメディアに流したそうだ。

その甲斐があったのか、親王国で知られていた国際傭兵団・ブラックファングが王国との契約更新を見送った。

同団も王国も取材に対しては《円満満了》とのみ回答したとのこと。



沢口春奈は翌月に死んだ。

俺達と異なり討伐依頼に志願し続けて結構な武勲を挙げたが、簡単なゴブリン討伐において抜け駆けしたところ喉を突かれて死んだ。

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― 新着の感想 ―
地球でのセーフティハウスは都市部のセキュリティ物件の方が良いのにね 辺鄙なところだと出入りや行動が目立つ そのうち認知するんかな? 沢口さんナムナム
沢口さん、退場はやっ 生き残り続けてる高橋くんは実はかなり強いのかな
この不動産屋さんは転生者ですか?
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